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番外編:萌えロマその後・その2

「ったく、お袋の奴、人をからかいすぎだ!」


 今私は、呉羽君と外を歩いている。

 家に送ってもらっているのだ。


「でも楽しかったですよ。お母上とも、いっぱいお話しましたし」


 私がそう言うと、呉羽君はピクッと眉を上げ、此方を見る。


「話? 話ってどんな事だ?」

「え、あの、その……呉羽君との事を色々と……」


 すると、呉羽君は片手で頭を押さえ、ハァーとそれはもう深い溜息をついた。


「え? え? 何ですか?」

「ミカ……おまえなぁ……。あんまりそういう事、他人にしゃべんな」

「あ……う……? ご、ごめんなさい……」


 何かちょっと怒ってる?


 そう感じて、私はしょんぼりと俯いた。

 呉羽君は私の手を引き歩き出す。

 ずんずんと歩く彼に、私は恐る恐る尋ねた。


「お、怒ってる?」


 すると、呉羽君はチラリと私を見て、


「ちょっとな……」


 ガーン……。そんな、本当に怒ってます……。


 更に気持ちが沈み込んでいく感じがする。


「だってな、ミカ。こういう話は、オレ達だけのもんだし、秘密にしたいだろーが」


 ちょっとムスッとした様に、呉羽君は言った。

 照れているのか、よく見ると耳が赤い。


 ひ、秘密?

 そっか、秘密かぁ……。恋人同士の秘密……。


「うん……そう、ですね。私、もう言いません! これから起こる事は、私と呉羽君の……恋人同士の秘密にします!」

「ああ、そうしてくれ……」


 そして、少し考えた後、呉羽君は私に聞いてきた。


「ま、まさか、昨夜の事はお袋に話してないよな?」

「え?」

「だから、俺が一緒に寝ようとか言った事をだよ!」


 呉羽君は顔を真っ赤にさせている。

 私も、昨夜の事を思い出して、顔がカァッと熱くなった。


「い、いいえ! その事は話してませんよ!」


 その言葉を聞くと、呉羽君はホォッと安堵の溜息をついた。

 そして、私を見ると、頬を掻きながら、


「後、あの時ミカ――」

「え? 何ですか?」

「いや、何でもない……」


 呉羽君は、私に何かを聞こうとしたけれど、直ぐに取り消してしまった。


 一体何を聞こうとしたんでしょうか?

 あの時? あの時って昨夜の事だよね?


 そして私は、あのお休みのチューを思い出す。

 同時にあの時感じた想いも。


 私は繋がれた手をキュッと強く握る。

 それに気付いた呉羽君は、立ち止まり、私を振り返った。


「ミカ?」

「あ、あのね、聞いて欲しい事があるんだけどね……」

「……? 何だ?」

「その……昨夜の事なんだけど……」

「っ!!」


 呉羽君はハッとして、私を緊張した面持ちで見る。


「あのね? あのお休みのチューの時……呉羽君、最初からその、激しいチューだったでしょ? その時ね? 私、何だか呉羽君に食べられちゃいそうだと思ったの……」

「うっ、ご、ごめん……」


 顔を真っ赤にさせ、謝ってくる呉羽君。

 私は首を振って彼を見る。


「ううん。その、ね? 私、嬉しかったんです……」

「え? う、嬉しい?」

「うん。私、呉羽君に食べられちゃいそうだと思って……でも、呉羽君になら、食べられちゃってもいいと思ったの……。そう思えた事が、凄く嬉しくて……ああ、私って、本当に呉羽君の事が好きなんだなぁって、改めて感じる事が出来たから……」


 呉羽君の手に力が篭った。

 私は、目を見開かせる彼に、ニッコリと笑い掛けると言った。


「だから、私の事を食べちゃう時は、骨まで全部食べてくんなきゃ嫌ですからね?」


 冗談っぽく、肩を竦めながら言ったのだけれど、呉羽君は私の手を引き、きつく抱き締めてきて、


「ああ、分かった。お前の事、全部食べる。髪の先から、骨の髄まで全部オレが貰う」

「え!? あ、あの、呉羽君?」

「いーんだろ? お前の事食べても……」

「え!? あうー、た、確かにいいとは言いましたけど……でも、その……あんまり痛くないように食べて下さいね?」


 私としては、本当に冗談のつもりで言ったのだけれど、まさか冗談に冗談で返されるなんて思っていなかった。しかも、真面目に返されるなんて……。

 なので私も、どうせならこのまま続けてしまおうと、そのように返したのだ。

 すると呉羽君は、暫しうーんと考えた後、赤い顔で、そしてやはり真面目に、うんと頷いて言った。


「な、なるべく痛くないように善処する……」


 ぜ、善処と来ましたかぁ!?

 何処まで真面目なんですか、呉羽君!

 そうなると、私も真面目に反さねばならないじゃないですか!


