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夏のスペシャル3

 あの人が出てきます。


「お? いたいた。羽美瑠、羽斗里!」

「あ、パパー!」

「ママー!」

「ウフフ、何して遊んでたんですか?」


 呉羽とミカに駆け寄る双子。乙女と真澄も、自分の子供達の姿を探す。


「優雅と栄雅は何処にいるのかしら?」

「うーん、優雅は何処かで涼んでそうだけど。栄雅は何か射的とか輪投げとかの勝負事をしてそうだなぁ……後、金魚すくいとか」

「金魚さんは助けなくていいんでしゅよ」

「金魚さんは大丈夫なのでしゅ」


『はい?』


 大人たちは一斉に首を捻るが、双子が何の事を言っているのかさっぱりであった。

 そう言えばと、ミカは辺りを見回す。


「白兎君とアリスちゃんは――」

「ゆーがとえーがと一緒でしゅ」

「あーちゃん気に入られてまちた」

「は? アリスが?」

「まぁ、優雅に栄雅ったら。お姉さまのお子様を放って……」

「乙女さん、優雅と栄雅のどっちかと羽美瑠ちゃんをくっつけようとしてるしね」

「……羽美瑠はやんねーぞ」


 じろりと乙女と真澄を睨む呉羽。

 乙女はその睨みをものともせず、


「あら、諦めませんわよ。お姉さまと親戚になる為ですもの」


 そう言ってフフンと笑うのだった。




「クソッ、勝ったなんて思うなよ! 俺のがでかいのを当ててるからな!」


 栄雅の前には景品の山。それは白兎の前にもあるが、若干白兎の方が多いようだった。

 悔しそうな栄雅を前に、白兎はハァッと息を吐きながら、射的で使った銃を置く。


「もうそっちの勝ちでもいいからさ。いい加減止めない?」

「何言ってんだよ! 次はあれだ!」


 そう言って指差した先にあるのはくじ引きである。

 鼻息も荒く其方に向かう栄雅の背を眺めながら、またもやハァッと息を吐き出し、その後についてゆく白兎なのであった。


 そして此方は優雅にアリス。

 優雅は疲れたと言って、休憩できる場所を見つけ椅子に座っている。その際、白兎についていこうとするアリスを引きずってきていた。

 最初、怯えた様に優雅と目を合わせる事もしなかったアリスであったが、少しだけ落ち着くと、優雅と一緒に椅子に座る。

 けれど、それを憮然として眺め、優雅は言った。


「何で君も休んでるの? 僕の為に働きなよ」

「……?」

「何不思議そうな顔をしてんの? アリスが言ったんじゃないか、僕は王様なんだろ?」

「……!」


 「ああ、そういえば」と言うように、ポンと手を打つアリス。

 確か、栄雅の言葉に対して、王様だと思ったのだが、このお城みたいな大きな家に住んでいて、あの女王様のような女の人の息子なのだから、彼もやっぱり王様なのだろうと思ったアリス。


「……?」


 だとしても、彼の為に働くと言うのは、一体何をすればいいのだろう。そう思ったアリスは首を傾げる。


「あー、のどが乾いた。何か飲み物を持ってきて」

「……(コクリ)」

「それと、何か食べる物も」

「……(コクリ)」


 早速立ち並ぶ屋台に向かって走り出すアリス。

 しかし、いくら無料で屋台の物を貰えるからと言っても、そこはやっぱり声を掛けなければならない訳で。


「………」


 ジュー! ジャッジャッ!


 何やら美味しそうな匂い。そして音。

 けれどアリスからは見えない。屋台の人間からもやはり見えない。

 暫しそこで佇むアリス。何度もそこで声を出そうと試みていたが、後一歩の所で勇気が出ずに声を詰まらせてしまう。

 それ故に半分泣きそうになっていた。

 その店の周りの者はそれが見えている為、見兼ねてその店の店主に声を掛けようとした。だが、その言葉はついぞ出る事は無かった。何故ならば、予想外の人物がそこに現れた為である。


