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夏休み特別編おまけ

 今回は、乙女と真澄が教室を出て行ったその後のお話。

「おーほほほ、如何したのかしら、日向真澄! さあ、このお姉さまの写真が欲しくば、わたくしに意外かつエキセントリックな土下座をしてみせなさい!」

「えー? エキセントリックな土下座ってどんなだよー……」


 情けない声を上げる真澄。

 そんな彼を見て、フフンと鼻で笑う乙女。

 そしてその時、彼らの前にある人物が現れた。

 右手に杖をつき、頭には鳥の巣の如きカツラに住まう小さき鳥……。全身を小刻みに震わすその人物は、そう……我らがアイドル、震えるおじいちゃんこと正じぃである。

 丁度、職員室から出てきた所であった。

 彼は、プルプルと震えながら、手を上げる。


「あ〜〜……あい!」


 その顔は真剣で、使命感の様なもので満ちていた。


「え? 正じぃ? 如何したの?」

「あら? もしかして、校長がエキセントリックな土下座を披露してくれるのかしら?」

「えぇ!? 正じぃが!?」


 二人がそう言う合う間にも、正じぃはプルプルと震えながら準備を始める。

 何故か後ろ向き。そして、その場で正座する。

 鳥の巣を頭から外し、横に置いた。


「まぁ、まさか後ろを向いたまま土下座をなさいますの? そんな物でわたくしの心を捉えるなどと――」


 グゥキィッ!!


「はぁんまぁ〜〜!!」

「ま、正じぃーー!!」


 二人は目を疑った。

 正じぃはその体勢のまま、両手をあげたかと思うと、そのまま体を後ろに逸らしたのである。

 普段、背の曲がった状態の正じぃ。

 逸らした瞬間、物凄い音が響き、正じぃは何とも言えない叫び声をあげたのだった。

 今、正じぃは、今までに無いほどに震え、顔には脂汗が浮かんでいた。しかしながら、乙女と真澄を見ると、無理矢理笑顔を作り、ビシッと親指を突き出したのである。

 隣では、ピーちゃんが心配げに正じぃを見やり、「ピー」と鳴いていた。

 困った生徒は放っておけない。正じぃは校長の鏡であった。


「エキセントリック! まさにエキセントリックでしたわ! わたくしの心は今、感動と衝撃で打ち震えています! 校長! わたくし、その命を掛けた土下座に感服いたしましてよ! このわたくしの取って置きのお姉さまの生水着写真、校長に差し上げますわ!」

「えぇー!? あげちゃうの!? って、今はそれどころじゃないって! 誰か救急車! 正じぃの腰が大変な事にー!!」


 その後、正じぃはその体勢のまま、救急車で運ばれていった。

 その場には、鳥の巣をぶら下げ、所在無げに飛び回るピーちゃんが残されたのだった。




「あー、結局、一ノ瀬さんの水着姿は見れずじまいかー、残念だなぁ……」

「あら、お姉さまの写真があれ一枚だけだとお思い?」

「え!? まだ水着写真あるの!?」


 期待に顔を輝かせる真澄。

 しかし乙女は、フンと鼻で笑うと、


「今は手元にありませんわ」


 と言って、真澄を落胆させた。


「そっかー……。でもまぁ、あったらあったで、正じぃの土下座以上のエキセントリックな土下座なんて、見せられる自信はないし……」

「そうですわ! あれを上回る土下座など、この世には存在しませんわ!」

「はは、そうだよねぇ。あの土下座は、正じぃがやって、初めてエキセントリックだもんね……。

 それはまぁ、置いといてさ……写真だけど、一ノ瀬さんだけじゃなくて、他の人とかの写真はないの? 普通に皆で楽しんでる写真とか」

「楽しんでる写真ですの?」

「うん、だって俺行けなかったからさぁ、どんなだったか雰囲気だけでも味わいたいじゃん?」


 そんな真澄に、乙女は少し考えてから、数枚の写真を渡した。


「お姉さまの写真はありませんわよ」

「いいって、いいって、どれどれ?」 


 真澄はワクワクとしながら写真を見た。

 一枚目。

 砂浜で眠そうにしている呉羽の写真だった。


「……なんで如月君、こんなに眠そうなの?」

「前の晩、天国と地獄を味わったからですわ」

「……はい?」


 訳が分からないながらも、次の写真。

 乙女が砂浜で椅子に座り、何かトロピカルな飲み物を飲んでいる。

 傍らには給仕をする杜若。そして、パラソルを抱え日影を作っている謎の人物。


「……杜若さん、こんな所でも燕尾服なんだ……」

「ええ、執事は常に、燕尾服を着用しなければならないそうですわ」

「へぇ……大変だねぇ……。で、この可愛い感じの男の人は誰?」


 パラソルを抱える人物を指し、尋ねる真澄。

 女の子みたいに見えるが、その体の線は男のもの。そして、何だかパラソルが重そうである。


「それはビリーですわ」

「えぇ!! ビリー!? これが!?」


 こんな顔してたんだと、感心して写真を眺める真澄。


「お客様をおもてなしする時は、黒子達は素顔を晒す様に言われていますわ。お姉さまのお誕生日の為の南の島ですから、当然黒子達はおもてなしをする為に覆面を外してますの」

