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第五十五話:土曜日は嵐の予感part2

 オレはテレビを見ながらも、その内容は頭に入っていない。

 いまオレの頭を占めているもの。それは土曜日の事だ。

 実は、今日学校でミカに、


『あの、今度デートして下さい』


 と、言われた。

 その時のミカを思い出し、思わずニヤケてしまう。

 ミカは顔を俯けながら、その顔を真っ赤に染めて言ってきたのだ。

 その姿は何とも可愛く、思わずまた、理性の壁が壊れそうになった。

 それからミカは、オレに紙を見せてくる。


『日向くんに、お決まりデートコースを教えてもらいました』


 オレはそれに書いてあるものを見る。

 確かに、お決まりというか、本当に定番だった。

 そして、最後の方に書かれている部分を見て、思わずグハッと胸を押さえる。


・如月君だったら、ちゃんとリードしてくれる筈だから。全部任せればいいと思うよ。


 な、何言ってんだ日向! 最初のデートで、そこまでいく訳ねーだろ!

 せいぜいキス止まりだ!


 顔を真っ赤にさせたオレを、ミカは不思議そうな顔で見上げてくる。


『……? どうしたんですか?』

『な、何でもねーよ!』


 ついつい怒鳴ってしまい、ミカをびっくりさせてしまった。その事はちょと反省。


 その後、ミカとデートの日とか、何処に行くか約束したのだ。

 その時のミカは、始終満面の笑みで嬉しそうだっだ。

 そして、


『この日はずっと、呉羽君と一緒にいられるんですね。エヘヘ、嬉しいな』


 ミカはそう言ったのだ。


 くそっ、大好きだ! こんちくしょーー!!


 そう大声で叫んで、ミカを抱き締めたくなった。


 本当に何なんだ、この可愛い生物は!

 あ、そういえば、こいつ、当日はどんな格好で来るんだ? 平凡好きだからな、こいつ。

やっぱ、普通の格好で来んのか?