 なので私は、呉羽君の腕の中で、


「よ、よろしく善処の程をお願いします……」


 と返した。

 呉羽君は、ホォーと息を吐き出し、肩の力を抜く。

 けれど、背の回された彼の腕の力はきついまま。


「……今度は一緒に寝ような……」


 ボソッと耳元で囁かれる、熱のこもった声に、ドキドキとしながら、私もまた呉羽君の背に手を回した。

 いつもより早く感じる彼の心臓の音を聞きながら、


「うん……」


 と頷いていた私。


 ウフフー、呉羽君と添い寝かぁ……。

 一晩中、呉羽君の寝顔とか見れるんですね?

 はうっ、きっと呉羽萌えしまくりです!


 とまぁ、私はその時、彼の言葉の本当の意図に気付く事無く、暢気のうんと頷いてしまった訳で……。


「あの、一旦家に帰ったら、即行で着替えてきますのでっ、その、この後デートしませんか?」


 そんな私の提案に、喜んで頷く呉羽君。


「元々オレは、そのつもりだったしな」


 ハッ! よく見てみれば、呉羽君ってばお洒落さんです!

 私も張り切ってお洒落しなければ!

 あ、そうだ。この事もちゃんと聞いておこう。


「あの、呉羽君。今日はお泊りするの?」


 首を傾けそう尋ねると、呉羽君は一気に顔を真っ赤にさせ、あたふたとする。

 そして、ハァーと息を吐き出し、一度落ち着いた後、私から視線を外した。


「いや。今日は駄目だ……。その…オレ、何の用意もしてねーし……それに、明日は学校だろ?」

「そっか……そうですね……」


 ちょっぴり残念です。


「クリスマス……」

「え?」


 しょんぼりする私を見兼ねたのか、呉羽君がポソッと言った。

 顔を上げると、呉羽君は真剣な顔で、私を見下ろしている。


「クリスマス・イヴ、どっかに泊まりに行こう。ミカにとっては初めてなんだし、その……いい思い出になるようにオレ、頑張るからさ……」

「うわぁ、クリスマスデートですか?」


 うわぁ、うわぁ、恋人同士、初めてのクリスマスです!


 私が喜びに顔を輝かせていると、呉羽君はフッと優しく笑う。


「ロマンチックなもんにしような……」

「はい!」

「ホテルとか予約してさ」

「うわぁ、豪華です!」

「まぁ、その為にはまた、あのクソ親父に頭を下げなきゃだけど……」

「え……?」


 呉羽君が苦笑して言った。


 クソ親父?

 呉羽君のお父上の事ですよね……。

 って、ちょっと待って? という事は――


「また暫く、デートとか出来なくなっちまうけど、ごめんな?」


 ガーン……。

 そんなぁ!


「わ、私、豪華なホテルとかいいですから……いつも一緒に居たいです。それに、クリスマスは呉羽君と一緒に過ごせるってだけで、もう私は幸せですから……」

「いや、駄目だ! ぜってー、ロマンチックなクリスマスにしてやる! この先もずっと、いい思い出だって言える様なクリスマスにな!」


 うおぅ! 呉羽君ってば、やる気満々です! 何か燃えてます!

 こんな呉羽君は初めてです。

 これはもう、何を言っても呉羽君は止まらない……。

 だったらせめて――。


「あの、お手伝いとかしたいです……」

「……ミカ?」

「クリスマス、私だって楽しみですから……呉羽君ばっかり苦労するのは嫌です。だから、私も呉羽君のバイト、手伝いたいです……」

「ミカ、気持ちは嬉しいけど、そればっかりは駄目だ!」

「うえ?」

「あの、クソエロ親父の近くに、ミカを置いておける訳ねーだろ!」


 呉羽君は、私の申し出を断固拒否したのだった。





 私の目の前には、何故だかババンと鯛が……。

 そして、それを持っているのは、満面の笑みの父である。

 私は今、自宅にいる。


「……なんですか……?」

「おおー、ミカたん! 開通記念にめでタイだ!」

「……は?」

「んもー、パパ! そんな開通なんて、そんな言い方しないで! 女の子にとっては、デリケートな問題なんだからね!」

「だから……は?」

「うう……ミカちゃん。とうとう……とうとう大人の階段のぼっちゃったのね……」


 姉がほろほろと涙を流す。


「……ミカ、お赤飯……」


 母が重箱に入ったお赤飯を差し出してくる。


「は、母まで!? 一体何がめでたいんですか? ってゆーか、そもそも何で、父と母が家に居るんですか? 母は海外に居たんじゃ……」

「お友達のサムソンさんが、自家用ジェットを飛ばしてくれたの……」


 サムソンさんって、あのニシキヘビのベティちゃんの飼い主の?


「え、何で?」

「何でってそりゃ、ミカたんが昨夜お泊まりして、初朝帰りだっつーから……」

「だってお姉ちゃん、この事実をたった一人で受け止めるなんて、出来なかったんですもの!」


 んな、お泊りくらいで大げさな……。


 私は憤慨しながら、叫ぶ。


「もー、一々大騒ぎするのは止めて下さい! 私、これから着替えて呉羽君とデートに行くんですから!」

「えぇー! ミカちゃん、体平気!? 辛いようなら、お姉ちゃんが断って――」

「何で姉が断るんですか!」


 それに、私の体が何だって言うんでしょーか?