「ヘ、へぇ〜……」

「しかしながらわたくし、この時まで彼がビリーだとは知りませんでしたわ。覆面をしてしまうと、誰が誰だか分かりませんもの」

「で、でもさぁ、何てゆーか、美形だよね……」

「ええ、美形でなければ、我が薔薇屋敷家では使用人にはなれませんわ」

「え!? 美形じゃなくちゃ駄目なの!?」

「その通りですわ。でなければ、お兄様が納得しませんもの」


 お兄様と聞いて、「ああ」と納得する真澄。

 そして、次の写真を見る。

 真澄はブフッと吹き出した。


「うーわー、何これ。一ノ瀬さんと如月君、すっごいラブラブなんですけど……」


 そこには、呉羽の膝の上に座り、彼に甘えているミカの姿が写っていた。

 少々顔を強張らせている呉羽が、何と言うか彼らしいと思う真澄。


「杜若の作った巨大モンブランを前に、幼児化をしたお姉さまですわ。あまりのラブラブなオーラに、わたくし見ていられず、この部屋に二人を残し、杜若と共に部屋を出ましたわ」

「うーん、それは俺もその場に居たらそうしただろうな。それにしても、この巨大モンブランって……。しかも杜若さんが作ったって……」

「執事というものは、何でもそつなくこなすものですわ」

「へぇ、そうなんだ……」


 次の写真。


「えっと次は……これは、飛行機の中?」


 ミカと呉羽の写真だった。

 ニコニコと嬉しそうに呉羽の手を握るミカ。

 そして、ガチガチに緊張した顔の呉羽。


「そうですわ。呉羽様、飛行機はその時が始めてだったんだそうですわよ」

「あはは、居るよね、こーゆー人。そんでもって、何で鉄の塊が空を飛ぶんだーとか言ってさ。事故とか墜落とかの言葉に、異様に反応するんだよね」

「ええ、まさにそのようになっていましたわ」

「うわー、それじゃ、これから海外に行くような羽目になったら、如何するつもりなんだろ。これって、明らかに飛行機恐怖症じゃん」

「それならば、杜若が何とかすると言っていましたわ」

「え!? どうやって?」

「そこまでは、わたくしも分かりませんわ」


 そして、最後の写真を見る真澄。

 乙女の写真だった。浜辺にポツンとたたずんでいる。


(こうして見ると、薔薇屋敷さんって結構可愛いよね。これで、性格も良ければ、断然男は放っておかないだろうな)


 そんな事を考える真澄。


「薔薇屋敷さん、この水着可愛いね。もしかして、特注だったりとか?」

「そうですわ。大体、私の着る物は、オートクチュールのものですわ」

「そ、それは凄いね……」


(も、もしかして、今着てる制服とかもそうなのかな?)


 よく見てみると、制服の袖やスカートの裾に、目立たない色で、細かな刺繍が入っていた。


(こ、これって、校則違反なんじゃ……)


 そう思ったが、心の内にしまう事にする真澄。


「あれ? でもなんか、この薔薇屋敷さん、寂しそうだね? どうしたの?」


 確かに、浜辺に佇み海を眺めるその横顔は、何処か寂しそうに見え、何だか乙女らしくない。

 すると乙女は、チラリと真澄を見た後、拗ねたようにポツリと呟いた。


「それは、貴方が居ないからですわ……」


 一瞬耳を疑う真澄。

 一泊置いて、バッと乙女を見た後、大声で「えぇ!?」と驚いて見せた。

 恥ずかしそうに、手元を弄っている彼女の姿に、思わずドキリとしてしまう。


「この南の島に居る間、寝ても覚めても貴方の事ばかり考えていたんですのよ……」

「えぇ!? そんな、ちょっと待って……えぇ!?」


(そんなまさか! 薔薇屋敷さんが俺を!?)


 そう思うと、何だか堪らなく乙女が可愛く見えてくる真澄。胸もドキドキして中々治まらない。


「貴方が傍に居ない事で漸く気付きましたの……。心にぽっかり穴が開いたようでしたわ……」

「……薔薇屋敷さん」


 真澄がドギマギとしながら乙女を見ると、乙女もまた真澄を見つめ返す。

 そして彼女はギュッと手を組み、真剣な顔で言った。


「だってだって、罵る相手が居なかったんですもの!」

「………はい?」

「わたくし、まさかこんなにも貴方に依存してただなんて、気付きませんでしたわ。罵るべき時に貴方が傍に居ないなんて……。わたくし、漸く貴方の価値に気付きましたのよ!」

「………」


 無言で乙女を見つめる真澄。その目は何処か淀んでいた。

 乙女はその事には気付かず、ポッと頬を赤らめながら、恥ずかしそうに真澄の胸を突っつく。


「もう、日向真澄ったら。貴方はもう、犬の骨ではありませんわ! アリんこですわ! ミジンコですわ! キャッ、わたくしにここまで言わせるなんて……なんて罪作りなゾウリムシなのかしら! もう、池にでも田んぼにでも帰って、分裂でも何でもすればいいんですわ!」


 犬の骨から、最後には単細胞生物にまで格下げされてしまった真澄。


(これって、何なんだろう……。俺ってば、嫌われてんの? 気に入られてんの? どっち? ……何はともあれ、さっきのドキドキを返して欲しい……)


 何も見ていない目で乙女を眺めている真澄。

 今後の自分の行く末を思い、深く溜息をついたのだった。



 まぁ、これも一つの愛の形(かな?)。

 と言うわけで如何でしたでしょうか?

 真澄と乙女の仲が気になると言って下さった方々、如何ですか? こんな二人は……?

 楽しんでいただければ幸いです。

 因みに正じぃですが、全治一ヶ月と医者に言われますが、脅威の回復力を見せ、三週間ほどで退院。再び頭にピーちゃんを乗せ、生徒達の前に姿を現したのでした。


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