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学園祭編:ホラーハウス・人形の館

 わたくし、お化け屋敷とか入った事がありません……。

「きゃー!!」

「うおー、こえー!!」


 マリ達の目の前で、お化け屋敷の出口から、真っ青な顔をして出てくる一般客達。

 どうやら、入口と出口は一緒になっているようで、待っている直ぐ目の前で、出てきた者たちを眺める事になる。


「なるほど、入口と出口を一緒にする事で、待っている人間の恐怖を煽ってるのか、やるねぇ……」


 冷静に分析している杏也の横で、マリは少しばかり怯えた顔をして順番を待っている。

 杏也の言うとおり、こうして目の前で怖がっている人たちを見ると、そんなに怖いのかと徐々に恐怖が煽られてくる。

 そして、とうとうマリたちにも順番が回ってきた。


「お待たせしました! ホラーハウス・人形の館へようこそ! 所々にチェックポイントがあるので、そこでスタンプを押して下さいね! 後、明かりはこのライトのみとなっておりますから、足元には十分気をつけて下さーい!」


 やけに明るく中に入れられた。まだ心の準備も出来ぬままに……。



 マリたちが中に入ってゆくと、入口間近な為かまだ真っ暗という訳ではない。

 杏也がライトをつけ、辺りを照らし出す。

 少し広い空間。その中には一体のマネキンが置かれていた。

 黒っぽく薄汚れており、髪も服もボロボロのマネキン。

 そのまん前に机が置かれ、そこには紙とスタンプが用意してある。


『五つのスタンプを集めてください』


 紙にはそう書かれており、中央には五角形が描かれ、それぞれの平面、五方向に、五つの三角形の空欄が存在した。

 一番上に、1と番号があり、それを始まりとして、時計回りに5番まで番号が書かれている。

 杏也はスタンプを手に取ると、周りを見回し、びくびくとしているマリに、


「マリ、スタンプ押す?」


 と、スタンプを差し出してくる。

 少しだけ躊躇うが、基本こういうものは押してしまいたくなる性格のマリは、彼からスタンプを受け取り、「えい」と1番の所にスタンプを押した。

 すると、なんとも単純な人の顔が浮かび上がる。

 丸い円の中に黒い二つの点と、一本の線で表してある口。

 それが星の一番上に押されたのだ。


「フーン。つまり、最終的に人の形になってくって事? 他の部分には、手、足って入ってくのかな?」

「うん、私もそう思う――」


 杏也の呟きにマリも頷いた時、


“ガシャーン!!”


 いきなり何かが割れる音がした。


「ひゃあ!! 何々ー!?」


 マリが肩を竦ませると、目の前のマネキンの首がゴトンと落ちてきて、マリの直ぐ脇に転がった。


「キャーー!!」


 マリは吃驚して杏也にしがみ付く。

 杏也はマリの体を受け止めながら、転がる首と、首の無くなったマネキンを交互に眺めながら、ペロリと楽しそうに唇を舐めた。


「恐怖の始まりって訳か……なるほど、初っ端から引き込まれる演出……少しは楽しめそうだな……」




 真っ暗な通路を、ライトのみの明かりで進んでゆく。

 床にスポンジが敷いてある場所があり、マリはそれを踏んで泣きそうになっていた。


「お化け屋敷好きだったんじゃないの?」

「え? 好きよ? 体験してる時はすっごく怖いけど、出た後物凄くスッキリするじゃない?」

「つまり、泣き叫んでスッキリしてるって訳?」

「ああ、そうかも――キャー!」


 マリが何かに驚いて、杏也にまた縋り付く。


「ある意味、羨ましい位の怖がりっぷりだね」


 糸に括られたコンニャクをライトで照らしながら、杏也は苦笑するのだった。




 次の部屋には、人形がたくさん置いてあった。

 ライトにうつし出されるそれらの人形は、フランス人形から日本人形、ぬいぐるみとバラエティー豊かだ。ただ、それらには皆、右腕が存在しない。

 一つだけ小さな明かりがあり、そこに先ほどのようなスタンプが置かれていた。

 どうやらそこがチャックポイントのようだ。

 しかし、その一歩手前に、何やら黒い物体が落ちていた。

 小さな明かりにぼうっとうつし出されるそれは、何となく人の胴体っぽい。

 明らかに怪しいそれに、杏也は平然と近づいてゆく。


「えぇ!? 杏也君! 怪しい! それ明らかに怪しいから!」


 そして、涼しい顔をして、それをヒョイと跨ぐ。

 杏也がチェックポイントでスタンプを手にし、マリを振り返って「押す?」と尋ねるが、マリはブンブンと思いっきり首を振った。

(そんな物を跨ぐなんて無理よぉ~)

