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夏休み特別編5

 エヘヘー、久しぶりの呉羽君とのデートだよぅ。

 今日のデートは、いつもの逆で、私が待ち合わせ場所で待っています。呉羽君は、バイトが終わったら、そのまま直接此方に向かうと言っていました。

 一体、呉羽君が私にプレゼントしてくれる物って何なのでしょうか?

 凄くドキドキします。でも、呉羽君がプレゼントしてくれる物だったら、もう何でも嬉しいです。

 呉羽君が傍にいてくれる事が、私にとっての一番の誕生日プレゼントでしょうか。

 あ、それと、これも忘れてはいけません!

 私が心の中で、血の涙を流しまくり、屈辱にまみれながら手に入れた、武士ギャラクシーのスペシャルDVD BOX(フィギュア付き!)

 勘違いをしてしまったお詫び&私の為に頑張ってくれた呉羽君へのご褒美です。

 喜んでくれるかな?


『すげーなミカ、オレの為に手に入れてくれたのか? ありがとな、大好きだぜ!』


 とか言って、チューとかされちゃったりして!

 キャーン、恥ずかしいです〜!

 でも、ギュって抱き締める位はしてくれないかな?


 それから因みに、今日はお洒落に結構力を入れている。

 確かに以前は、男の人とかに声をかけられまくって、怖かったりもしたのだけれど、久しぶりと言う事もあって、頑張ってしまった。


 でも、Myオアシスはちゃんとしていますよ! シールドも全開です!

 これなら、この前みたく声を掛けられまくる心配もありません!

 万全です! 完璧です!


 しかし、世の中そんなに甘くはなかった。


「かーのじょ、何してんの? 暇そうだね? もし良かったら、どっかで遊ばない?」


 ナンパの常套句を堂々と言い放つ、見た目もやっぱり軟派な感じの男に声を掛けられた。


 ハァァッ!? Myオアシスが効かない!? シールドも全開の筈なのに!


 私がショックで声も出ない事をいい事に、男は更に私に詰め寄ってくる。


「ねぇ、暇なんでしょ? こんな人通りの多いとこでぇ、そんなお洒落に力入れちゃって、声を掛けて下さいって言ってるようなもんでしょ?」


 お洒落に力入れてんのは、デートだからですよ!

 何か勘違いしてないですか!? この人!


「これから彼氏とデートなんです! あっち行ってください!」

「またまたぁ、実はそんな相手居ないんでしょ? 強がっちゃってかーわいい♪」


 ムキー! 何ですかこの人! 何を根拠にそんな自信満々で決め付けるんですか!?


「折角俺が声掛けてやってんだからさ、ちょっと付き合えよ」


 私はまじまじと男を見る。


 折角? 俺が? 声掛けてやってんのに?

 何ですか、この自意識過剰男は!?


 見た所、それほどイケメンと言うわけではない。良くもないし悪くもない。ぶっちゃけ、普通だ。

 なのに、この自信は一体何処から来るのだろう。

 たとえ、呉羽君に出会う前の私が声を掛けられたとしても、こんな自意識過剰な人には、絶対について行かないと思う。


「本当にこれからデートなんです! あなたなんかよりも、断然かっこよくて素敵な人なんですからね!」


 呉羽君は確かに、誰が見てもイケメンなのでそう言った。


 まぁ、イケメンじゃなくても、呉羽君はかっこよくて素敵ですけどね。


「なっ! じゃあ、そこまで言うのならその彼氏とやらに会わせてくれよ」

「はい!?」

「どうせ、あんたみたいな地味なのを彼女にする位なんだから、彼氏もきっと大した事無いんだろ?」

「っ!!」


 ムキー! 今もの凄くカチンときました!

 いつもは言われて嬉しい筈の「地味」と言う言葉も、今はとってもムカムカします!

 これは、呉羽君が大した事ないと言われたからです!

 分かりましたとも! 売られた喧嘩、買おうじゃありませんか!


