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第四話:友は時として……

 麗らかな陽気の中、私はお弁当を広げ、タコさんウィンナーを頬張る。


 やっぱり、定番タコさんウィンナーは最強ですなー。

 なになに、こちらの甘口玉子焼きも、負けてはおりませんぞ。


「にしてもあんた、美味そうに食うなー」


 そう言ったのは、金髪サイド赤の、ハデハデロックの如月呉羽であった。



 はい、私、つい先程、彼とは『オヤジ達の沈黙シリーズ』をこよなく愛する同志となり、その後、オヤジ談議に花を咲かせたのであります。

 そして、今居るこの場所は学校の屋上。

 立ち入り禁止なんじゃあ……と言った所、彼は何処からか鍵を取り出し、ガチャリと開けて見せた。


「前にパクッて合鍵作っといた」


 そう言って彼はニヤリと笑ったのだった。



「同志も食べますか?」


 私は、彼にお弁当をズイッと差し出す。


「だから同志って……。つーか、そんなちっこい弁当箱じゃ、俺が食ったらあんたの食う分無くなんじゃねーの?」


 苦笑して、如月呉羽は言った。

 私は、自分のお弁当箱を見て、


「それもそうですね」


 と、唐揚げにお箸を突き刺した。


「あ……」


 彼の呟きに、私は目をキラリと光らせた。


「フッフッフッ、同志。どうやらこの唐揚げを狙っていたようですね?」


 私はそう言って、箸に刺さった唐揚げを彼に差し出した。


「どうぞ、食べてもいーですよ」

「……いや、でもそれじゃ……」


 じっと私の箸を見つめる。


「どうしました? いりませんか? それじゃ……」


 そう言って、私が唐揚げを口に運ぼうとした時、その手をハシッと掴まれた。

 その目は唐揚げに釘付けだ。


「んもー、最初から欲しいなら欲しいと言うもんですよ。はい、あーん」


 私がそう言うと、彼は一度躊躇しながらも、唐揚げを口に入れた。


「おおー! 一口ですね。結構大きかったんですが。どうですか?」


 すると、彼は口をモゴモゴ動かしながら、じっくりと味わい、呑み込んで言った。


「んー、普通に美味い……」

「ふつー! それは何よりです!」


 私は嬉しさのあまり、手を叩く。

 そんな私を見て、如月呉羽は、何とも言えない顔をした。


「あ、その代わりに、同志のパンも一口貰っていいですか?」


 そう言って、彼の返事も聞かずに彼の手を掴んで、その手にあるパンをハムッと頬張る。


「あっ! こらっ!」


 と、彼は私からパンを遠ざけるも、もう既に一口は私の口の中。


「ふーん……結構いけますねー。初めて食べた奴ですが、惣菜パンですか……」


 そんな感想を口にする私を、彼は呆れたように眺めた。


「結構図々しいのな、あんた……。それに女なんだから、もうちょっと気にすれば?」

「はい? 何をですか?」

「いや、だから、間接キスだろ? これ……」


 目を逸らしながら言う彼に、私はポカンとしてしまう。


 ココニモ純情少年ガ……。


「……見かけによらず乙女ですね……」

「んなっ!? そーゆーあんたも、全然見た目とちげーよ! フツーもっと、恥らうか何かするだろうが!」

「はぅっ! そっか! それは迂闊ナリ!! ……いやん、ミカ恥ずかしいっ! と、一応恥らってみましたが、如何ですか? ふつーですか?」

「今更言っても、おせーって……」

「それもそうですね……。でも同志、同志と言うものは、同じ釜の飯を食べるものであります!」


 ビシッと敬礼をばすると、彼はクッと笑って「何だそりゃ」と呟くのだった。


「なぁあんた……名前何だっけ?」

「……同じクラスなのに、知らないんですか?」

「いや、ほら、あんたってアレだから……」

「アレ? アレとは……もしやっ! もしや普通と仰りたい!?」


 ググイッと顔を寄せる。

 彼が目を見開き、身を引くのが見える。


「それは、最高の褒め言葉ですね! 目指している甲斐があるってもんです!」

「は!? 目指す!?」

「はい、そうですよ。同志、如月呉羽君。あ、私、一ノ瀬ミカです。以後、宜しくお願いします」


 目の前の如月呉羽は、私をまじまじと見ると、何かに気付いたように、こちらに顔を寄せてくる。


「なぁ……一ノ瀬って、よく見たら結構美人じゃねぇ? ちょっとメガネ外してみてくれよ……」


 そう言って、彼は私のメガネに手を伸ばしてくる。


 ハッ、危ない!! トゥッ! シュタッ!


 私はメガネを押さえ、一気に数メートル後ずさる。


「止めて下さい! メガネは私の心のオアシスです! シールドです! 絶対領域です!