 そして杏也がスタンプを押している間、マリはその黒い物体を挟んだ場所で彼を待っていた。

 その時、ズリッと引き摺る音と共に、その黒い物体が動いたような気がした。


「え……」


 マリが呟いた瞬間、その物体はブルリと震えたかと思うと、ズザザッと横に移動した。


「ひぃっ!!」


 マリはそのあまりの不気味さに悲鳴を上げる。


「マリ? どうかした?」


 杏也が振り返った時、その物体は物凄いスピードで床を這い、壁の中へと消えて行った。

 マリはそれを見て後ず去る。

 そして、背後に置かれている人形達の一体を、思わず握ってしまっていた。

 しかし、握った一体は、何とも奇妙な感触で、しかも音が出た。


『ミュウ~~……』


「ひえぇぇー!!」


 思わず放り投げてしまった。

 杏也がそれをキャッチしてよく見てみると、それは何とも可愛いテディベア。押すと音が出る仕組みのものであった。

 感触も、これは中に細かなビーズが入っているのだろうか、キュッキュッと何とも不思議な感触だった。

 人は一度怖がると、何でも無い物でも怖がってしまうものだと、杏也は一人納得する。


「ほらマリ、ただのテディベア」

「ほ、本当平気ね、杏也君! 怖くないの!?」


 すると彼はライトを顎の下から当てながら、ニッコリと笑い、「楽しい」と一言。


「キャー! 杏也君止めてぇー! その顔怖いぃー!」

「フフッ、マリの怖がってる顔を見てるのも、すっごく楽しいなぁ。このまま行けば、箸が転がっただけでも、マリ怖がるんじゃないの?」


 杏也は本当に楽しそうであった。




 そして、次のチェックポイント。

 そこは行き止まりの通路のような場所。

 両手を広げれば、両脇の壁に手が届く位の狭い通路であった。

 ここには何も無さそうで、マリがホッとしたのも束の間、


「キャー!!」


 マリはいきなり叫び、杏也にしがみ付く。


「ん? 何?」

「い、今、誰かがフーってした! 髪がファサッてなった!」

「………」


 すると杏也は暫しの沈黙になる。

 そして、杏也はライトを当て、壁の一角をマリに見せた。


「ほら、ここに溝があるよ。窓になってるみたいだ。こっから顔を出して、マリに息を吹きかけたんじゃないの?」

「そ、そうなの?」


 とその時、再びマリは叫び声を上げた。


「ギャァアアー!!」


 マリはまたもや杏也にしがみ付く。

 何者かに、足をガシッと掴まれたのだ。


「あ、足掴まれたぁー!!」


 しかもそれは離れる事無く、さわさわと動いている。

 杏也がライトで当てると、そこには青白い手があった。


「ひぃ!」


 それを見て、マリは恐怖のあまり顔を伏せる。

 その手はライトが当たっている事に気付くと、ゆっくりと壁の中へ……。

 杏也はその手が消えて行った壁に顔を寄せると、ボソッと、


「……今の手、男だよねぇ……手首の所に二つ黒子が並んでる君……他人の彼女の足、勝手に触らないでくれる? しかも撫でてたよねぇ……。後で個人的に会いに行くから、首洗って待っててくれる……?」