 まぁ、どんなん着てても、可愛い事には変わりはないんだけどな……。


 そんな事を、ニヤつきながら考えていると、お袋が帰ってきたみたいだった。

 隣でテレビに見入っていた揚羽が、パッと立ち上がって、


「音羽、おかえりー!!」


 と、玄関に向かってゆく。


「ただいまー! お腹減ったぁー! 呉羽、ミカちゃんのお弁当は?」

「開口一番にそれかよ。テーブルに置いてあんだろ。ったく、人様に作ってもらった弁当を、夕飯のおかずにするって、母親として恥ずかしくねーのか!」

「えぇ!? それはそれ、これはこれよー。もう、ミカちゃんの味付け、病み付きになっちゃて。本当天才。うちにお嫁に来ないかしら、ミカちゃん」


 オレはギクリとする。

 お袋にはまだ、ミカと付き合っている事は言っていない。


「それなら、オレがミカを嫁さんにするー!!」


 揚羽が言った。


 まだ言ってやがるのか、こいつ……。


「あはは、揚羽ってば、すっかりミカちゃんお気に入りみたいね。あ、呉羽」

「何だよ」

「お小遣い欲しくなーい?」

「は?」


 オレはお袋を見る。

 土曜日のデート。確かに欲しい……。


「あのね、お仕事手伝って欲しいなー。器材運びなんだけど……」

「いつ?」

「んーと、今週の土曜日」

「ムリ」


 チッ、デートの日と被りやがった。


「えー? なになに? もしかして、デート?」

「………」

「え!? やだ本当に? 相手は誰? もしかして、ミカちゃん?」


 オレはそっぽを向く。

 頬が熱くなるのを感じていた。


「え、本当に!? ミカちゃんとデート!? でかした、呉羽!」


 そう叫ぶと、お袋はオレに抱きついてくる。


「うおっ、止めろよ。だー、キスして来んなっ! あっ、ちょっと離れろ! 携帯鳴ってんだよ!」


 漸く離れるお袋を前に、オレは携帯を開く。ミカからだった。

 頬が緩みそうになりながら、オレはお袋に背を向け、電話に出る。


「あ、もしもし……」

『えと、呉羽君?』

「ああ、どうした?」

『あの、その……実はね、デート、行けなくなっちゃいました……』

「はぁ!?」


 オレは思わず、大きな声を上げてしまう。


『あうっ、ごめんなさい……。でも、どうしても、その日だけはバイト外せなくなってしまって……』


 あ、ちょっと鼻声になってないか? こいつ……。


「あー、それは仕方ねーって、どうしても外せないんだろ? そんな気にすんな」

『ううっ、呉羽君、怒ってません?』

「は!? 何で怒んだよ」

『……やっぱり呉羽君は器ちっちゃく無いです……でっかいです!』

「はっ、何だそりゃ。そんじゃ、続きは明日、学校でな」

『はい、あの、呉羽君……その、大好きです……』

「ブッ!」


 不意打ちを食らって、オレは真っ赤になる。

 そして、「オレも大好きだ!」と叫びそうになって、ハッと後ろを振り返る。

 お袋と揚羽が、じっと此方を見ていた。

 お袋は何だかニヤニヤして、揚羽は頬を思い切り膨らましている。

 オレは再び背を向けると、


「あー、オレもだから、じゃあな」


 そう言って、携帯を切った。

 振り返ると、お袋はニヤニヤしたまま言う。


「ウフフー、何かすっかり男の顔してたわよ、呉羽。ヒューヒュー♪」

「うっせー!」

「でも、デート駄目になっちゃったのねー……」

「ああ、つー訳だから、土曜日は機材運びだっけ? 手伝うよ」

「そう、悪いわねー。お小遣い上乗せしてあげる」


 オレは「やった」と心の中でガッツポーズをすると、お袋に聞いた。


「で、今回は何の取材な訳?」

「うーんとね、何か、ロリータショップで、マネキンの代わりにディスプレイされてるモデルの子の取材」

「マネキンの代わり……?」


 何か聞いた事あるな、と首を傾げるオレだった。



 ++++++++++



 次の日、いつもの場所で待ち合わせ。

 呉羽君は私を見つけると、片手を上げ挨拶してくる。


「よ、おはよう、ミカ」


 ううっ、いつもの呉羽君です。

 昨日、気にするなとは言われたけれど、やっぱり楽しみにしていただけに、落胆は大きい訳で……。


「……おはよう御座います。呉羽君……」


 かなり元気の無い挨拶になってしまった。

 そんな私に、呉羽君は苦笑すると、


「何だ、まだ気にしてんのか」

「だって、凄く楽しみだったんです……。初めてのデートだったのにぃ〜」

「んなの、オレだって楽しみだったっつーの」


 プニッといつもの如く、鼻を摘まれてしまう私。


 はうっ、何かもう、慣れました。ってゆーか、何か落ち着く……。

 鼻を摘まれて落ち着く私……。

 ハッ、何か物凄く間抜けです!

 あはは、何だか気持ちが少し浮上しました。やっぱり、呉羽君は凄いですね。うん。


 そうして私達は、手を繋いで学校まで歩く。

 これはもう、日課となっている事。

 呉羽君の手は、相変わらず私の手をすっぽりと包んでしまう。

 そして、デートの話をした。


 今回が駄目なら、来週の土曜日にしようだそうです。

 おし、それなら今回入るバイト代で、服を買いに行きましょう!

 可愛いのを、お洒落服を!

 エヘヘ、呉羽君それ見たら、何て言ってくれますかね? 可愛いって言ってくれるかな? そしたら嬉しいな。



「あー、一ノ瀬さん、如月君、おはよー」


 教室に入ってゆくと、日向君が既に居り、私たちを見て挨拶をする。

 そして、私が席に着くと、前にいる日向君は顔を近づけてきて、


「ね、一ノ瀬さん。ドールの事についてなんだけど……」


 ギクッと私は顔を上げる。


「な、何ですか?」


 昨日、私は思ったのだ。

 彼にはちゃんと言わないと、ドールは私だという事を……。


「土曜日に、ドールが雑誌の取材受けるって本当?」


 ………チーン。

 ナ、ナゼソレヲ……?


「何でその事知ってるんですか? 私も昨日、聞いたばかりですよ?」


 すると日向君は、顔をパッと輝かせて、


「じゃあこれって、本当の事なんだね? やったぁ、久しぶりにドールに会える!」

「いえ、だから、何でその事を日向君が知ってるんですかって……?」


 私が追及しようとした時、呉羽君がコソコソしている私達に声を掛けてきた。


「おい、二人で何話してんだよ」


 見ると、物凄く不機嫌そうだった。


「あ、如月君。ごめんごめん、愛しい彼女だもんね。君達の仲を邪魔するつもりは御座いません」


 そして、日向君は私に、耳打ちしてくる。


『この話はまた後でね』


 そして、片目を瞑って見せてから、前に向き直ってしまった。

 私が隣の呉羽君を見ると、


「何話してたんだ?」


 眉を上げ、呉羽君がムスッと尋ねてくる。


「い、いえ、大した話ではないですよ……」


 呉羽君にドールの事を知られる訳にはいきません。

 だって、もしかしたら嫌われちゃうかもしれません……。そしたら、そしたら……。

 い、嫌です! 別れちゃったりするのは、絶対に嫌ですー!!


