表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/110

番外編:萌えと男のロマン【叫ぶ煩悩編】

「はーい、揚羽君、お湯かけますよー」

「おう!」


 揚羽君は私の言葉に、両手でギュッと目を押さえる。

 その仕草は何とも可愛い。


 私は今、呉羽君ちのバスルームに居ます。そんでもって、揚羽君の頭を洗っていました。

 はうー、何かとっても新鮮。他所(よそ)のお家でお風呂に入るなんて……しかもそれは呉羽君ちのお風呂……。

 え? 乙女ちゃんのお家でも入ったじゃないかって?

 それは全く違うのであります!

 乙女ちゃんちのお風呂は、もう別次元です!

 こういう、一般庶民のお風呂は初めてなのであります!

 ウフフ、お風呂ちっちゃいですねー。足が伸ばせないですねー。

 ああっ、本当に新鮮!

 それに、誰かの頭を洗ってあげるのも初めてだし……。

 あははん、なぁんか、すっごく楽しいぞぅ♪

 揚羽君可愛いなぁ……。本当に妹か弟、欲しいなぁ……。母、何とかして産んでくんないですかね、もう一人……。


 と、その時である。


『あー、ミカ?』

「っ!!」


 その時、浴室の外から、呉羽君が呼びかけてきた。

 私はビックリして、思わず揚羽君を抱えて、バスタブの中に入っていた。


「おわっ、何だビックリした!」

「ああ、ごめんなさいです、揚羽君。えっと……呉羽君、何ですか?」


 ドキドキとしながら私が返事をすると、


『あー、いきなりごめん。えっと……パジャマ此処に置いておくから……それにタオルも』


 何ともぎこちない感じで話し掛けられた。


「はい、分かりました! ありがとうございます!」


 私がそう言うと、もう彼からは声を掛けられる事はない。どうやら、脱衣所から出て行ったようだ。

 私はホッと息を吐くと、揚羽君を見下ろす。


「揚羽君、体洗いましょうか……」

「おう! オレミカの背中流すぞ!」

「ウフフ、そうですか? じゃあ、洗いっこしましょうか」


 そうして、バスタブから上がり、私達は体を洗う事にする。

 さすがは男の子、日焼けで真っ黒だ。

 小さい背中を洗っていると、


「次はオレの番だぞ!」


 そんな事を言って、私からスポンジを奪う。


「はいはい、お願いします」


 苦笑しながら、私が背中を見せると、何故だかいつまで経っても洗ってくる気配がない。

 不思議に思って揚羽君を見てみると、彼はボーとして此方を見ている。


「揚羽君?」

「ミカ、すげーな。ピカピカだなー」

「はい?」


 洗う前からピカピカとは(これ)如何(いか)に!?


「音羽と全然違うー」


 そんな言葉まで聞こえてきた。


 ?? お母上と? 何が?


 私は首を傾げてしまう。

 結局、何がピカピカで何処が違うのか分からぬまま、背中を洗われている私。ふとボディーシャンプーを見つめる。


 おおぅっ、呉羽君はいつもこれを使っているんですな?

 そしてそれを今、私も使っている……。

 やーん、何か恥ずかしいですぅ!


 シュコシュコとボディーシャンプーのポンプを意味も無く押してしまい、仕方なくそれを泡立て、揚羽君と共に泡々お化けとなったのだった。


「はーい、じゃあもう一度お湯に浸かりますよー」

「えー? 綺麗になったからいいじゃん!」

「あー、駄目ですよー。ちゃんとお湯に浸からないと」


 私はさっきのように、揚羽君を抱えながらバスタブに入る。


「うー、さっきも浸かったじゃん」

「ほほぅ、正義の味方は、熱いお湯が苦手なんですかな?」

「ム!? こんなのへっちゃらだい!」

「じゃあ、百まで数えますか?」

「ひゃ、ひゃく!? ウー、の、望む所だ!」



 ++++++++++



「パジャマ此処に置いておくから……それにタオルも」


 ドギマギとしながら、オレがそう言うと、


『はい、分かりました! ありがとうございます!』


 と、聞こえてきて、やっぱりドギマギとしながら、パジャマとタオルを置く。

 ふと視線を移すと、そこには綺麗に畳まれたミカの服が。

 オレはギョッとして、グリンと回れ右をする。


 い、今、白っぽいレースの何かが見えた!


 ドキドキとしながら、もう一度そろっと振り返ろうとして、オレはハッとする。


 いかんいかん! 何考えてんだよオレ!