 そうして、私はこのナンパ男と呉羽君を待ったのですが、待ち合わせ時間になっても中々彼は来ません。


「如何したんだよ? そのかっこいい彼氏は来ないのか?」


 ニヤニヤと笑うナンパ男。

 しかし私は、そんな男の言葉など耳に入らない。


 如何したんでしょうか、呉羽君。何かあったんでしょうか?

 もしかして何処かで事故に!?

 あうっ、そんなの嫌です! 呉羽君、早く来てください!


 とその時、何かを感じて私は顔を上げる。

 そして、人ごみの中に、私は彼の姿を見つける事が出来た。


 はうぅー、呉羽君です! よかった、無事です! 元気です!


「ワリー、遅くなった」

「あうっ、呉羽君。良かった、何かあったかと思いました」


 駆け寄ってきた呉羽君に、私は涙まじりで縋りつく。


「心配させちまったか? ごめんな、何かバイトの先輩達がついてこようとしてさ……撒くのに手間取っちまった」

「んーん、ちゃんとこうして無事に来てくれたから、いいんです」

「……で? そいつ誰だ?」


 呉羽君が私の背後に目を移す。

 そこには、あのナンパ男が、ポカンとして立っていた。


「誰でもありません。しつこくナンパしてきて、彼氏がいると言ったら見せろと言われました」


 呉羽君は顔を険しくさせると、私の前に立ちナンパ男に向き合う。


「……どうも、オレがこいつの彼氏ですけど? まだなんか用ですか……?」


 ナンパ男は呉羽君を見ると、顔を真っ赤にさせ、慌てて逃げていった。


 謝りもしないなんて、やっぱり中も外も大した男じゃありませんでしたね。


 そんな事を思っていると、呉羽君が私を振り返り、ブニッと鼻を摘んできた。


「ふぇ!? 何するんですか!?」

「おまえなぁ、外でデートする時は、もう少し地味でって言ったろ?」

「あうっ、で、でも、久しぶりだったんで、如何しても可愛くしたくて……それに、Myオアシスをしてるから大丈夫だと思ったんですよぅ。現にさっきのナンパ男も、私のこと地味だとか言いましたよ?」

「は!? 地味? 何処が? めちゃくちゃ可愛いじゃねーか!」


 私の姿をまじまじと見下ろし、呉羽君は言った。

 私は嬉しくて、ニマニマとしてしまう。

 呉羽君には、Myオアシスもシールドも効かない様で、そのまんまの私が見えているようであった。


 ウフフ、これも愛のなせるわざでしょうか?


 それから私達は、呉羽君の言う店に向かった。

 その間、呉羽君は私の肩を抱いて、周りから守るように歩いている。


 こ、これはっ、腕を組むより上級ですな!?

 はうっ、呉羽君が凄く近いです。呉羽君の匂いもします。なんだか、お酒の匂いとタバコの匂い?

 バイト先は、お酒を飲む所とか言ってましたから、匂いが移っちゃったんですね……。

 何だかいつもの呉羽君じゃないみたいです。大人の匂いというか……ドキドキします。



 ++++++++++



 オレは周りの男どもに、ミカとの仲を見せ付けるように歩いている。


 全く、さっきもあんなナンパ野郎に引っかかりやがって!


 ミカはMyオアシス……メガネをしているから大丈夫だとか言っているが、オレからしてみれば、そんな物一つで本当に周りから地味に見られるというのが信じられない。


 だって、現に今、半端じゃなく可愛いじゃないか!


 オレが腕に力を込めると、嬉しそうに頬を染め、擦り寄ってくる。


 グハッ、だからそんなにオレを煽るなって!

 あー、ったく……こんな所で、オレの理性をぶっ壊すつもりか。

 それにしても、あの人たち、本当に()けたよな?


