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第十三話:彼の人は生徒の長

 生徒の長と言う事は、あの人ですね〜。

 あのダブルデートの次の日、同志は風邪で学校を休んだ。


 まぁ、あれだけずぶ濡れになってれば当然か……。

 しかし、隣に同志がいないのは、何か物足りない感じがするであります。

 そして―――。


 私は乙女ちゃんの席を見る。何故か彼女も休みであった。

 乙女ちゃんは昨日、濡れてはいない筈である。

 何故だろうと思っていると、携帯に着信が……。

 見ると乙女ちゃんだった。


「もしもし、乙女ちゃん?」

『ああーん、お姉さま! 昨日のダブルデートは楽しかったですわね!』


 何カ凄ク元気ナノデスガ……


「あの、乙女ちゃん?」

『はい? 何ですの、お姉さま?』

「今日は何故に休み?」

『そう! そうなんですのよ、お姉さま! 聞いて下さいな! 昨日家に帰ったら、お兄様がわたくしのこのおでこを見て、卒倒してしまったんですの! そしてその後、気が付いたお兄様はお医者様を呼んで、私に絶対安静って言うんですのよ!』

「そ、それは大変だったね、乙女ちゃん……」


 どんだけ心配性のお兄さん?


『それよりお姉さま? 何ともありませんの?』

「へ? 私は元気だけど?」

『違いますわ! 呉羽様ですわよ! 何もされてません?』

「何もって、何を?」

『いやん、それをわたくしに言わせる気ですの? お姉さまのエッチ』


 ……エッチって……だから何なのだろう……


「あのね、乙女ちゃん。実は同志も今日は休みでね。ほら、昨日びしょ濡れになってたでしょ? 多分あれで風邪引いちゃったみたいなんだよね」

『まぁ、そうなんですの? それは良かったですわ!』

 

 って、おい! 良かったって何!? 良かったって! ちょっとは心配したげて!


『まぁ、これで今日はお姉さまのアルバイトもお休みですし、後は日向真澄だけですわね。

 お姉さま? くれぐれも彼には近づきませんよう、お気を付けになって!』


 はい、元よりそのつもりですが……。


 そうして私は、乙女ちゃんに「それじゃあ」と別れを言って携帯を切った。

 私はフーと息を吐くと、自分の鞄を見た。

 その中には、同志のお弁当が入っている。


「さて、このお弁当どうしましょうか……」


 ふと、前にいるあ奴を見る。


 ………却下!


 


 そうしてお昼休み――。

 同志のお弁当と、My お弁当を持って、私は校内をうろうろとしていた。屋上に行こうにも、鍵は同志が持っているし、行けたとしても、昨日の雨で屋上は水浸しになっているだろう。

 なので私は、同志のお弁当を食べてくれる人を、そして、自分の食べる場所を探していたのだ。

 その時、私は目の前にいる人物を見て、ピタッと立ち止まる。


 おおぅ! あそこにおわすは、私が密かに師と仰ぐ、隣のクラスの斉藤陽子さんではありませんかっ!!


 彼女は、名前見た目は元より、性格も動向も、そして成績も、全てにおいて普通。


 そう、まさに Queen of 普通! これは、お近づきになれるチャーンス!


 そう思って私は、師匠の元へと行こうとしたのだが、彼女の隣には男子生徒が立っていた。

 師匠の顔を見れば、頬を紅潮させ、何やら嬉しそうである。

 彼女の隣にいる人物。それは、この学校の生徒達の長。つまり、生徒会長の大空竜貴が立っていた。

 彼はメガネを掛けている。しかしそれは、私の愛用する普通メガネと違い、縁無しお洒落メガネだ。


 ハッ、お洒落メガネなど、私の敵ですな!

 そして、この普通メガネこそ、私の愛する I's my oasis なメッガーネなのです!


 しかし私は、師匠の様子を観察しながら頷いていた。


 フムフム、イケメンを前にして、普通はあのように嬉しそうにするものなのですな?

 いやはや、勉強になりますなぁ……。

 分りました、斉藤師匠! わたくし、思う存分参考にさせて頂きます!


 心の中で、彼女に向け敬礼をばしていると、師匠の隣にいる大空会長が此方を見た。

 

 おおっと、早速実践せねば!


