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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第九章 コウタ、流浪する先代剣聖と出会って戦い方を教わる』

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第六話 コウタ、森で出会った酔いどれおっさん剣士が先代剣聖だと知る


 コウタとカークがこの世界で目覚めてから七ヶ月。


 コウタたちは、絶黒の森の北側であと片付けに励んでいた。


「アビー、これは知ってる?」


強殻甲虫(ハードビートル)だな。殻は防具なんかの素材として買い取ってくれると思うぞ」


「了解、じゃあざっと剥がしちゃうね。……中はグロいから外側だけ」


「カァ?」


「ど、どうだべか、たぶん食べられねえと思うだ」


「うん、やめておこうかカーク。ほら、食べ物はいろいろあるでしょ?」


「カァー」


「おうおう、愛されてんじゃねえか。やっぱこのカラスは吉兆だったのかねえ」


 コウタたちの目の前には、腰あたりの高さで上下に両断されたモンスターの残骸が転がっている。

 縄張り争いしていた植物系モンスターも虫系モンスターも、ひと振りで断ち切られたのだ。

 元凶である中年のおっさんは、カークに手を伸ばしてガアガアとわめかれていた。


「あとは魔石を取って、荷物をまとめたら移動しようか。残骸は……」


「そのままにしとくしかねえかな。まあ植物系に虫系はアンデッドにゃならねえからな、問題ねえだろ」


「すまねえコウタさん、おらがもっと運べれば、ベルさんみたいに」


「い、いやあ、ベルは別格だから。それだけ背負ってもらえてるだけでもありがたいよ」


「そんでコータ、どうすんだ? モンスターもいなくなったし北に進むか?」


「いやあ、今回はもう帰ろう。準備していかないとこの先はしんどいかなって。それに……」


「ああ、おっさんのこともあったな」


「うん」


「おう? (あん)ちゃんや嬢ちゃんたちのねぐらに連れてってくれんのか?」


「ちょっと距離があるんで、ひとまず昨日のキャンプ場所までですけど。少し話を聞かせてください」


「ありがてえありがてえ!……ところで、そこに酒はねえかな?」


「カァー」


「マジか。真っ先に気にするのが酒って、噂はホントだったんだなあ……」


「えっと、拠点に帰ったら少しあったかな。ベルの荷に入ってたような」


「くうっ、兄ちゃんいいヤツか! しゃあねえんだ、この体はちっと動くといろいろ痛んでなあ。酒でも飲まねえとやってらんねえんだ」


「あ、お酒でごまかしてるんですね」


「おう、そういうこった!」


「カァー」


 言って、おっさん剣士が懐から取り出したお酒をぐいっと(あお)る。

 おっさんが昼間から、モンスターの出る絶黒の森で酒を飲む理由を聞かされて、コウタは納得したようだ。

 それ本当? ウソくさくね? とばかりにカークの呆れた鳴き声が響く。


「お待たせしてすまねえ、準備できただ!」


「ありがとう、ディダ。じゃあ行こうか。えっと」


「俺ァ、エヴァンだ! よろしくな兄ちゃん!」


 リュックに荷を満載したディダがコウタの元に戻る。

 まもなく、コウタたちは引き返しはじめた。

 おっさん剣士の名乗りをさらっと受けて。


「エヴァン。じゃあやっぱり……」


 小声で呟いたアビーの独り言は、静かになった森に溶けていった。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「それじゃあ、あらためて自己紹介しましょうか」


