第三話 コウタ、森の北側でモンスターの群れに遭遇する
「カァー」
「どうしたのカーク?」
「んー、敵がいたって感じじゃねえな。むしろ気が抜けたような?」
「カークさん、疲れたならおらの肩に止まるといいだ」
鹿と別れてから数時間後、コウタたちはまだ絶黒の森北側の探索を続けていた。
時刻は昼過ぎのはずで木立はまばらなはずなのに、森はあいかわらず薄暗い。
いつもは張り切って先頭を行くカークは、ふらふらとディダの肩に止まる。
友達の調子が悪いなら今日の探索はこの辺で切り上げようか、とコウタが提案しかけたその時。
コウタの腰紐が、うねうねと動き出した。
「ん? 何かあるのかな」
「へえイビルプラントって索敵できるんだな、じゃなくて! 生きてるヤツを腰紐にしてたのかよ!」
「コ、コウタさん? だ、大丈夫だか? 締められて苦しくなったりしてねえだか?」
「あっうん、それは平気なんだ。けどみんな、警戒した方がよさそう。何かいる? みたい」
「そりゃイビルプラントがいるけどな! コウタの腰に!」
「わかっただ! カークさんも気をつけて!」
「カァ? カア、ガアッ!」
ディダの肩にいたカークが慌てた様子で飛び立つ。
アビーが杖を掲げて『魔力障壁』の準備をはじめ、ディダが巨大な木の盾をかかげて辺りを見渡す。
コウタの腰紐、もとい、コウタの魔力を気に入ってすっかり懐いたイビルプラントがうねうねとツタを伸ばす。
コウタも、鹿ツノ剣を手にしてきょろきょろしだした。
三人と一羽と一体? が警戒して、不意打ちは不可能だと悟ったのか。
敵が、姿を現す。
いや、敵の姿自体は最初からコウタたちの視界に入っていた。
「えーっと、イビルプラントとか『生きている蔦』の親戚かな?」
「親戚て! 合ってるけどな! トレント、幻惑花に食人植物、おなじみイビルプラントに生きている蔦。植物系モンスターてんこ盛りだ!」
「さっきの鹿はコイツらにやられた、とか? 元が絶望の鹿で強くても、数に囲まれたら……」
「切り傷はなかったかんな、そうかもしれねえ。油断すんなよコータ!」
「コ、コウタさんもアビーさんも冷静だべな。アビーさん、この数、おらはどうしたらいいだか?」
「武器が棍棒のディダは相性悪そうだな。トレントの相手を頼む!」
「わかっただ! こっちに来るだデクの坊! 大きければ強いわけじゃねえっておら知ってるだよ!」
動き出したのは、森そのものであった。
何本もの木立が枝を動かす。トレントであるらしい。
視界をさえぎっていた下生えの一部はマンイーターで、ときおり見える花は花粉で人を惑わす幻惑花で。
木に絡みつくおなじみイビルプラントに生きている蔦。
コウタたちの視界に映っていた森に、大量のモンスターが潜んでいた。
天然のモンスターハウスである。
知らずに踏み込んでいたらあっという間にやられていただろう。
「カァー」
「ほら気にしないでカーク、みんな無事だったんだから!」
「そうそう、オレもいままで気づかなかったんだし。コイツら、動いてない時はわかりづれえからな」
「カァ。ガアッ!」
肩を落としていたカークが、過ぎ去ったことは仕方ないとばかりに気合いを入れる。カラスなので肩はない。いちおうあるんだろうか。
雄々しく吠えたカークは、三本目の足から炎を噴き出した。
飛びながら炎を体にまとう。
カーク、得意の【陽魔法】である。
失態は挽回するんだと言わんばかりの張り切りようだ。
炎をまとったカークは、そのまま植物系モンスターの群れに突っ込んだ。
捕らえようとしたツタもツルも、幻惑花の花粉も燃やしていく。
純粋な火ではないせいか、森に燃え広がる様子はない。
「ディダ、盾と体の前に『魔力障壁』を張った! 遠慮しねえでぶちかませ!」
「ありがとうごぜえますアビーさん! てや! たあ!」
