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番外編:初デート【後編】

 睨まれてる……すっげーオレ、睨まれてる……。


 ミカに言われ周りを見てみると、男全員、オレを睨んでいた。あの、ミカに紙を渡したヤローも、やはり此方を睨んでいる。

 今、オレの手の中にある、握りつぶした紙の中には、ケー番とメルアドが書かれており、『一目惚れしました』と一言書き添えられていた。


 分かってたよな!? オレが彼氏だって、分かっててやったよな!?


 オレはチラリとミカを見てみる。恥ずかしそうに、顔を俯けていた。

 如何やら、ただバカップルぶりを見られていたと思っただけらしい。

 だがオレは、流石にこの何十人ものヤローの視線には耐えられず、「出よう……」と言って、ミカを促す。

 ミカは戸惑いながらも、オレに黙ってついて来てくれた。

 会場を直ぐ出た廊下は誰も居らず、一先ずホッとする。


「如何したんですか? 何処か具合でも悪かったですか?」


 ミカが心配そうに覗き込んでくる。

 その顔を見て、何だか胸がざわついた。

 手を伸ばし、綺麗に巻かれた髪を一房とって、指に絡ませた。

 ミカはピクンと反応し、頬を赤らめながら、「呉羽君?」と躊躇いがちに声をかけてくる。


「……やっぱり、今度デートする時は、普通の格好で頼む……」


 うわっ、何かすげー情けねー声出た……。


「二人きりだったら、幾らでもそーゆー格好はしてもいいんだけどさ……。何か、お前見た男は全員、お前に惚れるみたいで嫌だ……」


 だー、何言ってんだ、オレ。すっげーカッコわりー、つーかダセー……。


「……呉羽君……」


 ミカは呟き、オレに向かって、手を伸ばそうとする。

 しかし、会場の方が騒がしくなり、ショーが終わった事を告げていた。

 オレ等はハッとして、顔を扉に向ける。それからオレはグイッと引っ張られた。


「ミカ?」

「呉羽君、こっち!」


 オレはミカに引っ張られるままについていった。

 そして突き当たり。何も無い場所。通路からは見えなくなっている。


「ここだったら、誰も来ませんね」


 ミカはキョロキョロと辺りを見回し、オレに向き直る。


「呉羽君、ちょっとそこ、しゃがんで下さい」

「は? ミカ?」


 こいつの意図が分からず、オレは首を傾げる。

 それでも言われたとおり、その場にしゃがみこんだ。

 すると、ふわりと柔らかなものに包まれる。オレは、ミカに頭を抱き締められていたのだ。


「ウフフー、萌え萌え〜♪ 呉羽君、カワイーです♪」

「んなっ!」


 恥ずかしさのあまり、顔がボッと熱くなる。

 しかし、振り解きたいが、この柔らかさがあまりにも気持ちよくて、中々振り解く決心が付かない。これは男の性というものだろう。


「……なんか、子ども扱いされてるみたいで、嫌なんだけど……」


 漸くそう言うと、ミカはオレを見下ろし、キョトンとした顔でこう言った。


「子ども扱いじゃありませんよ。これは呉羽君扱いです」

「は!?」


 何だそれ、オレ扱いって……。どーゆー扱いだ?


 するとミカは、ニコッと笑って、


「私、呉羽君にしか、こういう事しませんよ。ギュってしたいって思うのも、いい子いい子したいって思うのも、呉羽君たった一人です。これは、呉羽君限定の行為なんですよ。だから、呉羽君扱いです♪」


 そしてまた、オレの頭を撫で始める。その言葉により、オレは今までのもやもやした気持ちが晴れてゆくのを感じた。

 オレだけの行為、オレだけのミカ……。


「なぁ、ミカ……」

「はい、何ですか♪」


 嬉しそうにオレの頭を撫で続けるミカに、声を掛ける。


「オレもお前の事、ミカ扱いしてもいいか?」

「……はい?」


 カクッと首を傾げるミカ。


 っておい、今お前が言った事を真似たんだぞ、オレは!


