番外編:薔薇と苺とアロハシャツ3
一応バレンタインのお話なのに、バレンタインが過ぎてしまいました……済みませんです。後一話くらい続くと思います。
「あ、如月君、逆チョコって知ってる?」
「は? 何だそれ」
「最近では男から好きな子にチョコを渡すのが流行ってるんだって。それを逆チョコって言うらしいよ」
「男から?」
「そう。で? 如月君は、一ノ瀬さんにチョコあげないの?」
呉羽は暫し考える。自分からミカにチョコを渡す光景を思い浮かべる。
(……ハッ、全然思い浮かばねぇ! そもそもそのチョコどーすんだよ! 買いに行くのか? オレが? 女どもに混じって?)
「ありえねえ!」
バンと机を叩く。
その音に吃驚する真澄であったが、すぐさま我に返り、
「まぁ、おれも如月君が可愛くラッピングされたチョコを買いに行く姿は想像できないけど……でも、もし上げたら一ノ瀬さん喜ぶんじゃないかなぁ。買いに行くの付き合おうか?」
「うっ……男二人で買いに行くのか?」
物凄く嫌そうな顔をする呉羽。真澄もまた苦笑いした。
「あー、何ならいっその事、一ノ瀬さんと一緒に買いに行っちゃえば? 一ノ瀬さんに好きなの選んでもらいなよ。別にサプライズでなくても、一ノ瀬さんだったら手放しで喜ぶと思うし」
「………」
またもや考えてみる呉羽。確かに、ミカであれば喜んでくれそうである。
「でも、ミカは多分手作りで来る筈だしな……」
「あ、そっか。そうだよね……うーん、じゃあ如月君も手作りすれば?」
「……うーん……」
「あっ、これもいっその事、一緒に作っちゃえばいいんじゃないかな。一緒にキッチンに立って……ハッ! 今、その光景を物凄い想像しちゃった! しかも凄いバカップルぶりで!
二人して新婚ごっことかしちゃってさ。うわっ、しゃれになんない! しゃれなんない位のバカップルぶりだよ!」
「………」
呉羽は無言である。
何故なら、既に経験済みであったから。
「……日向、そういうお前はどうなんだよ」
「へ? 何が?」
「お前は、その逆チョコってやつはしないのかよ」
すると真澄は、笑い飛ばしながら、
「えー、俺? 如月君、俺が一ノ瀬さんにチョコあげてもいいの?」
「はっ!? いー訳ねーだろ!」
またもやバンと机を叩いた。
「じゃなくてだなぁ、薔薇屋敷にはやったりとかしねーのかよ!」
すると、真澄はキョトンとして、「へ? 何で?」と言った。
「俺なんかが薔薇屋敷さんにあげたら、薔薇屋敷さんに怒鳴られそうだよ。“あなたのような方にチョコなど貰いたくはありませんわ!”とか言って」
確かに言いそうではある。いや言う、と呉羽は思った。
(絶対照れ隠しとかで言いそうだよな、そんな台詞)
*********
その日の放課後、互いに昼休みの事を話す呉羽とミカ。
「うーん、それは……日向君は乙女ちゃんの事を何とも思ってないんでしょうか……」
「いや、でも……何とも思ってない奴にクリスマスのプレゼントやるか? しかも手作りだぞ?」
「それもそうなんですけどねぇ……」
「つーかさぁ、昼休みに何やってたんだよ。ピーちゃんが正じぃにチョコ渡した事で時間全部使ってんじゃねーか」
「ウフフ、呉羽がピーちゃんって言うと、なんか可愛いです♪」
「ばっ、んなからかうなよ!」
真っ赤になる呉羽。そんな呉羽をニコニコと見ているミカ。互いに手を繋ぎながら歩いてゆく。
「あー、でも、私も呉羽にあげるチョコの事何にも考えられませんでした。ごめんね、呉羽……」