 オレはバイト先の先輩が居ないか、周りをキョロキョロと見回す。


「ん? 如何したんですか? 呉羽君」


 急にキョロキョロし出したオレに、ミカが不思議がって尋ねてくる。


「いや、何でもない……」


 如何やらちゃんと撒けたみたいだ。


 ホッと胸を撫で下ろすオレ。

 そうして、目的の店についたオレとミカだったが、例のピンキーリングを買おうと店の店員に尋ねた所、店の奥からその指輪を持ってきて、「お客様、これが最後の一組となります」と言ってきた。


 うおー、あっぶねぇ! 危うく買えなくなる所だった!


 ミカはその指輪を見て、目を見開かせる。


「呉羽君のプレゼントって、指輪だったんですか?」

「ああ、ペアだから、オレとお揃いのな」


 すると、ポンと手を叩いて、本当に嬉しそうに笑った。


「うわぁ、お揃いですか? 恋人同士の定番ですね!」


 それを見て、オレは苦笑する。


 本当にこいつって、定番とかお決まりとかが好きなんだな……。

 まぁ、こんなに喜んでくれるのなら、これにして良かったかな。


 そう思った時だった。

 オレ達の中に割り込んでくる者が……。


「あー、あったあった。コレコレ! これ私が欲しい奴!」

「フーン、これ? 別にいいけどさー、何かこれ、この人達が先に買おうとしてたんじゃないの?」

「えー、やだやだー、だって、これずっと前から欲しかったんだもん!」


 何なんだこいつら!?


 そう思ってそのカップルを見たオレであったが、女の顔を見て、「あれ?」と思った。


 なんかこの女、見た事無かったか?

 んー、誰だったかな……思い出せない……。


「あれ? 確かこの人って……えーと……オカダ、さん?」

「って、ミカ? お前この女の事知ってるのか?」

「え? ああ、確か私の机にカミソリ仕込んだ人じゃないですか? それと、日向君を学校の不良を使って殴らせた……」

「ああ、あの……つーか、何でお前この女の顔知ってんだ? カミソリ仕込まれた時も、日向ん時も、その場に居なかっただろ?」


 オレがそう尋ねると、ミカは何故か汗を流し、目を泳がせた。

 オレの方は、一度告白された時に見た事があるだけだった筈だが、その時の事も、この女の顔も、あまり覚えていないというのに……。


「え〜と、それは……」


「ねぇ〜、私この指輪、すっごく欲しい! そこに居る女より、絶対私の方が似合うわよ! ってゆーか、あんな地味な子がしたんじゃ、指輪が可哀想?」

「んー、まぁ確かに、あの子より君の方が似合うかも」


 ミカがしどろもどろに何か言おうとした時、その岡田と言う女は、クスクスと笑いながらそんな事を言った。

 明らかに、ミカを意識して、言葉で攻撃をしている。


 ハッ、もしかして、こうして割り込んできたのも、ミカだと知ってのことか!?

 つーか、ミカよりこの女の方が似合うだと!?

 こいつ等……。


 オレは、目の前のカップルを睨みながら(特に女の方)言ってやった。


「あんたの様な性格ブスな女の手に渡った方が、指輪が可哀想なんじゃねーの?」

「なっ!?」


 女の顔がカァッと紅潮する。

 こいつが女だからって、容赦するつもりはない。

 机に仕込まれたカミソリによって、真っ赤に染まるミカの手を思い出す。


 何たって、こいつはミカの体に傷をつけたんだ。あん時は、殺してやりたいとまで思ったんだからな……。


「フン、何よ。あんた見た目はイケてるけど、女の趣味は最低よね!」

「何だと!?」

「なぁ、ちょっと言い過ぎじゃねぇ?」


 向こうの彼氏が、オレと自分の彼女とを交互に見ながら、おどおどとし始めた。

 オレは、更に何か言ってやろうかと口を開こうとした時、クイッとオレの袖が惹かれる。

 見るとミカが困った顔をしてオレを引き止めていた。


「ミカ?」

「呉羽君、もういいですよ?」

「は!? だって、この指輪は――」

「はい、私へのお誕生日プレゼントですよね? でも、もういいですよ。その指輪はあの人たちに譲りましょう?」

「しかしだな――」


 折角親父に頭を下げてまで働いたってのに……。こんな女の為に駄目になるのかよ!