 煩悩を振り払うように、オレはブンブンと首を振る。

 そして、脱衣所を出て行くのだった。

 と、その時、


『いっかーん! そこは、パンツを被って風呂を覗くが正解だ!!』


 ハッ!? なんだ今、大和さんのエロについてのアホな叫びが聞こえた気が……。


『そこに美女のパンツがあったなら、取り敢えず被ってみるじゃん? そこに入浴する美女が居たら、取り敢えず覗いてみるじゃん? それが男のロマンじゃん!』


 や、やっぱり聞こえる!

 ……なんだろうオレ、疲れてんのかな?

 それともオレの煩悩か?

 他人の煩悩の中に出てくる大和さんって一体……。

 まぁ、煩悩の塊みたいな人だしな……。


 取り敢えずオレは、その煩悩を振り払って、脱衣所からリビングに移動する。

 そうして暫く、オレはソファーに座り、テレビを見ていた。

 すると、風呂場から揚羽が上がってくる。

 カラスの行水の揚羽にしては、結構長かったのではなかろうか。

 お陰で、全身が茹蛸の様に真っ赤に染まっていた。それに、逆上(のぼ)せているのか、足元がフラフラとしている。

 揚羽はオレの傍までやってくると、ソファーに倒れるように横になった。

 よく見ると、髪がまだ濡れたままとなっている。


「だー、ちゃんと頭拭けって!」


 揚羽の肩に乗っているタオルを引っ手繰ると、ガシガシと頭を拭いてやる。

 揚羽はというと、何も言わず、されるがままとなっていた。


「兄ちゃん……」


 揚羽がぼんやりとオレの名を呼ぶ。


「何だ」


 タオルで拭いてやりながら、テレビは見たままでオレは返事をする。


「音羽と全然違う……」


 思わずピタリと手が止まったが、直ぐに再開する。少しばかり乱暴にはなっていたが……。


「何か凄かった……」


 またもやピタリと手が止まる。


「す、凄いって何がだ?」


 オレは聞き返していた。

 すると、揚羽は手を前に出し、


「えーとな。胸はこーんなで、腰はこんな風で、お尻はこんな感じだった」


 手を使い、形状を現す揚羽。オレはその手の動きに見入ってしまう。


「それでな。つるつるでムチムチで、ふわふわでピカピカだった」

「ピ、ピカピカ!? ピカピカって何だ、ピカピカって!!」

「あ、違う。キラキラかな?」


 だから何がだ!?


 オレは完全に手を止め、揚羽の言った言葉の謎に思い悩む。


 ……ハッ! ってオレ! 何考えてんだよ! 敢えて考えないようにって、テレビ見てたんだろーが!


「なー、兄ちゃん」

「………」


 オレはもう返事はしない。

 頼むからもう何も言わないでくれ、と思っていると、揚羽は言った。


「アイス食っていい?」

「ああ、食え。じゃんじゃん食え」


 ホッとして、オレはそんな事を言う。

 揚羽は「やったー!」と叫ぶと、ソファーから飛び起きて、冷蔵庫へと向かう。

 どうやら、逆上せていた状態から、復活したらしい。

 オレはチラッと風呂場の方に目を向ける。


 それにしてもミカって、けっこう長風呂だったんだな……。もうそろそろ、一時間位になりそうだ。


 すると、棒付きアイスをくわえた揚羽がオレに言った。


「兄ちゃん、兄ちゃん。ミカのおっぱい、すっげー柔らかかった」

「グハッ!!」


 油断していた為、物凄い衝撃だった。

 オレはギギッと揚羽を見る。


「……揚羽、お前触ったのか……?」

「うん、触ったって言うか、背中に当たってた」

「せっ!?」


 せ、背中だとぅ!? どういう状況だ、それは!?


「だってな、お風呂の中狭いから、ミカが後ろからこう、抱っこする感じで入ったんだ」

「………」

「それからな、洗いっこもしたぞ! 二人で、泡だらけになって、お化けごっことかもした! すっげー楽しかった!」

「………」

「でも、最後は風呂ん中で、百数えさせられたんだ。百数え終わるまで、ミカ全然放してくれなかった。

 こう、ギューっと力いっぱい抱き締めて、逃げられないようにされた」

「………」


 アイスを頬張りながら語る揚羽の頭の上に、オレは黙って手を乗せる。

 多分オレは今、凄く冷たい目をしてると思う。と言うか、無表情だ。


「兄ちゃん?」


 頭に手を置くオレを、不思議そうに見上げる。

 オレは無言で、その手に力を込めてゆく。


 ギリギリギリ……。


「兄ちゃん? 兄ちゃん!? ぎゃー、兄ちゃん痛い痛い!!」

「揚羽……お前、恋人であるオレを差し置いて、随分と羨ましい事をしてくれたな……」


 ギリギリギリ!


