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番外編:4つの溜息

 今回は短編集な感じで。


 1.称号、スクラップマスター

 2.五年後の約束

 3.マリと杏也の初デート

 4.二人の絆


 それぞれのお話、誰が主人公なのか?

 3話目は分かりますよね? だって名前出てるし。

 1.称号、スクラップマスター



 ハァーと深く溜息をつくのは真澄であった。


(俺も大概諦めが悪いよなぁ……)


 心の中で呟く彼の手には、一冊のノートが。開けば、その中にはこの前の雑誌を切り抜いた物が貼りつけられていたりする。他にも、ネットに載っていた写真も印刷して、貼りつけてあった。

 つまりはスクラップブックだ。何と無しに始めてしまったら、止まらなくなってしまった。

 これも、彼女の事が諦められないせいであろうか、と思い溜息をついたのだ。

 このスクラップブック、中々にいい出来だと思い、そしてその女々しさと虚しさにより、また落ち込んでしまう真澄。


「やぁ、そこでまるでカーテンを締め切った部屋の如く、暗く溜息をつくのは、大魔王改め、振られ一号君じゃないか」


 そんな言葉に顔を上げると、そこには白い服に身を包み、中性的な顔立ちの男性、薔薇屋敷輝石が立っていた。

 うわっ、変なのに会っちゃったという顔をする真澄は、


「……なんかその喩え方は変と言うか、下手だと思う……。それに確かに俺、振られたのは事実だけど、何で一号なんだよ……」

「あっはっはっ! 君は、ドールに直接振られたそうじゃないか! 間接的に振られた僕と違ってね、だから一号君だ!」


 真澄はまじまじと輝石を見る。果たしてそれは、いい意味なのだろうか、判断がつかない中、ハッと真澄は輝石に尋ねる。


「そう言えば、何であんたがこの学校に居るんだよ!? 部外者は立入禁止じゃなかったのかよ!?」


 すると、輝石はサッと髪を払って得意げに言った。


「ははん、部外者だって? 何を隠そう僕の祖父は、この学園の理事だよ。それに僕がここにいる理由? それはこれだよ!」


 ババンと真澄の前に一冊のノートを取り出す。


「何それ……」

「これかい? これはドールの美しい姿を納めた、僕のスクラップ帳だよ。今、乙女とこの前の雑誌の写真で、どちらがより美しくスクラップできるか、競争などをしていた訳さ! そしてこの度、めでたく完成とあいなったから、乙女に見せに来たのだよ!」

「ああ、そう言えば薔薇屋敷さんもそんな事言ってたな……でも、何もわざわざ学校にまで見せにこなくても……。家に帰ってから、十分に見せればいいだろ?」

「ははっ! そんなの、待ちきれなかったからに決まってるじゃないか!」


 真澄は最早、何も言う気になれず、額を押さえ、ハァーとまた溜息をつく。


「ところで、一号君が持つそのノートはもしや、スクラップブックかい? ははは、何だ、君も僕らの競争に参加していたのか! どれどれ、果たしてどちらが上か、見比べてみようじゃないか!」

「………」


 一瞬断ろうとも思ったが、断ったら断ったで、何だか煩そうなので、素直に自分のノートを渡す。

 そして、パラパラと捲る輝石の目が、驚愕に見開かれた。


「こ、これはっ!! 何て美しいんだ! 常識に囚われず、それでいてドールの美しさが最大限に活かされている!」


 輝石は真澄を見ると、短く息を吐き出す。


「振られ一号君……いや、今はスクラップマスターと呼ぼう! これは僕の惨敗だよ……。それで一つお願いがあるのだけれど……」


 その言葉に、訝しげに輝石を見やる真澄。


「このノートを僕に譲ってくれないかい? 言い値で買い取ろう。何だったら、僕のスクラップ帳も付けようじゃないか!」

「……いや、別に売るほどの物じゃないと思うんだけど……。それに、負けを認めたあんたのそれを渡されても……」

「あら? お兄様!? そんな所で、日向真澄と何をしているんですの!?」


(うわー……兄妹が揃ったー……)


