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第三十三話:乙女の友情

 家に連絡も入れ、これで気兼ねなくお泊りを楽しむ事が出来る。


「――ああ、分ったよ。よろしく言っとくから。んじゃ、切っからな」


 私から少し離れた場所で、電話をしているのは、同志だった。

 彼もまた、家に連絡をしているようだ。ロンリーウルフと呼ばれる彼であるけれど、その実、結構真面目だ。こうして、ちゃんと連絡を入れる所なんかは、それを伺わせる。


 そうだよね。もしも、この前みたくお母上に急な仕事が入っちゃったら、弟君、一人になっちゃうもんね。

 ムフフ、ちゃんとお兄ちゃんなんですなぁ、同志は……。


「お母上は何て?」


 私が訪ねると、同志は苦笑して答える。


「……だから、お母上って何なんだよ……。ま、いっか。お袋は今日はもう、仕事は無いみたいだし、家に居るっつってるから、大丈夫だろ。

 それより、お前に宜しくって言ってたぞ。弁当の残りも食えなくて、残念だとさ」

「あはは、そんなに楽しみにして頂いてるなんて、逆に申し訳ないですね」


 私はそう言いながら、ホッとしていた。

 同志がいつもの同志であったからだ。

 何だか、この乙女ちゃん家に来てから、彼はずっと変だった。

 それにさっき、私は彼に向かってバカとか言ってしまったし……。


「あの、同志……」

「何だ?」

「さっきは御免なさい……」


 私が謝ると、同志は目を見開き、此方をまじまじと見てきた。


「……それは、何に対して謝ってんだ?」

「え? 何って、さっき私、同志にバカとか、分らんちんとか言っちゃったじゃないですか」


 私がそう言うと、同志は、はっと短く息を吐き出し、苦笑いした。


「何だ、その事か……」


 ……? 何だその事か? それは、どういう事? 私、他に何かしましたでしょうか……?


「同志……?」


 私が、窺うように同志を見ると、彼は何処か自嘲気味に笑い、


「いや、こっちの事……」


 と、そう言った。


「でもまぁ、確かにあん時は、正直ムカついたなぁ……」


 腕を組んで、同志はそんな事を言う。


「な、何と!? では、では、お詫びに何かせねば!」

「は!?」

「何を……何をすれば……」


 ハッ、そうでありましたぁ!!


「そうです! くすぐります!」

「はぁ!?」

「あの時同志は、触るならオレにしとけって、言ったじゃないですか! くすぐられるのが趣味だったなんて、かなり変ってますが、まぁ、趣味なんて人それぞれです。

 わたくし、一ノ瀬ミカは、これより死力を尽くして、同志をくすぐらせて頂きます!」


 ビシッと敬礼をばしながら、私が言うと、同志が真っ赤になって後ずさる。


「うぇ!!? いや、ちょ、ちょっと待て、一ノ瀬――」

「何、大丈夫です。私のフィンガーテク。必ずや、同志を満足させる事でしょう。

 先程は、相手が強敵過ぎて、笑わす事は出来ませんでしたが、あそこで中断などしていなければ、きっと笑わせられた筈!

 さっ、同志! 両手をあげて下さい。まずは、わき腹からいきましょう!」


 私は、手をワキワキさせながら、同志にそう言うと、彼は更に後ずさり、顔を真っ赤にさせ、首をぶんぶんと振った。


「いや、いい! マジで侘びなんてしなくていいからっ!!」

「そんなっ、それでは私の気が治まりません! それに、今日はずっと、同志は元気がありませんでしたもの。ここは景気付けも兼ねて、さぁ両手をあげて下さい!」

「だからっ! マジでいいって!!」


 と、その時、『お姉さまー!』と乙女ちゃんの呼ぶ声がした。


「ほら、一ノ瀬、薔薇屋敷も呼んでるし、あいつんとこ戻ろう、な? この後、風呂回んだろ?」

「あ、そうでしたね!」


 同志に言われ、私は思い出す。

 この後は、乙女ちゃんが用意してくれた部屋着に着替えて、乙女ちゃんの言っていたお風呂を見て回ろうと言っていたのだった。


 ああ、私、そこまでお風呂好きと言う訳ではありませんが、それでも何だかワクワクします……。




「………」

「うわー、一ノ瀬さん、その格好……」

「はい? 何ですか?」


 それから、私達は着替える為に一旦別れ、お風呂を見て回る為、こうして再び集まった訳なのだが、どういう訳か、同志と日向真澄は私の格好を見て、目を見開かせている。

 因みに、同志はラフな感じのワイシャツに、ジーパン姿と到って普通な感じ。私としては文句無しである。思わずグッと親指を出してしまった。

 そして、何故か日向真澄は、アロハシャツを着ていた。でも凄く似合っている気がするのは、彼の能天気さがそれに合っているせいであろうか。


 そして、改めて私は、彼らが此方に注目している訳を探ろうとする。

 特に同志なんかは、言葉も無く、私をじっと凝視していた。非常に居心地が悪い。

 私も自分の姿を見下ろした。


 ハテ? この格好、そんなに変でしょうか? 別に変な所は無いように思いますが……。寧ろ、結構地味な部類に入るのでは……?