「おうおう、かてえぞ兄ちゃん! 俺ァこんなんだからよ、砕けた話し方でいいって!」


「ええ……? エヴァンさんけっこう年上ですよね?」


「『さん』もいらねえって!」


「カァー」


「やべえ。酔っ払いのノリがやべえ。なんだこれ面倒くさいタイプが増えた気がする」


「じゃあ、エヴァン。俺はコウタです。この近くに湖があって、いまはそこで暮らしてるんだ」


「へえ、絶黒の森にねえ。剛気なもんだ」


 コウタに続いてアビー、ディダが名前を告げる。

 カークもカアカアわめいていたが通じない。ので、コウタがカークの自己紹介を代弁した。

 まあ、コウタたちはひとまず事情を教えずにさらっと名乗っただけだが。


 出会った場所から歩くこと数時間。

 コウタたちは、昨日野営した場所に戻ってきた。

 荷物を下ろしてタープを張って、地面にどかっと座る。

 アビーが魔法で温めたお茶を配って、一行は話をはじめていた。


「んじゃあらためて。俺ァ、エヴァン。エヴァン・ジェルジオだ」


「なあおっさん。ひょっとして、出身はダーヴィニア王国だったりすんのか?」


「まあな。あー、くそっ、名乗らねえ方がよかったか?」


「名乗らなくてもわかるヤツならわかるだろ。腕はともかく、あの技見たらなあ」


「え? アビー、知り合い?」


「直接の面識はねえ。けど、知ってるっちゃ知ってるな。おっさんは有名人だから」


「えっえっ?」


「バレてんならしゃあねえか。んじゃあらためて。ダーヴィニア王国元剣術指南役、エヴァン・ジェルジオだ。弟子に譲ったんでな、言うなら先代剣聖ってヤツだ」


「けんせい?」


「ああ、オレはそれで知ってたんだ。剣士なのに遠距離攻撃できてな、奥義は『何者も逃れること(あた)わず』って有名なんだよ」


「あっ、さっきの!」


「そう、たぶんアレが奥義の〈無間斬(ゼロ・ディスタンス)〉だな。あとは竜殺し(ドラゴンスレイヤー)としても名が知れてる」


「ドラゴンスレイヤー!?」


「ひ、人族は小さくてもすげえだな、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)なんて里長でもできるかどうかだべ」


「オレは竜殺し(ドラゴンスレイヤー)できそうな巨人族(ギガント)の里長も気になるけどな!」


「へえ、そっちのおっきい嬢ちゃんは巨人族(ギガント)なのか。初めて会ったぜ」


「お、おっきい……えへ、えへへ」


「ドラゴン、いるんだね。ドラゴンスレイヤーかあ、すごいなあ」


「はっ、そんないいもんじゃねえよ。俺ァその代償に腕を持ってかれちまったかンな」


「それで……」


「まあそのおかげでこうやってフラフラできるってのもあンだけどよ!」


 事実はどうあれ、カラッと笑う先代剣聖——エヴァン——に悲愴感はない。

 それでもコウタは、眉を寄せて心配そうな表情を見せていた。


「カアッ! ガア、ガァー!」


「おわっ! なんだなんだ!?」


 その空気を破ったのはカークだ。

 コウタの肩から飛び立って、ホバリングして三本の足でエヴァンの髪をちょいちょい掴もうとする。


「カーク、落ち着いて!」


「カークがこうなるの珍しいな。なんだろなあこれ」


「攻撃でもねえし、ちょっかい出してる感じだべ」


「わかったわ。コイツは兄ちゃんたちの知り合いなんだろ? たぶん俺が案内を無視したから怒ってンだわ」


「あー、なるほどねえ」


「すまねえカーク。俺ァカラス語がわかんなくてよ、ついついフラついちまった。許してくれ」


「ガアー。カアッ!」


 謝られたことで気が済んだのか、カークはコウタの肩に戻ってきた。なおカークは人語を理解しているようだが、コウタたちはカラス語がわかるわけではない。


「そっか、それでカークは最近ちょくちょく出かけてたんだね」


「カァー」


「うん、ありがとう。きっとこれも、いい出会いだと思うよ」


「カアッ!」


 カラス語がわかるわけではない。はずだ。


「コータ? 拠点に連れてく気か?」


「うん。もし、エヴァンさんがよかったら、だけど」


「【導き手】のカークの案内? だしな、コータがそう言うなら止めねえけど……なんでだ?」


「うーん、カークが導こうとしたからってのもあるけど……あとで説明するよ。ベルと、クルトと会わせた時に」


 コウタは、エヴァンを拠点に案内するつもりらしい。

 カークを見て、エヴァンを見て、最後にアビーを見て、微笑んだ。



 コウタとカークがこの世界で目覚めてから七ヶ月。

 北の探索は思うように進まなかったものの、コウタはまた新たな仲間を見つけたのかもしれない。




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― 新着の感想 ―
[一言] モンスターとして倒されそうな人? をどうやって紹介するのか。楽しみ。
[一言] あー、理想の嫁を造ろうとしてるクルトなら義手ぐらい造れそうですよね。
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