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第四十四話:ピーちゃん危機一髪

 今回から、【学園パニック編】です。

 はうっ、如何しよう。

 緊張するよぅ。どきどきするよぅ。

 呉羽君、まだかなぁ。


 ソワソワとしながら、昇降口の所で呉羽君を待つ私。

 昨夜は緊張して眠れなかった。こういう事は、初めてかもしれない。

 気も逸って、大分早い時間に学校に来てしまった。

 今頃、学校に来る生徒など、部活の朝れんの生徒くらいだ。


 しかし、私は呉羽君の事ばかり考えて、ある重要な事をすっぱりと忘れてしまっていた。

 このくらい早い時間に来る生徒であるが、他にも居たのである。

 と言うか、朝早く来なければ、ソレは出来ない。

 他の生徒が来る前に、ソレを行わなければならないのだから。

 そして、


 ゾクゥ!


 私は殺気を感じた。


 ハッ、これって、この殺気って――。


 バシャッ!


 後ろから衝撃があり、そして一拍置いて、じわじわと服の中に冷たさが染み込んでくる。

 目の前に、ぽたぽたと雫が落ちた。

 そこで、私は漸く理解する。

 私は今、水をかけられたのだ。

 バッと振り返ると、ダッと女生徒が駆けてゆくのが見えた。


 あの後姿……間違いない。斉藤師匠だ。


 そして、「ああ」と手をポンと打つ。

 私が昇降口に居る為、下駄箱に対する嫌がらせが出来ず、その腹いせも相まって、私自身に嫌がらせを……。


「あははははは!」


 御見それしやした! 斉藤師匠!

 お見事! お見事なエスカレーター! しかも、数段飛ばしての段階踏み!

 まずはゴミでも投げつけられるのかと思っておりました!

 成る程。それ程、それ程までに私がここに居る事に腹が据え兼ねたのですな?

 いやはや、これは此方のミスですなぁ……。


 などと思っていると、ちらほらと校門からは生徒が入ってくる様になった。

 ハッとして、自分の姿を見る。


 イカンイカン、これでは呉羽君に見つかったら、嫌がらせがバレてしまふ!


 私は、着替えようと校内に入ったのだった。




 更衣室にて、私は体操服に着替え、髪も解いてタオルを頭から被っている。


 フッ、こんな事もあろうかと、タオルを用意しておきました!

 他にも、靴や上履きなど、予備も充実しておりますぞ! 何も履かずにうろうろしていたら、直ぐにバレてしまいますからな!


 そうしている内に、廊下が賑やかになってきた。生徒達が増えてきたようだ。


 うーん、この姿で校内をうろうろしている訳にもいかないですねぇ。かといって教室なんてもっての他ですし……。呉羽君が見たら、一発で何かあったと見破られますし、でも、制服が乾くまで、ここに居るっていうのも……。体育のあるクラスなんかが使うと思うし……うーん。


 そして私は、廊下に人が少なくなった頃を見計らって、廊下に出た。数人の生徒に変な目で見られたが、それは仕方ないだろう。髪を濡らして、頭からタオルを被っているのだから。

 その時、丁度窓から風が入ってきた。


 おおぅ、グッドタイミングですな。幾らか乾かし易くなる筈であります。


 そう思って、私は窓辺に立ち、ガシガシと頭をタオルで拭くのだった。



 ++++++++++



「なぁ、真澄。最近付き合い悪くないか?」

「そうだぜ、真澄。ここん所、あのお騒がせグループと一緒に居るよな」

「お騒がせグループって……確かにお騒がせではあるけど、皆いい奴らばっかりだし、一緒に居るのは楽しいし……」

「なぁ、実際の所、今、どうなってんの? あの、一ノ瀬ミカ争奪戦は、大空会長と如月呉羽、どっちに軍配が上がってるんだ?」

「ああ、そうだった。しっかし、一ノ瀬ミカの何処がいいのかねぇ……」


 その言葉に、ムッとする俺、日向真澄。


「そうだよな。如何見たって、何のとりえも無い、平凡な女にしか見えねーもんな」


 俺はその言葉に、更に眉をピクピクッと動かしてしまう。


 お前らは知らないだろうけど、一ノ瀬さんは、結構美人なんだぞ!

 それに、運動神経もいいし、スタイルだって抜群だし、そこらにいる女子よりも、何倍もいい女なんだ! 何たって、あのドールと親戚なんだからな!


 俺は、そう叫び出したい衝動をグッと堪える。

 ライバルが増える事は、如月君も良しとしないだろう。


「争奪戦の軍配なら、如月君が一番、一ノ瀬さんに近いと思うけど……」


 俺も、如月君を応援していたりする。

 何だか、見ていて微笑ましいんだよな、あの二人……。


「ああ、やっぱり?」

「何か、弁当とかも、作ってるぽいしな」

「そう言えば、真澄。お前は如何なんだよ」

「ああ、そうだ。何つったけ? ドールだっけ? 彼女に出来たのか?」


 その言葉に、俺はガクッと項垂れる。


 そうだ、ドール……。ここの所、全然姿を見れない……。唯一見れるのは、パソコンの中だけ……。

 ああ、早くお店、再開しないかな。早く君に会いたいよ、ドール。

 それもこれも、皆あの輝石って奴のせいだよな!