 苦笑しながら、オレはミカを見上げる。、


「だから、オレもミカにしかしない、ミカ限定の行為をするって言ってんの」

「私限定ですか?」

「そう、ちょっと足をオレの膝に置いてみてくれ」

「えぇ!? 足をですか!?」


 ミカは「うー」と考えながらミュールを脱ぎ、躊躇いがちにオレの膝の上に足を置いた。


「こ、これでいいんですか?」

「ああ……」


 困惑顔のミカに、オレはニッと笑いかけると、膝に置かれたミカの足を手に取り、その甲に口付けた。

 ミカは見事に固まった。

 オレはミカの足をまじまじと見る。


 それにしても、小せー足……あ、あちこち赤くなってんじゃねーか。

 慣れねー靴履いてるからだ。でも、それも皆、オレの為なんだよな。


 そう思って、感謝を込めて、その靴擦れを起こしかけている場所にも口付ける。


「ふ、ふうぇあぁ!」


 ふうぇあ? 何だそれ?


 相当パニックになってるらしい。ミカは訳の分からない奇声を発した。


「ミカ、そっちの足も出してくれよ」


 オレは赤くなってる場所全部にキスし、その足を床に下ろすと、もう片方にも手を伸ばした。


「にゃ〜〜! 駄目ですよぅ! そんなとこにチューしちゃバッチィです!」


 脱いだミュールを置き去りに、ぴょんと逃げ出すミカ。


「別にばっちくねーだろ? ほら、足出せって、でないと裸足のまんまだぞ?」


 オレは、ミカの置いていったミュールをプラプラとミカに振って見せた。


「はうっ、また物質ですか!?」


 その言葉に、オレはクッと笑う。


「……? 呉羽君、何が可笑しいんですか?」


 ミカが不思議そうな顔をする。


「いやさ、物質って、ミカと最初に昼飯食った時思い出してさ」

「あー、そうですよ! 呉羽君ってば私のお弁当、全部食べちゃったんじゃないですか!」


 プクッと頬を膨らませるミカに、オレは困ったように笑って言った。


「いや、悪かったって、お詫びにその後、チーズバーガー奢ってやっただろ?」

「あ、はい! 後、オレンジジュースと、フライドポテトもです! その節はゴチになりやした!」

「ブッ、何だそりゃ」


 声を上げてオレが笑うと、ミカも楽しそうに笑う。

 そして、その間にオレは、ミカと距離を縮めた。


「まさかあん時は、オレ達がこんな風になるなんて思ってなかったけどな。まぁ、望んではいたか?」


 ミカがぱちぱちと瞬きをしている。


「何だ?」

「いえ、望んでたって……じゃあ、呉羽君はいつから、私の事好きになってくれたんですか?」


 いつから? ああそうだな、たぶんあん時だ……。


 オレは更にミカに近付くと、ニッと笑って、その顔を覗き込む。


「それはな……ミカがオヤジ達を、読書感想文で書いたって聞いた時だ」

「えぇ!? そんなに前から!?」

「ああ、あん時から気になりだした」


 ミカが目を丸くして、「ヘぇー」と呟く。

 オレはちょっと……いや、かなり愉快に感じていた。


 だって、こいつ、全然気付いてない……。


 俺はその腕に、ミカを閉じ込めた。そして、その耳に囁いてやる。


「捕まえた……」


 すると、一拍間を置いてから、


「わーすーれーてーたー!! 話に気をとられ過ぎて、忘れてました! この策士め! 呉羽君は、諸葛孔明並の策士です!」

「ククッ、それ言い過ぎだって、それに何で、いきなり三国志なんだよ」


 クックッと笑いながら、ミカにミュールを返す。


「ほれ」

「あっ、だ、駄目ですよ!? 足にチューは絶対に駄目ですからね!」


 オレは、「フーン」と曖昧に答えておいた。


「なぁ、靴擦れ、痛くないか?」

「へ? あ、ああ! 大丈夫ですよ、こんなの! へっちゃらです!」