 すると壁の向こうで、ガタンと大きな音がした。


「ひぇ!? な、何々? 今の音ぉー!?」


 マリがびくびくと壁の方を見ていると、杏也がマリの腰を引き寄せ、


「ん? 演出じゃないの? さっきから、物を引っかく音とか、引き摺る音とかしてるでしょ? 真っ暗な中で、恐怖を煽る為だと思うぜ?」

「そ、そっか……」

「さ、次のポイントに行こう。次はどんな演出か、楽しみだなぁ……」

「ううっ、杏也君がなんか生き生きしてるぅ……」




 4つ目のスタンプのある部屋には、天井から一体のマネキンがぶら下がっていた。

 その人形には足がない。

 何となく、スタート地点で見かけた人形に似ていなくもない。

 髪も服もぼろぼろの人形……。

 そして始終、部屋の周りからは、足音と何かを引き摺るような音が……。それに、女のすすり泣く声まで聞こえる。

 チェックポイントのスタンプは、ぶら下がった人形の真下のあり、マリがスタンプを押している間、物凄く上が気になった。


「ううっ、なんか見られてるみたいだよぅ……」


 そしてマリは何かに気付く。


「あ……あれ? なんか、このすすり泣く声、この人形からしない……?」


 恐々とマリは人形を見上げる。


「ん? そう?」

「うん、ほら……」


 そう言ってマリが、人形に向かって耳を傾けようとした時、吊られていた人形がズリッと下がった。

 マリの目の前に、人形の顔が現れる。

 そして、


『私の足返して~……』


「キャァアアアー!!」


 マリは思いっきり叫んで飛び退り、杏也の後ろに隠れた。

 すると杏也は平然とした顔で人形に近づき、その服の中をゴソゴソとして、その中のボイスレコーダーを見つけ出した。


「ほらこれ、遠隔操作できるやつだ。あはは、今まで出一番のハイテク機じゃないかな、これ?」

「きょ、杏也君! 何でもいいから戻して! 睨んでる! 人形睨んでるから!!」

「ハハハ。マリってば、大分感化されてるねぇ。ただのマネキンだって」


 杏也はそう言いながら、人形の頭をペチペチと叩いている。


「いーやー!! やめてぇー! そんな事したら呪われちゃうからぁー!!」


 もうすっかり世界に入り込んでいるマリであった。




 そして、最後のチェックポイント。


「あ、あれ? ここって、最初の場所じゃない?」

「ああ、なんかそうみたいだな……」

「あれ? で、でも、あそこにあった、人形が無くなってる?」


 あの、髪も服もぼろぼろで、頭の取れたあのマネキンが存在しなかったのだ。

 ただ、その場所には、足が一本だけ転がっていた。

 なんだかマリは、物凄い嫌な予感がしてきた。


「あ、ああああれ、なんで足だけがあるの?」

「あー、ほら、最初スタンプ押した時、頭が落ちたじゃん? つまり、俺らがスタンプを押していく度に、それと同じ箇所が無くなっていったって言いたいんじゃないの?」

「そ、そそそそれで!? そ、その無くなった部位はっ!?」


 そういえば、今までうるさい位に鳴り響いていた不快な快音たちが、今はたった一つになっている。


 ズズッ、ベタンッ!


『ウウッ……』


 ズルッ、ビタッ!


 そしてその音は、今自分たちがやってきた通路の方から聞こえてくる。

 杏也がポツリと言った。


「つまりは、俺達の後をずっと追いかけてきたって言いたいんじゃないの?」

「ひぇぇ!? ス、スタンプ! 早くスタンプ押さなきゃ!」


 しかし、そのスタンプが何処にも見当たらない。


「ス、スタンプどこ!?」

「あ。あった」

「えぇ!? どこぉ!?」


 しかし、杏也が指差す方向を見て、愕然となった。

 今まさに、音が聞こえてくる通路の入口の所に、それはぶら下がっている。


「いやー!! だって、今来る! そこに居るぅ!!」

「あはは、一番のお楽しみ所はマリに譲るよ」

「いーやー! 全然楽しくないからー!」


 もう本当に直ぐそこに居るという感じで、引き摺るような音と、呻き声は聞こえてくる。


「もう、いやー!!」


 マリは叫び、出口に向かうが、しかし出口は開かない。


「スタンプ押さなきゃ開かないんじゃないの?」

「えぇー!! うそー!」


 とその時、とうとうソレはやってきた。


 ズルッ、ズルッ、ビタン!


