第四話 コウタ、モンスター同士の縄張り争いに巻き込まれる
コウタとカークがこの世界で目覚めてからおよそ七ヶ月。
絶黒の森の北側を探索しているコウタたちは、絶賛戦闘中だった。
「アビー、そろそろ!」
「もう何発目だこれ。『空間斬』!」
「はあ、はあ。くっ、今度の相手はデカくて太いだ!」
「チッ、エルダートレントだ! ディダ、無理に勝とうとすんな、時間を稼げ!」
「カア!」
トレント、幻惑花、食人植物、イビルプラント、生きている蔦。
森の北側の奥地は、植物系モンスターの巣窟であるようだ。
コウタがスキル【健康 LV.ex】頼みでモンスターの群れに突っ込み、アビーがコウタごと魔法でなぎ払う。
カークは撃ち漏らしを燃やして、ディダはトレントに棍棒を叩きつける。
怪我をしないコウタを囮とした戦術で、コウタたちに危なげはない。
いや、コウタとアビーとカークに危なげはないが、大木と真剣勝負を繰り返しているディダは疲れが溜まってきたようだ。
「うーん、ちょっとキリがないね……どうしようかカーク。どう思うアビー?」
「この先もずっとこんな感じかもしれねえからなあ、出直すか? ベルはともかく、次はクルトを連れてよ」
「そうだね、そうしよっか。じゃあ」
「カアッ! カアカア!」
「うん? どうしたのカーク?」
「コータ、一回戻ってこい。カークが警戒してるっぽい。いまそっちをサポートするからディダもな」
「わかっただ!」
カークの警戒の声に、アビーが素早く反応する。
ディダは盾でエルダートレントを一度押し込んでから下がる。
と、すかさずアビーの魔法が放たれた。
見えない魔法の斬撃が当たって、エルダートレントがぼあーと悲鳴らしきものをあげる。
だが、一撃では倒れない。
突出していたコウタは下がって、三人と一羽は近くで固まった。
ディダを迎えてからたびたび行っていた模擬戦闘がよかったのか、それともこうして実戦が続いたおかげか。
三人と一羽はそれなりに連携が取れているようだ。
コウタを先頭にしてディダが右側で盾を構え、わずかに後ろでアビーが魔力障壁を張り直す。
カークは頭上の木の枝に止まってくいっくいっと頭を動かす。
「なんだろ、カークが警戒してるっぽいけど……」
けっこうなダメージを受けてうぼーとのたうちまわるエルダートレントを見つめたまま首をかしげるコウタ。
アビーは追撃よりも周囲の警戒を優先している。
ディダはわずかな時間で息を整え、またエルダートレントに挑もうとして。
エルダートレントが、背後から攻撃を受けて倒れてきた。
「おっと危ない」
ので、コウタがあえて手を伸ばして倒木を受け止め、ぺいっと横に投げ捨てる。
自分に向かって倒れてきた倒木の処理は慣れたものだ。素人の林業危ない。
ちなみにディダは屈みながらコウタの前に出て、木の盾を掲げようとしてフリーズした。
信じられないものを見た、とばかりに目を丸くしてコウタを凝視している。
アビーは、エルダートレントにトドメを刺した存在を発見して、顔をしかめた。
「あー、そういう。これは一回戻った方がよさそうだなあ。すんなり戻れれば、だけど」
「アビー?」
「ほら、あそこだコータ」
「…………うへえ」
「カァッ!」
アビーがすっと指を差す。
その先を見たコウタも顔をしかめて気の抜けた声を漏らす。
一方で、カークは目を輝かせていた。
倒れたエルダートレントの根元と、その向こう。
そこには、虫がいた。
およそ1メートルほどのカマキリやら甲虫やらアリやらがいた。
巨人族のように「デカいと強い」とは限らないが、「デカいとキモい」は確かだろう。
カークのテンションが高いのは食いでがありそうだとでも思っているのか。しょせん鳥である。このサイズ感ではやめてほしい。
「魔法で殺れるオレはともかく……イケるか、コータ? ディダは?」
「えっと、気持ち悪いけど、まあなんとか……」
「虫なら里にいた頃も殺ってただ!」
「おお、助かるよディダ。ただ無理はしないで撤退の方向で」
「いいと思うぞコータ。んじゃ下がりながら相手して、できればモンスター同士の縄張り争いに持ってくか」
「うん、それでいこう。カークも気をつけて、虫系ってことは飛ぶヤツとか、クモみたいに糸を吐いてくるヤツもいるかもしれないから」
「カァ? カア!」
「あっちょっ、カーク!」
コウタの忠告を聞いていなかったのか、カークが飛び立った。
ふたたび炎をまとって、植物系モンスターと虫系モンスターの上を飛び去っていく。
三本足のカラスの飛行を妨害しようと襲いかかったハチはあっさり燃やされて落ちていく。
「どうしたんだろ、俺たちから離れるなんて」
「カークなりに考えがあるのかもな。けどまあ心配いらねえって。殺人蜂だって瞬殺だからな」
「うん……」
「ほら、コータ、気合い入れてオレたちも殺るぞ! 撤退戦だ!」
「コウタさん、ディダさん、しんがりはおらに任せるだ!」
「あ、それはいいよ。【健康】な俺がやるから」
「……え? だどもおら」
「ほら下がるぞディダ。コータなら心配いらねえって」
飛び去ったカークや決意に満ちたディダを横目に、コウタとアビーは変わらない。
ダメージを受けず拘束も無効なコウタがしんがりとなって、虫系モンスターと植物系モンスターの闘争から抜け出そうと撤退をはじめる。
カークは空を飛べるんだし移動しても追いついてくんだろ、とはアビーの言葉だ。
だが、撤退は思うように進まなかった。
「わっ! うーん、別に虫は苦手じゃないんだけど、この大きさで目の前にっていうのはなかなかキツいかな……」
「はっ、それだけで殺戮蟷螂を止められりゃ上等だ! 『衝撃波』!」
「てい! えやっ! くうっ、こいつかてえだな!」
「ディダ、無理に強殻甲虫を殺ろうとしなくていい! 植物モンスターの群れに放り込んどけ!」
「アビー、ごめん! 蜂がそっち行った!」
「これぐらい問題ねえよ。『空間斬』!」
戦いとしては危なげがない。
怪我をしないコウタがしんがりとなって虫系モンスターを止めて、ディダが巨人族の腕力で植物系モンスターの群れに放り込む。
アビーは二人を魔法でサポートする。
敵対してるらしい二つのモンスターの群れを前に、三人は健闘していた。
だが、撤退は遅々として進まない。
「キリがないね……これ、呼んだらクルト来ないかなあ」
「どうすっかねえ、やるだけやってみるか?」
「はあ、はあ。おら、負けねえだ! せい! やあ!」
コウタとアビーはどこか呑気に言葉を交わし、ディダが棍棒を両手で持って横殴りのスイングで虫系モンスターをバッティングすることを覚えたタイミングで。
「カァー! カアカア!」
カークが、帰ってきた。
「おうおう、こりゃなかなかの数で。やっぱこのカラスは死出の旅路の道案内だったのかねえ」
「ガアッ!」
「ははっ、わかったわかった。俺ァこんなとこで死ぬ気はねえよ」
うしろに、ひと振りの剣を持ったおっさんを連れて。