 そこに丁度、乙女も現れ、真澄は脱力感に襲われた。

 ハイテンションなこの二人が揃えば、精神的にかなり疲れそうである。


「ああ、乙女! 丁度いい所に! ちょっと見たまえよ、この素晴らしいスクラップの出来を!」

「まぁ!! なんと美しいのかしら! 自由な構図ながら、お姉さまの美しさが、最大限に活かされていますわ! もしかしてこれは、お兄様が? だとしたらこの勝負、わたくしの負けですわね……」

「ははは! ところが乙女! これは僕の作品じゃないんだよ!」

「まぁ!? じゃあ誰が?」

「それは、ここにいる、魔王改め、振られ一号君改め、スクラップマスターによる作品なのだよ!」

「んまぁ!! ではこれは、日向真澄が製作したものだと仰るの!?」


 乙女はまじまじと真澄を見ると、彼の両手をガシッと掴み、尊敬の眼差しを向ける。


「見直しませてよ、日向真澄! あなたにこんな才能があるとは驚きですわ!

 そこでちょっと相談があるのですけど、このスクラップブック、私に譲って頂けないかしら?

 ああ、ただにとは言いませんわ。言い値で買い取ります! 今だったら、このわたくしの製作したスクラップもつきましてよ! お得じゃないかしら?」


 乙女は、自らのノートを取り出し、今しがた輝石の言った事と同じような事を言った。


「なんだい乙女、それは今、僕が予約をした所だよ? 早い者勝ちじゃないのかい?」

「まぁ、そんなのずるいですわ、お兄様! わたくしだって、このノート欲しいですわよ!」


(うーわー……兄妹喧嘩が始まっちゃったー……)


 真澄のノートを挟んで、二人の兄妹が取り合う姿を見て、真澄は無表情にそんな事を思った。


「えーと、薔薇屋敷さんとそのお兄さん。二人とも喧嘩しないでさ、そのノート、もうただであげるから、二人で仲良く見なよ……」


 すると、今まで睨み合っていた輝石と乙女が、キラキラとした目で真澄を見た。


「何だって!? こんな素晴らしい物をただでくれるのかい!?」

「んまぁ! 何て懐の大きい発言かしら! わたくし今回、本当に見直してよ!」


 そして二人は、自分のスクラップ作品を真澄に渡す。


「此方だけ貰うのは何だか心苦しいから、僕のスクラップ帳を貰ってくれたまえ!」

「そうですわ! わたくしのノートも受け取って下さいな!」


 薔薇屋敷兄妹は、真澄に有無を言わさず、半ば強引にそれを押し付けた。


「そうだ! 何だったら、将来は僕らの屋敷で働かないかい? その名もスクラップ師だ! スクラップマスターの称号に相応しい職業だと思わないかい?」

「まぁ、それはいい考えですわ! 庶民の将来を考えるなんて、心が広いですわ、お兄様!」

「はっはっはっ、そうかい? そう思うかい?」

「………」


(何だか、俺の将来を勝手に決められてる……)


 きっとこの兄弟なら、強引にでもその職業に付けられそうだと思いながら、真澄はたった今渡された、二人のスクラップブックを捲る。

 その中身はこの兄妹に相応しく、感情の赴くまま、半ば強引に、そして大胆に、写真を張りまくっていた。真澄はそれを見て、心底疲れたように、深く長く溜息をついたのだった。



 〜称号、スクラップマスター・終〜



 **********



 2.五年後の約束



(全く、一体なんでこんな事になったんやら……)


