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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第九章 コウタ、流浪する先代剣聖と出会って戦い方を教わる』

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第十話 コウタ、アビーが「鑑定」したエヴァンのスキルに右往左往する


 コウタとカークがこの世界で目覚めてから七ヶ月。

 精霊樹に祈りを捧げた先代剣聖・エヴァンは、精霊樹の実(アンブロシア)と大小様々な枝を得た。

 それと、よく熟した果実も。

 エヴァンは「この果実で神酒(ネクタル)を作るんだ」と息巻いているが、元々の願いはそこではない。


「よっしゃ祝酒(いわいざけ)だ、最後の一本も開けちまおう!」


「あ、まだお酒持ってたんですね。さっきもったいなさそうにしてたからアレで終わりかと思ってました」


「どんだけだおっさん。酒はほどほどにしろよ」


「仕方あるまい。アビー殿、『鑑定』してみればその理由も理解できるであろう。おそらく、であるが」


「お酒ですね! じゃあ僕、今度街に行った時はお酒も買ってきます!」


「そっか、俺はあんまり飲まないからわからないけど、欲しい人は欲しいよね」


「待て待てコータ、ベルも。この様子だと、酒を買ってきたらあるだけ飲んじまうんじゃねえか?」


巨人族(ギガント)の里にも酒はあるだども……おら、まだ里に帰る気はねえだ」


 コウタたちはあまり酒盛りに興味がないらしい。

 テンションが高いのはエヴァンだけだ。


「お、おう? なんだ、(あん)ちゃんたちは酒飲まねえんだな。……待てよ?ってことは神酒(ネクタル)造れたら独り占めできるってことか!?」


「カァー」


 酔っ払いの興奮は止まらない。

 カークもどこか呆れたような声で鳴いている。


「ちょっと落ち着いて、エヴァンさん。お酒造りや調達の前に、アビーに見てもらった方がいいと思うんだ」


「『見てもらう』? なんだ、嬢ちゃんはお医者サマだったのか?」


「ちっと(ちげ)えな。『鑑定』でオレが見るのは怪我や病気じゃねえ、人の本質や才能、体の状態ってとこだ。見ていいか?」


「あン? まあよくわかんねえけどな、隠すことはなんもねえ! 頼むぜ嬢ちゃん!」


「なんだか不安になるなこのノリ……まあいいけどよ」


 とりあえず了承は得た。

 アビーは切り株イスから立ち上がり、杖を手に取って構える。

 ローブの袖から白く細い手首が覗く。

 革紐で一つに束ねた金髪が揺れて。


「『鑑定』ッ!」


 叫んだ。

 アビーがじっとエヴァンを見つめる。

 コウタとカーク、ベルが静かに見守り、うしろでこっそりクルトも『鑑定』をかける。


 そして。


「んん? なんだこりゃ」


「どうしたのアビー?」


「カァ?」


 ぽつりと呟かれたアビーの言葉に、コウタとカークが結果を()かす。


「一番レベルが高いのは【剣術】だ。コウタの【健康】やオレの【魔導の極み】ほどじゃねえけどめちゃ高い。最高レベルの10って言っていいんじゃねえか?」


「おー、さすが剣聖! 剣術を極めてるんだね!」


「けど、たぶん才能を示してる【武の極み】ってヤツはそこまででもねえ。そうだなあ、6ってとこか」


「へえ、じゃあ天才型じゃなくて努力型なのかな。それで【剣術】を最高レベルまで鍛えたってエヴァンさんすごいなあ」


「へへ、ありがとよ兄ちゃん。よくわからねえけど」


「酔っ払いが努力型って信じらんねえけどな! けどいい、【魔法剣】とか【悪路走破】とか【体力増強】とか、大量にあるそこそこのレベルのスキル群もまあいい」


「アビー? なんか問題あった?」


「なんだこの! 【アルコール中毒 LV.1】って! おっさん、仮称『世界記憶アカシックレコード』からアル中って判断されてんぞ!」


「まあしゃあねえんじゃねえか? こんだけ飲んでりゃなあ」


「お、お酒の中毒だか。人族は裕福なんだべなあ」


「お爺ちゃんもお父さんもお酒は好きですけど、お祭りや祝い事の時にちょっと飲むだけでした! エヴァンさんはお金持ちなんですね!」


「はあ、こっちの世界はお酒は贅沢品なんだね。なるほどなあ」


「アビー殿、見るべきはそこではない」


「わかってるクルト! なんだこの【魔力阻害】って! それにこれ! 【竜の呪い】ってなんだ!? しかもレベルにしたら8とかだぞ!?」


「カアッ!?」


「アビー殿にはそう見えるのか。我には【竜呪】と読めた。おそらく高位の竜を殺し、死に際の呪いを受けたのであろう」


「え……? それ、大丈夫なの……? エヴァンさん?」


