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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第九章 コウタ、流浪する先代剣聖と出会って戦い方を教わる』

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第二話 コウタ、絶黒の森の北側で怪我をした鹿と出会う


 コウタとカークがこの世界で目覚めてからおよそ七ヶ月。

 コウタは、絶黒の森の北側を探索していた。


「なんか、瘴気が濃くなったわけじゃないのに薄暗いね……」


「カァ!」


「うん。カークも、アビーもディダも気をつけて」


「おう、この辺は初探索だしな!」


 コウタたちが暮らしている絶黒の森は盆地になっていた。


 中央付近に小さな湖と精霊樹、いまでは四人と一羽が暮らしている拠点がある。

 東側の山を越えれば死の谷(デスバレー)、その先には大陸西部の人族領域最後の街がある。

 南側はアンデッドが主体のダンジョンとクルトの研究所。

 西は険しい山々があり、越えれば海や巨人族(ギガント)の里があるらしい。


 拠点の暮らしがなんとなく形になってきたことで、コウタは北側の探索に着手したのだ。

 コウタが着手したというよりは、三本足のカラス・カークが導いてのことだったが。


 拠点にしている湖の対岸、北側の森は薄暗かった。

 灰色に変異した木々や、一部黒に染まった木々があることは変わらない。

 薄い霧のような黒い瘴気がかかっていることも、人気(ひとけ)がないことも変わらない。


「なんだろ、木が少ないのに見通しが悪い……」


「下草が多いだな! コウタさん、おらが先に行くだか?」


「いや、初めての場所だしね。危ないから俺が先頭で行くよ」


「カァー」


「うん、カークは上の警戒をお願いね」


「頼むぞカーク。オレも魔力探知してっけど、どうも効きづらくてよ」


 ただ、木の密度はほかの地と違うようだ。

 木々が生えている間隔は広い。

 が、藪や上方の枝葉で見通しは悪い。


 北側の探索をはじめて二日目、今回は数日かける予定だったが、それにしても進行は遅い。

 たとえ怪我をしない【健康 LV.ex】持ちでも、コウタは慎重であるらしい。

 それでもコウタたちは、以前の探索より奥地に進んできた。


「カァー」


「あれ? カーク、なんだか疲れてない?」


「最近ちょいちょい飛びまわってるみたいだかんなー。何してっかわかんねえけど」


「大変だべカークさん! おらの肩でよければいつでも止まってほしいだ! おらあんまり高くねえけども、したら運べるし……」


「カァ。カァ!」


 懸念があるとすれば、いつもよりカークがすすけた感じになっていることだろうか。

 森やダンジョンの探索では張り切って先頭を飛ぶのに、なぜか元気がない。

 疲れてるわけじゃねえんだけどな、ありがとよ、とばかりに鳴いている。コウタたちには通じない。


 絶黒の森北側の探索をはじめる前から、カークはちょくちょくいなくなっていた。

 いつもの見まわりよりも長い時間だったため、コウタもアビーも気になっていたようだ。


「なんだろ、また何か見つけたのかな? あとは、誰かを案内してるとか……」


「カァ」


「あー、それで距離飛んでこんな感じになってんのか? したらこの先に誰かいるかもな」


「おら、カークさんに案内されて助かっただ。ひょっとしたらその人も困ってるかもしんねえ!」


「どうかな、焦ってる感じはないみたいだし」


 言葉は通じなくとも、なんとなくの感情は通じている。

 コウタはひとまず気にしないことにして、歩き続けることしばし。


「カアッ! カアカア!」


「ん? どうしたのカーク?……あ」


 カークがしきりに鳴きながらばっさばっさと羽ばたきだした。

 コウタがきょろきょろと周囲を探る。

 木立の奥、葉ずれに気づいて目を止めた。


 がさがさと音を立てて、一体のモンスターが現れた。


 カークの警告に警戒していたコウタもアビーも緊張を解く。


「また会ったね。やっぱり北の方で暮らしてるのかな?」


 現れたのは、いつもの鹿であった。

 ツノをコウタに差し出した片ツノの鹿。

 変異した絶望の鹿(ホープレス・ディア)、あらため希望の鹿(ホープネス・ディア)である。


「それか、こっちになんか用事があるかだな」


「こ、こんな強そうなモンスターを前に余裕だなんて、コウタさんもアビーさんもすげえだな……」


「カァー」


 鹿に敵意はない。

 いつものようにコウタたちにぺこっと頭を下げて、戦うことなく立ち去ろうとする。

 が、いつもとは違う箇所もあった。


「あれ? 怪我してる?」


「あー、んじゃこっちでナワバリ争いでもしてんのかもなあ」


 希望の鹿(ホープネス・ディア)は、左後ろ足を引きずっていた。

 流血はない。

 よく見れば、ダークグレーの毛皮には土に汚れている。

 まるで、ひと暴れして逃げてきたかのように。


「えーっと、こういう時は……アビー、回復魔法って使える?」


「いや、オレは使えねえ。クルトも使えねえだろうし、ってここにはいねえけど」


「え? コウタさん、モンスターを回復する気だか?」


「うーん、ほら、この鹿は俺たちのことを襲わないし、なんだかんだ長い付き合いだから、できればって」


 ディダの当然なセリフに、コウタは困り顔で頬をかいた。

 コウタがこの世界で目覚めてから七ヶ月ということは、鹿との出会いからも同じぐらい経つ。

 鹿からもらったツノは便利な武器として、道具として活躍している。

 コウタの手にある剣は鹿のツノを素材にしたものだ。

 いまは「襲わない」が、当初はしっかり襲われたものの。


「あ、精霊樹の果実(アンブロシア)をあげれば回復するかな」


「どうだろうな、魔力は回復するわけで、変異した希望の鹿(ホープネス・ディア)なら良くなるかもしれねえけど……さすがにわからねえ」


「うん、まあ、何もしないよりはマシだってことで。ほら」


 自分を納得させるように頷いたコウタが、下手投げでほいっと果実を放る。

 鹿はいつものように口でキャッチして、いつもと違ってすぐに食べた。

 じゃあ、とばかりにコウタがまた果実を放る。

 アビーとディダが呆れ顔で、カークが真剣に、餌付けを見つめること数度。

 満足したのか、鹿はふたたび頭を下げた。


「もういいのかな? 気をつけてね」


 コウタが一声かけると、今度こそ鹿が立ち去る。

 後ろ姿を見送って、姿が見えなくなったところで。


「……けど、絶望の鹿(ホープレス・ディア)って強いんだよね? 変異した希望の鹿(ホープネス・ディア)も強いはずだよね?」


 コウタが首を傾げる。

 木の上に止まっていたカークが目を丸くしてコウタを見つめる。カラスの目はもともと丸い。

 アビーも、ディダも、口を半開きにしてコウタを見つめる。


「たしかに。この先には、アイツを怪我させるヤツが存在するってことか」


「……気をつけていこう。焼き物用の土探しはまた今度で」


「それがいいだろな。ディダ、オレとコータのことより自分の身を守ることを考えろよ。オレたちはなんとでもなるから」


「わかっただ! けど、二人が危なかったらおら命を賭けるだ!」


「うん、でもそうならないように『いのちだいじに』で行こう」


「カァー!」


 ディダの決意に頷くコウタ。

 俺もがんばるぜ、とばかりにカークが高らかに鳴く。


 気を引き締めて、一行はまた歩き出した。

 過去、死の谷(デスバレー)を越えて侵入した冒険者を葬ってきた、『絶黒の森』の奥地へ。




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