夏のスペシャル1
またまたやってしまいました。未来予想図第二段!
乙女ちゃんのお子様達は次回に持ち越し。
夏という事で、皆浴衣です。
赤い帯をシュルシュルシュルリと巻いて、流れるような手さばきで複雑に結んでゆく。それをじっと見入っている二つの視線。
「すごいでしゅ! まるで魔法みたいでしゅ!」
「本当でしゅ! ママは魔法使いでしゅ!」
頬を紅潮させ目を輝かせながら、幼い双子はピョンピョンと飛び跳ね、ミカの周りをぐるぐると回る。
「ウフフ、魔法使いなんて大袈裟ですよ。はい、アリスちゃん。出来ましたよ」
後ろを向くアリスの背中をぽんと叩くミカ。
その背には可愛らしく縛られた浴衣の帯があった。
鏡の前に立たされ、ミカは手鏡を持って、合わせ鏡でアリスに背中の帯を見せてやる。
ピンク地に、「不思議の国のアリス」をモチーフにしたちょっと変わった柄の浴衣。何でも、マリのお店で作ったオリジナルだと言う。
赤い帯にはトランプ兵達が小さく描かれており、時計を持った白兎の人形が、後ろの帯の結び目の所ひょっこりと顔を出していた。
アリスの黒く長い髪は、大きなリボンでまとめられており、両脇に少しだけ垂らしていた。
「どうですか、アリスちゃん。ご感想は?」
ボーとした顔で自分のその姿を見ていたアリスは、鏡越しにミカと目が合い、顔を真っ赤にして俯くと、小さな声で「……かわいい……」と呟いた。
ミカは内心胸がきゅんきゅんとして堪らない。おまけに自分の子供達も同じく、きゅんきゅんしていっぺんに抱き締めたくなる。
羽美瑠と羽斗里も、浴衣を着ていた。それぞれ、ブルーとグリーンの色地に、猫とネズミの柄となっている。どういう訳か、お正月の一件から、二人はその組み合わせがお気に入りのようなのだ。
ミカも浴衣を着ている。白地にアジサイ柄と落ち着いたものであった。
「はうっ、何て可愛いんでしょう。アリスちゃん、ママにも見てもらいます?」
ミカがそう訊ねると、アリスは大きく頷いた。
因みに、アリスの両親であるマリと杏也は、今ここにはいない。なんでもお店の服の素材を買い付けに、海外に行っているとの事。
仕事で行っている為、その間、彼らの子供であるアリスと白兎を此方で預かっているのだ。
ミカは携帯でアリスの姿を写す。ついでに自分の子供である羽美瑠と羽斗里も。
窓を開け、アリスに見せ付けるように、空に向かって「送信」と言いながらボタンを押す。
「ウフフ、これでママの所にアリスちゃんの浴衣姿が届きますよ。きっとメルへーンって言う事間違い無しですね」
「………」
「メルヘンでしゅ!」
「僕達もメルヘンでしゅ!」
無言で大きく頷くアリスの横で、ニコニコとしながら幼い双子も頷いた。
「パパー! 見て見て? 可愛いでしゅか?」
「ママは魔法使いなんでしゅよ!」
「魔法使い? よく分からんが、二人とも可愛くしてもらったな」
扉を開けた途端、此方に飛びついてくる双子を抱きとめ、頭を撫でてやる呉羽。その隣には白兎の姿もある。
二人とも、もう既に浴衣姿だ。
呉羽は落ち着いたグレーの浴衣。白兎は白地に紺のグラデーションと落ち着いたものだが、裾の所にウサギが空を見上げているような絵柄が描かれている。
「アリス、凄く可愛いよ。こんなに可愛くしてもらってよかったね」
アリスは真っ先に白兎の元に駆け寄り、期待した目で見上げてくるので、白兎はそう言って褒めて、セットした髪を崩さないように優しく頭を撫でてやる。途端にアリスは満足そうに微笑んだ。
それはほわっと雪解けの様な柔らかい笑み。初対面であれば絶対に見られない笑みである。
白兎はその笑顔に釣られる様に笑みを深くした。
その後で、ミカと双子の事も褒める事も忘れない。やはりしっかり者の白兎なのであった。
「おほほほ! いらっしゃいまし、お姉さま! お待ちしておりましたわ!」
黒地に真っ赤な薔薇の絵柄に帯もまた真っ赤の浴衣。
そこに立つのは、学生の時よりゴージャスさのアップした薔薇屋敷乙女の姿。
「今日はお招きありがとう、乙女ちゃん」
「あいがとーごじゃいます!」
「じゃいます!」
ミカの隣で、双子がぺこりと頭を下げる。
「おーほほほほ!! いやーん、可愛い! 可愛いですわー!!」
双子の姿を見て、今にも抱きつかんばかりの勢いである。
「まぁまぁ、気持ちは分かるけど、乙女さん落ち着いて」
そう言って宥めているのは真澄。彼は薔薇屋敷家に婿養子に入った。なので今は、薔薇屋敷真澄である。
そして彼の浴衣は何故か南国風。何処と無くアロハを感じさせた。
「真澄、久しぶりって言うか、お前――」
「あ、呉羽君、久しぶりー。相変わらずラブラブしてるー? あれ? 何?」
呉羽はじろじろと真澄の事を見ている。主に彼の鼻の下を。
