第二話 コウタ、仲間と話し合って森の北の探索の準備をはじめる
コウタとカークがこの世界で目覚めてから七ヶ月と三週間。
精霊樹と小さな湖のほとりの広場に、絶黒の森で暮らすメンバーが集まっていた。
「こうして見ると、増えたなあ」
「カァー!」
「コータ、カーク。そんでオレが来て、ベルを見つけて、クルト、ディダ、そんでおっさん。六人と一羽か」
「まだ村っていうには少ないけどね」
六人は切り株や木の幹を伐り出してイスにしていた。
カークはコウタの肩の上だ。
クルトは骨の姿ではなく、痩せこけた壮年の男の姿で座っている。
不在にすることが多いベルもいて、エヴァンはめずらしく素面だ。
「それでコータ、話ってなんだ?」
「うん。いますぐのことじゃないけど……森の北側を、探索したいんだ。できればみんなで」
みんなを集めたのはコウタだ。
コウタはおずおずと話を切り出して、住人たちの顔をチラ見する。その肩でカークが睥睨する。
だが、コウタの不安をよそに、五人は「なんだそんなことか」とでも言いたそうな顔だった。
「なんだそんなことか」
「え? アビー?」
「いいんじゃねえか? ちなみに、コータはなんで探索したいって思ったか聞いていいか?」
「俺たちは『健康で穏やかな暮らし』を目指して村を作ってるわけで。でもそれは、『安全』じゃないと難しいと思うんだ。この世界じゃ難しいかもしれないけど」
「カアッ!」
「いいと思うぞ。前回は途中で撤退したかんな、今回はリベンジだ!」
「うん、アビーは一緒に行ってほしい。エヴァンの家ができるのが遅れて申し訳ないけど……」
「ははっ、心配いらねえよコウタさん。俺ァ身一つでここまで旅してきたんだ、マントがあって水と食料があって、雨風避ける場所がある。上等すぎる野営場所だァな」
コウタが畑仕事や開拓を日課にしているように、ほかの五人も日々仕事に励んでいる。
アビーは、魔法による建築が担当だ。
スキル【木工】を持つディダとともに、家を建て、簡単なシャワー室、トイレなど、共同設備も建て増してきた。
素人大工にしては手慣れてきて、それなりの建物を作れるようになっている。
いまは先代剣聖・エヴァンの家の建築中だったが、エヴァン本人は遅れても問題ないようだ。
ちなみにアビーの家は完成して、ベルは大岩、ディダは大木に布を張ったテントで生活している。
コウタの立派な犬小屋も含めて、それぞれ落ち着く空間に違いがあるのだろう。
「今度は僕も行きますよ、コウタさん!」
「ベル? けど、ベルは『戦えない』わけで」
「はい! でも僕は荷運び人です! みなさんが倒したモンスターを【解体】して【運搬】しますね!」
「……ありがとう。ベルが来てくれれば、探索の期間を伸ばせそうだ」
アビーに続いて、ベルも探索に乗り気だ。
モンスターの出る危険な場所への探索行。
荷運び人の真価が問われる役割にワクワクしている。
「おらも行くだ。あんまり役に立たねえかもしれねえけども」
「いいの? 湖に魚の養殖場を作るんだーって張り切ってたけど」
「養殖場を作るにはまだまだ時間がかかるだ。みんなが危ねえ場所に行くなら、おらが守るだ!」
「【健康】な俺はともかく、アビーやベルに盾役がいてくれるとありがたいよ」
「ありがたい……へへ、おらが役に立って……えへへへへ」
「よろしくお願いします、ディダさん」
「頼んだぞディダ! 心配すんな、オレも『魔力障壁』を張ってサポートすっから!」
照れ笑いするディダの肩をぽんと叩くアビー。ベルはぺこっと頭を下げる。
巨人族の中では小さいと言っても、ディダの身長は3メートル超だ。
巨大な盾を構えれば、迫力のある壁役となることだろう。
ディダはいま、アビーの手伝いのほかに、二、三日おきに湖で漁をしている。
空き時間には木材を加工して日用品を作ったり、湖に魚の養殖場を設置するべく、木の杭や網を準備していたりする。
一番やることが多いのはディダかもしれない。
「聞くまでもねえな。俺ァ行くぜ、コウタさん。体の調子は実戦で確かめねえとな!」
「頼りにしてるよ、エヴァン」
「ふむ。では我はこの地を守るとしよう」
「クルト? エヴァンが行くんなら、モンスターと戦ってみて義手がどうなのか見た方がいいんじゃない?」
「なに、今後いくらでも機会があろう。調整も、研究さえもまだまだ途上ゆえな」
「なるほど」
「それに、この地を守る者が誰もいないのは問題であろう」
「そっか、そうだね。いままであんまり気にしてなかったなあ」
「瘴気あふれる絶黒の森は人間を阻んで、精霊樹の清浄な魔力はモンスターを阻む。けどまあ、たしかに誰もいないのは危ねえか」
「うむ。今後は我が配下のアンデッドを調整しておくにしても、今回は間に合うまい」
「ありがとう、クルト」
森の北側を探索するため、コウタたちが長期間離れる。
そう聞いて、クルトは残ることに決めたようだ。
そもそもクルトはこの地ではなくダンジョンで暮らしているのだが。
メンバーは決まった。
クルト以外の、精霊樹のふもとで暮らす住人全員である。
「どうすんだコータ、さっそく明日にでも行くのか?」
「ううん、今回はちゃんと準備しようと思って。アビーとベルと、エヴァンもかな? 長期の探索に必要な物を教えてほしいんだ」
「カァ……カア、カア?」
コウタがちゃんとしてる、だと?とでも言いたげにカークが鳴く。ツッコミはない。カラス語は誰もわからないので。
「それと、アビーとエヴァン、できればクルトもかな、戦い方の相談をしたいんだ。モンスターのいる場所を、みんなで行くわけだから」
「カッ、カア!?」
ウソだろコウタどうした!?とばかりにカークがつぶらな瞳をコウタに向ける。失礼なカラスである。
「おっしゃ、任しとけコータ! 『逸脱賢者』の腕、じゃねえな、頭が鳴るぜ!」
「ええ……? 頭って鳴るの……?」
「パーティの連携か。俺ァずっと一人で戦ってきたかんな、助言程度で一人一人の戦力増強に努めた方が良さそうだ」
「よろしくお願いします、エヴァン」
コウタはぺこっと頭を下げた。
東は死の谷に続き、南はクルトがいたダンジョン。
西は険しい山脈につながり、越えれば海や巨人族の里がある。
コウタは、残る北エリアの本格的な探索をはじめるようだ。
今度は物も戦い方も心構えもきちんと準備して、長期間の探索を。