 ずんぐりむっくりの体。

 真っ白い髪と、同じく真っ白で豊かな髭。

 そして赤ら顔。優しげな表情。


 そう、この人物は、この薔薇屋敷の住み込みサンタであり座敷翁であり、乙女の祖父であり、優雅や栄雅にとっては曽祖父にあたる人物であった。

 彼は今、浴衣などを着ている。全くサンタとは掛け離れていたが、それでもサンタの雰囲気は全く損なわれる事は無かった。


「ほっほぅー」

「……ッ!!」


 いきなりそんな笑い声を聞き、泣きそうな顔で振り返ったアリスは、その人物を見て目を見開いた。

 引っ込み思案で人見知りのアリスが、


「サンタさん!」


 と大きな声を上げて、(おきな)のそのずんぐりむっくりなお腹に抱きついた。

 やはり世のちびっ子たちのアイドル上位に位置するサンタクロースである。

 翁は抱きついてくるアリスを抱き上げると、ニッコリと笑った。


「ほっほぅー、初めましてお嬢さん。お名前は?」

「ア、アリス……」


 興奮したように頬を真っ赤に染めるアリス。

 キラキラとした目で翁を見ていた。


「ではアリスちゃんはここで何をしていたのかな?」

「……王様に食べ物と飲み物を持ってくの……」

「……はて、王様?」


 首を傾げる翁であったが、それでも言うべき事はちゃんと言う。


「ではお嬢さん。よいこの見方のサンタさんが付いているから、ちゃんと声を出してお願いしてみようかの」

「……(コクリ)」


 素直に頷くアリス。


「おじちゃん、くだしゃいな!」

「はいよ!」


 可愛らしい声でお願いされたとなれば、屋台のおじちゃんは返事をするしかない。

 ドキドキとする胸を押さえながら、お願いが聞き届けられた事に、翁を見やって嬉しそうににんまりと笑った。




「はい……」

「何だよ。持ってくるのが遅いじゃな――」


 アリスの声と差し出された物に、不機嫌そうに振り返った優雅は言葉を失った。

 そして目を見開き、ついでに口も開いて叫んだ。


「サ、サンタさん!!」


 ガバッと立ち上がった優雅は、何も躊躇う事無く、先程のアリス同様そのずんぐりむっくりの腹に抱きついた。


「凄い! クリスマスでもないのにサンタさんが居る!!」


 興奮して頬を紅潮させる優雅。

 アリスはその様子に、ただ吃驚している。


(王様もサンタさんが好きなのかぁ……)