 アビーとクルトの『鑑定』結果を聞いて、コウタが心配そうにエヴァンに問いかける。

 エヴァンは最後の一本らしい酒のコルクを抜いて、一口流し込んだ。

 力なく首を振る。


「大丈夫じゃねえよ。ちょっと体動かすだけで全身が痛え。魔力もうまく練れねえからな、飛ぶ斬撃なんて一発撃ったら限界だ」


「あ、それでこの前、倒したあと休んでたんだ」


「毒竜を倒す最後にな、突っ込んだのよ。左腕は持ってかれちまって、毒のブレスをたらふく浴びた。そん時に【呪い】にかかったんだろうな」


「エヴァンさん……」


「やったことに後悔はしてねえ。あそこで突っ込まなきゃ討伐隊は全滅、村どころか街まで潰されたっておかしくなかったンだ。けどよ」


 うつむいたエヴァンの表情は見えない。

 魔力阻害、竜の呪い、全身にはしる痛み、失った左前腕。


「思い通りに戦えなくなるんなら、俺ァあそこで差し違えた方がよかったんじゃねえか、ってな」


 才能はそこそこなのに、ひたすらに努力を続けて「剣聖」となった男が、戦えなくなる。

 それは、酒に逃げずにはいられないだろう。

 痛みをごまかすためにも。


「……治らないの?」


「さァてねえ。『護国の英雄』サマってんでいろいろやってくれたけどな、ダーヴィニア王国じゃお手上げだったよ」


「アビー」


「帝国でも治療法は確立されてねえ。竜殺し(ドラゴンスレイヤー)だからな、勲章で名誉を、年金やら報酬やらで生活に苦はねえようにされっけど」


「クルトは? ベルやディダも」


「僕はちょっとわからないです。お爺ちゃんは『山の下敷きにしてやった』って言ってましたけど……呪われてはなかったと思います」


「おらもだ。里長はドラゴンを倒したことがあるらしいんだども、呪いは受けなかったって」


「カ、カァ? カァー」


 帝立魔法研究所の研究員だった『逸脱賢者』アビーも、常識外れの荷運び人(ポーター)の村で育ったベルも、人族とは違う知識を持つ巨人族(ギガント)のディダも、解呪や治療法は知らないようだ。

 え、君らの村おかしくない?というカークの動揺は置いておいて。


「なに、案ずることはあるまい。【竜呪】も、呪いを起因とした【魔力阻害】も、神の実(アンブロシア)を常食していけば軽減されるであろう」


「ほんとに!?」


「マジか!? これ食ってる兄ちゃんは痩せこけて不健康そうなのにマジか!?」


「そっか、アンブロシアは『魔力が高まり、魔力の質は研ぎ澄まされて、身体は健康になる』から!」


「その通りだアビー殿。それと我が不健康そうなのは関係がない。我は食していないゆえな」


「カァ!」


 そもそもアンデッドだしな!というカークのツッコミは通じない。カラス語なので。

 クルトに詰め寄ったエヴァンは、へなへなとヒザから崩れ落ちた。


「すぐ治るのかな? だったら精霊樹にお願いしてもっと実を」


「損壊した体内の魔力経路を整えるのだ、時間はかかるであろう」


「なるほどねえ、アンブロシアの効能を考えたらそうなんのか。研究のしがいがあるな! サンプルもいるし!」


「あんがとよ……あんがとよ、兄ちゃん嬢ちゃん……」


 崩れ落ちたエヴァンは、ポタポタと涙を落とした。

 だが。


「クルト、義手製作には俺も協力するよ! 思う通りに体が動かないのは苦しいからね!」


「お、やる気じゃねえかコータ! クルト、オレも当然協力すっからな! いやあ、楽しみだ、どんなギミック仕込むかねえ!」


「ふぅはははは! 感謝しようコウタ殿、アビー殿! これで我の研究も前進するであろう! エヴァンよ、存分に我が研究の成果を体験するといい!」


「……お、おう? お手柔らかにな?」


「カァー」


「よかっただなエヴァンさん! おらもできることはなんでもやるべ!」


「みなさん、必要なものがあったら言ってください! どんなものでも【運搬】してきますね! 山はちょっと難しいかもしれませんけど……」


「…………お、おう? やま?」


「カァー」


 ノリノリなコウタたちに、エヴァンはちょっと不安が頭をもたげたようだ。

 案外冷静か。実はシラフなのか。


 カークの呆れ声が、虚しく湖畔に響いていった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 山の下敷き……マウンテンフォール(ガチ)なのか……(白目)
[良い点] エヴァンさんが全快して義手も完成したらコウタとディダが剣聖の弟子になんのか… 勇者パーティーどころの戦力じゃない…のは今もそうで、もっとヤバくなんのかーw 人里と交流を持つまでにどこまで強…
[一言] ベルに運搬中毒ついてないのが不思議w
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