 ギリッと拳を握り締めると、その拳をミカの両手が包み込んだ。

 そしてミカはニッコリと笑う。思わずドキリとしてしまう位、綺麗な笑顔。


「だって、大事なものは、もう既にプレゼントしてくれたじゃないですか」

「大事なもの?」

「はい、だって呉羽君、私の為に嫌いなお父さんに頭を下げてくれたんでしょう? それに夜遅くまでバイトしてくれて、今日だって、疲れてるのに、そのままバイトが終わって来てくれたでしょう? 私、その気持ちが凄く嬉しいです。それに、私言いましたよね? 私の一番欲しいもの……」


 オレは思い出す。ミカの言った欲しいもの。

 それはオレだと……オレに傍に居て欲しいと……。


「こうして、一緒にデートしてくれるだけで、私には一番のプレゼントです」

「ミカ……」


 ヤバイ……オレ今、胸がいっぱいで泣きそうだ……。


 オレは堪らず、ミカをその胸に抱き締める。


 オレは幸せもんだ、コンチクショー!


 腕に力を込めると、ミカもまたオレの背中に手を回す。

 そして、静かな声でこう言った。


「それに、理由は如何であれ、相手がどんな人であれ、呉羽君が悪意を持って女の子相手に悪口言う姿なんて見たくありませんもの。私の大好きな呉羽君は、優しくて素敵な人なんですから」


 うおー、ヤバイ! 本当に泣きそうだ!

 何でこいつは、こんなに……クソッ、何かオレ、すげーダセーじゃん!

 だって、結局オレが腹立てたのって、オレの努力が無駄になっちまうとか、そんな自分の事でじゃないのか?


「んもー! 噂には聞いてたけど、本当にバカップルじゃない! って言うか、噂以上だわ! それに、今のセリフなんて、物凄くクサイわよ! 鳥肌が立つわ! 地味な上にキモイわよ!」

「何だと!?」


 流石に今のは言いすぎだと、オレが声をあげようとした時、ミカがオレを落ち着かせるように、肩をポンポンと叩いた。そしてオレの手の中に何かを握らせる。

 ミカはオレから離れ、目の前に居る岡田という女に向かってゆく。

 ミカがオレの手に握らせた物、それを見て、オレは目を見開かせる。


 ……メガネだった。


 ミカは今、素顔で岡田の前に立っている。

 岡田はと言うと、ポカンとしてミカを見つめていた。その隣に居る彼氏は、呆けたようにミカに見入っている。

 ミカは困ったように笑いながら、指輪の前に立っている店員に向かい合う。店員もまた、ミカに見入っていた。


「あの、その指輪、いいですか?」

「え? あ、ああ。はい!」


 ミカに言われ、ハッとして、指輪を渡す店員。

 ミカは「ありがとう御座います」とニッコリと笑って店員に言うと、その店員は頬を赤らめ、恥ずかしそうに俯いた。

 そして、岡田の方に向き直ると、その指輪を彼女に渡す。


「はい、これ。あなたの言うとおり、私なんかより、ずっと似合うと思うんで……」


 岡田の隣で、ミカの事を呆けたように見ていた彼氏であったが、その言葉を聞くとハッとして、慌てて首を振った。


「そんなっ! あなたの方が何倍も似合うに決まっているじゃありませんか! この指輪に相応しいのはあなた……いえ! 寧ろ、この指輪の方があなたに見劣りしてしまうかもしれない!」

「なっ! ちょっ、何言ってんの!?」


 岡田が吃驚して、彼氏を見る。彼氏の方は、完全にミカにまいっている様だった。


「いえいえ、私なんか……。あなたはとっても優しいんですね」


 褒められて、照れに照れまくる岡田の彼氏。

 ミカは、岡田の手をギュッと握ると、


「こんな優しい彼氏でよかったですね、岡田さん」


 岡田の顔が、カァッと赤くなる。

 それは、照れている訳でも、ミカに見惚れての事でもない。

 恥ずかしさのあまり赤くなっているようだった。

 それはそうだろう。まさかミカが、こんなに美少女だとは思っていなかったのだろうし、そんな美少女に向かって自分の方が可愛いと言っていたのだ。自分がどれほど、身の程知らずか分かったのかもしれない。