シュンとするミカに、呉羽はチラリと視線をよこした。
「駄目だ。ゆるさねー」
「えぇ!?」
「キスしてくれたら許すかもな」
ニヤッと笑う呉羽。
「ふえぇ!?」
「ほら……」
少し屈んで、顔を寄せて来る呉羽に、ミカは「お、俺様です……」と呟きながら、観念したようにチュっと唇を押し付ける。
直ぐに離れるミカに、呉羽は不満そうな顔をした。
「そんなんじゃ足りねーよ」
そう言うと、ミカの手をグイッと引っ張り、その唇に噛み付くようにキスをする。
「んんっ!」
たっぷりと深く長い口付け。
その柔らかな唇を堪能した呉羽は、ポーとした顔でキスに酔っているミカに甘く囁く。
「バレンタインも、チョコよりミカが食いたい……」
「~~っ!!」
真っ赤になって俯くミカを見て、呉羽は嬉しそうな顔をする。
「なぁ、ミカ。逆チョコって知ってるか? 日向が教えてくれたんだけど……」
そう言って、呉羽は真澄に教えてもらった事を説明すると、
「一緒に買いに行くか?」
ニッと笑って、ミカの手を引き歩き出す。
すると、パッと顔を輝かせたミカは、満面の笑みを浮かべた。
「うわぁ、私男の子からチョコ貰うの初めてです。嬉しいな」
それを聞いた呉羽は、フッと笑って意地悪そうに囁きかける。
「ミカはオレの事食いたくねーの?」
「っ!! もうっ、呉羽のえっち!」
ミカが真っ赤になってそう喚くと、呉羽は声をあげて笑ったのだった。
「ただいま」
ミカは玄関を開け、自宅に帰ると、リビングに父、大和とその友人の晃の姿があった。
「おおー、お帰りミカたん!」
「お帰り、ミカ」
「ただいまです、晃さん」
「ガーン! ミカたんパパにご挨拶は!?」
「あ、待ってくださいね、今お茶とお茶菓子出しますから」
「ああっ! 無視されたぁ! 酷いやミカたん!」
冷たい娘の態度に、ウルウルと涙を流す大和。
その隣で晃が、慰めるように肩を叩いている。
だが、ミカが戻る頃には、ケロッとしていた顔で、ミカにこんな事を尋ねた。
「そーいやミカたん。今年のバレンタインは、あの純情少年にあげるんだろ? ちゃんと用意はしてるのか?」
「何で父にそんな心配されなくちゃならないんですか」
「だって、ミカたんにとって、初めての恋人にあげるチョコだろ? だったら、何か特別な事しなきゃだろ」
ミカはパチクリと瞬きをして大和を見た。以外にまともな事を言ったので、ミカは吃驚していた。
「特別ですか?」
「おう! 恋人同士になって初めてのバレンタインだ。何か記念になるような事、した方がいいんじゃないか?」
「ほうほう、記念ですか」
「ミカ……あんまり大和に踊らされるな……きっとろくでもないぞ……」
「んまっ、そんな事はナッシングよ。それに、少年も絶対に喜ぶ事間違いなしだ!」
「本当ですか?」
喜んでくれると聞いて、ミカはキラキラと目を輝かせた。
そして、そのまま話を聞くことにした。
「まずはな、ミカたん。少年に好きな動物を聞くんだ」
「動物……ですか?」
「そーだ。んでな、少年の好きな動物を例えば猫としよう」
「フムフム……」
「そこでだ! 猫耳メイドに扮して、“ご主人様の為に作ったチョコ、食べてニャン”とか言ってだな……」
「………」
「おまけに、そのチョコをこう、胸の間に挟んで、“どうぞ召し上がれ♪”何つって。
男ってのはなぁ、ミカたん。おっぱいが大好きなんだー!!」
スパターン!!
