第三話:それは、同志と言う名の……
新しいキャラが出てきます。
やっほー! いぃやったーーー!!!
え? 何をそんなに喜んでるかって?
そりゃあ奥様、言わずもがな、あの日ですよ、あ・の・日!
待ちに待ったあの日が遣って来たのです!!
そう! それはイッツ・せ・き・が・え♪
漸く隣のあいつとおさらばできる! ヤッタネ♪
私はウキウキと、席替えの為のくじを、エイヤッと引いたのでした。
…………チーン。
神ハ我ヲ見放シタモウタ……。
私の引いたくじの番号は、それはもう、席替えとしてはベストポジション!
そう、それは窓際の一番後ろ。
しかししかし、普通の好きな私といたしましては、良くも悪くもない横から二列目の前から三番目くらいが丁度いい……。
だがしかしっ、私が一番嘆いているのはそんな事じゃなぁい!!
何故またあやつがここにいる……。
日向真澄が私の前の席にいるであります!!
え? 席を替えてもらえばいいって?
ふっ……それが出来ればこんなに嘆いちゃいないのですよ……。
私はそっと隣に目を移す。
そこに座るのは……はぅあっ!!
隊長! 目がチカチカするのであります!
ウム、それは敵の目くらましである! なるべく回避するようにっ!!
イィエッサーー!!
すっごい派手なその容姿、耳にはジャラジャラと、ピアスやら安全ピンやらがこれでもかっと言う位付いている。その髪もまた派手派手で、金髪にサイドに赤という信じられない派手さ。
アクセサリーも半端ない。十字架やら髑髏やら、それはもうロックな感じで、指なんかにもごついのを付けている。
おまけにやっぱりこいつもイケメンなのさ!
その名も、如月呉羽。
名前もなんかも普通じゃないのです。私泣きそうです。
こんな彼は、一匹狼を決め込んでいるのか、近づくなオーラが迸っているのであります。
そんなだから誰も彼に近づきたがらない。誰も席を替わろうという奴が、いやがらねーんですよ。
ううん、めげちゃ駄目、めげちゃ駄目だよ、ミカ! これだけの事があった後にはきっと、何かいい事があるはずだよ! それまでガンバ!
しかし、その願いも空しく、悪い事は続くもの……。
ぬぅわぁんで、あいつがまたここに来るっ!!?
今日もまた、姉の店でマネキンの真似事などを行っている最中、日向真澄がショーウィンドウの前に立っていた。
私と目が合うと、日向真澄は嬉しそうに笑い、自分のカバンからスケッチブックを取り出すと、そこにペンで何やら書いている。そして書き終わると、それを私に見せた。
そこには――。
『君の事が好きだ! 絶対に諦めない!』
彼は、私がそれを読んだ事を確認すると、スケッチブックをしまい、その場を去っていった。
なぁーにぃー!? どーゆー事ー!?
諦めないって、諦めないって――……。あれで諦めねーのかよっ!(つっこみ)
隊長! 敵が奇襲攻撃を仕掛けてきました!
何だとっ!? では、相手の動向が分からぬ以上、待機だ!
イエッサー!
私はショーウィンドウの中で、暫くは本物のマネキンのように動かなくなっていた。
その日、店の前で日向真澄が待っていることはなく、一先ずホッと胸を撫で下ろしたが、私はいい知れぬ予感めいた物に、不安を隠しきれないでいた。
数日後、私は授業中にもかかわらず、ボーとしていた。
あの日から、予想通り毎日のように日向真澄は現れた。何をする訳でもなく、ただ私をじっと見ているのである。
そして、小一時間ほどで去ってゆくのだが、去り際にいつも、紙に何かを書いて私にみせるのであった。
それは、『お姫様みたいに可愛い』とか『君はまるで花の妖精のようだ』とか、感想めいたものだが、最後には『好きです、結婚してください』と書いて帰ってゆくのである。
ちょっとまてぃっ!! 最初のお姫様とか妖精だとかは、かなり嫌だけど、まだ許そう!
しかぁしっ、結婚?
結婚とは何でありますかぁ!?
いきなりプロポーズかよっ!!(またまたつっこみ)
ミカは500ポイントの精神的ダメージを受けた。
と、言う訳で、私はこうして、ボーとしていた訳なのである。
目の前には、当の本人である日向真澄が座ってる。
それと、噂では付き合っていた彼女を片っ端から振っているとの事。
っていうか、どんだけ彼女いやがんだ、こいつ?
ヤッパリサイテーナ人間デスネ。
おかげで彼には生傷が耐えない。今日も頬に絆創膏などを貼っている。
しかし、彼は日に日にすっきりした顔になっている気がする。
「――ノセッ、――ノ瀬! 一ノ瀬ミカ!」
「ぅはいっ!?」
いきなり名前を呼ばれ、私は勢いよく立ち上がった。
クスクスと笑い声が聞こえる。
みると、黒板の前に立つ先生が此方を睨んでおり、周りの人間は皆、此方に注目している。
はぅっ!! 目立ってるっ、目立ってるよっ!
ハッとして前の席を見ると、あ奴もまた笑っていやがりました……。
ソノ顔二、回シ蹴リヲオ見舞イシテモ、ヨロシーデスカ?
憎いっ……こやつが憎くてたまりませぬっ!
