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第二十六話:棚上げ男の宣戦布告

 朝礼にて――。


 いつもの如く、震えるおじぃちゃんこと正じぃは、程よく震えていた。

 そして、私達生徒一同は、正じぃのその頭に、再度注目させられてしまったのである。

 そこには、例の鳥の巣が乗っていた。


『ねぇ、正じぃまた鳥の巣乗っけてるわよ?』

『きっと気に入ったんだよ、ほら見てみろよ、あの嬉しそうな正じぃの顔』

『本当、今までに無くご機嫌ね』

『震え具合が、それを物語っている……』


 そんな生徒達の囁きを他所に、正じぃはプルプルと震えながら、スタンドマイクに辿りつくと、首を巡らし私たちを見回す。 そしてにっこりと笑うと、震える手を懐に、ビニール袋を取り出した。

 それをガサゴソといって、中身を漁ると、目当ての物を取り出し、ビニール袋をくしゃくしゃと丸め、ズボンの中に突っ込む。


 ええー!? ズボンの中に入れちゃうの!? ポケットじゃなく!?

 ああ、ズボンの前がもっこリ膨らんでるよ、正じぃ……。


 正じぃの取り出した物、それは食パンであった。

 そして、震える手で、モサッとパンを千切ると、それを頭の上へ……。

 すると、鳥の巣の如きカツラの中から、ピョコッと鳥が頭を出し、正じぃが差し出した食パンを突っついた。


『あ〜……ピーーちゃんっ!!』

『えー……この子はピーちゃんと言います。 皆さんヨロシクね……』


 飼ってるのかよっ!!(激しくつっこみ)

 えぇ!? どーゆー事ー!? あれって、あの時の鳥だよね?

 結局あそこから抜け出せなかったの??


 そんな事を思っていると、正じぃがまた、モサッと食パンを千切る。

 そしてそれを、頭の上へ……じゃなく自分の口へ……。


 って、自分が食べるのかよっ!!(さらに激しくつっこみ)


 そして、モゴモゴしながらマイクに向かって一言。


『あ〜……もくしゃん!』


 ……? もくしゃん? 木曜日にシャンプーとか?


 皆が教頭に目を向ける。


『えー……物を口に入れながら、喋ってはいけません……』


 えー、全然違ったー……って、正じぃ今まさに、口に物入れながら喋ってたよ!?


 正じぃのお言葉は、いつもながら難解かつ簡潔である。

 しんと静まり返る校庭に、正じぃのパンを咀嚼する音だけが響き渡っていた。

 正じぃは、実に美味しそうに食パンを食べている。 時折、頭の上のピーちゃんにも分け与えながら。 そして食べ終わると、正じぃは満足げな顔で、ぷるぷると振るえながら戻ってゆく。

 その正じぃが完全に戻るのを待たずして、棚上げ男こと生徒会長大空竜貴が、全校生徒の前に立つ。


 あ、何かこっち見てる。 あ、今度は同志の方見た。


 同志を見た大空会長は、その黒くなった髪を見て、一瞬だけ顔を歪めたが、直ぐにいつもの極上の笑顔を浮かべ、今週の予定などを告げていった。

 そして朝礼は終わった。

 私達は教室に戻ろうと足を運ぶのだが、途中大空会長に呼び止められた。

 いつもの様に同志が隣に居た為、彼も一緒になって立ち止まる。

 そして何故か、日向真澄まで私の隣にいた。


 な、何故に!?


 大空会長も一瞬、奴の方を見て訝しげに眉を顰めたのだが、直ぐに私の方を見ると、蕩ける様な笑顔を浮かべる。


「やぁ、一ノ瀬さん。 さっきはありがとう。 わざわざ俺の為に彼の髪を染めてくれたんだろう? ご苦労様」


 そう言って、大空会長は、徐に私の手を取ったかと思うと、身を屈め、その手の甲にキスをしてきた。

 「ピュウ♪」と日向真澄が口笛を吹く音と、「キャー」と女子達の悲鳴が上がる。

 ゾワッ、ゾワゾワゾワッと一気に悪寒が全身を駆け巡り、私は会長の手を振り払った。


 にょーー!! いーやー、ばっちぃよー!!


「何しやがるっ!!」


 そう叫んで、同志が私と会長の間に入ってきた。

 私からは彼の顔を見る事は出来なかったが、相当怒っている様に感じる。


「何って、消毒だよ。 一ノ瀬さんは君の髪を染める為に、君の髪に触らなければならなっかったんだろう?」


 そう言って、会長は実ににこやかに笑ったのである。

 と、その時――


 ゾクゥッ!!


 私は殺気を感じ取り、其方を見た。


 うおぅっ!! 師匠がものすっごい形相で、私を睨んでいるぅっ!!


