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夏休み特別編6

「あの、呉羽君。私、呉羽君に渡したい物があるんです」

「ん? ああ、そういえば、携帯で話した時もそんな事言ってたよな。一体何なんだ?」


 公園のベンチで休憩をしているオレたち。

 ミカは持っていたバックから、包みを取り出した。

 綺麗にラッピングされたそれを見て、オレは首を傾げる。


「……オレ、別に今月誕生日じゃないぞ?」

「はい、分かってますよ。これは、私が呉羽君の事誤解しちゃったお詫びと、私の為に頑張ってくれた事へのご褒美です」

「はっ!? だって、誤解っつっても、オレが本当の事言わなかっただけだし、頑張ったのも、ミカの誕生日だからで……」

「だから、これを開けてみて下さい」

「??」


 オレは訳が分からないながらも、ミカの言うとおりそれを開けてみた。

 そして、中から出てきた物を見て、オレはワナワナと手を震わせる。


「こ、これって! 武士ギャラクシーの初回限定のDVD BOX!?」


 それも、ミカの誕生日プレゼントを買う為に、手に入れるのを諦めていたやつだ!

 すげー、ちゃんとフィギュアまでついてる!


 オレはそれをまじまじと見ながら、ハッとしてミカを見た。


「これ、ミカが買ったのか?」

「いいえ、父に頼んで、手に入れた物ですよ」

「大和さんに? じゃあタダでくれたのか!?」


 そうだよな、なんたって自分のバンドのDVDだもんな、手に入れるのは簡単だよな。


 と、そう思っていたのだが、ミカは疲れたような顔で、遠くを見つめながらこう言った。


「まぁ、金銭面的に言えば、タダですが……ちょっと体で払わされました……」

「は!? 体で!?」


 ちょっと待て!? 体でって、どういう事だ?


 あの大和さんの事を考えると、ろくな事じゃ無さそうだと予感する。


「ええ、散々ご奉仕させられました……。猫耳メイドで……」

「猫耳って……じゃあ、あの格好って大和さんのせいだったのか!?」


 すげーな、あの人……普通、自分の娘にそんな格好させるか?


「それにしても、そんな格好までして手に入れたんなら、尚更割が合わねーってゆーか……お前の誕生日なのに……」

「だからですよ」

「は!?」

「ウフフ。でも実は、本当は呉羽君といち早く夏デートをしたくて、手に入れようとしてたんですよ? 呉羽君は、これを手に入れる為にバイトしてるんだと思ってましたから。だから、呉羽君が手に入れるよりも早く手に入れて、少しでも多く、夏休みを呉羽君と過ごしたかったんです。それに今、物凄くプレゼント貰った感がしてますよ、私」


 物凄く嬉しそうに、オレの事を見るミカ。オレは全く意味が分からない。


「呉羽君、それが手に入って嬉しいですか?」

「え? ああ、すげー嬉しいけど……」

「なら、私も凄く嬉しいです。頑張った甲斐がありました。呉羽君の喜んだ顔が、私のもう一つの欲しかったものです」


 グハァッ!

 今、物凄い衝撃が来た! 今日のミカは何でこんなに可愛いんだ!


 オレは胸を押さえながら、危うくまた、泣きそうになってしまった。

 そして、ミカに向かって、礼の言葉を告げようとした時だった。

 何処からともなく、人の話し声が……。


「おい、ちょっと聞いたか?」

「ああ、なんていい子なんだっ!」

「美人な上に、心までこんなに綺麗だなんて、クソッ! 呉羽っちめ!」

「ああ、駄目ですよ。聞こえてしまいますよ?」


「って、ちょっと待てぃ! 何で先輩達が居るんすか!? しかも親父! 何であんたまで居るんだよ!」


 ベンチの後ろの植え込みの影に、オレは見知った人間を見つけた。

 それは、バイト先の先輩と、そして何故かオレの親父。


「えぇ!? 呉羽君のお父上!?」


 だからミカ。何でオレの両親はそんな呼び方なんだ……。



 ++++++++++



 うわぁ、うわぁ!