「ぎゃー! うわーん! 何か分かんないけど、ごめんなさいぃ~!!」


 泣きながら謝る揚羽だったが、その手にはアイスがしっかりと握られている。


 何か、まだ余裕があるみたいだな、おい……。


 更に力を込めようとした時、


「ハァー、いいお湯でした。あれ? 二人とも何してるんですか?」


 風呂上りのミカが、首を傾げている。

 オレがパッと手を放すと、


「うわーん、ミカー! 兄ちゃんが意地悪するよー! 頭ギリギリってしたんだぁー!!」


 すぐさまミカに駆け寄り、擦り寄る揚羽。

 実の弟に殺意が芽生えた瞬間だった。


「えぇ!? 一体何があったんですか? うーん……あれ? 揚羽君、何持ってるんですか?」

「あ、そうだ! アイスあったんだった!」


 再びアイスを口いっぱい頬張る揚羽。涙は既に引っ込んでいる。


 やっぱり余裕だな、おい……。



 ++++++++++



 夢中でアイスを食べる揚羽君に、どうやら大丈夫と判断した私。呉羽君を見ると……。


 あうっ、何だかブルリと寒気が……。はて、湯冷めでしょうか?


「あの、呉羽君、パジャマこれで良かったですか?」


 牛のアニマル柄のパジャマを見下ろし、私は尋ねる。


「ああ、お袋のだから気にすんな」


 何ですって? お母上の!?

 それは結構気になりますが……。


「何着かある内の一着だからいいんだよ」


 そんな事を言う呉羽君。そして、何だか物凄く見られている感が……。


 ウー、どうしましょう。実は、胸の所がきつくて、一番上のボタンが閉められなかったんですよね。


 なるべく身を縮めて襟元を寄せているけれど、あまり意味がない。

 すると、バフッとタオルを被せられた。


「ひゃあ!? な、何ですか?」


 いきなり視界が遮られ、吃驚してしまう私。


「お前なぁ、ちゃんと乾かさないと、風邪引くだろうが」


 揚羽みたいだぞ、と呆れ気味に、ガシガシと頭を拭かれる。


「揚羽、ドライヤーと櫛持って来い。オレが乾かしてやる」

「おう、分かった!」

「えぇ!? いいですよ、自分で乾かします!」

「いーんだよ。オレがやりたいんだし、それにいい眺めだし?」

「え?」


 顔を上げれば、呉羽君と目が合った。

 そして、彼の目線は、そのまま下へと移され、私の胸元を見下ろす形となる。

 胸の谷間がばっちりと見えてしまっていた。


「うきゃあ!!」


 慌てて隠そうとすると、


「何で隠すんだよ? すげー色っぽかったのに……」


 呉羽君はそう言って、ニッと笑った。


 ニョ~!! 俺様呉羽君です! 一体いつの間に!?


「まだきつそうだよな? もう一つ位外してもいいんだぜ?」


 ニヤリと笑って、呉羽君が手を伸ばしてくる。

 私はバッ、と胸を庇うと、ブンブンと首を振って答えた。


「だっ、大丈夫ですニャン!」


 思わず語尾にニャンを付けてしまった。

 夏休みの負の遺産は、今だ根強く私の中に残っているようである。


 その後直ぐ、揚羽君がドライヤーと櫛を持って戻ってきた。

 そして、リビングのソファーに座らされ、私は呉羽君に髪を乾かして貰う事となった。


「ドライヤー、熱くないか?」

「いえ、大丈夫です」


 優しい手つきで、呉羽君は私の髪に触れる。

 時折、髪をかき上げられると、ゾワゾワと全身が粟立った。

 決して嫌な感じではなく、逆に心地よさを感じてしまう。


 そういえば、以前も髪の毛クシャクシャとされた事があったな。

 あの時は、初めて呉羽君に俺様が現れたんですよね。

 あん時はビックリしたなぁ。

 って言うか、今も俺様になってるんだよね?

 何もされないかな?