 と普通にそんな事を考えていた。



「なっ!? サ、サンタさん!?」


 そして背後から聞こえてきた声に吃驚して振り向くと、その手に何やらいっぱい抱えた栄雅が、翁の存在を見ると、それらを地面にズザザッとばら撒いてしまう。

 そして、「すげー!」と叫ぶと、優雅のようにそのずんぐりむっくりな腹にしがみ付いた。


「うわっ、何して――ハッ!? サ、サンタクロース!?」


 栄雅に少し遅れて白兎もやって来た。

 アリスは、そんな兄の存在を見止めると、すぐさま彼に駆け寄る。

 そしてキラキラと目を輝かせ、翁を指差しながら、


「にーに、サンタさん!」

「ああ、うん。サンタさんだ……」


 それ以外何も言う事が無い白兎。呆然と翁の事を見ていた。

 優雅に栄雅に抱き付かれる翁は、ニコニコと笑いながら「ほっほぅー」と髭を撫でている。


 するとそこに、双子の声が響いた。


「ああ! サンタしゃんでしゅ!!」

「凄いでしゅ! 本物でしゅ!!」


 やはりキラキラと目を輝かせて今にも駆け出さんばかりだ。

 と言うか、駆け出した。


『サンタしゃーん!!』


「ちょっと君達、少しは遠慮しなよ。このサンタさんは、薔薇屋敷家の住み込みサンタだぞ」

「そうだぞツインズ! このサンタは俺等のだ! あっち行け!」

「ゆーがにえーがはケチでしゅ!」

「ケチんぼでしゅ!」

「んだと!?」


「ほっほぅー、けんかをしたらクリスマスはプレゼント無しだよ?」


 途端にピタリと言い争いは止んだ。

 流石は翁である。


「ああっ、翁!?」

「じ、じーさん!?」

「あ、お祖父様……」


 大人達も翁の姿を見てびっくりしている。

 と言うか、浴衣を着ている事に吃驚だった。浴衣パーティの事を知っていたと言う事になる。

 相変わらず、壁の中を行き来しているようである。

 そして一人、ワナワナと身体を震わす人物が……。


「あれ? 乙女さん、何で震えてるの?」

「……いやぁーん!! サンタさぁーん!!」

「ぶほっ!? お、乙女さん!?」


 乙女は顔を覗き込む真澄を突き飛ばして翁に抱きついた。

 子供達がムギュッとぽってりお腹と乙女のボディに挟まれる。


「ウフフー、サンタさんですわぁー! クリスマス以外のサンタさんですわぁー!」


 自分の子供と混じって、翁に抱きつく乙女。その顔は子供たち同様、キラキラと輝いている。


「ほっほぅー、クリスマスぶりー」

「本当ですわー! クリスマス以外で会うのは結婚式と子供達が生まれた時以来ですわ!!」


「なぁ、真澄。あいつじーさんが自分の祖父さんってまだ知らないのか?」

「あーうん。お祖父様が知らせないでくれって言ってるし」

「真澄君は知ってるんですね」

「うん。お祖父様は乙女さんが居ない時に俺にこっそり会ってるからね」

「おい、それあいつが知ったら激怒するんじゃね?」

「そうですよ。わたくしを差し置いてーとか言いそうですよ」

「まぁ、そこはお祖父様は分かってるというか、凄い所というか、絶対に鉢合わせる事は無いからさ。なんか、誰が何処にいるか全部把握してそう」




 それから興奮の収まった子供達と乙女。

 皆が勢ぞろいする中、子供達は金魚すくいをする事になった。何故か乙女もやる気である。


「おーほっほっほっ! 我が子だからと言って手加減などしませんわよ!!」

「はっはっはっ! 母親だからって、手は抜かないぜ!」

「ねぇ、これは僕もやらなきゃいけないの?」

「……にーに、この金魚さん、可愛い……」

「うん、待っててね。今すくってあげるから」

「おお、金魚しゃん一杯でしゅ!」

「なんか助けてって言ってるように見えましゅ!」


 急遽金魚すくい大会が行われようとしていた。

 ミカ達はそれを遠巻きに眺めている。


「うわぁ、乙女さんハッスルしてるなぁ」

「栄雅君は性格は乙女ちゃん似ですね」

「優雅も高飛車な所が似てるよな」

「アハハ、でも優雅の顔はどっちかと言うと、お義兄さんに似てるような……」

『ああ……』


 ミカと呉羽は頷いた。

 あのナルシストな乙女の兄、輝石を思い浮かべる。

 優雅のあの綺麗な容姿は、乙女や真澄と言うより輝石に近いだろう。


「ほっほぅー、ついでに言えば栄雅はわし似ー」


 いつの間にやら翁が傍に居た。

 何でも、栄雅の容姿は若い頃の翁にそっくりなのだとか。


「へぇ、翁はイケメンだったんですねぇ」

「うん。正やんと1、2を争ってた」

「正やん? ……ハッ、正じぃの事か!?」

「ま、正じぃイケメン……」


 若い頃の正じぃをちょっと見てみたいと思う三人なんであった。


 その時、ポンと肩に手を置かれた真澄。何だろうと其方に目をやれば、此方をじっと見つめる翁が居る。

 つられてじっと見つめ返せば、翁は何故かある一点を見つめている事に気が付いた。

 髭だった。


(ハッ、もしかしてやっぱり似合ってないとか?)


 そう思ったのだが、翁は言った。


「今から髭蓄えるなんて殊勝な事だねぇ」

「え?」

「君になら三代目を安心して任せられそうだねぇ」

「え? え?」

「二代目には修行に行ってもらってるから」

「え? ――ハッ! そういえば、ここ最近、お義父様の姿が見えない!」

「何なら、今から行っとく? 修行」


 ビシッと親指を立て、キランと白い歯を見せる翁。

 真澄は内心(ひぃぃぃ!!)と悲鳴を上げた。


「さ、三代目住み込みサンタに任命されちゃってますよ、真澄君……」

「……まぁ、この薔薇屋敷家に来た時点で、その運命は決まってたんじゃないか……?」


 少し離れた場所では、金魚すくい大会を行ってる乙女や子供達の声が響く。


「おーほっほっほっ! わたくしの方が多いんじゃなくて!」

「そんなの、俺のこの金魚のでかさは+10点はある!!」

「ハァ……なんか疲れた」

「はい、アリス」

「……金魚さん、可愛い……」

「うわーい! 金魚しゃんを救いまちた!」

「みぃちゃんは金魚しゃんの救世主でしゅ!」




 ~夏のスペシャル・終~

 と言う訳で、あの人というのは翁の事でした。

 三代目に任命されてしまった真澄。その際には真っ白いお髭とぽってりお腹を要求されます。

 うーん、サンタの修行ってどんなのだろう?

 実際にサンタの任命試験みたいなのあるらしいし……。


 では、夏のスペシャルはこの辺で。冬のスペシャルとかできれば書きたいかも。クリスマスとか?

 他のキャラがどうなっているかは、今の時点ではあんまり考えていなかったので、吏緒とか出してません。

 ただ、輝石は海外にいます。デザイナーとして活躍しているんですよね。結婚してます。子供はいません。


 続編「ショーウィンドウのドール・新学期」も読んでくれると嬉しいです。

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