 私は恥ずかしそうに、そして嬉しそうにを心掛け、時折目線を外しつつ彼を見た。

 すると、何故か大空会長は、微笑みの貴公子と謳われるその極上の笑みでもって、私に微笑み掛けると、手招きしてきたのである。


「…………?」


 私は周りをきょろきょろと見回す。他に誰もいない。

 私ですか? と、自分を指差すと、大空会長は頷いて見せた。


 やったー! 師匠と御近付きになれるー!


 私は嬉々として、師匠の元へと足を運ぶのだった。


「やぁ、君は確か、一ノ瀬さんだったかな?」


 私は目を見開く。


「よく私の名前が分りましたね」

「それは生徒会長って位だから、全校生徒の名前くらい把握してないとね」

「へぇー、それは凄いですねぇ……」


 私が素直に感心していると……。


 んん? 何やら殺気を感じますぞ?


 私が、ふと視線を横にずらせると――……。


 はぅっ!? 師匠が此方を睨んでいるぅ! な、何故でありますか!? 師匠ーー!!


「それにしても、一ノ瀬さん? それって何?」


 大空会長が、私の持っているお弁当を見て言った。


「あ、お弁当です」

「え? 随分大きなお弁当だね?」

「はぁ……実は、渡す相手が今日、風邪で休んでしまって、代わりに食べてくれる人を探してたんです。あ、ついでに、一緒に食べてくれる人がいいですね」


 何と無しにそう言うと、大空会長は私の肩に手を置いた。


「なら、生徒会室に来るといい。実を言うと、うちの生徒会役員には大食らいがいるんだ」

「いいんですか?」

「ああ、ついでに、君もそこで一緒に食べるといいよ」


 いやったーい! 師匠と御近付きに――……。


「あ、斉藤さん、ありがとう。もう用事は済んだから戻っていいよ」


 No〜! 行かないでおくんなまし、斉藤師匠!


 しかし、斉藤師匠はなかなかここを離れようとはしなかった。


「でも、会長――……」

「そうですよ、会長! ここは、斉藤さんも一緒にお弁当を楽しく食べましょう!」


 私が意気込んでそう言うと、何故だか師匠は睨んできた。


「いいえ、結構です! では、失礼します、大空会長!」


 な、何故ー!? 師匠カムバーック!!


「あぁ――……」


 私が手を伸ばしかけると、会長が私の肩を抱いた。


「じゃ、行こうか? 一ノ瀬さん」

「え、でも、斉藤さん……」

「ああ、彼女には時々、生徒会の仕事を手伝ってもらってたんだ。だから、彼女とは何でも無いよ」


 ………? 何の事ですか?


 訝しむ私をよそに、大空会長は半ば強引に、私を生徒会室へと連れて行ったのだった。





 ――そして生徒会室。


「あら? 会長、その子は……」

「あー、また哀れな子羊ちゃんが……」

「はは、何の事だ小田原君。美倉、この子は一ノ瀬ミカさん。お弁当を一緒に食べてくれる人を探しているみたいだったから連れてきたんだ」


 そこには生徒会役員の皆様がいた。


 副会長である美倉あやめ……彼女は何処か大和撫子と言った風だ。それに美人と評判である。

 そして私を子羊と言ったのは、会計の小田原慎次……彼は見た目はごく普通で私としても申し分ないのだが、何か私の普通じゃないよセンサーが反応している……。

 それから、奥の方で黙々とお昼を食べているのは書記の永井徹……彼は見た目熊だ。柔道部に所属しているだけあって、がっしりとした体型だった。

 そして彼らの眼差し。

 それは一様に、罠に掛かった哀れな小動物を見る様な目であった。



「うわ! これは凄いね。これ全部一ノ瀬さんが?」

「はい、我が家は両親が共働きでして、自然と家事全般は子供の私がするようになってましたから」

「味も凄くいいよ。でも、俺としてはもう少し薄味が好みかな」

「ああ、それは今日休んだ友人が、濃い目の味付けが好きだったもので……」


 嗚呼、同志……。今頃如何しているでしょうか……。


 タコさんウィンナーを頬張りながら、遠くを眺める私。

 