「一ノ瀬、今読んだ所の続きを読みなさい」
先生が私に言った。
私は慌てて教科書を手に取るが、まったく授業を聞いていなかったので、何処から読めばいいのか分からない。
『56ページ、3行目――……』
その時、ボソリと聞こえてきた声にハッとなり、私は慌てて56ページを開くと3行目から読み始めた。その内容は、苦手だと感じていた人間が、実はとても良く気の合う人間で、親友になってゆく話だ。
今思い起こせば、それはまるで、これから起きる事を暗示する様な内容であった。
「はい、いいですよ、中々よく読めていました」
先生のその言葉にホッとして、私は席に座る。
私は感謝を込めて、隣に目をやるのだが、彼、如月呉羽は此方を見ようとはせず、頬杖を付いて面白くなさそうにしている。
ううー……でも見かけによらず、いい人なのかもしれない。
お礼を言いたいけど、話し掛けたらすっごい目立つだろうなー……。
はっ、そうだ! 紙に書けばいーじゃん! こっそりと……。
私はノートの切れ端に、『ありがとうございました』と書いて、丁寧に折り、誰も見ていないことを確認すると、彼の机にそれを置いた。
彼はそれに気付いたようで、その紙切れに手を伸ばす。
ふー、これでお礼も伝えたし、もう係わんなくても――。
ポトッ。
What? コレハ何デスカ?
それは、今しがた如月呉羽に渡した紙切れ。
何でまた戻ってくる!
私は隣にいる彼に目をやるが、彼はやはり、頬杖を付いて黒板の方を面白くなさそうに見ている。
ううー、どうすれば……あれ? 何か書いてある……。
私がそれを開いてみると、私が書いたお礼の言葉の裏に、何やら書いてあった。
それは『どういたしまして』と読めた。
パッと横を見ると、何と彼が此方を横目で見ており、私と目が合うと直ぐに目を逸らした。
おおぅっ、なんて粋なまねを! 本当はいい奴だったんですねっ!
敵なんて言ってごめんよぅ! イケメンじゃなければ、お友達になれたかもネ!
胸が温かくなるのを感じ、今まで感じていた苛立ちも少しばかり和らいだ。
チャイムが鳴り、お昼休み。
私は、ウキウキとお弁当を取り出す。
そして、一緒に食べてくれるお友達(なるべく普通な)を探していると……。
“ガタン”と隣で音がして、見ると如月呉羽が席を立つ所だった。
彼は、カバンからコンビニ袋に入った飲み物と恐らくパン、そしてもう一つ、何かを取り出して教室を出て行った。
ハゥッ!! ア、アレハァッ!
私もカバンからある物を取り出し、お弁当を片手にフラフラと彼の後を追いかけた。
彼は廊下を出て、階段を上ってゆく。そこに向かう間、皆彼を避けて歩いている。時折、女子達が熱い視線を投げかけるのだが、我関せずといった風だ。
彼はどうやら屋上に向かっているらしかった。
あれ? でも、屋上って立ち入り禁止じゃなかったっけ?
だが彼は、階段の途中で立ち止まり、此方を振り返った。
「……何?」
少し不機嫌そうな顔で言う。
「………?」
私は後ろを振り返る。
「違う! あんただよ、あんた!」
つっこまれた私は、我に返り彼を見上げた。
「何? 少し親切にした位で、懐かれても困んだけど……」
ギロリと睨む彼に、私は震える手である物を彼に見せた。
すると、彼は驚愕に目を見開かせ、自分の持っている物と私の持っている物とを交互に見て「おー!」と興奮した声を出し、私と同様、それを私に見せた。
「俺、自分以外でこれ持ってる奴、初めて見た」
「わ、私もです! 小学生の頃、読書感想文でこれについて書いて以来、誰にもこの面白さを解ってもらえず、悔しい思いをしましたっ!」
「……はっ? これを感想文にしたのかよっ!?」
私と彼の手にある物。それは……。
そう! 私の永遠のバイブル! 『オヤジ達の沈黙シリーズ』
しかも! 彼の手に持つそれは、幻とも言われる名作、『オヤジ達の沈黙 番外編 アバンチュールだよ、全員集合!』ではありませんかっ!! これは、相当のファンと見た!
説明しよう!
『オヤジ達の沈黙 番外編 アバンチュールだよ、全員集合!』とは、数多くあるオヤジ達シリーズの中で、それぞれの主人公達が一挙に勢ぞろいする、ファンにとっては涙物の名作中の名作なのだっ!!
私は感動の面持ちで、彼に握手を求める。
「同志!」
すると、彼は一瞬戸惑いの顔を見せたが、やがて私の手を握り返してくれた。
それは私にとって、同志と言う名の友の誕生。
何ですって!? 相手は私の苦手なイケメンじゃないかですって!?
フッフッフッ、そんな物をも凌駕してしまう、それがオヤジ達の力なのです!!
オヤジ達、偉大ナリ!!
新しいキャラ、如月呉羽登場。
ちなみに、彼らは高校二年です。
普通が大好きな主人公、一之瀬ミカは、その自分も普通ではない事に気付いておりませんね……。彼女は本当は、何でも出来ます。勉強や運動とか、なのに普通を目指しているので、いつも中くらいの成績をキープしています。