「あー、何かまだ駄目っぽいな……」

「なぁ、真澄。そろそろ諦めて、新しい女でも見つければ?」

「そうだって。今日当たり如何よ、合コン。実は女の子達が、お前に会いたいって――」

「何言ってるんだよ! ドール以外の女の子なんて、考えられる訳ないだろ!」

「あ、真澄、危な――」


 ドンッ!


「ひゃあ!?」

「うわっ! って、ごめん――」


 俺は彼らを見ながら歩いていた為、前を見ていなかった。

 だから、前に居る彼女に気付かずぶつかってしまった。

 そして、彼女の顔を見て、俺は衝撃を受ける。


 だって、目の前に居る人物。すっぴんで、化粧はしていないけれど、髪も黒くて、緩やかにウェーブが掛かってて、いつもと印象が違うけれど、間違いない!

 ああ、化粧しているより、すっぴんの方がもっと可愛い。


 そう、彼女は俺が焦がれて止まないあの娘だった。


「日向君?」

「ドール!」


 俺が思わず叫ぶと、彼女はハッと顔に手を当て、周りをキョロキョロとした。そして、窓の外を見て、「ギャア!」と声を上げる。


「如何したの、ドール? 何か困った事でも……って言うか、ここに、何で俺の学校に君がいるの!? ハッ、もしかして、俺に会いに!?」

「違います! ああー……そうです! 彼女……一ノ瀬ミカに会いに来たんです! では、先を急ぐので――……」

「ああ! 待ってよ、ドール! 折角会えたのに……」


 するとドールは、窓の外と俺を、交互に居たかと思うと、窓の縁に足を掛けた。


「ドール!? 何してるの? ここって、二階だよ!?」


 まさか飛び降りる気じゃ……。


「ノープロブレムです! では、アディオス・アミーゴ!」


 そう言うと、身を翻す。

 思わず窓の外を見ると、彼女はちゃんと地面に着地していた。

 ホッと胸を撫で下ろす俺。


「うおー、すげー……」

「あれって、あれだよな。真澄が想いを寄せてる相手?」

「おい、真澄?」


 俺は彼らの言葉は聞こえない。それよりも、今、ドールに言われた言葉が、頭から離れない。


 アディオス・アミーゴ……。


「アミーゴって、“友達”って意味だよな。じゃあ、ドールは俺を友達だと思ってるって事……」

「いや、真澄。そう落ち込むなって――」


「やった! 彼女の中で、俺は友達にまで昇格した!」


『………』


 何か痛い奴を見る様な視線を感じたが、俺は気にならなかった。

 だって、彼女が俺を嫌ってるって、実は気付いてた。だけど、今、彼女の俺に向けた視線は、親しい者を見る視線だった。

 その事実に、俺の胸は喜びに震えるのだった。



 ++++++++++



 窓の外を眺めていた私は、その衝撃に思わず、「ひゃあ!」と声を上げた。


「うわっ! あ、ごめん――」


 見ると、日向真澄が目を見開き、私を凝視している。


「日向君?」


 私が声を掛けると、彼は叫んだ。


「ドール!」


 私はハッとして、顔に触れた。


 な、無い! 私のMyオアシス(メガネ)が無い!

 今、ぶつかった拍子に落とした!? ど、何処に行ったぁー!?


 周りを見回してみるが、何処にも見当たらない。


 ハッ、もしや窓の外!?


 そう思って、私は窓から下を覗き込む。

 そして――。


「ギャア!」


 私は思わず声を上げた。


 斯くしてMyオアシスはあった。あったが、とんでもない所に落ちていた……いや、突き刺さっていた。

 その傍らには小さな小鳥、ピーちゃんが居る。

 そして、それを乗せた正じぃが、プルプルと震えて、ゆっくりと移動している。


 Noーー!! Myオアシスが、正じぃの鳥の巣にーー!!


 ああ、ピーちゃんが怯えた目をして、Myオアシスを見ている。

 きっと、いきなり突き刺さってきて、吃驚したんだね。すれすれの位置だもんね。危機一髪だったね。


「如何したの? ドール、何か困った事でも……って言うか、ここに、何で俺の学校に居るの!? ハッ、もしかして、俺に会いに!?」


 相変わらずの早とちり&勘違い男である。


「違います!」


 でも、如何しよう……。あ、そうだ。私……一ノ瀬ミカに会いにきた事にしよう。

 日向真澄は、ドールと一ノ瀬ミカを、親戚と思っているようですし。


「彼女……一ノ瀬ミカに会いに来たんです! では、先を急ぐので――……」

「ああ! 待ってよ、ドール! 折角会えたのに……」


 そう言って、日向真澄は私の前に立ち塞がる。


 チッ、こうしている間も、Myオアシスは、ゆっくりですが着実に移動をしてる!