 いくら同志の頼みでも、それだけは聞く事は出来ませんっ!!」


 私のいきなりの剣幕に、彼は驚いて固まっている。

 そして、我に返った彼は「ふーん……」と言って、私のお弁当に手を掛けた。


「ああ! My お弁当がっ!!」


 悲痛な声を上げる私に、彼は意地悪く笑って見せた。


「見せてくんねーんなら、これ全部食っちまうぞ」

「はぅっ! 人質ならぬ、物質ですね!? くぅっ、卑怯ナリィ!

 ああっ、それは最後のタコさんウィンナー! おおっ、ミートボールまでもがぁっ!」


 しかし、そんな卑劣な罠にも乗らず、私はメガネを守り通した。


 あわれ、My お弁当は、綺麗に空となりました……。

 サラバ、タコさん、サラバ、ミートボール……。食べられたからには、しっかりと彼の栄養になってあげるんだよ……ホロリ。


 午後の授業はずっとお腹が鳴り続けていた事は、言うまでもありませんでした……。

 嗚呼、隣で同志が笑っている……。

 うしっ! 決めた! 明日からは同志のお弁当も作ってこよう!

 フッフッフッ、覚悟おしっ、同志! それはもうでっかいお弁当で、私のタコさんに手は出せない位、お腹イッパイにさせてあげてよっ!

 今から固く決心する私。そうと決まれば、明日は早く起きなくちゃ。お弁当は、いつも手作りなのです!




「なぁー、一ノ瀬、すっげー腹鳴ってたけど大丈夫か?」


 放課後、帰り支度をする私に、如月呉羽が言った。


「ううっ、同志のおかげで、まだお腹がクークー言ってます……」


 私がそう言うと、彼は苦笑して、すまなそうに言った。


「いや悪かったって、お詫びに何か奢ってやるよ。帰りにどっか寄ってこーぜ」


 ピクピクッ、イ、今何ト……奢リ? 奢リデスッテ!?


 私はギギッと彼に振り返り、


「同志、それは本当ですかぁ!?」


 と、ちょっと涙目になりながら言う。

 すると彼は、少したじろぎながら「おう」と言って頷いた。


 はぅっ、やっぱりいい人だー! はっ、でも私にはバイトがっ!!


 私はズーンと落ち込み、彼に言った。


「……同志、非常に嬉しいお誘いなので、天にも昇ってしまいそうな気持ちではあるのですが、実は私、バイトをしていて、このまま直行しなければいけないんです……」


 ああ、それはもう残念であります。

 奢り……奢りという事はタダ、タダという事はお金を使わなくてもいいという事。つまりは、オヤジ達にまた一歩近づく事……。


「何だ、そーなのか? じゃあしょーがねーか……」


 心なしか、彼も残念そうに見えるのは気のせいでしょうか? いや、ロンリーウルフの彼に限ってそんな……。


「では同志、また明日。フッフッフッ、明日のお昼は覚悟しておきたまえ!」


 私はそんな言葉を残し、教室を後にするのだった。



 ++++++++++



「お、おい、途中まで一緒に――……って、行っちまいやがった……」


 チッと舌打ちして、オレは辺りを見回す。

 教室には、まだ人が何人か残っており、此方に注目しているのが分った。


「見てんじゃねーよ!」


 と、椅子を足蹴にすれば、奴らは慌てて視線を逸らし、そそくさと教室を出て行く。


「……それにしても、一ノ瀬が言ってた覚悟って、何の事だ……?」


 首を傾げながら、オレは何処か、楽しみに感じる自分がいる事に気付き、戸惑った。



 一ノ瀬ミカは、変な女だ。

 最初は、ほんの気まぐれで親切にしてやった。

 その後、オレの後を付いて来るあいつに、やっぱり他の女と同じかと思って、睨み付けてやった。

 でもあいつは、そんなオレの睨みを物ともせず、オレに同志と言って、握手を求めてきた。


 まさか、一ノ瀬もあの本の愛読者だったとは……。

 しかも、かなり熱狂的……いや、もはや信仰していると言ってもいい位だ。


 話してみれば、他の女みたいに媚を売ってくるような事は無く、寧ろ男より話し易い。

 しかも、言動がかなり可笑しい。

 基本敬語なのだが、時折暴走するらしく、訳の分らない事を言う事があった。

 まぁ、呆れる事はあったが、嫌と言う訳ではなく、寧ろ楽しい。見ていて飽きない。

 何より、あんなに弁当を幸せそうに食べる奴は、初めて見た。

 他の女は間接キスというだけで、大騒ぎするのに、一ノ瀬は平気でそれをした。逆にオレの方が気にしてしまった位だ。


 それにしても、同じ釜の飯って……しかも何故敬礼……?


 思わず、思い出し笑いをしてしまい、周りを気にして咳払いをする。

 後、一ノ瀬ミカは、よく見たら美人だった。

 メガネから覗く目は、睫毛が長く可愛らしくて、直に見てみたくなった。


 でも、何であそこまで拒絶するんだ?