『ゥゥ…ウゥ…ア゛ア゛ア゛…』


「ギャー!! きたぁー!!」


 それはぼろぼろの髪と服を着たあのマネキン。

 顔は、髪で隠れていて全く見えない。

 時折、此方に向け、何かを訴えるように手を伸ばしてくる。

 薄暗い中でライトにうつし出されるそれは、とてつもなく不気味で恐ろしかった。


「いやー! キャー! こぉーなぁーいぃーでぇー!!」


 泣き喚くマリをよそに、杏也は平然とした顔で、スタスタとソレの脇を通り、スタンプを取ると、マリの元に戻ってくる。


「はい、最後のスタンプ」

「な、何でそんなに平気なのぉー!?」


 半泣きでそんな事を言いながら、マリは最後のスタンプを押した。


「やった! 押したわよ、スタンプ!」


 しかし、とんでもない事が起きた。

 地を這っていたソレが、今ゆっくりと立ち上がろうとしていたのだ。


「いやー! 今度は立ったー!」

「あ。マリ、あれ見て」


 杏也が示す方を見て、マリは更に恐れ戦いた。

 あの、足が転がっていた場所には、最早何もない。


「つまり、スタンプが全部揃えば、あれも全部揃っちゃうって事なんじゃないの?」


 今まさに立ち上がろうとするソレを指差しながら、杏也が推測をした。


「うわーん! 早く外ー!」


 しかし、まだ出口は開かない。


「な、なんでぇ!?」

「マリ、これ」


 杏也が出口をライトで照らす。

 そこには張り紙がしてあり、


『最後のスタンプを、人形に返して下さい』


 と書かれている。


「ウソーー!!」

「ほら、マリ。スタンプ返してあげないと」


 スタンプはマリが持っている。


『ウゥ……アァァ』


 ソレはマリの後ろで完全に立ち上がり、足を引き摺るようにして此方に近づいてくる。


「ギィーヤァー!!」


 そしてソレはマリに手を伸ばしてくる。


「いやいやー!!」


 マリは必死になって、杏也にしがみ付く。

 最早、嗚咽を漏らして泣いている状態だ。

 そんなマリを見て、仕方ないかと溜息をつくと、マリからスタンプを取り上げ、此方に向かってくるソレに渡した。

 すると、ガラッと後ろの扉が開いた。

 慌てて外に出るマリと、ケロリと涼しい顔で出る杏也。

 順番待ちをしている者達は、その二人のギャップに少しばかり戸惑う。

 杏也はライトを、「お疲れ様でしたー!」と明るく言っている生徒に渡し、マリを振り返る。


「マーリー? 大丈夫?」


 杏也が顔を覗き込むと、マリはボロボロと涙を流しながら、杏也にすがり付く。


「ふえーん、怖かったよぉー! こんなに怖いとは思わなかったよぉー!」

「よしよし」


 少し嬉しそうに、杏也がマリの背中をポンポンと叩いてやっていると、


「ギャー! 何でここに姉と杏也さんが!?」

「げっ、何でてめーがここに!?」


 丁度、廊下の向こうからミカと呉羽がやってきた。

 相変わらず仲が良く、手を繋いでいた。

 するとマリは、パッと杏也から身を離すと、


「あ゛あ゛ー! ミカちゃーん、何これ!? 何ここ!? 物凄く怖いんですけどー!! お姉ちゃん、またトラウマになっちゃう所だったわよ!?」

「あー、もう! だから呼ばなかったのに!」

「えぇ?」

「姉がまた、トラウマにならないようにって、教えなかったの! 聞いたら絶対来るでしょーが姉は! どんなに怖いって言っても!」

「でも、去年だって教えてくれなくて……」

「あの時は確か劇で、私は禿づら被ったおじさん役させられたの! 姉絶対、メルヘンじゃないとかって騒いだでしょーが!」

「え? え? じゃあ、ミカちゃんが学園祭の日にち教えてくんなかったのって……私の為?」


 マリがそう言うと、ミカはカァッと顔を赤くして、


「べ、別に姉の為って訳じゃないもん」


 マリはそんなミカを見て、プルプルと身を震わせると、


「堪んない! もう、お姉ちゃん堪んない! ミカちゃんが、ミカちゃんがツンデレしてるぅー!!」

「ツ、ツンデレ!? ツンはともかく、デレはしてないもん! ってゆーか、姉もう入っちゃったんでしょ? 大丈夫だったの? トラウマは?」

「ううっ、ミカちゃんがお姉ちゃんを心配してくれてる……。うん、大丈夫。お姉ちゃんトラウマになってないわよ。杏也君が傍に居てくれたし、何より、ミカちゃんがお化け役じゃなければ平気よ」