「あだっ!」
ミカはスリッパを脱ぎ、思い切り大和の頭を叩いた。
大和は頭を押さえつつ、ミカを涙目で見る。
「酷いやミカたん。本当に男はおっぱいが好きなんだぞ。純情少年も例外なく好きだぞ」
「勝手な事言わないで下さい! 呉羽は違うもん!」
プリプリと怒るミカに、大和も同じようにプリプリと怒りながら、
「なにおう! いいかぁ、男はなぁ、一におっぱい二におっぱい、三、四もおっぱい、五もおっぱい。頭の中はおっぱい祭りなんだー!!」
「そんなの、父だけです! ねぇ、晃さん!」
「晃! 晃もおっぱい好きだよなぁ?」
ミカと大和に同意を求められ、お茶を啜りながら困ったように笑うと、
「うーん、嫌いじゃないけど、大和が言うほどでもないなぁ……」
「う、裏切りものー! 晃、お前もオレと一緒に“おっぱいギャラクシー”プレイしてたじゃないかぁ!」
「あれは、大和に無理やり付き合わされただけだろう……しかも、俺の家に上がり込んで、俺のPC使って」
「父、サイテーですね!」
意気込んでそう言ったミカ。大和は泣きそうになりつつ、次の提案を出す。
「ううっ、じゃあこれはどうだ? 宝探しなんてのは」
「宝探し?」
「そう、男ってのは、いつだってトレジャーハンターさ!」
「まぁ、男の子はそういうの好きそうですよね」
「だろ? そこでだ! 少年をミカたんの部屋に呼んでだなぁ……十秒間後ろを向いてもらう。そして、その間にチョコを隠して、“チョコどーこだ?”って言うのだ!」
「おおっ! それは中々面白いかもしれません。呉羽も楽しんでくれるかもだし。何より、父にしてはエロくないのがいいです」
ミカは大和を見直したというように見やる。
しかし、大和はフッと笑うと、チッチッチッと指を振った。
「誰がエロくないと言ったかな、ミカたん! さっきも言ったとおり、男はいつだってトレジャーハンター! いつだって、女体の神秘について探求し続けているのさ!
つまりは、チョコを隠すのは、ミカたんの服の下! 女体の神秘を探求しつつ、チョコも探してWの楽しみを――……」
「父、サイテーですね!」
「なにおう! 晃だって女体の神秘を探求したいよなぁ?」
「もう! 晃さんに何聞いてるんですか! そんな事しませんよねぇ、晃さん!」
またもや話を振られ、晃は困った顔でお茶を啜り、ポリポリと頬を書きながら何処かすまなそうに、
「まぁ、男なら探求したいかな……」
「そらみろ!」
得意満面な大和と、ショックを受けるミカ。
「そ、そんな! 晃さんのえっち!」
「何を言うか! ミカたん、男は皆えっちだぞ! 少年だって例外なくえっちなんだぞ!」
「そんな事ないもん! 呉羽は、呉羽はえっちじゃ……えっちじゃ……」
ここで言葉をにごらせ、何やら思い出している風のミカ。そして顔を真っ赤にすると、指をイジイジとしながら、
「……えっちかなぁ……」
「そらみろ! 純情少年だって、心の中はそれはもうエロエロ……って、ちょっと待てぃ! 何、ミカたん? 純情少年にえっちな事されたのか!?」
「そ、そそそそんな事ないですよ? た、ただちょっと、時折そうかなぁって思う時が……」
「ハッハッハッ! そうかそうか、やるな少年! これはもう、純情少年とは呼べないな! ここはそうだな……むっつり少年と呼ぼう!」
「いや、大和……普通に呉羽君と呼べばいいだろ……」
「そうですよ! そんな変な呼び方しないで下さい!」
そう言って、プリプリと怒って、リビングを後にするミカ。こうやって、ミカと大和の親子の間に、また溝は深まるのだった。
その後、自分の部屋に戻ったミカ。制服を脱ぐと、クローゼットを開け、服を取り出す。
メイド服であった。
他にも色々と際どい物が並んでいたりする。父、大和がお土産と称して置いていった物であった。
結構高いものなので、捨てるには忍びなく、かといって絶対に着たりはしないのだが、こうして捨てずに置いてあるのだ。
そして、手に取ったメイド服を、鏡の前で自身に当ててみる。
「ご主人様、チョコ食べてニャン」
小首を傾げて可愛く言ってみた。