「おおー! 流石若いなー。んで? どうだった? あの純情少年、上手かった? デカかった?」

「キャー!! もう、パパったら! 下品! もっとデリカシー持って!」

「だから何が!?」

「何がって、そりゃあ――」

「キャー! もう、全然メルヘンじゃない事言うの禁止!」

「だってミカたん、あの少年と寝たんだろ? しちゃったんだろ? 食われちゃったんだろ?」

「もー、パパの馬鹿馬鹿! 生々しすぎる!」

「えっと、だから何?」


 寝た? した? 食われた?

 一体何の事――……ん?

 食べるとか、寝るとか……さっき呉羽君と散々言ってたような……。


「全くミカたんは、相変わらずニブニブだなぁ。えっちだよ、えっち! エッチしちゃったんだろ?」

「いーやー! あからさま過ぎるわよ、パパ! デリケートって言ってるじゃない!」


 ………チーン。


「えぇー!! え、えっちぃー!?」


 ちょ、ちょっと待って下さい!? も、もしかして父達ってば、私が呉羽君とえっちしたって思ってるんですかぁ!?

 って言うか、何で鯛とかお赤飯やねん!


「そ、そそそそんな! え、えっちなんて……ちょ、うええぇー!!?」


 真っ赤になって私が叫んでいると、父が私の首を示し、ニヤッと笑ってくる。


「だってミカたん。そんな分かり易い所にキスマークなんぞつけて、言い逃れできないぞ?」

「え? ……ああ、これは呉羽君のお母上に付けられて……」


 シーン……。


「は、初めてでどんだけマニアックなエッチを――」

「ってパパ!? そんな訳無いでしょう!?」


 バシッと姉が父につっこんだ。


「えっと、これはお母上が酔っ払ってたみたいで……それに、昨夜一緒に寝たのも、お母上とですし……まぁ、でも最初は弟君と一緒に寝ていたんですけど……」

「今度は年下と!? どんだけ――」

「違うわ!!」


 またもや姉がつっこむ。

 そして、つっこんだ場所が悪かったのか、父は思い切りむせていた。

 私はその様子を、呆れ顔で眺めながら、心の中で悶々と考える。


 先ほどの父の言った言葉……。

 寝るとか、するとか、食われるとか……。

 それらの言葉と、呉羽君との会話の中の言葉がカチリと合わさった。


『オレと一緒に寝るか?』

『何もしない自信なんて無いけどな……』


 昨夜の呉羽君の言葉……。

 それって、その意味って――……。


 カァッと顔だけでなく全身が熱くなってくる。

 そして今日。


『お前の事全部食べる――』


 この意味も……。

 だとしたら私の言った『食べられちゃってもいい――』とか『骨まで全部食べてくんなきゃ――』とか……。

 呉羽君は、そっちの意味に捉えちゃったって事!?

 ハッ!!

 私あの時『あんまり痛くないように食べて――』とかって、それに呉羽君は真面目に答えて『なるべく痛くないように善処する』って……。


 ……チーン。

 キャー! キャー!! 私ってば、もろにそっちの意味っぽいじゃないですかぁ!!

 だから呉羽君ってばあんなに真面目に……。

 キャー! もう馬鹿! 私の馬鹿ー!!


『クリスマス・イヴ、どっかに泊まりに行こう――』


 あ……あわわわわっ。

 く、呉羽君?

 これって、もしかして……。

 ヒャー!!

 私ってば、クリスマスに呉羽君とえっちする約束しちゃったぁ!!

 いやーん! ど、どどど如何しよう……。


「ハァ、何だ……ミカたんまだ処――」


 ドスッ!!


「グハッ!!」


 姉と母が同時につっこむ。


「コ、コトちゃんまで……」

「大和さん? 女の子はデリケートだから、これ以上は駄目よ?」


 穏やかにニコやかに、けれども何処か威圧感のある母。

 父は黙ってコクコクと頷いた。


「ほら、ミカちゃん! この後デートなんでしょ? あんまり呉羽君を待たせちゃ駄目よ?」


 姉が私を部屋に押し込み、ついでに自分も一緒に入って、勝手に私の服を選んでゆく。


「うん! ラブリィかつセクシィ! バッチリよ、ミカちゃん!」

「あ、ああああの……」

「きっと呉羽君、惚れ直しちゃうわね!」

「姉、わわわわ私……」

「よーし、着せるのも手伝っちゃう!」


 そう言って姉は、私が何か言うのを気に留めず、すっかり着替えを済ませてしまい、私は家を出され、呉羽君の元に送り出されてしまった。


 あうあうあ~、一体どんな顔をして会えばいいんですかぁ!?




 いい加減、ミカが鈍すぎて呉羽が可哀想になってきたので今回こうなってしまいました。

 えっちの約束をしてしまった二人ですが、はてさてどうなる?

 次回をお楽しみに!

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