 呉羽君のお父上です! 素敵です! カッコイイです!


 私はお父上を見つめながら、ドキドキとしていた。

 呉羽君のお父上は、メガネをしていた。そして、アゴに髭を生やしていた。

 髪は伸ばしていて、後ろで(くく)っている。

 どちらかと言えばワイルドな見た目だが、何処か落ち着いた感じも兼ね備えている男性だった。

 まだ30代位なのだろうか、若々しく見える。


「えっと、一ノ瀬ミカです! 初めまして!」


 私は立ち上がると、呉羽君のお父上に向かって、ぺこりとお辞儀をする。

 するとお父上は、フッと笑い私の前に立ち、私の手を取った。


「初めまして、呉羽の父です。思ったとおり、素敵なお嬢さんですね。如何です? この後食事でも……」

「って! いきなり息子の彼女を口説くな!」


 呉羽君が、怒りで真っ赤な顔をして、私の手を握るお父上の手を払った。


「口説くなんて人聞きの悪い……。私は純粋に挨拶をしていただけですよ? ねぇ、ミカさん?」

「え? あ、はい」

「いきなり名前で呼ぶのかよ!」

「だって、いずれ呉羽と同じ苗字になるのだから、今の内に名前を呼ぶのに慣れておかないと」

「グッ!?」

「だって、結婚指輪買うのでしょう? あの店で……」

「って! いつからオレ等の事見ていやがったぁ!」


 はうっ、同じ苗字……今、お父上、同じ苗字って言いました?

 それって、それって、お父上、私達の仲を認めてくれてるって事だよね?

 あう〜、凄く嬉しいです〜!


「おい見ろよ、彼女真っ赤になってるぞ?」

「クア〜、おまけに純情ってか! この幸せ者め!」

「恥らってる所もまた、堪らないな……」


「つーか、先輩方も、変な目でミカを見ないで下さい!」


 呉羽君が私を背に隠す。


「おやおや、あまり独占欲が強いと、彼女に嫌われてしまいますよ?」

「うっせー! あんたにそーゆー事をとやかく言われたくねー!」


 呉羽君がお父上の事を睨む。


 ううーん、やっぱり呉羽君はお父上の事があまり好きではないようです……。

 でも、呉羽君のお父上ですよ? 私としては、もっとお父上と話がしたいです。


 そして、もうじきお昼。

 という事で、私はバックを前に出して皆に提案した。


「あ、あの! 皆さんでお弁当食べませんか!?」





 という訳で、私は皆さんの前にお弁当を広げる事になりました。

 呉羽君はムスッとした顔をしている。


 それにしても、いつものように多めに作ってきて良かったです。

 念の為にと、お箸も多めに持ってきてたんですよね。


「如何ですか? お口にあいますでしょうか?」

「あいます! あいまくります!」

「めっちゃ美味しいです!」

「カーッ! 呉羽っちめ! 美少女な上に優しくて純情で料理が上手い彼女なんて、そんな貴重な存在を独り占めか! 羨ましいぞ、コンチクショー!」


 バイトの先輩達は、お弁当を涙を流しながら食べている。


 そ、そんなに泣くほどの事なのでしょうか?