だが次の瞬間、ハッとして「イヤイヤイヤ、や、やらないもん!」と言いながら、バッと服を体から離し、クローゼットの中に投げ込むと、バタンと閉めた。
そして、クローゼットの隣にある箪笥から、今度こそ部屋着を取り出す。
ふと、試しに自分の胸を寄せてみた。
「………」
余裕で何かを挟めそうであった。
「いや、やんない! やんないよ!」
またハッとするミカ。誰に言うでもなしに、ブンブンと首を振る。
そしてちゃんと服を着て、机の前にやってくると、小物入れにしているクッキーの入っていた箱を手に取った。
これ位の大きさなら、服の中に隠せそうである。
「ハッ! だからやんないってば!」
大和のせいで、悶々としてしまうミカであった。
「あ、呉羽ー。携帯鳴ってたわよ」
風呂上り、タオルを頭に被って、リビングにやってきた呉羽に音羽が言った。
「あー、やっぱここに置き忘れてたか……」
「ウフフー、ミカちゃんからみたい」
「勝手に見んなよ!」
「やーねー、中は見てないわよー」
呉羽は音羽から携帯を受け取ると、さっさと自分の部屋に戻った。
そして、携帯を開き見てみると、ミカからのメールが三件ほど着ていた。
件名には『つかぬ事をお聞きしますが……』とあり、本文にはこんな事が書かれていた。
「は? 動物は何が好きですか? 何だいきなり?」
意図が掴めず次のメールを見てみる。
件名は『再びお聞きしますが……』となっており、内容は……。
「は!? 宝探し?」
そこには『宝探しはお好きですか?』と書かれていたのだ。
そして次を見てみると、件名は『呉羽は……』となっていて、
「チョコは挟んだ方が好きですか……? ああ、バレンタインの事を訊いてんのか」
フッと笑う呉羽。挟むと言うのはケーキか何かの事だと思ったようだった。
「でも動物って……チョコになんか関係あんのか? それに宝探しって……隠すのか? チョコを?
まぁ、ミカがくれるんなら何でもかまわねーけどさ……」
自分の為に色々と考えてくれているのだなと思うと、何だか照れくさく思う呉羽。
その時、携帯にメールの着信が鳴った。見ればまた、ミカからのメールであった。
「またミカからだ……えーっと……ブッ!! はぁ!?」
呉羽は思わず噴き出した。
そこに書いてある文を読んで驚愕した。
『おっぱい好きなんですか?』
そこにはただ一言、そう書いてあった。
「ちょっと待て。この流れでこの質問は何なんだ!? ってゆーか、何、もしかしてオレ、普段からそんなにミカの胸ばっかり見てんのか!?
いや、確かにミカの胸はでかくて形は綺麗……って、何言ってんだオレ!」
ガーッと頭を掻きむしる呉羽。
ミカの質問の真意が全く掴めず、返信もどう返したらいいのか悩み続ける呉羽であった。
*********
「お、お嬢様!? 何をなさっておいでで?」
薔薇屋敷家の専属コックの彼は非常に困っていた。
何故ならば、調理室を乙女によって占拠されている為である。
夕食は終わっているのだが、明日の朝食に向けての仕込がまだ残っているのだ。
「バレンタインに向けてのチョコ作りですわ! 本格的にお姉さまに教わる前に、予行練習していますのよ」
「チョ、チョコでございますか?」
彼は額に汗などを浮かべながら、コンロの上の鍋を見る。
何故寸胴鍋なのだろうか。
それに、乙女の執事の杜若は何処だろうと見回す。
彼は調理室の前の廊下に立っていた。
「な、何故ここにいるんですか?」
料理長は尋ねた。
彼に止めてもらいたかった。
しかし、
「それは、お嬢様に入ってくるなと言われたからです」
「ううっ……」
料理長の望みは費えた。吏緒はそんな彼に顔を近づけ念を押す。
「くれぐれもお嬢様の邪魔はしないよう。お嬢様は本気です」
「は、はい……」
その顔はとても綺麗だが、人形のように無表情で物凄く怖かった。
料理長は調理室に戻って衝撃的な場面を見た。
「ああっ! そんな直接お湯の中に!?」
最高級ベルギー産のチョコレートが、ぐつぐつと煮だった湯の中に落とされてゆく。
それに、あの脇においてある黒く山盛りになっている物は何であろうか。
「お、お嬢様? その黒い物はもしかして……」
