表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/110

番外編:萌えロマその後・その1

 その後となっていますが、前回の話の、ミカ視点のお話です。

「うう~、眠れません……」


 隣では既に、揚羽君が安らかな寝息を立てている。

 乙女ちゃんほどではないけれど、寝つきは早かった。

 そんな中で、私は緊張と興奮で、中々眠りに付く事が出来ないでいた。


 ああ~、し、心臓がズンドコ節を奏でている……。

 だってなぁ、呉羽君のお家でお泊りだしなぁ……。お風呂ではあんな事があったしなぁ……。

 にゃ~!! また思い出しちゃいました~!!

 駄目です! 思い出しちゃ駄目です私! み、水着! そう、あれは水着なのです!


 何かちょっと違う気がしたが、恥ずかしさを回避するる為に、私はそう思い込む事にする。


 何より、呉羽君がそう言ってたしね!

 そういえば、その呉羽君はもう寝ちゃいましたでしょうか?


 そう思い、息を殺し、気配を探ってみると、どうやらまだ起きているようだった。

 私は今、緊張と興奮の為、全神経が研ぎ澄まされた状態になっている。


 フフフ、今の私には、隣の家の人間のいびきまで聞こえる事でしょう……って、ちょっと言い過ぎですが。でも……。

 フムフム、この気配はどうやら、本のような物を読んでいるようです……。


 私はうんと頷き、ベッドから這い出すと、部屋を出てキッチンへ……。

 そして、余っていたご飯で、おにぎりを作ると、それを焼きおにぎりにする。


 ドキドキ、呉羽君、喜んでくれるかな……。




 扉を叩くと、彼は直ぐに出てきて、私の姿を見て驚いた顔をする。

 私が焼きおにぎりを作った事を告げると、嬉しそうにしてくれたので、私もまた嬉しくなった。

 呉羽君は実に美味しそうに焼きおにぎりを食べてくれ、私としても作ったかいがあったと言うもの。


 よかった。喜んでくれたみたいです。嬉しいな……。




 その後、焼きおにぎりを綺麗に平らげた呉羽君。

 私に、「じゃあ寝るか」と言ってきた。

 席を立つ呉羽君に、私はあっと思いつき、声を掛ける。


「明日の朝ごはんは、和食と洋食、どっちがいいですか?」


 すると呉羽君は、一瞬ボーとしたかと思うと、


「和食で!」


 と言ってきた。


 フフッ、呉羽君って、結構和食好きですよね……。

 それにそれに、この会話って、なんか新婚夫婦っぽいです。

 キャ~、嬉し恥ずかしですよ~!


「はい、分かりました。がんばって朝食作りますね」


 私は意気込んでそう言ったのでした。




 そして呉羽君の部屋の前、


「じゃあ、おやすみ」


 呉羽君はそう言って、部屋に入って行こうとする。

 そんな彼に、私は思わず、彼のパジャマの裾を掴んで引き止めていた。

 何だか、もっと傍に居たい。そう思っての行動だったのだが、その子供じみた行動に、私は恥ずかしくなってしまう。

 そして、ポロッと出た、この後の自分のセリフに、もっと私は恥ずかしくなってしまった。


「あの、おやすみのチューしたいなぁ、なんて……思ったりなんかしちゃったり……」


 ヒャ~! 恥ずかしいなぁ、もう! 呉羽君の顔が、まともに見れません!


 そんな風に恥ずかしがっていると、呉羽君にギュッと抱きしめられた。


 キャ~、呉羽君が抱き締めてくれましたぁ!

 うわっ、凄い胸がキュンキュンする!