「え? そうなの? 一応、私が総演出させてもらってるんだけど……」


 マリがその言葉を聞いて固まった。

 考えてみれば、音を使った恐怖演出。マネキンを使った事。

 そして、今更だが気付いてしまった。

 あの、恐怖を演出していた快音。

 その中に、何か物凄く恐怖を煽る音が含まれていなかっただろうか。

 マリは恐る恐るミカに尋ねてみた。


「ミ、ミカちゃん? あ、あの時々聞こえた音なんだけど。もしかして……おたまの音とか使ってなーい?」

「え? おたま?」


 キョトンとした顔をするミカを見て、何だ使ってないのかとホッと安心していると、呉羽が何かを思い出し、


「あ、そういえば……ミカが金属音を入れたいって言った時、どっかのクラスが家庭科で使ったおたまがあったんで、それを叩いた音とかも入ってたと思ったな……」

「へぇー、そうなんですか? それは私知りませんでした。姉、凄いですね。何で分かったの?」


 途端にガクガクぶるぶると震えだすマリ。


「ひぃ! 御免なさい! おしんこさんとけんちん汁さん御免なさい! もうあなた達を無駄にはしないから、おたまをもう叩かないでぇー!!」

「はぁ!? 何言ってんの姉! って、これはキッチンに入った時の姉? 何でいきなりトラウマに!?」




 そんなマリとミカの横で、男性二人。


「い、一体何なんだ……?」

「うん、まぁミカがね、おたまでマリを恐怖に陥れたんだよ」

「はぁ!? おたまでどうやって恐怖に陥れるんだよ!?」

「まぁ、要は演出って事かな……このお化け屋敷にしても、人を怖がらせるのが上手いみたいだしね」

「……確かに、あんま金を掛けずにここまで怖くしたのは凄いと思うけど……」


 ここで使っている人形は全て、捨てる筈の物だった。

 唯一の機械のボイスレコーダーはクラスメイトの持ち物である。

 人形に着せた服も、古着を使っているので、金銭面は殆どセットや音響に掛かっていた。

 それで、ここまでの反響である。

 改めて考えてみると、凄いと思う呉羽。

 その時、杏也が呉羽に顔を寄せてきて、ある事を尋ねてきた。


「あのさぁ、3つ目のチェックポイントで、人の足を掴んで脅かす役の人って誰だか分かる?」

「へ? 何でいきなりそんな事聞くんだ? 確か、猿渡(さわたり)に大沼、河部辺りが交代でやってると思ったけど……」

「ふーん……? その中でさ、手首に二つ黒子の並んだのって分かる?」

「は!? んなの分かんねーよ! そんなに親しくねーし」

「へぇー、友達少ないんだな、同志って……」

「んだと!? 喧嘩売ってんのかよ!」

「別にそうじゃないけど……チッ、使えない……」

「って、やっぱ喧嘩売ってんじゃねーか!」




 その頃、ホラーハウス内。


「何だ、猿渡? 顔真っ青だぞ?」

「俺、もうスケベ心で足触るの止める……」

「は!?」

「あの声、本気だった。俺、殺される!」


 マリの足を握って驚かせた人物。

 猿渡圭吾。

 ほんのちょっとの出来心……いやスケベ心だった。

 脅かす相手が女、しかも可愛いと知って、思わず握った足を撫でてしまった。


「ほんのちょっとならいいと思ったんだ……」

「……猿渡、お前の気持ちよく分かるぞ……」

「大沼?」

「俺も実は、あの時カップルの彼女の方に息を吹きかけたんだけど……その後更にスケベ心で肩に触ろうとしたんだ。そしたらその彼氏の方にバレて、物凄い形相で睨まれた……」

「大沼……」

「もう、スケベ心で人を脅かすなんてしちゃ駄目だな……」

「ああ、そうだな……」


 そう二人で言い合い、次の客の為にスタンバイしたのだった。




 ~学園祭編・終~

 お化け屋敷に入った事がないのに、お化け屋敷の話を書いてしまった……。

 そもそも、閉鎖された空間とか苦手だし……。(軽めの閉所恐怖症)

 でも、お化け屋敷の内容を考えるのは楽しかったです。

 ちゃんとお化け屋敷っぽくなってたかと心配ですが、楽しんで頂けたら幸いでございます。


 後、クリスマス編、書くかどうか悩んでます。

 うーん、如何しましょう……。


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