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第二十八話:お昼休みにて…

 今回、おまけ的なお話です。

 薔薇屋敷家、乙女の部屋――。


「はぅーん、お姉さまー。 杜若、お姉さまはまだかしら」


 乙女はミカの写真を抱きながら、ベッドの上をゴロゴロと転がった。


「お嬢様、学校は今、お昼休みと思われます。 放課後には、まだ時間が……」

「ああーん、お姉さまー! 早く会いたいですわー! 昨日、メールが届きましたのよ。 『乙女ちゃんのお見舞いに行くね』 あぅーん、これはもう、永久保存ですわー」


 そのセリフは、もう何十回と聞かされたものだったが、杜若は「よろしかったですね」とにこやかに答える。

 主人が嬉しい事は、執事の自分にとっても嬉しい事。 幼い頃より、乙女の執事として育てられた彼には、それは自然と感じるものであった。


「あー、お姉さまー」


 そう言いながら、乙女の指は物凄いスピードで、携帯のボタンを押してゆく。

 その画面には『お姉さま、愛してる』の文字がびっしりと並んでいた。

 それを見た杜若。


「お嬢様、一ノ瀬様に、お見舞いに来るまでメールは我慢、と言われていたのではありませんか?」


 その言葉にハッとして、乙女は文字を削除していった。


「もー、お兄様のせいですわ。 杜若まで外出禁止にするなんて。 お姉さまの生写真が――……」

「申し訳ございません……」

「いいえ、元はと言えば、わたくしのせいですわね。

 ああん、もう! あんな所にガラスなどあるからいけないんですわ! こうなったら、あのお店のガラスを、撤去してしまおうかしらっ!!」


 そう言って、またゴロゴロと転がる。


「お姉さま大丈夫かしら。 呉羽様に如何わしい事されてないかしら。 日向真澄には、ちょっかい出されてないかしら……。

 ああーん、心配ですわー!!」


 まさかその頃、生徒会長にまでちょっかい出されている等と、つゆにも思わない乙女であった。





 学校、生徒会室――。


 竜貴が、脇腹を押さえて生徒会室に入ると、何故か皆が笑っていた。

 皆が見ているもの。 それは、一つのパソコンの画面。 そのパソコンは、会計、小田原慎次の持ち物であった。

 その画面には、今しがた竜貴が行っていたミカのいる教室が映し出されている。 しかも、ミカの斜め上辺りからの映像で、音声付きだ。

 竜貴が、いやにタイミングよく、ミカ達の前に現れたのも、これを見ていた為である。


「一ノ瀬さん、サイコー!!」

「私、この子のファンになろうかしら」

「一ノ瀬ミカ、最強伝説……」


 最後の、書記の永井徹の呟きによって、爆笑する竜貴以外の面々。


「俺を無視して勝手に盛り上がるな!」


 竜貴が怒鳴ると、副会長の美倉あやめが、顔を上げ「あら、いたの?」とそっけなく言う。


「あらいたの、じゃない! 一体何がそんなに面白いんだ!」


 すると、いまだ笑いの発作が治まらない、小田原慎次が答えた。


「だって、会長が教室出てからの一ノ瀬さんの行動、あれサイコー!!」

「あらあら、如月君、かなり参っちゃってるわねー」

「……お仕置き……」


『ブプーー!!』


 またもや爆笑する、竜貴以外の面々。


「?? 俺が出て行った後? 一体何があったんだ?」


 しかし、誰も答える者はいない。


「それにしても竜貴。 さっきのアレ、物凄くカッコ悪かったわよ」

「一ノ瀬さんが出てくるまでは、結構よかったんだけどねー」

「おの突き……会長のには、捻りが入ってた……」

「ブプー! すげー、一ノ瀬さん。 容赦ねー……」

「あー、本当にファンになりそうだわ……」

「ひ、捻り……?」


 竜貴は自分の脇腹を見る。

 あの、何でも無い様に突き出されたあの拳。 当たった瞬間、気が付いたら膝をついていた。 内臓に直接響くようなあの衝撃……。


「だから言ったでしょう? 一筋縄ではいかないわよって……」

「………」


 竜貴は、あやめに言われ、考えていた。



 確かに、一筋縄ではいかなそうである。

 最初は、あの如月呉羽の人を寄せ付けない、一匹狼のような所に、一ノ瀬ミカは惹かれたのだと思った。 しかし、今朝の様子では、人を寄せ付けないと言うのがウソのように、彼女に優しい笑顔を向けていた。

 派手な所にも惹かれているのだと思い、校長に頼んで校則を厳しくしてもらったのだが、それもどうやら、彼女にとっては関係ないようだった。

 ついでに、恥も掻かせてやろうと思ったのに、あれでは此方の方が、逆に恥を掻いた様なものだ。 折角バリカンも用意したのに……。

 一ノ瀬ミカ、まるで此方の行動を予期していたかのように、白髪染めを持っていた。


 何故だ!? 他の生徒には一切教えてはいないというのにっ!!