「さぁ、これを彼女に買ってあげてください。ああ、店員さん。この指輪、この人たちが買いますから、よろしくお願いします」

「え!? あ、ああ、はい! 畏まりました!」


 ミカは彼氏の背を押し、さっさとお金を払わせてしまう。

 店員がそのお金を慌てて受け取るのを確認すると、ミカはまた岡田に向き直り、


「よかったですね。これでこの指輪は、あなたの物ですよ。それと……」


 ミカは何事か、岡田に向かって耳打ちした。

 すると、途端に岡田の顔が青ざめ、目をこぼれんばかりに見開くと、ミカを凝視し、


「えぇ!? ちょっと、あの時のあれってあなた――」

「あはは、それ以上言ったら、ニャンニャン拳ですよ?」


 ミカは実に朗らかに言ったのだが、岡田は恐怖に顔を引きつらせている。


 それにしても、何でいきなりニャンニャン拳なんだ?

 ニャンニャン拳って、確か、オヤジ達の沈黙のタイガー&ドラゴンに出てくる技の名前だよな?


 オレは訳が分からず、首を傾げるばかりなのであった。





「あの指輪と同じ値段くらいで、ペアのものって何か無いですか?」


 その後、岡田とその彼氏は、指輪を買って店を出て行ったわけだが、オレは店員に向かい、プレゼントする筈だった指輪の代わりになるような物を求めた。

 すると、奥の方から品のいい爺さんが出てきた。


「いやー、奥から見ておりましたが、中々面白いものを見させていただきました。お嬢さんの、彼に対する愛情の深さ。そして、目当ての物を他の方に譲る潔さ。感動さえ致しました。そこで、先ほどの商品の代わりといっては何ですが、此方をご用意させて頂きました」


 そう言ってその爺さんが差し出したものは、指輪であったのだが、オレが最初に買おうとしていた指輪よりも高そうなものだった。

 オレが買えるだろうかと危惧していると、目の前の爺さんは、


「先ほどの商品と同じ値段でいいですよ」


 と言ってきた。


「しかし、支配人。それは、来週売り出す予定の新作で……」

「一週間くらいなんですか、今は此方のお客様の方が大事です」


 うお!? この爺さん、支配人だったのか! なんか貫禄があると思ったら……。


「将来、このお客様が、この店で結婚指輪を買って下さるかもしれないじゃないですか! そういうお客様は、大切にしなくてはなりません!」

「んなっ!?」

「け、結婚指輪!?」


 オレとミカは思わず顔を見合わせてしまった。


 この爺さん、商売人だ……。すげぇ、先を見越してきやがった……。

 まぁ、別に嫌な気はしないが……寧ろ、嬉いっつーか……。


 ミカも同じ気持ちなのか、困ったように肩をすくめながらも、オレに向かって嬉しそうに微笑んでいる。

 爺さんは、そんなオレ達に向かい、


「と言うわけで、どうかお客様、結婚指輪をお求めの際は、どうぞ当店にてお求め下さいませ!」


 そう言って一礼してくるのだった。

 そうして、まだどの店にも出回っていないと言う、ペアリングを買ったオレ達は、支配人や店員一同に見送られながら店を後にする。

 ちょっと、いや、かなり恥ずかしい。結構周りから、何事かと見られている。

 ミカがギュッと手を握ってきた。


「呉羽君、いつかまた来ましょうね、この店……」


 その言葉の意味する事に気付き、オレはミカを見下ろす。

 嬉しくなって、オレは手を離すと、ミカの肩を引き寄せる。


「ああ、そうだな……。また来ような」


 オレ達はそう約束するのだった。



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