「……お前が大丈夫でも、オレが大丈夫じゃねーから」

「え? うきゃあ!?」


 ミカが驚きの声を上げた。

 なぜならば、オレがミカを抱き上げたからだ。しかも、横抱き。つまり、お姫様抱っこってやつだ。


「な、何で抱っこするですか!?」

「だって、いたそーだろ? 足……」

「ふぇ? だから、これ位大丈夫ですってば」

「オレが大丈夫じゃねーの。お前が少しでも、痛い思いとかしてんの嫌なんだよ。

 それに、今はお前の事、ミカ扱いしてるから。ミカだけにしかしない、ミカ限定の行為……」


 そう言いながら、オレは通路の方に歩き出す。


「ギャア! 駄目です! 人に見られちゃいます! 目立つし、またバカップルって思われちゃいますよぅ!」


 ギュウッとオレにしがみ付きながら、そう騒いでいるミカ。


 あ、いいな、これ……。


「バカップルでいいじゃねーか」

「はい?」

「だって、オレたち恋人同士だろ?」


 ニッと笑って、更に歩を進めるオレ。


 そうだよ。いーじゃないか、バカップルで。周りなんて気にする事ない、堂々としてりゃいいんだ。

 ヤローに睨まれたからってなんだよ。逆に見せつけりゃいーんだ。

 だって、オレはミカの恋人で、彼氏なんだから。


「あ、分かった! 俺様ですね? 呉羽君いま、俺様になっちゃってますね!?」


 俺様って、こいつは……。


 オレはミカを見つめる。


「あうっ? いつもの呉羽君です……」

「……前から思ってたんだけど、ミカって、その俺様のオレと、普段のオレとを別人と思ってないか?」

「え? そ、そんな事ないですよー」


 ミカは目を泳がせている。


「それを言うなら、ミカだって、オレの頭撫でてっ時、キャラ変ってるからな?」

「へ!? そ、そうですか?」

「そうだよ」

「うー、そうかも……」


 うーんと唸りながら考え込むミカは、今の状況に全く気付いていない。

 オレは、ミカを抱きかかえたまま、もう既に通路に出ていた。

 そして、すれ違う人達や、魚に目を向けていた人達まで、此方を見ている。

 かなり視線が痛い。

 ヤローたちも、相変わらずオレを睨んでいる。

 だが、全然気にならなかった。


 オレの気持ちは、お前らよりも断然上だし、ミカの気持ちだってオレと同じ筈だ。


 チラッと目を向けると、ミカは顔を上げ、周りを見ようとしている。

 なのでオレは、空かさず、


「ミカ、オレの事好きか?」


 そう尋ねた。

 「ヘ?」と吃驚してオレを見、そして顔を赤らめながら、ミカはにっこりと笑って頷く。


「はい、私は呉羽君の事が大好きです」


 それを聞いて、オレは嬉しくなる。

 好きかと聞いて、大好きと答えるこいつが、堪らなく愛しかった。

 オレは立ち止まると、ミカをじっと見つめる。

 不思議そうに見つめ返してくるミカに、


「オレもお前が大好きだ」


 そう言ってキスをした。

 周りからどよめきが上がる中、オレはとことん、ヤローどもにオレ等の仲を見せつけてやる。

 少しだけ唇を離すと、ミカから唇を押し付けてきた。

 いつの間にやら、オレの首に手を回している。


「スキ、スキ、大好きです。ずっとずっと、この気持ちは変りませんからね」


 何度も何度もオレにキスをしながら、ミカがそう言う。

 顔を真っ赤にさせ、目に涙を浮かべてオレを見つめているミカは、堪らなく可愛いというか、色っぽい。


「ああ、オレも変んねーよ……」


 首にしがみ付くミカに答えるように、オレもギュッと抱える手に力を込める。

 視線を周りに移せば、ヤローどもは諦めの篭った目で、此方を悔しげに見ていた。


 フッ、思い知ったか、オレ等の仲をっ!