「へぇ……随分、大食いな友人だね……」

「いえ、普通でしたよ。食べきれない分は、タッパーに入れて、持ち帰ってもらってました。でも今日は、全部キレイに無くなりそうですね。助かります」


 生徒会の人たちは、私の持ってきた大きなお弁当を皆で食べている。

 そして私は一人、自分の普通なお弁当を食べていた。


「それにしても、一ノ瀬さんのお弁当は何か普通だね……」


 大空会長が、目の前の大きなお弁当と、私の小さなお弁当を見比べながらそう言うものだから、私は思わずにんまりと笑ってしまう。


「そうですか? それはありがとうございます」


 私がそう言うと、生徒会の人たちは何とも言えない顔をするのだった。




「ご馳走様、一ノ瀬さん。本当に美味しかったよ」


 他の人たちも、それぞれ「ご馳走様」と言った。

 そして会長は、部屋にある急須にポットからお湯を注ぐと、湯飲みにお茶を注いで私に差し出してくれる。


「いえいえ、お粗末さまです。此方こそ、お弁当が無駄にならずに済んで良かったです」


 私はにっこりと笑ってそう言うと、ズズッとお茶を啜った。


 ほぅ、これは玉露ですな? 日本人たるもの、やっぱり日本茶が一番ですなぁ……。


 ホッと息を吐いていると、大空会長があの極上の笑みでもって、私に言った。


「一ノ瀬さん、そこで相談なんだけど。これからも、お弁当作って貰えないかな?」

「え? 私がですか?」

「うん、お願いできるかな」


 ………? 何故? 貴方の様なイケメンなら、女子に一声掛ければ、我先にと群がってくるはずでしょうに……。

 それに私は、同志と自分のお弁当を作るので精一杯。

 余裕なんかナッシング。と、言う訳で……。


「御免なさい」


 ぺこりと頭を下げる。


「……え?」


 会長がニッコリ顔で首を傾げた。

 何故か他の生徒会の皆さんも、私を凝視している。


「いくら生徒会長の頼みと言えど、大して親しくも無い相手に、お弁当を作ってあげるほど、私には時間も心のゆとりもありませんので、悪しからず」


 そう言うと私は、空になったお弁当をテキパキと片付ける。

 今度は、お礼の為に頭を下げる。


「えぇっと、今日はお弁当を片してくれて、有難う御座いました。お茶も美味しかったです。後、お弁当の件は、他の人に頼んで下さい。では」


 私は扉を開けると、部屋を出るのであった。



 ++++++++++



「はぁー!! 断ったよ、あの子! うちの生徒会長のエレガントLOVEスマイルを前にしてっ!!」


 興奮気味に、会計の小田原慎次が叫ぶ。

 そして、面白そうに竜貴を見ているのは、副会長のあやめであった。


「ふーん、初めてじゃない? 竜貴が捕まえた女の子に振られるなんて……」

「……弁当美味かったな……」


 ボソリと書記の永井徹が呟く。

 すると、それまでピクリともしなかった竜貴が、肩を震わせ笑い始めた。


「振られる? 何を言ってるんだ、あやめ。あれは、照れているだけだ。さっき廊下で俺を見つめていたあの子の眼差し、あれは間違いなく、俺に恋をしていた。

 何、きっと皆がいる前で恥ずかしかったんだろう。後でもう一度お願いするさ」


 この学校の生徒会長、大空竜貴。

 微笑の貴公子と謳われる彼は、一部の人間の間では、ある異名を持って呼ばれている。

 その名も、平凡キラー。


 何故なら彼は、普通、地味、平凡と言われる女性しか、相手にしない為だ。しかも、その女性達を自分に惚れさせ尽くさせる。

 実はミカの心の師匠、斉藤陽子もその一人であった。


(まぁ、私に言わせれば、竜貴は臆病なのよね。本気にならない相手を選んでる……)


 竜貴の幼馴染である、あやめはそう分析している。


「でも、私が思うにあの子、一筋縄ではいかないわよ? フフッ、これからが楽しみ」


 あやめは、独り言のように言って、楽しそうに微笑むのだった。



 ++++++++++



 私は放課後、帰り支度を済ませ、下駄箱にて靴を履き替えていると、


「一ノ瀬さん」


 後ろから声を掛けられ、私は振り返る。

 そこには、生徒会長の大空竜貴が立っていた。


「あ、大空会長、さようなら」


 私がそう言って、頭を下げ帰ろうとすると、大空会長は私の手を掴み、何処かへと連れてゆく。そしてそこは、進路指導室。


 はて、私に進路指導でも?

