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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第十章 コウタ、また増えた新たな仲間とともに僻地で訓練に励む』

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第十一話 コウタ、絶黒の森の北の端でモンスターと意思疎通を試みる


 コウタとカークがこの世界で目覚めてからおよそ八ヶ月。

 コウタたちは、絶黒の森の北側を探索した。

 虫系モンスターと植物系モンスターの群れを蹂躙して一泊、ようやく奥地にたどり着いた。

 北側の山のすそ、崖の手前の開けた空間にいたのは、二体のボスモンスターだった。


 見た目は5歳ぐらいの幼女・ドリアードと、蜘蛛の下半身に人間の女性の上半身を持つアラクネである。


 一部を切り取れば幼女と妖艶な女性だが、実態は強大なモンスターだ。

 もっとも、【健康】なコウタに攻撃は効かなかったが。


 体の各所を枝や蔓に変化させて、全身でコウタに絡みついていたドリアードは満面の笑みを浮かべている。

 力の差を感じたアラクネは、蜘蛛部分を縮こめて人間部分はひれ伏している。

 そんな一人と二体を見て、現れた希望の鹿(ホープネス・ディア)(おのの)いている。


 女神に授かったコウタの【健康】は、ボスモンスタークラスから見てもズルいほど強力(チート)なスキルらしい。


「えっと……なんだろこれ……とりあえず、離れてくれるかな?」


 いまだにコウタにくっつくドリアードにコウタが話しかける。

 先ほどから何度も三体のモンスターに声をかけているが、モンスターが返事することはない。

 コウタにスキル【言語理解】があっても、知能が高いボスモンスターであっても、会話できるわけではないのだ。

 だが。


「カアカァ、カアッ!」


 コウタの肩の上のカークが鳴くと、ドリアードは渋々といった様子でコウタから離れた。

 カークはばさっと羽を広げて、三体のモンスターを見下ろす。

 ちなみに、三本足のカラス・カークにもスキル【言語理解】が宿っている。


「ア、アビーさん。お、おらの見間違いだべな。いま、モンスターが、カークさんの言うことを聞いたように見えるんだども」


「見間違い、じゃねえだろうなあ。オレにもそう見えた。頭痛え……帝立魔法研究所のヤツらが知ったらぜんぶ投げ出して駆けつけてくるぞこれ……」


「ま、まあいいことじゃねえか! ほらベル、もう安全になったぞ! ベルの苦手な爪や牙のある獣系モンスターもいねえ!」


「わあ、強そうなモンスターをあっさり倒して従えるなんて! さすがですコウタさん!」


 コウタとカーク、モンスターの戦い?を見ていた巨人族(ギガント)のディダ、逸脱賢者のアビー、先代剣聖のエヴァンは呆れ顔だ。

 大岩に隠れていて事の顛末を知らない荷運び人(ポーター)のベルだけが、コウタを褒め称える。


 絶黒の森の北の端、崖の手前の開けた空間に、ベルの賞賛が虚しく響いた。




「はあ、やっぱり縄張り争いなのか」


「カアッ!」


 コウタが漏らした言葉に、カークは地面をクチバシで指した。

 そこには、「はい」という文字が書かれている。


「二人……二体?で仲良く、同じ縄張りを共有するってことはできないの?」


「カァ、カァー?」


 コウタの質問に続いてカークが鳴く。

 と、ドリアードは髪の毛に生えた葉を揺らしてさわさわと、アラクネはきしゃーと擦過音を立てる。


「カァ、カア」


 カークは、今度は地面に書かれた「いいえ」をクチバシで示す。

 二体のモンスターが縄張りを共有することはできないらしい。


「お、おら、モンスターと話ができるなんて考えたこともなかっただ」


「気にするなでっけえ嬢ちゃん。俺ァ長いことモンスターと戦ってきたけどよ、その俺だって聞いたことねえよこんなん」


「ほうほう、ボスクラスは共存できないと。食事は必要ないはずだから、魔力を独占したい?のかもしれねえな。なるほどなるほど…………ってあああああああ!」


「ど、どうしたのアビー!?」


「いくら【言語理解】があるからって! カークが賢いからって! おかしいだろこんなのぉぉぉおおおお! どうなってんだ神サマぁ!」


 アビーが、頭を抱えてごろごろと地面を転がる。

 見た目幼女のドリアードがきょとと首をかしげて、アラクネの女性部分が申し訳なさそうに目を伏せる。


 絶黒の森の北の端。

 戦いを終えたコウタたちは車座になって、二体のモンスターの()()()()()()()()


