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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第十章 コウタ、また増えた新たな仲間とともに僻地で訓練に励む』

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第六話 コウタ、森の北側の探索で植物系モンスターと戦う


 コウタとカークがこの世界で目覚めてからおよそ八ヶ月。

 コウタたち一行は、絶黒の森の北側で野営の準備をしていた。


「コ、コウタさん、大丈夫だか?」


「うん、こっちは心配しないで。みんなはそのまま作業を続けてて」


「危なくなったら声かけんだぞコータ!」


「俺ァやれることも少ねえし、そっち手伝うぞコウタさん?」


「じゃあ、終わったら反省点を教えてほしいかな」


「そりゃ陣形(フォーメーション)は決めてたけどよ、まさかコータが自分から言い出すなんてなあ」


「ふぉーめーしょん『むそー』ですね!」


「はは、ベル、ちょっと発音が違うかな。フォーメーション『無双』だよ。……自分で言うのは恥ずかしいけど」


「カァッ!」


「ありがとうカーク。行ってくる!」


 そう言い残して、コウタは野営予定地から離れていった。


 カークが虫系モンスターを蹂躙してから数時間。

 その後、北に進んでいく間もモンスターの出現は続き、日は傾いてきた。

 森の中に開けた場所を見つけてコウタとアビーが「ここをキャンプ地とする!」と宣言し、一行は野営の準備をはじめた。


 はじめたが、そこでカークと、コウタの腰に巻いた紐——共生関係にあるイビルプラント——が気づいたのだ。


 周辺の木立や、下草に植物系モンスターがいると。

 獲物が近寄ってくるまで普通の植物擬態しているため気づきにくいが、前方の野原や奥の森は植物系モンスターの巣になってると。


 モンスターを討伐してから休むか、とアビーが提案したところで、コウタは「一人で片付けてくる」と一行に伝えた。


 夕暮れが迫る野原を、黒い剣を手にしたコウタが駆けていく。

 心配そうに見つめていたアビーとディダは、無理やりに視線を切って野営の準備をはじめる。

 一人突出するコウタを見つめるのは、先代剣聖にしてコウタに戦い方を教えたエヴァンと、相棒のカークだけであった。

 アビーとディダが薄情なのではなく、いざとなればカークとエヴァンがフォローしてくれるだろうという信頼の現れである。


 なにより、コウタへの。


 フォーメーション『無双』。


 それは、神様から授かった(チート)スキル【健康】と斬れ味鋭い鹿ツノ剣を頼りに、コウタが一人で敵陣に突っ込む陣形である。陣形か?


「たあああああ!」


 気の抜けた掛け声で、コウタが黒い剣を振りかざして走っていく。


 森の中の開けた場所——野原の中央——に差しかかると、擬態していた植物系モンスターがいっせいに牙を剥いた。


「わっ!」


「気にすんなコウタさん! 訓練を思い出せ! コウタさんはどんな攻撃だって傷つかねえんだ、囲まれたらとにかく大きく! 剣を振れ!」


 食人植物(マンイーター)がのっそりと蔓をもたげ、下草はイビルプラントで、瘴気のなか花を咲かせているのは幻惑花(ラフレシア)