 オレがメガネを取ろうとした時の、あいつの挙動を思い出し、眉間を押さえる。


 オアシスって何だ? シールドって? 絶対領域って何だ?


 あんまり必死なもんだから、思わず意地悪したくなり、弁当を食ってやった。

 午後の授業で、腹を鳴らせる一ノ瀬に、流石に悪い事をしてしまったと思う。


 後でちゃんとお詫びをしなくちゃな……。

 それにしても、バイトなんてしてたんだな……。

 一体何のバイトなんだ?


 オレは少し気になった。



 次の日、一ノ瀬ミカは眠そうだった。

 昼になって、その理由が分った。


「……これは?」

「同志のお弁当です! フッフッフッ、昨日言ったでしょう? 覚悟しておきたまえと。

 どうですか? これでもう、私のタコさんウィンナーには、手を出させませんよっ!」


 ふふんと笑い、偉そうにする一ノ瀬を、オレはまじまじと見つめる。


「……デカイな……」

「はい! お腹いっぱいにさせて、私のお弁当に手をつけられないようにする作戦ですよ! どうだ、まいったか!」

「……豪華だな……」

「おうともさ! 普通の私のお弁当よりも、豪華かつ美味に作れば、もう私のお弁当に目をくれる事も無くなるでしょうとも!」

「……唐揚げいっぱいだな……」

「はっはっはっ、私には分りましたよ。同志は唐揚げが好物ですね!? しかも、あの惣菜パンは、結構濃い目のお味でした。なので、唐揚げも濃い目の味にしましたよ!

 さぁ、たんと召し上がれ!」


 そう言われ、重箱とも取れる、でかい弁当箱の中の唐揚げを口にする。


「……美味い……」


 何だこれ!? 今まで食った唐揚げの中で、一番美味い!


「そうでしょうとも、そうでしょうとも。これでもう、私のタコさんウィンナーは、私だけの物です!」


 何故そこまで、タコさんウィンナーに執着を……!?


 それだけの事に、ここまでする一ノ瀬に、オレはある種の感動を覚えた。

 俺たちは今、フェンスを背もたれに、2人並んで弁当を食っている。

 時折吹く風が気持ちいい。

 ふと横を見ると、一ノ瀬がうつらうつらとしている。


「おい、一ノ瀬――」


 ――コトン――

 肩に重みが掛かる。

 一ノ瀬が、俺の方に寄り掛かってきた。

 オレは起こそうとしたが、ふと、手元にある弁当を見て、溜息を吐いた。


「まぁ、いいか……」


 一ノ瀬に目をやると、そこで思わずドキリとした。

 メガネがずれている。

 そこで、思っていた以上に、一ノ瀬が美人である事に気付いた。

 オレは導かれるように、一ノ瀬の頬に手をやる。


「ん……うん……」


 くすぐったいのか、僅かに身じろぎをした。

 何か色気の様なものを感じてしまい、ムラッとする。

 あ、ヤバイ、と思った時には遅く、オレは吸い寄せられるように、その唇に自分の唇を――……。 


 パチッ!


 一ノ瀬が目を開けた。

 オレは思わず固まってしまう。

 すると一ノ瀬は、寝ぼけた様にオレを目を細めて見ると、ピシィと敬礼のポーズをとり、言った。


「隊長! その目くらましは、目にチカチカするであります!!」


 何だそれ? と思ったが、一ノ瀬の視線は、自分の耳にいっており、ああこれかとピアスに触った。

 それに、一ノ瀬はどうやら、オレがキスしようとした事には、気付いていないみたいだ。 

 オレはホッと胸を撫で下ろす。

 一ノ瀬はムクッと起き上がると、きょろきょろと辺りを見回した。


「今しがた、殺気の様なものを感じたんですが……」


 そう言って、オレに視線を止め、首を傾げる。


「そういえば、同志は今、何をしようとしてたんですか?」


 思わずギクリとした。


「なっ! 何をって、何がだっ!?」


 だらだらと汗が流れてくるのを感じる。

 しかし、バレタか!?と思った時、一ノ瀬はメガネを押さえると言った。


「はっ! さてはメガネを外そうとしていましたね!? まったく油断も隙もありませんね」


 その言葉を聞き、拍子抜けしたオレは、肩の力が抜けた。


「いくら同志であり、友の如月君と言えども、こればっかりは譲れませんからね!」


 オレはハーと溜息混じりに呟く。


「……同志であり、友ね……まぁくれぐれも、オレの前では隙を見せてくれるなよ?」

「はい! もちろんです」


 オレは頬杖を付いて、一ノ瀬を見る。


 そうだゼ、一ノ瀬? でないとその友は、時として狼に変るんだからな……。



 ロンリーウルフな彼、如月呉羽は、中身は結構普通かも? いや、でも……オヤジ達のファンだしな……。あ、後、彼は結構むっつりです。

 はてさて、この先彼は、主人公に翻弄され続けるのか?

 日向真純は、主人公を振り向かす事は出来るのか?

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