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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第九章 コウタ、流浪する先代剣聖と出会って戦い方を教わる』

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第五話 コウタ、絶黒の森の北を探索して酔いどれおっさん剣士と出会う


「カーク? その人は?」


「カアッ! カアカア、ガアッ!」


「おう、なんだこんなとこに人がいンのか。なるほどね、つまりこのカラスはコイツらを助けたかったと」


「ガアガアッ!」


「ちげえのか? まあいいや、ちっと待ってろ、いま片付けっから。そのあとでゆっくりな。おーい兄ちゃん姉ちゃん、手ェ出さないで守り固めてろ!」


「えっと、どうしようかアビー」


「ソロで『絶黒の森』に来れるんだ、きっと手練れだろ。ひとまず様子見でどうだコータ?」


「うん、じゃあそれで。ディダもよろしくね」


「わかっただ!」


 絶黒の森北側の探索中に、植物系モンスターと虫系モンスターの縄張り争いに巻き込まれたコウタたち。

 飛んでいったカークが連れてきたのは、初老に近いおっさんだった。


 二つのモンスターの群れの横合いから現れたおっさんは、コウタたちに下がるように言って剣を手にする。

 単なる鉄剣を、右手一本で。


「あ、あの! 無理しないでくださいね! 俺たちなら平気ですから!」


「コウタさん? どうしただか?」


「だってあの人、片手が……」


「隻腕の剣士……? それにあの足取り、まるで酔ってるみてえな……まさかな、こんなところにいるはずが」


「はっ、なんでえ、優しい若者もいるじゃねえか。あのハーレム野郎に爪の垢でも、ってアイツも優しくはあったのか。しつこいのとモテるだけで。クソがッ!」


「あ、あの?」


 赤ら顔のおっさんは、ふらふら体を揺らしながらモンスターの群れに近づいていく。

 ときおり伸びてくるツルやツタは、ぬるりと避けられていつの間にか斬られていた。

 ボロボロのマントがひらめく。


「カァー」


「うわ、すごい。酔拳みたいだ。剣だから酔剣? かな?」


「な、なんだべ、なんだかゾクゾクするだ。コウタさん、アビーさん、油断しねえで防御しといた方がいいと思うだ」


「だな。信じらんねえけどよ、オレの予想が正しけりゃ……」


 コウタは驚きながらも目を輝かせている。

 ディダは木の盾をかざして防御の姿勢をとり、アビーは全開で魔力障壁を張った。

 カークはちゃっかりコウタの陰に隠れている。


「あーくそ、思い出したらイライラしてきた。俺の平穏な暮らし(スローライフ)を邪魔しやがって!」


 ブツブツ言いながら、おっさんが腰のあたりで剣を構える。

 おっさんの体にバチバチと魔力がほとばしる。


「体は痛えし! 左手もねえ! 全盛期の頃に旅に出たかったに決まってンだろ!」


 細い目が見開かれる。

 臨界に達したのか、魔力によって左前腕と左手が(かたど)られた。


「やっべえまさかの予想通りじゃねえか! コータ、カーク、ディダ! 全力で防御だ!」


「え? えっ?」


「カァ!」


「コウタさんもカークさんもアビーさんも! おらが守るだ! この命に代えても!」


 アビーとディダの緊迫感にコウタはついていけてない。

 何を警戒してるのかときょろきょろするばかりだ。


 剣を構えたまま動かなくなったおっさんに、動けるタイプの植物系モンスターと、殺戮蟷螂(キラーマンティス)強殻甲虫(ハードビートル)などの虫系モンスターが近づいていく。

 一時休戦でもしたのか、あるいは身の危険でも感じたのか。


 おっさんの鉄の剣が魔力におおわれて。


「死ねぇぇぇえええええええええ!」


 咆哮とともに、剣が横なぎに振られた。


「え? まだ剣は届かないような……え? は?」


「カ、カァ」


 コウタとカークがぽかんと大口を開ける。


 おっさんの前方には、扇型の空き地が広がっていた。

 範囲内にいたモンスターは、すべて上下に断ち切られてぴくぴくしている。


「ふぃー、ちゃんとこっちに配慮してくれたみてえだな。あの殺気、オレたちまで斬られんのかと思ったぜ」


「お、おら、こんなの見たことねえだ……里長だって無理だべ、小さい人はすげえんだなあ」


「カアッ!」


「あっうん。殺人蜂(キラービー)とか、撃ち漏らしもいるだろうしね。油断しないように気をつけないとね」


「カァカア!」


「うん、これなら、撤退じゃなくて倒していこうか。いいかなアビー、ディダ?」


「おう、その方がラクだろ。けど気をつけろよコータ、ディダ、虫系も植物系も生命力が強いかんな、『死んだと思ったら生きてました!』で慣れねえヤツはピンチになるんだ」


「わかっただ! てやぁぁぁあああ!」


「あっ、ディダ。アビー、俺も行ってくるね。あの」


「おー、ありがてえ。んじゃおっさんはちょっと休憩さしてもらうわ」


「はい、ありがとうございました」


 ぺこっと頭を下げて、コウタが突進するディダのあとを追う。

 カークは先行して飛べる虫型モンスターを燃やしていく。


「お嬢ちゃんは行かなくていいのか?」


「おっさん、もう魔力がカラだろ? いま襲われたらどうすんだ?」


「くー、こんな綺麗なお嬢ちゃんが俺を守ってくれンのか! ありがてえありがてえ」


「……まあ、ここで死なれたら問題になりそうだしな」


 残されたアビーは、地面に座り込んだおっさんの護衛を務めるようだ。

 ズタ袋から酒を取り出して飲みはじめたおっさんに、護衛がいるかどうかは別として。



 コウタとカークがこの世界で目覚めてから七ヶ月。

 絶黒の森北側の探索は、またも途中で切り上げることになりそうだ。

 もっとも今回はモンスターのせいでも、準備不足のせいでもない。


 酔いどれおっさん剣士との、出会いのおかげで。



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