 そうです! ここは、窓から直接、移動しましょう!

 二階位の高さであれば、着地など容易いです。


 窓から高さを確認し、私はそう思った。

 そして、窓枠に足を掛ける。


「ドール!? 何してるの? ここって、二階だよ!?}


 焦ったような日向真澄の声に、私は振り返り、


「ノープロブレムです。では、アディオス・アミーゴ!」


 そう言って、私は身を翻した。


 スチャ!


 着地成功。そして、Myオアシスも奪還成功。


 私は、地面に着地する寸前に、正じぃの鳥の巣からMyオアシスを掴んだのだった。


「ピーー!!」


 ……ピー?


 その泣き声は、私の手元から聞こえる。

 私は手元を見る。

 ピーちゃんが私を見上げている。

 私はMyオアシスを掴んでいる。

 そのMyオアシスは、鳥の巣を掴んで――基、鳥の巣に絡まっている。

 引き抜こうと試みるも、何だか鳥の巣が壊れそうである。


 な、なんてこったい!


 と、その時……。


「あ〜〜……ピーーちゃん!!」


 正じぃが吼えた。

 其方を見ると、正じぃが此方を振り返り、私の手元を見ていた。


「いえ、これは――」


 ガサッ!


 近くの植木が音を立てた。

 見ると、ヌンと身体の大きな男子生徒が立っていた。

 生徒会書記の永井徹である。

 そして、彼は口を開く。


「皆の者、出あえぃ! 正じぃのピンチだぞーー!!」


 ええーー!!? ハッ、そうだった!

 永井徹、彼は正じぃファンクラブ、『震えるおじぃちゃんサポート委員会』の会長だった!


 すると、他の植木からも、ガサガサッと生徒達が姿を現した。


 何ですと!? こんなにも隠れていたんですかな!?


 いつの間にやら、私は数人の生徒に取り囲まれていた。


「ああっ、ドール! 逃げて!」


 頭上から声が聞こえ、見上げると、日向真澄が必死な顔で、私に呼びかけている所だった。


 いえ、でも、鳥の巣を返さねば……。いやしかし、それではMyオアシスが……。


「ピー!」

「ピーちゃん!」


 正じぃが、今までで一番の震えを見せた。

 プルプルではなく、ブルブルた。

 いつもは温厚なその顔も、今は何処か険しくなっている。


 ああー、正じぃのこんな真剣な顔、初めて見たよぅ。ってゆーか、敵視されている!

 ううっ、何だか悲しい……。


「皆の者! 正じぃの鳥の巣を、奪還せよ!」

『オォーー!!』


 ギャーー!!

 これはもう、逃げるしかないであります!

 一旦、静かな場所で、ゆっくりと鳥の巣からMyオアシスを取り外す作業をしなければ。

 そうすれば、ピーちゃんを正じぃの元に返せます。


 私は、脇目も振らずに、ダッと駆け出した。

 しかし、目の前には数人の生徒が立ち塞がっている。

 だが彼らは、普通の一般生徒。容易く彼らを掻い潜った。


「くそっ! 逃げるぞ、追え!」


 背後で、永井徹の声がする。


 ひーん、これじゃ、呉羽君に会えないよぅ!


 私は後ろを振り返った。


 ギャーー!!

 皆さん、総出で追ってくるぅ!!

 おおぅ! これはあれですな、あの忌まわしき過去を思い出しますな……。


 イケメン集団に追いかけられた過去を思い出し、思わず身震いする。


「ピーー!」


 私の手元で、ピーちゃんが鳴いた。


「ピーーちゃーん!」


 背後では、正じぃが叫んでいた。

 その、お互いの悲痛な叫びに、私は心が痛む。


 はぅっ、ごめんよ、ピーちゃん。ごめんよ、正じぃ。

 ちゃんと、Myオアシスを取り外せたら、再び会わせてあげるからね。お詫びもちゃんとするからね。


「待てーー!!」


 永井徹の声が聞こえる。

 彼は今や、先頭に立って、追いかけてきていた。

 以前、会った時は、見かけによらず大人しい人だな、と思っていたのに、今は、冬眠から無理矢理起こされた熊の如く、怒りを露わに私に迫りくる。


 ふえーん、こあいよー!


 昨日ソファーから落ちた時に感じた予感は、如何やら当たっていたようである。


 果たして、私は呉羽君に会えるのだろうか?

 そして、気持ちを伝えられるのだろうか?


 不安を胸に、私は逃げ回るのだった。



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