そこには何故か髭の存在が……。
「ぜんっぜん似合わねーなぁ、その髭……」
「えぇ!? そう? 息子達に威厳がないとかって言われて最近生やし始めたんだけど……。そっかぁ、でも結構ダンディなおじ様とかって言われるんだけどなぁ……」
髭を撫でながら「うーん」と唸る真澄に、「何処がだよ……」と呟く呉羽。
「ハァ……でも、どうしたら威厳って身に付くんだろう?」
「いや、それって、生まれ着いてのものなんじゃね……」
適当な事を言う呉羽。ふと真澄が視線を移して、呉羽の後ろにいる白兎とアリスに気付いた。
「あれ? その子達誰?」
真澄の疑問に、双子達に萌え萌えしていた乙女も同意する。
「お姉さま?」
「ああ、この子達は姉の子供で、私の甥っ子と姪っ子です。姉と杏也さんが仕事で海外に行っている間、預かってるんですよ」
そう言って、白兎達を振り返り、手招きする。
「どうも、初めまして、天塚白兎です。こっちは妹のアリスです」
「………」
呼ばれた白兎が礼儀正しく頭を下げるその横で、アリスはモジモジとしていたが、乙女の迫力に怯え、すぐに白兎の後ろに隠れてしまう。でも、興味はあるのか、時折チラチラと覗き見ている。
因みに、この時のアリスの心境はというと、
(ここのお家、お城みたい。この女の人はきっと女王様……不思議の国のアリスに出てきたハートの女王様みたい……)
そんな事を思っていたのだが、それは誰にも気付かれる事なく彼女の心の中だけの話。
白兎は、そんなアリスの仕草を初対面の人には失礼に当たると思い、少しだけきつめに嗜める。
「こらこら、アリス? ちゃんと挨拶しなくちゃ駄目だろ? すみません、妹は人見知りなんです。それと、僕達は呼ばれてないのに、お邪魔してよかったんでしょうか?」
「おほほほ! 何て礼儀正しいお子様なんでしょう! お姉さまの親戚なら大歓迎ですわ! というか、可愛いですわ!」
「うーん、やっぱりあの姉の子供とは思えませんね……」
「ねぇ、呉羽君。あの子ってあの杏也って人の息子なんだよね……」
「だろ? 思えねーよな……」
コソコソと大人達はそんな事を囁き合っている。
その時双子はと言うと、何故だか始終辺りをキョロキョロとしながら何かに警戒していた。
「あ、そう言えば……乙女ちゃん、優雅君に栄雅君は?」
「ああ、それでしたら……」
そのとき何故か、双子はビクンと身体を震わせたのだが、大人たちは気付かない。
「おお!」
「うわー! 凄いですねぇ、お祭りみたい!」
「おほほほ! 縁日を再現いたしましたの! どうぞ楽しんでいってくださいな」
「凄いよねぇー、薔薇屋敷家の財力……」
「まぁ、それは否定しねー……」
乙女に案内されつれてこられた場所。そこはさながら神社の境内のよう。そこに数多くの屋台が立ち並んでいるのだ。
子供達は当然の事ながら、目を丸くして興味津々にそれらを見ているが、大人達もやはりそれらを見て胸を躍らせているようである。
「うわぁ、何か呉羽と初めてお祭り行った時の事思い出しますぅ」
「ああ、あん時か! ミカがヤローぶん投げてたよな!」
「あれは、呉羽の元カノの今彼さんが呉羽を殴ろうとしたからで――」
「んまぁ! そんな事がありましたの!? 初耳ですわ!」
「うわぁ、元カノに会っちゃったの!? よく話が拗れなかったねぇ」
大人たちがそんな話をしている間、子供達はソワソワとしている。目は屋台に釘付けだ。
『パパー、ママー』
双子がミカと呉羽の浴衣の裾を掴み、身体を揺らす。早く屋台を見て回りたくて堪らないらしい。
「おほほほ! どうぞ自由に出歩いて結構ですわ! 全てただですわよ!」
「おおぅ、奢り人の神は顕在ですねぇ……」
「神しゃまでしゅ!」
「神しゃま、あいがとー!!」
「おほほほ!! 神様だなんて! ええ、女神様と呼んで下さって結構ですわよ!!」
そうして子供達を自由にさせる事にしたミカ達。迷子になる心配も無いので安心である。
「おお、焼きそば。何でこういうとこの焼きそばって特別美味そうに感じるんだろうな」
「きっと感情のスパイスが上乗せされるからじゃないの?」
「真澄君、その例えなんか素敵です……」
「まぁ! あなたにしては素晴らしい例えですわ!」
「え? そう? そうかな?」
「如何でもいいけどさ、早く回らね?」
「うわっ、如何でもいいって酷くない?」
そんな感じで会話をする大人達。自分達は自分達で楽しむ事にしたようである。
三話に分ける予定です。
優雅君と栄雅君を早く出したい!
年齢的には、二人は年子なるんですよねぇ。羽美瑠と羽斗里よりは年上。白兎よりは年下となります。
アリスは、羽美瑠達と同い年。
続きは結構早くお届けできると思います(一週間以内?)。
二人が出てくる次回をお楽しみに!