「一ノ瀬さんって、スタイル良かったんだ……」


 日向真澄の呟きが聞こえてくる。


 はっ!? スタイル?


「おほほ、お姉さまの魅力を最大限に生かした服ですわよ!」


 乙女ちゃんが言った。


 あ、因みに、吏緒お兄ちゃんはというと、夕食の準備の為に、この場にはいなかったりする。

 うー、残念であります。吏緒お兄ちゃんも一緒に、見て回れると思ったのに……。そんでもって、真のオヤジストとなって貰うべく、オヤジ達のよさをとくと吹き込んで……って、今はそれよりも、乙女ちゃんの言っていた、私の魅力を最大限に生かしたって、一体どーゆー事なの!? 乙女ちゃん!


 私は、自分の服と乙女ちゃんを交互に見る。

 すると乙女ちゃんは、私の隣に立って、服の説明を始めた。


「お姉さまの、この素敵な腰の括れを強調する為に、タイトなワンピースにいたしましたわ。それに、この魅惑のバストも、強調できるような造りになっていますの。そして、お姉さまの綺麗なおみ足が見えるように、スカートも短めにいたしました。色も大人っぽく、シックな色合いにいたしましたのよ。

 思った通り! 素敵な生足ですわ!」

「な、生足……」


 同志がそう呟き、ゴクリと私の足を凝視する。


 ど、同志!? 何か目が怖いです!


 私は急に恥ずかしくなってきて、膝を摺り寄せ、足を隠そうと手を伸ばす。


「あうっ、ど、同志、あんまり見ないで下さい……恥ずかしいですっ」

「っ!!」


 ハッと息を呑むのが聞こえたけれど、私は其方が見れずに、ただもじもじとしてしまう。


「あー、一ノ瀬さん。そういう行為は、逆にそそられるから、止めた方がいいよ」


 日向真澄が言った。


 何ですと!? そそられるとは、どういう事ですかな!?


 私は改めて、自分の姿を見てみる。

 着ている時は、別にどうも思わなかったが、こうして言われてみれば、確かに普通ではないような気がしてきた。


 でもでもー、色も黒っぽいしー、それにー、フリルとかもリボンとかも付いてないしー、全然地味だと思う――ハッ!! まさか私、ロリータ着過ぎて、感覚麻痺してた!?

 ガーン、そんなっ!! バイトが長らくお休みになったと浮かれていたのに、こんな落とし穴が待っていようとはっ!!

 ううっ、恥ずかしー!!


 チラッと同志を見ると、今だに私の足を凝視している。


 ハゥッ、やっぱり同志はむっつりスケベなの!?


「……同志のえっち……」


 ぼそっと呟くと、同志はゆっくりと瞬きをし、私の顔を見て、カァッと顔を赤らめた。そして、慌てて私から目線を外す。


「うわっ、ご、ごめん!!」


 ムムッ、今更純情少年に戻っても遅いですよぅ!


「いやーん、恥ずかしがってるお姉さまも萌えですわー!!」


 キューと抱きついてきて、頬擦りしてくる乙女ちゃん。


「ね、如月君。泊る事にして良かったでしょ?」


 そんな事を、今だ顔を赤くしたままの同志に言う、日向真澄。

 同志はボーとした面持ちで、コクリと頷いていた。

 それからふと、日向真澄が私に近寄ってきて、こそっと耳打ちをする。


「ねぇ、一ノ瀬さんって、こうして見ると、何かドールに似てるよね。もしかして親戚か何かなの?」


 私はゆっくりと奴を見る。奴は何だか、期待に満ちた目で私を見ていた。


「親戚だったら、ドールの事教えて! このとーり! 本名とか、下の名前だけでもいいからっ!」


 何をいきなり抜かすか、この小童が!! ドール(私)との約束を忘れたか!!


「……日向君、ドールと約束しませんでしたか?」

「え?」

「詮索するなと……」

「あ」

「本名は勿論、周りの事とかも、と……」

「うっ、でも、俺って、フリとはいえ、一応彼氏になったんだし、それにちょっと位なら……ドールには内緒にしてさ……」

「無理ですね、私はドールと協定を結んでいるので、筒抜けになりますよ」


 私がそういうと、奴は一瞬、シュンと落ち込んで見せたが、直ぐに顔を上げ、私に詰め寄ってくる。


「って事は、君はやっぱり、親戚か何か!? 凄く近い位置にいる事は確かだよね! 当然、電話番号とかも知ってる? だとしたら教えて! このとーり!」


 そう言って、私を拝んでくる日向真澄。


 こ、こいつはっ!!