 うー、でも呉羽君の手、すっごく気持ちいいよぅ。


 あまりの気持ちよさにウットリとしていると、


「気持ちいいか?」


 と、呉羽君が優しく聞いてくる。


「はい、とっても……」


 無意識にそう答えていた私。

 何故だか呉羽君がクスリと笑った。


「え? 気持ちいいのか? いーなー、いーなー、兄ちゃんオレもやって!」


 呉羽君の手元をじっと監察していた揚羽君が、体を揺すりながらねだる。


「お前はもう乾いてるから駄目だ」


 揚羽君の額をペチッと軽く叩いて、呉羽君は言った。


「うー、兄ちゃんのケチー」


 唇を尖らして、揚羽君はテレビのリモコンに手を伸ばし、パチパチと適当にチャンネルを変えてゆく。そして、お目当ての番組があったのか、そのままテレビに見入ってしまった。


 はらら、拗ねてしまいました、揚羽君……。


「いいんですか?」

「いーんだよ。それに……オレは今、ミカ扱いしてるんだし……」


 ボソリと耳元で囁かる。


 ひゃ~、耳の呉羽君の唇がっ!!

 それにそれに、何だか今日は優しいモードの俺様です。

 う~、ドキドキする~。


「なぁ、知ってたか?」


 耳に唇を寄せたまま、呉羽君が囁き、そしてドライヤーを脇に置くと、両手を使って髪をかき回された。


「ふわぁ……」


 またもや全身が粟立つ。


 はわわわ、ゾクゾクふわふわするよぅ。


 そんな中で、呉羽君はまた囁いた。


「頭部にも性感帯ってあるんだぜ?」


 体から力が抜けて、そのまま私は呉羽君に寄り掛ってしまう。

 そんな状態のまま、ポヤッとした目で彼を見上げると、彼はフッと笑って此方に顔を寄せてくる。

 私も自然と目を瞑っていて――。


「あはははは!」


 ビクンとして我に返った私は、其方に顔を向けた。

 揚羽君がテレビを見て大笑いしていた。


 そうだった! 揚羽君が居たんだった!


 私の頭の直ぐ上で、呉羽君がチッと舌打ちをするのが聞こえた。


 あうっ! 呉羽君が苛立たしげに揚羽君を睨んでいます!

 こ、これは! 揚羽君の頬っぺたがピンチです!


「く、呉羽君は、お風呂に入んないんですか?」

「え? ああ、そうだな。入るか……」


 やりました! 気を逸らせる事に成功です!

 揚羽君の頬っぺたは守られました!


 すると、呉羽君は此方を見て、ニヤリと笑った。


「何ならミカも、もう一度入り直すか? オレと一緒に……」

「も、もう結構ですニャン!」


 ハッ、またもやニャンと付けてしまったー!


 しかし、呉羽君はプッと吹き出すと、


「何だそりゃ」


 と言って、私の頭を優しくポンポンする。

 そして、私にドライヤーを持たせると、


「まだ濡れてっから、後は自分で乾かせよ」


 優しい口調でそう言って、立ち上がってお風呂場に行ってしまった。


 う? いつもの呉羽君に戻ってる?

 ……? 今のニャンで……?


 首を傾げながら、私は呉羽君に言われたとおり、ドライヤーをオンにすると髪に当ててゆく。

 試しに、呉羽君のしてくれたように、髪のかき上げてみたが、全然気持ちよくならない。


 あう? 呉羽君みたいに気持ちよくならないよ?

 もしかして、呉羽君がやってくれたから?


 何だかそう思ったら、呉羽君が恋しくなってしまった。


 呉羽君、早くお風呂から戻ってこないかなー。

 って、今行ったばっかりで、何言ってるんでしょうか私……。


 そこで私は、ある事に気づき、呉羽君が行ったお風呂場へと目を向ける。

 私の体は、わなわなと震えた。


 い、いっかーん! 


 私は慌てて立ち上がり、脱衣所に向かう。


「呉羽君、見ちゃ駄目ですー!!」


 ガチャリと脱衣所の扉を開ると、呉羽君がビックリして此方を見た。

 彼の手の中には、ある物が握られていた。


 NOーー!!


「やーん、私の下着ぃー!!」 


 私は慌てて、彼の手からそれを奪うと胸に抱く。


 はうっ、いくら寝る時はブラをしない派とはいえ、脱衣所に置き忘れてしまうなんて!!

 しかも、ばっちりと呉羽君に見られてしまうなんて!!