 先に見える木立は、トレントに生きている蔦(リビングアイビー)が絡みついている。


 穏やかに見える景色は、天然の植物系モンスターハウスだったらしい。


「……これ、野営場所変えた方がいいんじゃねえか?」


「大丈夫ですよアビーさん! 群れがいるってことは、ほかのモンスターは近づかないってことですから!」


「そ、そうかもしれねえだども。小さい人間はすごいこと考えるだなあ」


 ベルの大岩にロープをかけて、野営用のタープを準備していた三人は呑気なものだ。

 だが責められることではない。


 なにしろ——


「カア! カァ、カアッ!」


「教えといてなんだけどよ、理不尽すぎるだろコウタさん……」


 ——フォーメーション『無双』の名前通り、コウタは一人で無双していた。


 幻惑花(ラフレシア)の幻惑は効かず、根元から刈り込む。

 イビルプラントと食人植物(マンイーター)生きている蔦(リビングアイビー)の蔓や蔦に拘束されることもなく剪定する。


 開けた空間にいた植物系モンスターをあっさり蹴散らして木立にたどり着く。

 トレントが打ち付ける枝も、串刺しにしようと足元から飛び出す根も気にしない。

 傷ひとつ受けることなく伐採する。


 無双ではあるが、まるで開拓だ。

 この八ヶ月間、コウタが拠点近くで励んできた通りの。



 コウタが小一時間も剣を振るうと、植物系モンスターはあっさり壊滅した。

 ダメージはない。

 コウタは息さえ乱れていない。

 なにしろ【健康】なので。


「これでぜんぶかな?」


 コウタの問いかけに、腰に巻いた味方イビルプラントが空中をグルグルうねって、元の位置に戻った。

 どうやら「まわりに敵はいなくなった」と表現しているらしい。


 コウタ、無双達成である。


 ちなみに「無双」という言葉の意味はベルやディダ、エヴァンも理解できたものの、カークが蹂躙するフォーメーションCの「C」は通じなかった。

 まあ、作戦名が意味の違う単語や理解できない語句で名付けられることなどよくあることだ。

 首こそ傾げられたものの、カークのCはCのまま陣形(フォーメーション)の名前に採用されていた。


「どうだった、エヴァン? 直すところはいっぱいあると思うけど……」


「なァに、敵はいなくなって命があるんだ、なんの問題もねえよ!」


「そ、そういうものかな」


「おう! だから胸張れコウタさん! これだけの群れ相手に一人で『無双』できるヤツァそうそういねえぞ!」


「カアッ!」


「…………ありがとう、エヴァン。カークも」


「『もっと強くなるために』ってんなら変えた方がいいこともあるけどよ、その辺は帰ってからでいいだろ!」


 植物系モンスターの討伐——あるいは開墾——を終えて、コウタは仲間のもとに戻ってきた。

 さっそく、戦い方を教えてくれたエヴァンに反省点を確認する。

 無双したのに自信はないらしい。自己評価が低いのか。


 エヴァンに肩を叩かれて、カークの「よくやった!」とばかりの称賛に、ようやくコウタが笑顔を見せる。


「お疲れコータ! いやー、すごかったぞ!」


「んだ! こう、ばっさばっさモンスターを斬って、憧れるだ! おらああいうのはできねえから」


「まるで勇者さまみたいでした! 倒したモンスターは僕が【解体】しておきますね!」


「ありがとうベル。…………勇者みたい? 俺が……?」


 ベルはさっそく植物系モンスターの残骸に向かった。

 荷運び人(ポーター)は荷を運ぶだけでなく、モンスターの解体や素材採集の手伝いをするものらしい。ベルの中では。あるいは、ベルが育った荷運び人(ポーター)の村では。


「ほれほれ、さっきエヴァンも言ってたろ? モンスターを倒して生き残りゃ勝ちで、いまは胸張って自慢すりゃいいんだよ! 深いことはあとで考えるってことで!」


「そうだね、うん」


 納得したコウタに、アビーも笑顔を見せる。

 アビーは小声で「あとでベルに話聞いとくか」などと呟いているがコウタには聞こえなかったようだ。



 コウタとカークがこの世界で目覚めてからおよそ八ヶ月。

 連携や戦い方を確かめながら、絶黒の森の北側の探索は続く。



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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、なんということでしょう。人に迷惑かけない地域で平和に生きていた種族が一方的に駆除されるとは 闘いにもならない相手だと主人公の方が悪役に見えてしまうw
[一言] 勇者がコウタに勝てるわけ無いだろ! 【健康】って防御力が上がる系じゃなくて、 状態が絶対に変わらないスキルだから防御力を無視できるようなスキルでは、攻撃が通る通らない以前の問題になりそう。 …
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