 ムキーと、今直ぐ奇声を発したくなる衝動を必死に抑え、私は顔がヒクッと引きつるのを感じた。


「何やってんだよ、お前ら?」


 同志が声を掛けてくる。彼は奴を睨みつけていた。


「んまー! 日向真澄ったら、やっぱりお姉さまに言い寄るつもりですわね!」


 乙女ちゃんも、そんな事を言って、私の腕に抱きつき、奴から遠ざけてくれる。


「えぇ!? 違うよ、薔薇屋敷さん! ちょっと一ノ瀬さんに聞きたい事があっただけだって! ああっ、如月君も、そんなに睨まないでっ!」



 まぁ、そんなこんなで、日向真澄は同志と乙女ちゃんから睨まれつつ、薔薇屋敷家自慢のお風呂を見て回った。


 何とゆーか……凄かったの一言だった……。本当にテーマパークだわ、これは……。


 途中、休憩所みたいな所もあって、そこにはエステティシャンも居た。

 乙女ちゃんに、「試してみます?」と言われたけれど、全裸にならなくてはいけないと言われ、断念した。

 全裸と聞いて、同志がまた純情少年になってたりもしていた。

 そして最後に、乙女ちゃんの言っていた、銭湯を見たのだが、それがかなり本格的なものだった。

 昔ながらの銭湯と言う感じ。ちゃんと男湯女湯の、のれんが下がっていて、乙女ちゃんの言う通り、番台さんも居た。お婆ちゃんだった。


「一人140円だよー。石鹸、タオル、シャンプー、リンスはそれぞれ別売りだよー。全部20円だよー」


 お婆ちゃんは言った。


「金とんのかよ!」


 同志がつっこんだ。


「あら、本物を追及したら、これ位は当然ではなくて? それに、そのお金はそのまま、この番台さんのチップとなりますわ!」


 乙女ちゃんがそう言うと、お婆ちゃんがニヤッと笑った。




 それから私達は、相談して、どれに入るか話し合った。

 しかし、結局決まらず、あみだで決めようという事になった。


「あっみだくじ〜、あっみだくじ〜♪」

「何だ? その歌……?」

「ああ、父があみだをする時は、この歌を歌うのが決まりだと……。何でも、あみだの神を降臨させる儀式だと言っていました」


 私がそう言うと、日向真澄がビックリした顔をして言った。


「え!? 何それ? 俺そんな事聞いた事無いって言うか、一ノ瀬さんのお父さんって一体……」

「あら、でも何か、何処かで聞いた事あるような曲ですわね……」


 そして同志が、ボソリと微妙な顔をして呟く。


「……多分それ、大和さんの嘘だと思う……」

「な、何と!? そんな、晃さんもよく歌っていたのに!」

「え!? 晃さんが!?」

「てゆーか、大和さんとか、晃さんとか……一体誰?」



 そんなこんなで、私達は入るお風呂を決めた。

 私はひのき風呂に、同志は露天風呂。日向真澄は岩盤浴に決まった。


 ああ、でもなんか、こんな風にワイワイと話し合うのって、何か楽しいかも!


 そんな事を思っていると、乙女ちゃんも頬を紅潮させながら言った。


「わたくし、こんなに楽しくて、ワクワクするのは初めてですわ!」


 乙女ちゃんは、本当に楽しそうだった。


「乙女ちゃんだけじゃないよ。私もこんなに楽しい気持ちになったのは、初めてかも。今日は誘ってくれて、ありがとね、乙女ちゃん」


 私がそう言うと、乙女ちゃんは目をウルウルとさせ、


「そんな、ありがとうだなんて! 此方こそ、ありがとうと言いたいですわ、お姉さま!」


 ヒシッと抱きついてくる乙女ちゃん。

 なので、私も何だかジーンと来て、ヒシッと乙女ちゃんを抱き返した。


「乙女ちゃん!」

「お姉さま!」


「うーわー、2人だけの世界って感じだね。あれ? 如月君、怒ってないね?」

「何がだ?」

「だって2人、抱き合ってるよ」

「……もう慣れた……」

「そっか、今日は薔薇屋敷さん、ずっと一ノ瀬さんに抱きついてたもんね……」


 そんな彼らの会話を遠くに聞きながら、私と乙女ちゃんは、2人ですりすりと頬擦りし合った。


 あ、そう言えば、こんなに仲良くなった女の子のお友達ってのは、何か初めてかも! これはもう、大親友と呼ぶべきなのでは!?


「乙女ちゃんは、私の大親友だよ!」

「いやーん、大親友だなんてー。永遠の恋人の方がよろしいですわ!」

「……いや、それはちょっと……」


 何だか、今の一言で、一気に気持ちが冷めてしまう私であった。



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