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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第九章 コウタ、流浪する先代剣聖と出会って戦い方を教わる』

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第八話 コウタ、先代剣聖をクルトに引き合わせて義手の可能性を示す


「おかえり、ベル。クルトも、ちょうどよかった!」


「ただいま戻りました! 今回もいろいろ【運搬】できましたよ!」


「ようこそ、新たな客人よ。ふむ、これはなかなかの」


 コウタとカークがこの世界で目覚めてから七ヶ月。

 精霊樹と小さな湖のほとりで話すコウタたちの前に、ベルとカークがやってきた。

 ベルはいつものごとく街からの帰りで、クルトはたまたまそこで出会って同行した、らしい。


「な、なあ、ほんとに大丈夫なのか? (あん)ちゃんは気楽に話してっけどよ、ありゃ尋常な存在じゃねえだろ」


「気持ちはわかるだ。おらも、最初はそんな感じだっただなあ」


「ははっ、まあ通過儀礼ってヤツか? 安心しろおっさん、こっちから襲わなきゃクルトは何もしねえよ」


「カァ?」


 アビーの説明に、俺たちは襲ったけどな? とばかりにカークが首をひょいっと曲げる。出会いを覚えているの賢い。鳥頭なのに。文字通り。


「クルト、ちょっと相談があったんだ。エヴァン、この人のことだけど……」


 挨拶もそこそこに、コウタがクルトとエヴァンを引き合わせる。

 いつになく積極的な行動に、アビーは首をかしげて、気づいた。カークは満足げに鳴いている。


「そうか、コータ、そういうことか!」


「あン? どうした嬢ちゃん? もう思うように戦えない俺を供物にするとかそういうことじゃねえよな?」


「ちっげえよ! なあコータ!?」


「うん。ねえクルト。この人は先代の剣聖で、強かったみたいなんだ。剣もすごいし、〈無間斬(ゼロ・ディスタンス)〉って剣に魔力をまとわせて? 飛ばす技も使えるって」


「『魔法剣』の使い手は絶えておらぬのか。つくづく、コウタ殿はめずらしい存在と出会うようだ。カーク殿のスキルやもしれぬが」


「けど、左腕を失ってて」


「ふむ?」


「俺、思ったんだけど。クルトの研究を、腕だけ試すってできないかな。そうすればエヴァンの義手に……」


「ははっ、兄ちゃん。ありがてえけどよ、これでも元はダーヴィニア王国の剣術指南役だったんだ。最高級から最先端までいろいろ試したけどよ、義手はイマイチ合わなくてなあ」


「まあ、そうだよな。いくら魔法があるったって、()()()技術力じゃ違和感あるだろうな」


「あン? なんだ、俺ァからかわれてんのか?」


「エヴァン。クルトは、失われた古代魔法文明の生き残りなんだ」


「…………は? その、痩せこけたおっさんが? そりゃたしかに尋常じゃねえ気配だけどよ、さすがにそんな昔の魔導士は生きてねえだろ」


「うむ、生きてはおらぬ。我はアンデッドゆえな」


「はあ、アンデッド。なるほどねえ、だったらおかしくねえのか。なるほどなるほど…………はぁぁぁぁあああああ!? なんだそれ! さすがに騙されねえぞ!?」


「えっと、クルト。たぶん大丈夫だと思うから、その」


「コウタ殿の頼みとあらば」


 コウタの言葉を受けて、ボロいマント姿で痩せこけた壮年の男が、パチンと指を鳴らす。


 クルトが意図的に強めていた「霊体の姿」が薄れて。

 本来の体が、さらされた。


「魔法剣の使い手・エヴァンよ、あらためて名乗ろう。我は2000年前に滅びしインディジナ魔導国の生き残り魔導士! クルト・スレイマンである!」


 ボロボロのマントを羽織った黒い骨格のアンデッドが、眼窩に紅い火を灯す。

 カークはノリノリで、クルトの持つねじくれた杖の先に止まった。

 ディダは震えながら後退り、コウタとベルの天然コンビはニコニコしている。


「は、ははっ、マジか。マジでか。まったく斬れる気がしねえ。絶黒の森やべえなんだここ」


「クルトはいま、精霊樹の素体から創造できないかって研究してるんだ。だから、腕も創れるんじゃないかって」


「失くした身体を治す術は知らぬ。だが、なるほど。繊細な身体操作の経験、魔法剣を扱える魔力量と質、コントロール。我の研究の実験体としては最適かもしれぬな!」


 骨から黒い瘴気を漏らして、上機嫌にカカッと歯を打ち鳴らすクルト。

 カークもガアガア鳴いてノリノリだ。

 どう見ても悪役である。


「落ち着けクルト。おっさんを引かせたら実験台になってもらえねえぞ?」


「クルト、腕じゃなくてもいいんだけど、参考になるような物ないかな?」


「むっ、たしかに。我としたことが、少々気がはやっていたようだ。では……」


 クルトが、杖を持っていない左手を掲げる。

 黒いモヤが集まって球体となる。

 モヤが晴れた時、そこには木製の手があった。


「く、空間魔法、だと……?」


「あ、たぶん違うんじゃないかな」


「うむ、これは我の研究室より喚び寄せただけである」


「あの、ディダさん、荷下ろし手伝ってもらっていいですか?」


「それはやるけども、いいんだか?」


「はいっ! 僕は聞いててもよくわかりませんから!」


「は、はあ……ベルさんも大物だべなあ……」


「さて。この『手』は『魔力』と、コウタ殿、アビー殿に教わった『神経』により稼働する、はずである。が、我は肉の体を失って久しい身ゆえ、試せなかったのだ」


「俺たちは別につなぐわけにもいかないしね!」


「複雑な機構である『手』が思い通りに動かせるならば、肉体の創造についての研究は一歩前進しよう」


 木製の手を持って語り出すクルトをよそに、ベルとディダは荷下ろしに向かった。マイペースか。ベルは空気を読めず、ディダは流されやすいらしい。

 離れた二人のことは、コウタもカークもアビーも、エヴァンさえ気にしない。


 左腕の肘から先を失った先代剣聖は、食い入るように木製の手を見つめていた。


「な、なあ、本当か? 本当に、その義手は、思い通りに動かせるのか?」


「すぐにうまくいくわけではない。それと、越えなければならぬ課題がある」


「教えてくれ! もう一度、もう一度剣が思い通りに振れるなら! 俺ァ悪魔にだって魂を売ってやる! アンデッドのアンタにこの身をくれてやってもいい!」


「いらぬ。実験体としての感想以外は必要ない」


「そりゃなあ、クルトは『理想の女性』を創りてえわけで。おっさんの体をもらったところでなあ」


「クルト、課題って?」


「コウタ殿、この『手』は神の宿り木——精霊樹を素材に創ったものだ。使用者が精霊樹より素材を分け与えてもらわねば、十全に効力を発揮せぬだろう」


「あ、なるほど。果実もそうじゃないと効能がないって言ってたっけ」


「まあちょうどいいんじゃねえか? オレたちもみんな、樹に認めてもらったからここにいるわけだしな!」


「カアッ!」


 クルトが、広場の脇にそびえる精霊樹を指差す。

 コウタとアビーが大樹を見上げて、カークは羽ばたいて精霊樹の枝に向かった。


「精霊樹……は、ははっ、俺ァもう驚かねえぞ。それどころじゃねえんだ」


 エヴァンが精霊樹を振り仰ぐ。

 平静を保とうと一口酒を(あお)って。

 何度も空振りに終わったんだ、今度もきっと、期待すんじゃねえと、自分に言い聞かせて。




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