 心の中で呟き、溜息をつく、ミカの学校の生徒会長、大空竜貴。


「ああ、イケメンが溜息ついてるよー」

「駄目やなぁ、若いのに溜息ばっかりついとると禿げるで?」

「幸せも逃げると言うでありんす」


 あれから、何度かミカの働くロリータショップに足を運んでいる竜貴。

 そこでも竜貴は、ミカに散々縛ってくれと頼んでは、ことごとく断られて続けていた。

 そして、その近くには、何故だか毎回このロリータ三人衆がおり、竜貴が振られる様を、興味津々で見ているのである。

 如何してだかこの三人衆は、そんな竜貴に懐いているようだった。



「一ノ瀬さん! 好きです、俺を縛って下さい!」

「嫌です」


 ピシャリと言われ落胆する竜貴に、ロリータ三人衆はポンポンと背中を叩いて励ます。


「まぁ、元気だしなよ」

「そうやで? 毎回諦めんあんたに、うちらは脱帽や」

「そうでありんす。もしかしたら、今度は同情で縛ってくれる事もあるかもしれないでありんす」


「ええい! フォローになってないわー! それに、お前達のような中学生に慰められても、ちっとも心は晴れん! 晴れる所かますます落ち込んでしまうだろうが!」


 竜貴は、彼女達の手を振り解き、猛然と吼えた。


「えー、慰めてる僕達に、そんな態度とるんだ、傷付くなー」

「恩知らずなやっちゃな」

「全くでありんす」


「別に慰めてくれとは言ってないだろうが!」


 すると、三人衆は何やらコソコソと話し合うと、竜貴に向き直り、


「何なら、僕達が縛ったげようか?」

「何や、アブノーマルやけど、うち等がんばったるで!」

「ちゃんと目隠しもするでありんす!」


 道行く人たちが、じろじろと見てくる。


「止めろ、お前たちがやったら、俺は犯罪者として捕まる! それに、これは好きな人にやって貰わなければ、意味はないんだ!」


 ロリータ三人衆は顔を見合わせた。


「なら、イケメンが僕らの事を、好きになってくれればいーんじゃないかな?」

「うち等はあんたの事、嫌いやないで?」

「寧ろ、好きな部類に入るでありんす」


 その言葉を聞いて、竜貴は「ハァァー」と盛大に溜息をついた。


「うわっ、何その溜息!?」

「うち等が折角好きや言うてあげてんのに!」

「傷付くでありんす!」


「その言葉、五年後にでも言うんだな。それで、その時俺が縛られてもいいと思えば、縛られてやってもいいぞ」


「うわー、何か物凄い上から目線」

「本当、失礼なやっちゃで、慰めてるうち等に対して」

「本当でありんす! もっと傷付いたでありんす!」


「なら諦めろ。もう俺の事は慰めなくて――」


「フフフ、でも五年後か……」

「そうやな、楽しみやな……」

「楽しみでありんす……」


 不敵に笑う三人衆。

 竜貴は顔を引きつらせた。


「絶対に縛ってくれって、言わせてみせるよ!」

「そうや! そん時まで、首洗って待っとき!」

「しっかり約束したでありんすよ!」


「………」


 暫し無言になった後、五年後という期間の間、彼女達が諦めてくれる事を祈りつつ、ハァーと深い溜息をつく竜貴なのであった。



 〜五年後の約束・終〜



 **********



 3.マリと杏也の初デート



「ハァ……」

「ん? マリ? どうかした?」


 溜息をつくマリに、杏也が顔を覗き込みながら聞いてくる。


「うん、その……あのね? 今日って、えと……デートだよね?」

「うん、そーだけど?」


 小首を傾げる杏也。

 その仕草は、憎たらしいほど、今の彼にぴったり合っている。

 そう、今彼は――。


「何で杏ちゃんの格好してるのー!?」

「んふふ♪ 深い事は、気にしない気にしない♪」