 そしてもう一人。お父上の方を見ると、彼は一つ一つ味わいながら食べていた。時折、うんうんと頷いている。


「あの……如何ですか?」


 恐る恐る聞いてみると、お父上はニッコリと笑って、頷いてきた。


「とても美味しいですよ? これはプロの味付けですね。私のお店で、料理を作ってもらいたいくらいですよ」

「そうですか? お父上にそう言って頂けて良かったです」


 ホッと胸を撫で下ろしていると、お父上はなんとも微妙な顔をして、私に尋ねてくる。


「あの、少々気になったんですが、何故私の事をお父上と呼ぶんですか?」

「へ? ああ、だって、呉羽君の両親が居なければ、私は呉羽君に出会えませんでしたから。呉羽君の両親は、私にとって恩人です。敬意をもって、そう呼ばせて頂いています」


 私がそういうと、隣で押し黙っていた呉羽君が、「そうだったのか……」と呟いていた。

 そして、その顔から不機嫌さが取れ、好物の豚の角煮に箸を伸ばそうとした時、丁度お父上もそれに箸を伸ばそうとしていて、カチンと箸がぶつかった。


「おい、これはオレが食おうとしてたんだけど……」

「ここは、年長者に譲るべきなのではないですか?」

「んなの関係ねー。そもそもこの弁当は、ミカがオレに作ったもんだぞ? それにこれ、オレの好物なんだけど……」

「奇遇ですね、私も好きなんですよね、豚の角煮……」


 お互い、譲ろうとしない。

 一触即発な雰囲気だったが、私は思わず吹き出してしまっていた。

 二人とも不思議そうに私を見る。

 その表情は、さすが親子と言うべきだろうか、とてもよく似ていた。


「やっぱり、親子なんですね。お二人とも好物が同じなんて……」


 実は先程から、お父上が食べながら頷いていたものは、全部呉羽君の好きなものだった。

 呉羽君とお父上は、顔を見合わせながら、何とも言えない表情をしている。


「いっぱい作ってあるので、二人とも喧嘩しないで、仲良く食べてくださいね?」


 私はニッコリと二人に笑いかけ、バックからタッパーを取り出した。

 その中には豚の角煮が入っている。

 呉羽君に家でも食べて欲しくて、余分に作ったものだ。


 ムフフ、こんな所で役に立つなんて、良かったです!


 そうして、お弁当はキレイに無くなった。

 大の男四人もいるのだから、当たり前かもしれない。

 バイト先の先輩方は、


「あー、俺もこんな彼女がほしー!」

「くそー、呉羽っちが羨ましいぜ! コンチクショー!」

「どうやってゲットしたんだ、この!」


 なんて言いながら、呉羽君にまとわり付き、頭をガシガシとかき回し、ボサボサにしてしまっている。


「ちょっ!? 先輩、止めて下さいよ!」


 呉羽君は、先輩方の手から逃れようと必死になっている。

 私はその光景を見て、思わず手をウズウズさせてしまう。


 いーなー、私も呉羽君の頭、撫で撫でしたいなぁ……。


「その事に関しては、私も気になりますね。一体どんな手段を使って、こんな出来たお嬢さんを手に入れたんですか? まさか、悪どい手を使って、騙したんじゃないですか?」

「なんだとっ!? 人聞き悪い事言うんじゃねーよ!」

「そうですよ、お父上! 呉羽君はそんな事してませんよ! それに、告白したのは私の方からです!」


 いくらお父上でも、呉羽君を悪く言うなんて、駄目です!


 ムムゥと私はお父上を睨んだ。


「何だって!? こんな美少女から告白されたのか!」

「くそぅ、呉羽っちめ! これだからイケメンは!」

「何処が良かったんだ!? やっぱり顔か!? 顔に惚れたのか!?」


 先輩方が騒いでいる。

 私は彼らの言葉を聞いて、ぶんぶんと首を振った。


「そんなっ、顔を好きになった訳じゃありませんよぅ! 私が好きになったのは、好きになったのは……」


 皆が私を注目している。先輩た方だけではなく、呉羽君やお父上も。

 私は急に恥ずかしくなり、カァッと顔が熱くなる。

 そして、熱い頬を押さえながら、俯き加減に言った。


「く、呉羽君が呉羽君だからです……。優しいとこも、真面目なとこも、照れやなとこも……もう、全部全部好きですぅ!」


 キャ〜ン! 恥ずかしいよぅ!