 呉羽君の力強い腕と、彼の匂いに包まれ、何とも言えない幸福感で胸が一杯になる。


「ミカ……」


 彼が優しく私を呼ぶ。見下ろすその眼差しも、何処までも優しい。


「呉羽君……」


 私も彼の名を、そっと呼んでみる。

 彼の手が私のメガネに触れた。


 Myオアシスで、シールドで、絶対領域で、今まで誰にも触らせなかったメガネだけど、呉羽君にだけはいいんだもん。


 そして、呉羽君は私のメガネを外す。

 一度嬉しそうに微笑んだかと思うと、チュッと唇を啄ばんできた。

 しかし、触れただけで、直ぐに離れていってしまう。

 何だか物足りなさを感じ、彼を見つめると、目の前の彼は私に向かってニヤリと笑ってきた。


「こんなんで終わりな訳ないだろ? 二度もお預け食らってるんだ、その分もしっかりとしてやるよ……」


 それは、昼間の呉羽君の部屋での出来事と、お風呂上り、リビングでの出来事の事だろう。それぞれ、お母上と弟君に邪魔されてしまったのだ。

 そして呉羽君は、その邪魔された分も込めてなのか、最初から食いつくように口付けてきた。

 静かな家の中で、合わさる唇の湿った音だけが響き、羞恥のあまり顔を真っ赤にさせ、私は震えてしまった。

 まるで食べられちゃうんじゃないかって位に、激しく口付けされて、私は次第に頭がボーとして、ガクンと膝を折った。

 そんな私を、呉羽君は唇を押し付けたまま支え、こっちは必死に縋り付くしかなくて……。

 でも、こうされていると、息が出来ない位に胸が切なくなって、でも嬉しくて……。


 さっき、食べられちゃうかもって思ったけど、呉羽君になら食べられちゃってもいいや……。


 自然と、心の底からそう思う事が出来た。


 何だか私、呉羽君を好きって気持ちが、益々強くなったみたいです。


 それは私にとって嬉しい気持ちの進化。

 この気持ちを、彼に伝えたら、一体どんな顔をするのだろう。


 喜んでくれるでしょうか?

 伝えたいな。

 教えたいな。

 如何したらこの気持ち、全部伝えられるのかな?


 そんな事を思っていたのだけれど、その時、あまりにも唐突に、その口付けは終わってしまった。

 いきなり無くなってしまう温もり。

 目を開け、彼を見ると、何だか辛そうな顔をしていて。


「呉羽君……?」


 私は不思議に思って彼の名を呼んだ。

 いまだ彼のくれた温もりの余韻が覚めやらず、私はポーとした面持ちで、呉羽君の事を見ていた。

 すると、彼はハッと目を見張り、もう一度私の事を強く抱きしめる。


「……揚羽とじゃなく、オレと一緒に寝るか?」


 切なげに、呉羽君がそう聞いてきた。


「え……?」


 呉羽君と一緒に寝る? 添い寝?

 ふわぁ、それって、本当に夫婦みたいじゃないですか!?


「そしたらオレ、お前に何もしない自信なんて、無いけどな……」


 何処か掠れた彼の声。

 何だかゾクリとした。


「ミカは如何したい?」


 続けざまにそう尋ねられる。


 私? 私は……。


「あ……」


 と、私が声を発すると、呉羽君が体を強張らせたのが分かった。

 しかし結局、私は彼に答えを告げる事は出来なかった。

 何故ならば、言おうとした丁度その時、お母上が仕事から帰ってきた為だ。

 私は吃驚して、思わず呉羽君を突き飛ばしてしまった。


 あう~……ごめんね呉羽君……。どうしても、昼間の事も思い出してしまって……。

 ううっ、呉羽君、頭押さえてうずくまってます。痛そうだよぅ……。




 その後、帰ってきたお母上に、抱きしめられたり、チューされそうになったりと一騒動あった後、お母上に引き摺られる様にして、お母上の部屋へ……。

 彼女と寝る事と相成った訳であります。

 私はベッドの中で、お母上に呉羽君の事を色々と訪ねられました。

 出会った切欠。

 いつ好きと気付いたのか。

 どちらが先に告白したのか。

 初チューはいつとか……。


 恥ずかしかったけど、全部話しちゃいました。

 そして、お母上は最後に、


「お休みのチューしたんなら、勿論おはようのチューもしなくちゃねぇ?」


 ニヤッとしてお母上が言った。


「お、おはようのチューですか!?」

「そう。それもミカちゃんからしてあげれば? 呉羽きっと喜ぶわよー?」

「よ、喜びますか?」

「ええ。そりゃあ、男の子としては、好きな人に目覚めのキスして貰えるんだから、当然でしょう」

「お、女の子としても、好きな人とのおはようのチューは、嬉しいですよ……?」


 私が顔を真っ赤にして、モジモジとそう言うと、またもやお母上に、キューと抱きしめられた。


「キャーン! もう、何なのこの子! 可愛いのにも程があるわ! こんな可愛い子彼女にするなんて、呉羽ってばでかした! いいえ! そもそも、呉羽を生んだ私がでかした!」


 うきゅー……く、苦しいです、お母上……。

 それに、お酒臭いです……。もしかしなくとも酔っ払ってるんでしょうか?