 楽しそうに、スキップでもしそうな勢いで、杏也はマリの手を引く。


「んもぅ、気にするわよー! 折角のデートなのに……。服だって新しいの着てきたのにっ!!」


 すると、杏也はピタリと立ち止まり、まじまじとマリの姿を、上から下にじっくりと観察する。


「う……」


 そうやって改めて見られると、緊張してしまい、マリはもじもじと指を弄くった。

 杏也はにっこりと笑うと、チョンとマリの胸元を突付く。


「うん、脱がせ易い服」

「うなっ!!」


 マリは顔を真っ赤にさせ、胸元を押さえた。


「わざわざ脱がせて欲しくて、そんな服着てきたの? マリってば、えっち♪」


 杏也はクスクスと笑いながら、杏ちゃんの表情と声で、そんな事を言っていた。

 マリはプクッと頬を膨らませると、


「違うもん! そんな理由でこの服着てきたんじゃないもん!」


 杏也は、そんなマリの膨れた頬を指で突っつきながら、


「ウフフ、怒んない怒んない。ちゃーんと分かってるから」


 宥めるように言うと、マリは不機嫌そうな顔はそのままに、膨れる頬を引っ込めた。

 そして杏也は、マリの耳元に顔を寄せると、低く甘い声で囁きかけてくる。


「俺にカワイーって言って欲しくて、着てきたんだろ?」

「っ!!」


 ガクンと膝から崩れ落ちそうになるのを、杏也はしっかりと支える。

 端から見れば、女の子同士でふざけてじゃれあっているように見えた。


「もぅ、マリったら、いきなり抱きついてきたら、歩けないぞ?」


 その言葉に、またもやムスッと頬を膨らませてしまうマリ。


(別に、私から抱きついた訳じゃないもん!)


「ねぇ、マリ? 試着室とかって、女の子同士だったら、一緒に入っても可笑しくないよねぇ?」


 マリはハッと顔を上げた。

 杏也が蕩ける様に微笑んでいる。

 ヒクリと頬を引きつらせるマリ。


「……え?」

「他にも、色々と楽しめそーだよねぇ? ほら、メルヘン所いっぱい♪」


 フンフンと鼻歌を歌いながら、自分の腕を引っ張る杏也。

 マリはぶんぶんと首を振る。


「そ、そんなのメルヘンじゃないぃー」


 そんなマリの言葉は黙殺され、杏也はそれはもう楽しそうに歩いてゆく。


「ねぇ、マリ……。杏、ミカちゃんに何て言われたか教えてあげようか?」

「へ!?」


 強引に腕を引っ張られるマリは、彼の言葉に気の抜けた返事をしてしまう。

 そして杏也は、マリを振り返ると、あの獲物を狙う瞳で見据えながら、ニッと笑ってこう言った。


「鬼畜オカマ変態、だってさ……」


 マリは彼をまじまじと見てしまう。全くもって、その通りだと思った。

 すると、杏也はクスクスと笑いながら尋ねてくる。


「今、何て思った? その通りだと思った?」

「え!?」


 思わず、何で分かったのと言うように、目を見張ってしまったマリ。

 しまったと思った時には遅く、杏也は笑みを深くさせると、瞳を鋭くして一言。


「お仕置きだな……」

「ひえぇ!?」


 マリはお仕置きという言葉に、過敏に反応してしまった。

 何故ならば、彼のお仕置きはもう既に経験済みである。

 目にじわりと涙が浮かんだ。


「もう、駄目だってマリ、そんなに俺を(あお)るなよ……」


(あ、煽ってない、煽ってないーー!!)


 ぶんぶんと首を振るも、杏也は物凄く嬉しそうに言った。


「杏って、泣き顔フェチだからー♪」


 マリは彼のその顔を見て、諦めたようにフッと肩の力を抜く。もう後は、彼の導くままに前に進んでゆくだけだ。

 これはもう、好きになってしまった此方の負けなのだ。

 だって、こんな彼でも嫌いになれない。寧ろ好きだと思ってしまう。


(ああ、これはかなり重症だわ……)