 そしてふとミカを見る。

 果たしてこいつは、今の状況を分かっているのだろうか。

 いや、絶対に分かっていないだろう。



 ++++++++++



 はうっ、好きです! 大好きです!

 今日の呉羽君は、一段と萌え度が高いです!

 さっきから、胸がキューっとして止まりません!


 この気持ちを、言葉だけではどうにも伝えきれず、私は呉羽君に何度もチューをする。

 すると、呉羽君がいきなり、こんな事を言った。


「ミカ、目を瞑って、そうやってオレにしがみ付いてろ」

「ふぇ?」


 目を瞑る? 何で?


 私は訳が分からなかったけれど、その言葉に従い、呉羽君の首にギュッと掴まり目を瞑った。


「呉羽君、いつまで目を瞑っていれば――」


「うわー、ふたりはとってもラブラブねー」


 そんな可愛い声に、私はパチッと目を開けた。

 私の目の前には、多くの人の視線。

 そして、今しがたの可愛い声の主は、頭にボンボンをつけた小さな女の子。

 私はこの状況に、完全に固まってしまった。


「あーあ、目を開けちまったな……」


 呉羽君の声。


 ギャーー!! また忘れてたー!!

 ちょっと待って、ちょっと待って!? って事は、今までの全部見られてたの!?

 私が大好きって言った事も、私が呉羽君にチューしてるとこも!?

 キャイーン! 恥ずかしいよー!


「ねーねー、ふたりはけっこんするのー?」


 女の子が無邪気に聞いてくる。

 今みたいな状況でなければ、カワイーと頬を緩ませていた事だろう。

 しかし、今はただ、羞恥心を煽るだけ、私は両手で顔を覆った。


「そーだな……学校を卒業して、仕事について、一人前になったら、プロポーズするつもりだ」

「フーン、お姉ちゃんはお兄ちゃんとけっこんしたいの?」

「ふえぇ!?」


 いきなり話をふられ、私は戸惑ってしまう。

 でも正直、呉羽君の言葉は嬉しい。思わず顔がニヤケそうになった。


「そ、そんな、気が早すぎるよー……」

「じゃあ、お姉ちゃんはけっこんしたくないの?」

「えぇ!?」


 ちょっと視線を横にずらせば、そこには此方をじっと見つめる呉羽君の顔があり、私の言葉を待っているようだった。

 そして、頭の中に父と母の幸せそうな姿が浮かんだ。あの時感じた感情を思い出す。


「あ、あの……私も、呉羽君とその、結婚したいです……」

「じゃあ、ふたりはけっこんするんだね! おめでとー!」


 女の子は、小さい手でパチパチと手を叩いた。

 すると、何故か周りからも手を叩く音がしてきて、いつの間にやら盛大な拍手となっていた。


「うえぇ!? だから、まだ早すぎるってば……」

「まぁ、いーんじゃねーの? 素直に祝福されてよーぜ」


 そういう呉羽君は、物凄く嬉しそうだった。

 それを見てたら私も何だか嬉しくなって、呉羽君の首にしがみ付く。


「呉羽君、絶対に絶対に、約束ですよ」

「ミカこそ、絶対に約束だからな」


 呉羽君もギュッと抱き締めてくれた。


 エヘヘ、物凄く幸せです。もう、バカップルでも何でもいいや。

 だって、私達は恋人同士ですもん。しかも、将来を約束し合ったんですから……。



 〜初デート・終〜

 こうして、二人のバカップルぶりに、拍車が掛かったのでした。

 因みに、二人は将来結婚する時、この水族館で結婚式を挙げる事になります。(まぁ、そうなったらステキね、て事で……)

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