 そうなのだ、いくらかの殺気は先程から、多くの女子達から感じてはいたのだが、その女子達に交じって、我が心の師匠、斉藤陽子さんの殺気は半端なかった。 それほどまでに、大空会長に惚れていると言う事なのであろうか。


 ううっ、斉藤師匠、あなたは会長に騙されています! 目を覚まして下さい!


「それって、オレの髪が汚いって言いたいのかよ!」


 同志の声にハッと我に帰る私。


「あぁ、そう聞こえてしまったかな。 悪かったね、俺って嘘はつけない性質(たち)で……」


 って、嘘ばっかりーー!! どの口がそんな事をぬかすかー!! 嘘吐きまくってるやないかい!


 私は、会長を睨みながら、聞こえない様にボソッと言ってやった。


『この、棚上げ嘘吐き男がっ』

「プッ」


 隣で、日向真澄が小さく吹いた。

 どうやら、彼には聞こえていたみたいだった。


「そうそう、実はね、休みの間に、屋上の鍵を付け替えさせて貰ったんだよ。 何だか最近、誰かが勝手に使ってるみたいでね。 全く、立入り禁止だというのに……ねぇ?」

「っ!!」


 大空会長は、口元は笑っているものの、メガネの奥から覗く瞳は、冷たく同志を見据えている。 明らかに誰が使っているのか、分っている様な口ぶりであった。


「じゃあまたね、一ノ瀬さん。 早く教室戻んないと、授業が始まってしまうよ?」


 私を見て、爽やかにそう言う大空会長は、この場を去っていく。


「くそっ、あの野郎!」


 悔しそうに、同志がそう言った。


「まぁまぁ同志、屋上を使えなくなったのは非常に残念ですが、そう一々腹を立てていては、あの棚上げ嘘吐き男の思う壺ですよ。 ここは、騒がず動じず、でんと腰を据えて構えてましょう! その方がきっと、あの棚上げ嘘吐き男には効くんじゃないですか?」


 私がそう言うと、同志は此方をまじまじと見た。


「だって、一ノ瀬は平気なのか!? あいつはお前が目当てなんだぞ!?」

「平気な訳ないじゃないですか。 今だってほら、ここにチューされましたし……うぅっ、ばっちーです。 まだ鳥肌が……」


 そう言って、先程あの男にキスをされた所を同志に見せる。

 今直ぐにでも、洗いに行きたい所だ。


「なら、如月君にチューして貰えば? 消毒返しに……」


 急に話に割り込んできた日向真澄を見る。


 あ、そうだ。 まだ居たんだった。 ……って、何をぬかすか、この勘違い男がっ!!


 と思っていたら、同志が私の手を取った。

 ハッと見てみると、今まさに、その手の甲に顔を近づけている所で――。


「ど、同志!? 気を確かにっ!! ハッ、まさか! また変りましたか!? また俺様同志にっ!!」


 そう叫び、手を引っ張ると、あっさりと解放された。

 見ると、同志は顔を赤くして、そっぽを向いていた。


「わ、悪いつい……」


 同志は同志のままだった……。


「あはは、本当に純情少年だったんだ」


 そう言って笑うのは、日向真澄。

 私と同志は彼を睨む。


「ってゆーか、何で日向君がここに居るんですか!」

「そうだ! お前には関係ねーだろーが!」


 すると、奴はキョトンとした顔をして言った。


「え? だって俺たち友達でしょ?」


 物凄く純粋な目でそう言われてしまい、私達は何も言えなくなってしまう。

 そして私は、唐突に気付かされてしまった。 こいつは物凄い素直な奴なのだと。

 今まで来るもの拒まずだったのも「私と付き合ってー」「うん、付き合うー」てな感じだったに違いない。

 バイトの時の奴も、フリだと言ったのにも拘らず、直ぐに本気にとる事といい、こいつはアホな位に素直なのかもしれない。


 それにしても、たったあれ位で友達になったと思えるとは……。


 私がハァと溜息を吐くと、隣の同志も同じ様に溜息を吐いていた。


「えぇ!? 何で二人とも溜息吐いてるの? 俺、何か変な事言った!?」


 不安そうに私達に聞いてくる日向真澄。


「教室戻りましょうか」

「ああ、そうだな……」


 そう言って、私達は歩き出す。


「え? ちょっと、何で無視すんの!? 何? やっぱり俺、変な事言ったの?」



 どうも、正じぃは大好きです。

 ピーちゃん、一体どんな鳥なんでしょう? 小さい鳥な事は確かです。


 そして、真澄は友人にまで発展しました(まだ真澄の中だけですが)。と言うか、彼の役割が見えてきたような気がします……(まだまだ、先は分んないけどね)。

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