 そう心の中で呟き、マリは溜息をつくのだった。



 〜マリと杏也の初デート・終〜



 **********



 4.二人の絆



『あ〜〜……はあぁー……』


 スタンドマイクの前に立ち、まさじぃは溜息をついた。

 その溜息は、マイクを通して、全校生徒に聞こえてしまっている。

 正じぃのその顔は、どんよりと曇っており、頭の上のピーちゃんも、何処か物憂げだ。

 そして何より、今日の彼のプルプル感はいまいちだった。


「ああ、今日の正じぃはバイブダウンしている」

「ええ、それに物凄く悲しそうだわ」

「これはやっぱり、教頭がいないせいだな……」

「ああ、何でも風邪で休んでるらしいぞ」


 そうなのだ、今日の朝礼には、正じぃ翻訳機である教頭がいないのである。

 それでも、いつもの様に恒例である校長の挨拶とそのお言葉は、変更もなく予定通りに行われた。

 しかし、正じぃは何か話そうとする度に、何とも切なげに溜息をつくのである。


「ああ、誰か何とかしてあげて。あんな正じぃは見ていられないわ」

「しかし、正じぃの言葉が分かるのは、教頭しかいないし……」


 そして、そんな中で、正じぃは思い出していた。

 教頭との出会いを……。


 国語教師として赴任してきた彼は、最初とてもとっつきにくそうな人物に見えた。

 無口だし、いつもボーっとしていて、何を考えているのか分からない。

 しかし、そんなある日の事、正じぃは中庭のベンチで日向ぼっこをしていた。そして、そろそろ戻ろうと立ち上がろうとした時、何かがつっかえて、立ち上がる事が出来なくなっていた。

 正じぃは焦った。もうそろそろ、チャイムが鳴ってしまう。


「あ〜〜……けなぃ(動けない)」


 正じぃは、その時から既に正じぃであった。


「あ〜〜……けてー(誰か助けて)」


 周りの人間に助けを求めるが、誰も正じぃの言葉を理解できず、素通りしてしまう。

 そして、正じぃは諦め、「はあぁー」と溜息をついた時だった。

 不意に、その突っかかりが消え、正じぃは自由の身となったのである。

 振り返って見てみると、そこには先日赴任してきたばかりの国語教師の松平潤一郎が立っていた。


「えー……釘が服に引っかかっていました……。これは危ないので、後で取り外しましょう……」

「あ〜〜……まー(君は、まつじゅん)」

「いえ、校長。私はまつじゅんではなく、松平潤一郎です」

「っ!! あ〜〜……かるのぅ(君はワシの言っている事が分かるのかい?)」

「えー……はい、何となく……」


 教頭とは、その時からの付き合いである。




『あ〜〜……まーー!!』


 当時を思い出し、更に教頭が恋しくなった正じぃは、心の底から彼を呼んだ。


『えー……まつじゅんではなく、松平潤一郎ですよ、校長……』


 ザワリと、その場が一時騒然となった。

 そこに立っていたのは、熱で顔を真っ赤にし、額には冷却シートを貼り付け、口にマスクをつけた教頭の姿が。その手には、マイクを持っている。


『あ〜〜……まーー!!』


 正じぃのプルプルが復活した。


『……ですから……まつじゅんでは――ゲホッゴホッ』


 教頭は、その場に膝をつき咳き込み始める。


『まーー!!』


 正じぃが必死の形相で教頭に駆け寄る。

 だが、どんなに急いでも、そこは正じぃ、ゆっくりなのだ。


『……校長、朝礼は如何したんですか……ちゃんと生徒達に朝の挨拶はしたんですか……』


 すると、正じぃはピタリと足を止め、生徒たちと教頭とを交互に見、そしてその場で、


「ざますっ!!」


 と叫んだ。


『えー……お早う御座います……』


 教頭は、ゼーゼーと肩で息をしながら、苦しそうに正じぃの言葉を伝える。


「あ〜〜……みかねっ!!」

『えー……皆さん、風邪はひかないようにね……嫌味ですか、これ……』


 すると、正じぃはプルプルと教頭に近付く。


『えー……これで終わりですか?』

「あ〜〜……」


 コクリ。


『全部伝えましたか……?』

「あ〜〜……」


 コクリ。


 教頭はそれを確認すると、満足げに頷き、その場にバタッと倒れてしまった。

 正じぃは、やっとのこと教頭の元に辿りつくと、彼の傍らに膝をつき、あらん限りに叫んだのだった。


「あ〜〜……まーーー!!!」



 生徒達は、如何反応したらいいのか分からず、呆然とそれらの光景を眺めていた。

 そして、分かった事。


「教頭って、以外に熱い人だったんだな……」

「責任感とかも強いかもしれないわ」

「心配性でもあるのかしら……?」

「ハッ、だとしたら、教頭がいつも眠そうなのって、正じぃが心配で夜も眠れないとか……?」


 倒れ伏す教頭を眺めながら、生徒一同の彼に対するイメージは、格段にアップしたはいうまでもないのであった。



 〜二人の絆・終〜

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