 

 と思っていると、大空会長は私を壁際に寄せ、逃げられないようにしてしまう。

 つまり、私の両脇に手を置き、閉じ込めた形にしているのだが……。


 ……コノ状況ハ一体……


「さぁ、一ノ瀬さん。ここには誰もいない。素直に俺の願いを聞いてくれるね?」


 ニッコリと笑って、大空会長は言った。


「はぁ……願い、ですか?」


 何の事やらと首を傾げていると、その表情に少し苛立ちが見え始めた。

 そのメガネの奥の眼が笑っていない。


「成る程、君は駆け引きが上手いんだね。見かけによらず、経験豊富なのかな……? 

 でも、君の気持ちは分っているよ。あの時、廊下で俺を見ていた君の眼差しは、恋している者の眼差しだったからね……」


 ……はい? 何ですって? 恋している者の眼差し?

 ………ピーン。

 ハァッ!! そうであったのかーー!!

 師匠、貴女はこの男に恋をしていたのですね?


 漸く私は、あの時、師匠が此方を睨んできた訳が分った。


 ああっ、違うのです、師匠ー! 私は貴女の真似をしただけなのですっ!!

 そうと決まれば、早く誤解を解かねば!


「すみませんっ! それ、勘違いです。私、会長の事好きじゃありませんからっ! では」


 私はそう言って、表情を強張らせている会長の腕を潜り、その場を立ち去ろうとした。

 しかし、私は腕をガシッと掴まれてしまう。

 結構強くて、私は痛みで顔を顰めた。


「すみません、放してくれませんか。私、これから友人のお見舞いに行くので」


 そう、同志のお見舞い。

 元気になったか聞こうと、電話をした所、出たのは同志ではなく、彼のお母上であった。

 お母上は何故か私の事を知っていた。きっと同志が教えたのだろう。

 そして同志のお母上は、私にお見舞いに来るように言ってきたのである。


「……友人って、あのお弁当の? 一つ聞いてもいいかな、その友人って……?」


 会長がそう尋ねてきたので、私は答える。


「同じクラスの、如月呉羽ですが」


 すると、何故か会長の手の力が緩んだ。

 私は素早く手を引き抜くと、会長から手の届かぬ位置に移動する。


「では会長、今度こそさようなら」


 そう言って私は、一目散にその場を立ち去るのであった。



 ++++++++++



 その場に残された、大空竜貴は、呆然とした様子でポツリと呟いた。


「如月呉羽? あの人を寄せ付けない一匹狼の……?」


 全校生徒の名前と顔を把握している竜貴のデータの中に、如月呉羽は派手なルックスで容姿もかなり良く、成績は中程度、誰も寄せ付けず常に一人、とある。

 容姿で言うなら自分も負けてはいないし、それに成績なら此方の方が上だろう。人望はある。何たって生徒会長……。

 自分の何が彼に劣るというんだ? と、竜貴は爪を噛む。


「成る程、一ノ瀬ミカ。君は彼のあの鋭さに惹かれている訳だな? そうか、じゃあ、俺が目を覚まさせてやる。俺の良さを分らせてやるよ……」


 フフッと笑う大空竜貴。

 今、彼の中を占めているもの。それはどうにかしてミカを自分の方へ引き寄せる事。

 ミカの家事全般が出来ると言う言葉に、どうしても彼女が欲しくなった。

 だがそれは恋愛感情ではなく、ただ自分の役に立つかそうでないか、それだけなのだ。


 しかし彼は分っていない。

 彼の幼馴染である、副会長の美倉あやめが言っていた通り、一ノ瀬ミカは一筋縄ではいかないという事を……。



 と言う訳で、今回新しいキャラクターがいっぱい出てきました。

 ミカの師匠や生徒会の皆さん。 

 生徒会の役員の人間は、他にもいますが、その人達は、会長の親衛隊だったりするので、あまり生徒会室には入り浸れません。 

 そして、生徒会長攻略編は、もう少し後となります。


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