「ひょわ!」


 ゾワゾワッと背筋が粟立つ。

 お母上が首筋に吸い付いてきた為だ。

 お母上は、「かわいーかわいー」と連呼しながら、そのまま眠りについてしまった。


 やっぱり、酔っ払っていたんですね……。


 そんな事を思いながら、私もまた、眠りに付いたのだった。




 翌朝、身支度を済ませ、朝食を作り終えた私。

 呉羽君を起こす為、彼の部屋へ。


 はぅっ、ドキドキする。

 おはようのチューかぁ……。


 昨夜、お母上の言っていた事が頭に浮かぶ。


 しかも、私から……。

 ニャー、恥ずかしい……。


「く、呉羽くーん。朝ですよー」


 ううっ、何だか声が震えてしまふ!


「呉羽くーん? 寝てますかぁー?」


 ね、寝てる時にこっそりはありでしょうか?


「うーん……」


 呉羽君が寝返りを打ち、此方を向いた。


 ドキィッ!! はうっ、だ、大丈夫です! まだ起きてません!

 それにそれに……。


 私はじっと呉羽君の寝顔を見る。


 キューン!!

 はぁっ!! 来た! 呉羽萌え来ましたぁ!!

 呉羽君、寝顔可愛いですぅ。

 おしっ! ここはチューです! 今こそチューをするのです!

 では、チューいきます……。


「おはよーございます、呉羽君……」


 一応おはようのチューなので、朝の挨拶をしながら、呉羽君に顔を寄せてゆく。


「んー……」


 パチッ。


「っ!!」


 ピシリと私は固まる。

 呉羽君が目を開けたのだ。

 そして、ボーとした面持ちで私を見ていたかと思うと、布団の中から手を出してきて、グイッと引っ張られる。

 そうして私は、またいつかのように呉羽君の腕の中に閉じ込められてしまった。

 しかも、ぬくぬく呉羽君のベッドの中です。


 おおぅっ、またもや心臓がズンドコ節をっ!!

 キャー、足! 呉羽君の足が絡んで来ます!

 そして、キューン! 呉羽君が、甘えたようにスリスリしてくるぅ!!

 呉羽萌え第二段ですか!?

 えーい、こうなったら、私もスリスリしちゃえ!


 私は、呉羽君の胸に頬を寄せると、そのままスリスリとする。

 彼の心臓の音と温もりが、なんとも心地良い。


「うぅん……」


 ドッキーン!

 な、何ですか今の声は!?

 鼻に掛かったというか、色っぽいというか……。

 呉羽君、なんて声出してるんですか!?

 ド、ドキドキが止まりません。またもやズンドコ節です……。


 と、その時、呉羽君は身じろぎをしたかと思うと、


「え? え? な、何で――」


 呉羽君が戸惑った声を上げる。

 どうやら、完全に目を覚ましてしまったらしく、私を抱きしめていた腕は離され、少しだけ寂しい気分に襲われる。

 私はゆっくりと起き上がり、


「あ、あの、起こそうとしたらまた、呉羽君寝ぼけてですね……。それでその……」


 私は先ほどの色っぽい呉羽君を思い出してしまい、恥ずかしくてモジモジとしてしまう。

 そして、そうだと思い出して、


「あの、メガネ……」

「ああ、そっか、昨日返せなかったもんな」


 そう言って、呉羽君はMyオアシスを返してくれる。


 あ、枕元に置いていてくれたんだ……。


 それから私は、ごくりと唾を飲み込む。


 そうです。おはようのチューです……。

 まずは、朝の挨拶をせねば……。


 私は、呉羽君のベッドの上、ちょこんと正座をすると、頭を下げ、挨拶をする。


「呉羽君、お早う御座います」

「あ、お、おはよう……」


 すると、呉羽君も頭を下げてくる。


 よし、今です!