 両手で顔を覆い、ガバッと隣の呉羽君に取り縋ってしまう。


「グハァッ! 何なんだ、このムズムズ感はぁ!」

「お前もか! 俺もムズムズしてるぞ! 見ろ、呉羽っちのしまりの無い顔を! 今、世界で一番幸せですって顔してるぞ!」

「カァ〜ッ!! もう、ユーたち結婚しちゃいなよ!」

「ははは、これはこれは、見ていられませんね」


 そんな彼らの声を聞きながら、チラリと呉羽君を見上げると、彼等の言ったとおり、しまりの無い顔というものになっていた。でも、そんな彼でも、やっぱり好きだと思ってしまうのだった。


「あ〜あ、見てらんないから、俺らは帰るとすっか!」

「そうだな、二人の邪魔しちゃ悪いし」

「家帰って、俺はもう寝る!」


 あ、そっか! 夜の仕事だもんね。今頃は家で寝てるのか。

 ハッ、という事は、呉羽君も本当は眠いんじゃ……。


 そう思っていると、お父上が私の前に立った。


「今日はお会いできて、嬉しかったですよ?」

「あ、はい! 私こそ!」


 お父上が手を差し出してきたので、私もその手を握り返す。

 すると、身を屈めて来て、私にボソリと耳打ちする。


『呉羽の事、宜しく』


 ハッと顔を上げると、お父上はパチッと片目を瞑ってきた。


「あ、てめっ! ミカから離れろ! 近付きすぎだ!」


 すぐさま呉羽君が、私とお父上の間に割って入る。


「何ですか、別れの挨拶くらいいいじゃないですか。ミカさん、こんな嫉妬深い息子が嫌になったら、いつでも私がお相手いたしますよ」

「だから、ミカの事口説くなっての!」




 そうして、先輩方とお父上に別れを告げた私達。

 呉羽君は、非常に疲れた顔をしていた。何処か眠そうにも見える。


「……呉羽君、眠いですか?」

「え? いや、大丈夫だ。タダちょっと、あの人たちに疲れただけだ……」

「あはは、賑やかな人たちでしたね。お父上にも会えて、嬉しかったです」

「あのくそ親父、ミカと会わせたら絶対口説くと思ったら、案の定だった……ったく、見境ねーっつーの、あのヤロー……」

「あうっ、でも、お父上の事をそんな風に言うのは、どうかと思います……」


 私の中に、しっかりと残っている、あの「宜しく」という言葉。


 お父上は、しっかりと呉羽君の事を思っています。ちゃんと父親の顔をして、私にそう言ったんですから……。


「何だ、ミカは親父の味方かよ……」


 憮然として呟く呉羽君。怒らせてしまったのかと、慌てて何かを言おうとした時、呉羽君はフッと笑った。


「でもまぁ、ミカが言ったとおり、あいつが居なけりゃオレは生まれてこなかったんだもんな……そして、ミカにも出会えなかった。その点では、感謝すべきなのかもな……」

「呉羽君……」

「って事はだ……ミカ、大和さんにも感謝しなくちゃな。あの人が居なけりゃ、ミカはこの世に生まれてこなかった訳だし」

「ハッ、そういえばそーです!」


 ギャー! あの父に感謝? ううっ、なんか物凄く抵抗があります……。


 私が顔を強張らせているのを、呉羽君はクックッと笑って見ているのだった。




「ファ〜……、さっき、大丈夫だとは言ったけど、やっぱりちょっと眠いな……」


 公園のベンチに座り、欠伸をしながら呉羽君は呟いた。


「無理もないです。呉羽君、バイトが終わって、そのまま来たんですものね」


 あっ、そうです! こんな時こそ、日向君メモに書かれていた、定番デート公園編に書かれていたアレをやるべきです!