 如月呉羽、奴はもしかしたら俺と同じような人間なのかと思い、あのような勝負を投げかけてみた。 しかし、あっさりと断られた。

 あれでどうやら、彼は一ノ瀬ミカに本気らしいという事に気付いたのだが、一体彼女の何処に惹かれたというのか……。

 少しだけ興味が湧いたのは確かだった。



 そんな事を竜貴が悶々と考えている間、他の面々は、そんな彼を眺めてこんな会話をしていた。


「フフッ、これはもしかしたら、ミイラとりがミイラになるかも……」

「わざわざこんな犯罪紛いの事までしたんだから、そうなってくれなきゃ、面白くないよ」

「会長は、既にミイラの棺に片足突っ込んでる……」

「あ、何かそれ、いい表現ね」


 そして、彼らは竜貴を見る。

 彼は今、興味深そうに、パソコンに映るミカを、じっと見ているのだった。





 学校、職員室――。


「あ、まさ――校長先生!」


 危うく、正じぃと呼びそうになり、慌てて言い直す、ミカのクラスの担任、杉本先生。

 大の鳥好きの彼は、正じぃの頭の上にいるピーちゃんが、気になって仕方がない。


「あ〜〜……?」


 プルプルと震えながら、正じぃは杉本先生を見た。


「ああっ! 首を傾げなくていいですよ。 ピーちゃんが落ちちゃいます!」

「あ〜〜……ぎもん」


 正じぃがつぶらな瞳で杉本先生を見ている。 ついでに、頭の上のピーちゃんも、つぶらな瞳で杉本先生を見ていた。

 思わず和みそうになって、慌てて首を振る杉本先生。


「ええっと……疑問って、何が疑問なんですか? 何か分んない事でも?」


 正じぃの言葉に、そう尋ねたが、正じぃは悲しそうに首を振った。

 どうやら違うようだった。

(ああ、教頭先生が居ないと分らないっ!!)

 辺りを見回し、教頭を探すも、何処にも見当たらない。


 「えっと、ピーちゃん可愛いですね」


 とりあえずそう言うと、正じぃはパッと顔を輝かせ、凄く嬉しそうに笑った。

 そして、何かを差し出してくる。

 それは、箱に入った饅頭のようであった。


「あ〜〜……あげない」


(えぇ!? 差し出しといて、あげない?)

 杉本先生は、戸惑いながら、正じぃに言った。


「えっと、誰も取ったりしませんよ」


 そう言うが、正じぃは酷く悲しそうな顔をして、ハァと溜息を吐くのだった。


 と、その時、ドサッと正じぃの目の前に袋が置かれた。

 パッケージには、『鳥の餌』と書かれている。


「校長の言っていた物、買ってきましたよ……」

「ああっ、教頭先生!!」


 杉本先生は、救いの神とばかりに、手を合わせる。

 教頭はそんな彼に一瞥くれただけで、何も言わない。 そして何処か眠そうだ。


「あ〜〜……まーー!!」

「いいえ、校長。 私はまつじゅんではなく、松平潤一郎です……」


(ええ!? あの“まーー”ってまつじゅんって言ってるの!?)

 杉本先生は、正じぃと教頭を交互に見ている。


「あ〜〜……あげない!」


 正じぃが箱を出して言った。


「ああ、頂きます……」


 そう言って、教頭は饅頭を手に取ると食べ始めた。

(うえぇー!? “あげない”ってあげないって事じゃないの!?)

 杉本先生は、さらに混乱した。


「あ〜〜……ぎもん。 あげない?」


 正じぃが再度、杉本先生に向かって、饅頭を差し出してきた。

 彼は無意識に、教頭を見てしまう。

 すると教頭は、チラッと杉本先生を見た後、表情を変えずにこう言った。


「えー……杉もん、揚げ饅頭どう? 食べない? だそうです……」


(あ、あげないって、揚げ饅頭食べないって事!? それにぎもんって……私っ、校長に杉もんって呼ばれてる!!)

 少々ショックを受けながら、杉本先生は乾いた声で、


「い、頂きます……」


 と、そう言って、饅頭を頬張った。

 すると、正じぃはじーっと杉本先生を見ている。


「えっと……美味しいですよ?」


 とりあえず、彼がそう言うと、正じぃは嬉しそうに笑い、頭の上のピーちゃんが「ピー!」と鳴いたのだった。



 生徒会役員、会計の小田原慎治、彼はサイバーオタクだったりします。やろうと思えば、ハッキングとか出来たりします。趣味ではないのでやりませんが。

 それから書記の永井徹。彼には幼馴染がいたりします。陸上部のエースの女の子です。背がちっちゃくて、ちょっと男勝りな子です。可愛いです。後で出そうかなと思っています。

 正じぃですが、彼は基本、先生達の事をあだ名で呼んでいたりします。ですがそれは、教頭しか知らない事実で、今回杉本先生は、運が良かった(?)んです。

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