 スキル【言語理解】を持つカークが、()()となって。

 カーク、人間とは会話できないがモンスターとは会話できるらしい。カークの【言語理解】は対モンスター用なのか。三本足のカラスが人とモンスターどちらに近いかと言われれば、それはモンスターだろうが。


「あっ。その、俺たち、ここに来るまでに植物系モンスターも虫系モンスターも倒してきたけど……その、ごめん。けど襲われたから仕方なくで、そりゃ縄張りに入ったのは俺たちだけど……」


「カァー。カア、カァ? カアッ?」


 座ったまま頭を下げるコウタ。

 カークの通訳がいつになく長い。


 二体のモンスターの返答音を聞いて、カークは「いいえ」を指した。

 どういう意味の「いいえ」かわからず、今度はコウタが首をかしげる。そもそもYES・NOで回答できる質問ではない。


 アビーのアドバイスを聞いて、何度かやりとりを繰り返して。

 ようやく、コウタと人間組は二体のモンスターが言いたいことを理解した。


「はあ、『配下』『仲間』って意識がないんだね」


「まあ、系統は一緒でも種が違うわけだからな。どっちもだいたい変異したモンスターだったし。これが狼系とか、子供ができる群れだったら話がこじれたかもしれねえけど」


「お、狼系……」


「落ち着くだベルさん、話だけでこの森にはいなかっただ。いたのはあの鹿だけで……つ、強そうだったあの鹿だけで……」


「俺ァ酔っ払ってんのかねえ……絶望の鹿(ホープレス・ディア)がさらに変異した希望の鹿(ホープネス・ディア)が……場違いな三下(さんした)みてえに怯えてるなんてよ……」


 ドリアードもアラクネも、モンスターを倒されたことに思うところはないらしい。


 なお、地面に座るコウタたちと二体のモンスターからちょっと離れた場所には希望の鹿(ホープネス・ディア)がへたり込んでいる。

 コウタたちが話し合う前に、「戦いはおさまったんで? んじゃあっしはこれで」とばかりに去ろうとしたのだが、ドリアードとアラクネに捕まったのだ。

 いまはドリアードのツタとアラクネの糸を絡められて、遠い目をして座っている。


「じゃあ、問題は縄張り争いだけか……」


「なあコータ、オレたちに害がないならいいんじゃねえか? 湖の方まで縄張りを広げたいってわけじゃねえんだし」


「けど、知り合って、こうやって話をしたからさ。喧嘩ならともかく、二人が『殺し合う』っていうのは……」


「いやあ、モンスターまで『健康で穏やかな暮らし』に含めんのは無理だろ。コータの心理的な健康って意味で、殺し合ってほしくねえのはわかるけどよ」


「うん。……人型だしね。ワガママだっていうのはわかってるんだけど」


「まあたしかに、今度来てどっちかが死んでたら目覚めが悪いわな。人型で死んでるとこみちまったらよけいに」


「カァー」


 二体、もとい、三体のモンスターを前にコウタとアビーが通じ合う。カークも同意するように鳴いている。

 一方で、ディダとエヴァン、ベルは二人の考えがわからないようだ。

 この世界の価値観からすれば、コウタとアビーの思考は「常識外れ」なので。


「そうだ! アビー、ちょっと聞きたいんだけど」


「どうしたコータ、いいアイデア思い付いたか?」


 モンスター同士が共存できるアイデアを考える。

 理解できない三人を置いて、コウタとアビーは盛り上がっていた。



 コウタとカークがこの世界で目覚めてからおよそ八ヶ月。

 いまだにこの世界の常識を知らないコウタは、また常識から逸脱したことをやろうとしているらしい。

 常識外れの『逸脱賢者』とともに。

 絶黒の森に常識人はいない。そもそも常識人であれば、瘴気に満ちて強力なモンスターが群れをなす絶黒の森に立ち入らないので。




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