「ええ! あんこですわ! だって、あんこ系の和菓子が好きと言ってましたものね。職人が、練りに練ったあんこですわ!」
乙女はそれを惜しげもなくどぼどぼと投入してゆく。
「ああっ!!」
料理長にとってはそれは拷問であった。
まさに料理に対しての冒涜。今すぐ乙女を止めたい。
しかし、そんな事をすればここをクビにさせられてしまうだろう。我慢するしかなかった。
そして乙女は更に、そこにブランデーをどぼどぼと入れ、何故か醤油も入れた。
何やら強烈な匂いが漂ってきた。
「後は仕上げに、これを入れなければですわね!」
乙女はそう言って、何処か頬を赤らめながら、ボウルいっぱいの苺を出す。
「とち乙女ですわ……」
ウフフと照れた様に笑いながら、それも更にズザザッと鍋の中に入れていった。そして鍋の中をかき回してゆく。
その後姿は正に、魔女そのものであった。
鍋の中は既に、黒くどろどろとして訳が分からなくなっている。
調理室の中は、甘ったるく、酸っぱい様な焦げ臭い様なそんな匂いが充満していた。
流石に、そんな匂いがするのは可笑しいと思ったのか、眉を顰める乙女。
鍋を覗き込みながら、
「……何故酸っぱい匂いがするのかしら? 確か酢の物系の酸っぱい物は苦手と言ってましたわよね……。
そうですわ!酸っぱいという事は酸性という事ですわね! 酸性を中和させるにはアルカリ性ですわ! 理科で習いましたもの。
さぁ、アルカリ性の物は何処かしら?」
もう既に、料理ではなく理科の実験になっていた。
その後乙女は、アルカリ性洗剤を見つけ出して鍋に入れようとして、料理長に必死になって止められていた。
「やっぱりお姉さまに聞かなければ駄目ね。途中までは良かったと思うのですけど……やはり、あんこはつぶあんの方がよかったのかしら……」
うーんと悩む乙女であったが、最初から何もかもが間違っていたのだと言いたくて仕方がない料理長。しかしクビにはなりたくないので黙っている。
乙女はやっと作る事を諦めたのか、鍋の火を止めた。
「邪魔をして悪かったわね。お詫びにその鍋のチョコはお前にあげますわ」
「ひぃっ」
「まぁ、日頃美味しい物を作って貰っているお礼ですわね」
そうして乙女は去っていった。
果たして、この鍋の中身をそう処分するか、悩みまくる料理長であった。
「お嬢様、チョコの方はいかがでしたか?」
外で待機していた吏緒。出てきた乙女にそう訊いた。
「途中までは良かったのですけど、やっぱりあんこはつぶあんの方がいいという結果が出ましたわ」
「………」
吏緒は黙っている。
中で起きた惨事を、何となくだが感じ取っていた。
何故なら、ここまで漂っているのだ。この甘ったるく、酸っぱいような焦げ臭いような匂いが。
しかしながら、吏緒は余計な事は言おうとはせず、乙女にこんなアドバイスをした。
「あんこでしたら、生クリームと混ぜたらいかがでしょうか。そこにココアを混ぜてカカオの風味を取り入れるのです。後は生チョコと組み合わせてもいいかもしれませんね」
すると乙女は、ぱちぱちと瞬きをして、ポンと手を打った。
「生クリーム! そう、生クリームですわ! わたくしったら、さっき生クリームを入れるのを忘れてましたわ!」
「………」
またも無言になる吏緒。
暫し固まっていたが、やがてにっこりと笑って、
「では、ミカお嬢様と一緒に作る際は、忘れないようになさいませんと」
「ええ、そうね! その通りだわ!」
頬を薔薇色に染め、嬉しそうに頷く乙女。
鼻唄などを歌いながら、軽い足取りで自室へと向かう。
「おほほほ! わたくしのチョコで、あまりの美味しさに気絶させて上げますわ、日向真澄!」
「ぶえっくしょい」
読んでいた雑誌から顔を上げ、やたらと親父くさいくしゃみをしてしまった真澄。おまけにブルリと悪寒が走った。
「ううっ、何だろう。風邪かな?」
今回、ミカと呉羽の話がメインになってしまいましたね。しかも、ミカ父、大和が、またおバカでエロな発言を……。
ミカ、着るのかな。メイド服……。
そしてそして、真澄危うし! まさに凶器の乙女のチョコです。
次回でこのお話し終るかな?
果たして、乙女と真澄はどうなるのか? カップルになるのか?
お楽しみに!