「な、何泣きそうな顔してんだよ。オレ、別に怒ってねーぞ? ほら、な?」

「ううっ、別れないで下さい……」

「はぁ!? 何で話がそこまで飛躍してんだ!?」



 ++++++++++



「ブプッ」


 俺、日向真澄は、背後の会話を聞きながら、思わず吹き出してしまう。


 ああ、もう本当に、すっかりバカップルだよね、二人とも……。

 一ノ瀬さん、多分バイトの事バレた時の事、考えちゃったんだろうな。

 フフッ、可愛い。

 でも、如月君もそんな事じゃ、怒ったり、嫌いになったりする訳無いと思うんだけどなー。


 俺はふと、自分の携帯を取り出す。

 俺がドールの事を知ってる訳。

 メールの履歴の中に、「杏」という名前が見て取れる。

 そうなのだ。俺は実は、あの店の店員である、杏という人とメルアドを交換していたりする。

 以前、ケーキバイキングの店が何処か聞かれた時があって、その時ついでに、という感じでアドレスを交換した。


『ドールの事、教えてあげてもいいけど、そっちも何か面白いこと教えてね? 杏のお眼鏡に敵わなきゃ、教えてあげないぞ?』


 そう言われ、何とかしてドールの事を聞き出そうとしたけれど、最初の頃はさっぱり情報を貰えなかった。

 でも、何だか一ノ瀬さんの事を書くと、ドールの事を教えてくれる事に気付いた。

 そして、最強伝説……キスマークの一件を教えた時なんかは、何と、ドールの家族構成を教えてくれた。

 姉と両親との四人家族で、しかも両親は芸能人らしいとあった。


 ああ、さすがドール……。


 そして昨日、


『飛び切りの情報があるけど、知りたい?』


 と、メールが届いた。

 俺は勿論だと、この前の生徒会長の話を教えた。

 そして得られた、土曜日の取材の話。

 これまた、流石はドール……と言いたい所だけど、これは更に、彼女の人気に火がついてしまうのではと危惧してしまう。


 ああ、彼女が更に遠い人に……。


 とその時、俺は後ろから視線を感じて振り返る。すると、何故か一ノ瀬さんが俺をじっと見ていた。

 そして俺と目が合うと、何だか気まずそうに顔を背ける。


 ……? 何だろうか? 何か言いたそうにしてたけど……。


「おはよう御座います、お姉さま!」


 薔薇屋敷さんが、教室に入ってくるなり、一ノ瀬さんに挨拶をする。


 いつ見ても、お嬢様炸裂って感じだよね、薔薇屋敷さんって。


「ミカお嬢様、お早う御座います」


 そして、その後ろには杜若さんがいる。


 この人も、いつ見ても美形だよね。そこはかとない、大人の色気というものがあるし……。


「呉羽様も、お姉さまとお付き合いしている方として、ちゃんと挨拶しなくてはなりませんわね。お早う御座いますですわ、呉羽様」

「お早う、乙女ちゃん、吏緒お兄ちゃん」

「何か、そこまで前置きされる位なら、挨拶されない方がいいぞ、薔薇屋敷……」


 如月君が、呆れたように呟く。

 そして薔薇屋敷さんは、俺の方にもチラリと視線を向けると、


「日向真澄も、ついでのついでに、挨拶して差し上げても宜しいですわよ。ごきげんよう……」


 物凄く高飛車に言われた。


 本当だ、何か前置きされる位なら、ない方がいいかも、挨拶……。

 でも時折だけど、薔薇屋敷さんが、哀れみの篭った目で俺を見てくるように思うのは、気のせいだろうか……。


 そしてその後、やはりというか、お約束というか、あの人もやってきた。


「ああっ、一ノ瀬さん、お早う! 君が好きだ! 俺をしばっ――ガフッ!」


 ドスッと会長の腹に、杜若さんの拳がめり込む。

 そして蹲る会長を、ヒョイと小脇に抱えてると、


「では、この杜若。この虫を外に捨ててきますね」


 にっこりと笑って、杜若さんはそう言って、男一人抱えているとは思えない位、軽い足取りで教室を出て行く。

 今では、この光景を気にとめる者はいない。

 既に、日常と化している為である。


 会長も本当に懲りないよね。

 まぁ、それも一ノ瀬さん伝説の一つな訳だけど。

 何だろう、俺。一ノ瀬さん伝説って本を一冊書けそう……。


 ふと顔を向けると、また、一ノ瀬さんが俺を見ている。

 俺が笑いかけてみると、少しだけ、傷付いたような顔をする。


 本当、一体何なんだろう……?



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