「うっ、あっ、ち、違うんだミカ! ワザとじゃないっつーか! たまたまっつーか! とにかくゴメン!」


 私は呉羽君を見上げる。

 呉羽君は真っ赤になって汗を掻きまくっている。

 私は、恥ずかしさのあまり、目に涙が浮かんだ。

 その涙を見て、呉羽君がギクリと体を強張らせる。


「マジごめん! 本当に反省してるから、だから泣くなよ……」

「ううっ……呉羽君は悪くありません……。こんな所に置き忘れた私が悪いんです……」


 と此処で、私は視線をちょい下に移した。

 呉羽君は上半身裸で、下は、ズボンを今まさに脱ごうとしていた所らしく、呉羽君のパンツが見えていた。

 ボンと頭の中が爆発する。


「キャー! いやーん!!」


 一気に熱くなる頬を両手で押さえながら、私は叫ぶ。


「うおっ!」


 すると、呉羽君も気付いて、慌ててズボンの前を閉めていた。


「うわーん! ごめんなさーい!!」


 私は顔を押さえて、急いでリビングに戻った。

 揚羽君はテレビに夢中で、此方の騒ぎには気付いていないようである。


 ううっ、それにしても、呉羽君に下着見られちゃったよぅ。おまけに呉羽君の下着も見ちゃったよぅ。

 あうあう、誰か私を穴に埋めて下さい……。


 私はソファーに膝を抱えて、縮こまるのだった。



 ++++++++++



「………」


 真っ赤になって走り去るミカを、オレは無言で見送る。

 果たしてここは、追うべきか、それともそっとしておいてやるべきか……。


「そっとしておいてやろう……」


 うんと頷くオレ。


 だってオレもなんか恥ずかしいし……。

 まぁ、オレが風呂から出た頃には落ち着いてんだろう……。

 つーか、って事はだ……今までミカ、ノーブラだったって事だよな……。


 視覚的にも、かなり強力な破壊兵器と化していたミカの胸元を思い出し、オレはニヤけそうになる口元を押さるのだった。




 暫くして、オレは風呂から上がりリビングへと……。

 すると、揚羽が眉を下げてオレの元にやってくる。


「兄ちゃん、兄ちゃん。何かミカが変なんだ」

「ハァ!?」


 てっきり、もう立ち直っているだろうと思っていたのだが、どうやらまだのようだった。

 ソファーを見ると、ミカが膝を抱えて縮こまっていた。


「ミカ、ずっとあんななんだ。どっか具合でも悪いのか?」


 心配そうにミカを見ている揚羽。

 オレは安心させるように、ぽんと頭に手を乗せると言ってやる。


「ああ、大丈夫だ。後は兄ちゃんに任せて、お前は歯でも磨いて、寝る準備でもしておけ」


 すると揚羽は、暫し考えた後、「分かった」と言って頷いた。

 オレはミカに近づき、


「おーい、ミカ?」


 と声を掛けると、ミカはビクンと肩を震わせ、此方を見上げた。

 オレを見たミカは、顔を真っ赤にさせ、


「あうっ、ごめんなさい」


 と謝ってくる。


「いや、うん。まぁ、そこはお互い様って事でいいんじゃねーか?」

「ううっ、でも――」


 そこでまた思い出したのか、


「やーん!」


 と顔を覆ってしまった。髪の毛の間から覗く耳が、真っ赤に染まっている。

 さて、ここはどう言って落ち着かせるべきだろうか。

 そこでオレは、かなり苦しいが、こんな事を言ってしまう。


「ミカ、お前が見たもんは、下着じゃなくて水着だ!」」

「はい?」

「あ、いやな、下着じゃなくて、水着だと思えばそんなに恥ずかしくないんじゃないか?」

「ふえ!? み、水着?」


 ポカンとするミカ。


「ほら、夏休みを思い出せ。お互い水着姿は見てんだろ?」

「え、あ、う……はい」

「あん時、ミカはオレの格好見て、恥ずかしいと思ったか?」

「え? その、凄くドキドキしました……」

「まぁ、そん位はあるかもだけど、今ほど恥ずかしくはなかったろ?」


 こくんと頷くミカ。


「水着と今回、どっちが肌が露出してた? 今回はズボンは穿いてただろう? それを考えれば、ほら、全然恥かしくなんか無いじゃないか」

「ん? うーん……」


 ミカは腕を組み考える。

 はっきり言えば、水着と下着は別もんであるが、今はこう言ってミカを納得させ、落ち着かせる事にする。


「とにかくだ、今日はもう寝ちまえ。そして全部忘れろ!」


 そこに丁度、揚羽もやってきた。


「ミカー、一緒に寝よーぜ! 何だったら、オレのサンバトラーの枕、貸してやろうか?」


 まだ心配そうにしている揚羽を見て、ミカは漸く笑顔を見せた。


「いえ、大丈夫ですよ。そうですね、寝ちゃいましょう! 寝て、忘れちゃうのが一番ですよね!」


 漸く納得したのか、拳を握ってうんと頷くミカ。

 オレも「おう、寝ろ寝ろ」と促すのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