「呉羽君!」

「うお!? 何だよいきなり、大きな声出して?」


 私は黙って、自分の膝をポンポンと叩く。

 呉羽君も黙って私の膝を見た。「何だろう?」という顔。

 私は呉羽君に向かって言い放つ。


「膝枕、カモン!」

「はぁ!?」

「どうぞ、呉羽君。眠いのでしたら、私の膝をお貸しします。何たって、膝枕は、恋人達の定番です!」

「いや、でもなぁ……」


 呉羽君は顔を真っ赤にして、周りをキョロキョロと見回している。


「恋人達の膝枕は、人目もはばからずやるのが定番だと、日向君メモに書かれていました」

「……日向、あいつか……」


 呉羽君は、困っているのだか、喜んでいるのだか、何とも微妙な顔をしておりました。

 私は、彼に向かって手を伸ばすと、半ば強引に自分の膝に彼の頭を置いてしまった。


「おい、ちょっ!?」

「どうぞ、眠ってください。暗くなる前には起こしますよ」


 呉羽君は何か言いたげに、何度か口を開きかけたけれど、やがてフゥと息を吐き出すと、


「そんなには寝ないって、デートする時間無くなんだろ? そうだな、30分したら起こしてくれ」

「え? 短くないですか?」

「いいんだよ。折角のデートなんだし、そんなに寝たら勿体ねーだろ?」


 そうして呉羽君は目を閉じた。

 私はそっと呉羽君の頭に触れる。少し固めの髪の感触が、指に伝わる。

 少しだけ、彼は目を開いたが、何も言わずにまた目を瞑った。

 自分の膝の上で、無防備に眠る呉羽君。


 あうっ、何だろう? 物凄く胸がくすぐったいです。


 私は呉羽君の頭をゆるゆると撫でてゆく。

 何だか、更にキュウッと胸が苦しくなった。


 はうっ、如何しよう。今、物凄くチューしたい気分……。

 でもな、呉羽君寝てるしな。呉羽君の分かんない時にチューするのは、何か彼に悪い気もするし……。

 うーん、そうだ! 頬っぺたかおでこだったらいいかな?


 そう思って、私はそっと顔を近づけていった。

 そして、チュッと彼の額に口付ける。


 キャー、チューしちゃいました!

 でも、何か物足りません……。やっぱり口じゃないと……。


 そう思って顔を離すと、漆黒の瞳とばっちりと目が合った。


「うっ、え? あ! く、呉羽君!? お、起きてたんですか?」

「ああ、だって、何かキスされそうな雰囲気だったし……」


 呉羽君はニッと笑う。

 いつの間にか、彼は俺様になっていた。


「どうせだったら、口にして欲しかったんだけど」

「えうっ!? だ、だって、呉羽君寝てると思ったし、黙ってチューしちゃったら、悪いと思ったし……」

「今、オレ起きてっけど?」


 ニヤッと笑う呉羽君。


「そ、それって、チューしろって事ですか……?」

「別に? ミカがしたいなら……」


 あうっ、今日の俺様呉羽君は、意地悪モードです!


「じゃ、じゃあ、目を瞑ってください……」

「……嫌だ。ミカがキスする顔が見たい」


 呉羽君は私を真っ直ぐに見ている。

 意地悪だけど、その瞳は真剣で、私は逆らえなくなってしまう。

 私は、頭に置いていた手を、彼の頬に添えると、ゆっくりと顔を降ろしていった。

 目を瞑っていても、彼に見られているのを感じ、凄くドキドキする。

 唇に感じる柔らかな感触。一度だけ、軽く啄ばむと、私は直ぐに顔を起こした。しかし、彼の手が私の後頭部を掴み、それを許してはくれない。

 深く、苦しい位のそれに、頭がくらくらとしてくる。

 最後に下唇を甘噛みされると、呉羽君は漸く放してくれて、そして凄く満足げに笑うと、


「おやすみ」


 と言って、目を瞑って、今度こそ本当に眠ってしまう。


 はうっ、どうしましょう。ドキドキが止まりません……。

 というか呉羽君。今気付いたんですが、人がいっぱい見ています。

 キュ〜、恥ずかしいよぅ……。


 私は、呉羽君が起きるまで、そうして人々の視線に耐えなければならないのだった。



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