 私は、呉羽君が頭を上げた瞬間を狙って、彼に顔を寄せ、チューをする。

 唇に、柔らかい感触。


 もう、前みたいに、場所を間違えるというへまはしませんよ!


 目を開けると、眼前に、目を真ん丸くする呉羽君の顔。


 何だか、悪戯をしちゃった気分です。


「おはようのチュー、頂いちゃいました」


 なので私は、そう言って、ぺロッと舌を出したのでした。





 その後、呉羽君の部屋から出てくると、お母上がキッチンでお水を飲んでいました。

 二日酔いなのか、頭を押さえています。


「うー、しんど……。お、ミカちゃん、おはよー。呉羽起きた?」

「え? あ、はい。起きました……」


 ちょっぴり顔が熱いです……。


 すると、お母上はニヤッと笑って、


「その様子だと、しちゃったのね? おはようのチュー」


 はわわわ、エスパーですか、お母上!?


「それで、それで? 呉羽喜んでたでしょー?」

「え!? いえ、その……目は真ん丸くしてましたけど、私もそのまま出てきてしまったので……」


 手元をイジイジさせていると、お母上は益々ニマニマと笑った。


「それはそれは……。呉羽ったら、暫くは起きてこられないんじゃないかしら」

「……?」


 起こしたのに、起きてこないの?


 私が首を傾げていると、ムフフと笑いながら、お母上が私の肩をポンポンと叩く。


「まぁ、男の子の事情ってやつね」


 一体、何の事情?





 その後、揚羽君も起き出してきて、そして弟君に少し遅れて呉羽君も……。

 何だか恥ずかしくて、目を合わせると、直ぐに逸らせてしまう。

 呉羽君もそのようで、顔を赤くして、時折口元がピクピクとしている。


「くーれはとミーカちゃん、あっちっちー♪」


 ハッ、何ですか? その歌!


 お母上がいきなり歌い出したのだ。


「んなっ!! 何歌っていやがる!」

「えー、だってぇー、あっちっちじゃない。ねぇ?」

「ん? 何かよく分かんないけど、兄ちゃんとミカ、顔が赤いぞ? 暑いのか?」

「そーよー、二人は熱々なのよ」


 お母上と揚羽君はそんな事を言い合い、やがて二人して「あっちっちー♪」と歌い出す。


「だー、止めろよお袋! いい年こいて、小学生みたいなからかい方すんなよ!」

「あら、私はいつでも、心は少女よ?」


 呉羽君はそんなお母上の言葉に、「馬鹿らしー」と呟きながらお味噌汁をズズッと啜った。


「あー、でも、心は少女だけど、孫の顔も早く見たいのよねぇ……」

「ブフー!!」

「うひゃー! 呉羽君!?」

「うわ! 兄ちゃんきったねー!」


 呉羽君は、おみそ汁を盛大に噴出した。


「お、お袋っ、朝っぱらから何言ってやがる!」

「えぇー? 私はただ、孫の顔が見たいって言っただけよ? 呉羽こそ、朝っぱらからって、一体何を想像したのかしら?」


 ニマニマと笑って、お母上は呉羽君を見ている。

 呉羽君はグッと言葉に詰まり、顔を赤くしてお母上を睨んでいた。


 うー、でも、お母上の孫って事は……呉羽君の子供って事で……。

 そ、それって、私と呉羽君の子供って事?

 うきゃー!! 気が早すぎです!

 でもでも、呉羽君との子供かぁ……。


「ミカちゃん、私は断然女の子で!」

「お、お袋!」


 お母上が力を込めて言ってくるのを、呉羽君は慌てたように止めようとする。

 そして私は、手をイジイジさせながら、


「わ、私は、呉羽君との子供だったら、男の子でも女の子でも嬉しいです……」

「グハッ! ミカ、お前まで……」


 呉羽君は、それはもう真っ赤になって、片手で顔を覆った。


「そんな事言って、呉羽ってば嬉しいくせに!」


 お母上は更にニマニマと笑って、実に嬉しそうに「あっちっちー♪」とまた歌い出すのだった。



 今回のフレーズのズンドコ節は、とある方が何気に使っていて、思わず吹き出してしまったものです。

 エヘへ、使わせてっもらっちゃった♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