最初こそ数に怯んでいたものの、できることを示されたディダはすぐにトレントに襲いかかった。
巨人族の力を武器に、トレントの幹に棍棒をガツガツとぶつける。
アビーのサポートで防御に気を回さなくてもよくなったせいか思い切りがいい。
あるいは自分よりも大きなモンスターに負けたくないのか。
木製の棍棒であっても素材のおかげか、トレントにはダメージが入っていた。
「みんなすごいなあ。じゃあ俺も!」
「あっおいコータ! いくら【健康 LV.ex】だからって!」
カークとディダの奮闘に触発されて、コウタは植物系モンスターの群れの中に突っ込んでいった。
女神から【健康 LV.ex】を授かったコウタは怪我をしない。
イビルプラントに襲われた時は、締め付けも絡みつきによる足止めも効かなかった。
怪我をしないどころか、体に害あることは無効らしい。
コウタ、スキルを信じての突進である。
「カァー!」
「はは、ありがとうカーク。けど心配ないよ!」
一人突出したコウタをカークがサポートする。
コウタが鹿ツノ剣でばっさばっさと幻惑花や食人植物やイビルプラント、生きている蔦をなぎ払う。
カークがコウタのまわりを飛んで焼き払う。
振れば斬れる、触れれば燃える。
が、一人と一羽では無数に襲いくるツルやツタをさばききれなかった。
「ほら、離れてカーク!」
「カ、カア!」
どれが食人植物でどれが生きている蔦なのかわからないほど、コウタの体に植物が絡みついた。
敵イビルプラントと味方イビルプラントの見分けもつかない。
本人はダメージがないようだが絵面がひどい。触手プレイか。
「アビー! 俺ごと魔法で攻撃するんだ!」
「あー、それで突っ込んだのか。一網打尽にしようって。けどなあ」
コウタ、決意の自己犠牲発言である。
アビーは顔をしかめてためらっている。
だが。
「大丈夫、俺は【健康】だから!」
コウタには魔法も効かない。
自分を犠牲にしてカークとディダとアビーを生かそうとしたのではなく、【健康】を信じてのことである。
まあ、モンスターの数を見て、長丁場になったらディダやカークが危ないかもしれない、と思っての行動ではあるようだ。
「ほ、ほら、早く!」
ただ、目の前でうねうね動いて絡みついてくるツルやツタの多さに、気持ち悪さはあったようだ。
【健康】でも嫌悪感はなくせないのか。
「くそっ、信じてるぞコータ! 『空間斬』!」
急かされてようやくアビーは植物系モンスターの群れに杖を向けた。
魔力を練って放つ。
本来何も見えないはずなのに、ツルやツタが斬り飛ばされて軌道がわかる。
腰の高さあたりで幻惑花も食人植物もイビルプラントも生きている蔦も斬り裂いてコウタに飛んでいく。
そして。
「うん、俺はなんともない! アビー、これを繰り返そう!」
「……やっぱ【健康】で精神面もタフになってんのかねえ」
コウタに絡み付いたモンスターだけを斬って、抜けていく。
コウタ本人には傷一つない。
「あ、けどアビーの魔力が保たないかな?」
「心配ねえよ、クルトに教わって、取り込む周辺魔力の方をメインにして魔法を使えるようになったかんな。オレの魔力はたいして使ってねえ、これぐらいなら何発でも撃てるぞ」
「じゃあ大丈夫だね!」
「まあな、大丈夫なんだけどな……なんだこのスッキリしない気持ちは……」
「カァー」
わかるぅ、とばかりにカークが鳴く。
だが、一人と一羽が肩を落としたのはわずかな時間だ。
すぐにアビーは魔法で、カークは炎をまとった飛行でモンスターを駆逐していく。
絶黒の森の北側、天然の植物系モンスターの群れによるモンスターハウス。
戦闘は、一方的なものになっていた。
「えい! はあ、はあ……やあ! やった、おらやっただ!」
奮闘するのはディダばかりである。





