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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第十章 コウタ、また増えた新たな仲間とともに僻地で訓練に励む』

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第七話 コウタ、見張りをしながらアビーに心境の変化を語る


 コウタとカークがこの世界で目覚めてからおよそ八ヶ月。

 コウタはいま、絶黒の森の北側で野営していた。

 先ほどコウタが植物系モンスターを駆逐して安全を確保した場所で。


「拠点よりも、夜が静かだね」


「たしかにな。ほら、あっちは水音がするからじゃねえか?」


「あー、なるほど。海ほどじゃなくても波があるから」


「それと比べたらこの辺は静かだな……不気味なぐらいに」


「カァー」


「はは、カークが鳴くとよけい不気味になっちゃうんじゃないかなあ」


 いくらモンスターを駆逐したといっても、この世界の夜の森が安全なわけではない。

 五人と一羽は、交代で見張りをたてていた。

 いまはコウタとアビーの番だ。あと自ら志願? したカーク。


 荷運び人(ポーター)のベルは運んできた大岩の中ですやすや眠り、ディダは大岩に張ったタープの下で横になっている。巨人族(ギガント)で体が大きく、だいぶはみ出しているが。

 先代剣聖のエヴァンは、大岩の上で座って目を閉じていた。

 モンスターや不審者の気配を感じたら自然と起きるらしい。達人か。達人であった。


 コウタとアビーは、同じ木の正反対に背をつけている。

 木を挟んで背中を向け合っている状態だ。

 火は焚いていない。

 安全なキャンプではなく、外敵のいる場所での野営なのだ。

 目を暗闇に慣らしておかなければ、敵の接近が見えないだろう。達人を除いて。


「なあコータ、聞いてもいいか?」


「うん? なんだろ」


「前も聞いたかもしれねえけどよ……なんで、こっちを探索する気になったんだ?」


「カァ」


「それに、さっきの。いくら『倒せそうだから』っても、コータが自分から『一人で戦う』って言い出すなんてな。どんな心境の変化だ?」


「あー、うん。その話ね」


 コウタは、この世界に来て心身の【健康】を手に入れた。

 だが、積極的になったわけではない。

 なにしろ、八ヶ月経ってもいまだに人里に出ていないほどなのだ。

 ベルが通う辺境の街、ディダの故郷の巨人族(ギガント)の里、すでに所在はわかっているのに。


「俺は、いまの暮らしが充実してるんだ。もちろん不便なこともあるけど……」


「わかる。そりゃオレも、帝都で暮らしてた頃の方が便利だったけどよ、こっちの方が気楽で自然で気に入ってる」


「うん。だから、この暮らしを基本にしたいと思ってるんだ。いつか街に行くことはあると思うけど……」


「なるほどねえ。『健康で穏やかな暮らし』のベースはあの拠点だと。いいと思うぞ」


「ありがとう。けど、だからこそあの場所が安全じゃないとダメなんだ。俺は【健康】だから暮らしていけるかもしれないけど、いまはもう、俺だけじゃないんだし」


「カアカァ、カアッ!」


「はは、そうだね、最初からカークもいたんだった」


「それで、『絶黒の森』に危険なモンスターがいねえか確かめたいってことか」


「うん。俺たちで守れるってなったら……いつカークが、また人を導いてきても困らないし」


「カァー」


「オレやクルトや先代剣聖のおっさんみてえに、強いヤツばっかりとは限らねえもんな。ディダ、ベルだって、さっきのモンスターの群れに囲まれたら無事でいられるかわからねえし」


「いざってなったらクルトのダンジョンに逃げ込めばいいだろうけど……そうなると、穏やかな暮らしはできないだろうなあって」


「たしかに! 毎日アンデッドだらけで陽も当たらねえってなったら気が滅入りそうだな!」


「俺は【健康】で、戦う力を神様にもらった。もらいものの力だしさ、うまく使って、『健康で穏やかな暮らし』を求めてる人と一緒に暮らしていけたらなあって」


「いいんじゃねえか? もともとオレたちはあそこに『村を作ろう』って話してたしな!」


「カアッ!」


「ありがとうアビー。カークも」


 コウタは、あぐらの中で丸くなっているカークをそっと撫でる。

 思いを認められたうれしさからか、顔がほころんでいる。


 コウタは積極的になったわけではない。

 人里に行くこともなく、ガンガン活動するわけでも、剣と魔法のファンタジー世界で大冒険を繰り広げているわけでもない。


 モンスターがはびこる世界でも、健康で穏やかで、平和な暮らしを送りたい。

 コウタの希望は変わらない。

 ただきっと、その希望にひとつ項目が付け加わったのだろう。


 できれば、同じ希望を持った人を受け入れられるように。


 心と体の性別の違いに悩んだアビーのような人を。

 活躍できる場所を探すベルやディダのような人を、傷を負ったエヴァンのような人を。


 積極的になったわけではない。

 だが、精霊樹と小さな湖の拠点でリーダー扱いされるうちに、少し成長したのかもしれない。

 本人に自覚はないようだが。


「コータにカーク、オレ、ベル、ディダにエヴァン。ときどきクルト。なんだかんだ、もう五人と一羽と一体だもんな。もう『集落』って呼んでもいいんじゃねえか?」


「そうかもね。…………そろそろ、名前を付けた方がいいかな?」


「おー、賛成だ!」


「じゃあこの探索で、東西南北ぜんぶの確認が終わって、安全だってわかったら……」


「おう、集落……村の名前を決めるか! コータも案を考えとけよ、初代村長!」


「うんわかっ……村長!?」


「カアッ! カアカァー」


「そりゃどう考えてもコータが村長だろ。まだ『村』って名乗らねえなら……集落長? 里長? 族長?」


「族長はちょっと違うんじゃないかな」


「ディダもクルトもいるからな、言うなら『はぐれ者一族』的な?」


「い、いやあ、それはどうかと」


「場所も考えたら『隠れ里』っぽいしな、村じゃなくて『里』でもいいかも! 『コータの隠れ里』みたいな」


「アビー、それ俺が隠れるための里みたいじゃない? 間違ってはないけど」


「そういう意味じゃなくってだな。隠れ里の由来は、初代里長の名前からです! みたいなさ」


「はあ……ま、まあ、いろいろ考えてみるよ」


「おう! 気負うな気負うな、帰ったらみんなで考えよーぜ!」


「カアッ!」


 木をまわりこんで、アビーがコウタの肩をぽんぽん叩く。

 足元のカークが首をもたげて威勢よく鳴く。

 話しているうちに声が大きくなっていたが、見張りの二人と一羽のほかに目覚めた者はいない。

 大岩のうえのエヴァンは、目を閉じたまま微笑んでいたようだが。



 コウタとカークがこの世界で目覚めてからおよそ八ヶ月。

 はじめてコウタが「無双」した夜は、静かに過ぎていった。




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