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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第八章 コウタ、さらに増えた新たな仲間とともに僻地の開拓をはじめる』

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第五話 コウタ、巨人族の少女の漁を見守る


 コウタとカークがこの世界で目覚めてから五ヶ月と半ばが過ぎた頃。

 逸脱賢者で転生者のアビー、荷運び人(ポーター)のベル、古代文明の生き残りアンデッドのクルトを加えた四人と一羽は、小さな湖のほとりに集まっていた。


「ディダ、転ばないように気をつけてね!」


「水棲モンスターに襲われねえようにな。まあ、大丈夫なんだろうけどよ」


「カァー、カアッ!」


「カークさんも楽しそうですね!」


「ふむ、あれは飛行姿を見せることで魚を追い込んでいるのであろう。あるいは、『ここに魚がいるぞ』と示しているのかもしれぬ」


 四人は思い思いの感想を口にする。

 視線の先には、湖の上を旋回するカークともう一人。


「おら小せえから、この辺ぐらいでやめといた方がよさそうだ」


 湖に入った、ディダがいた。

 身長3メートルを超える巨人族(ギガント)の少女は、腰まで水につけている。


「じゃあ、いよいよだね!」


「頼むぞディダ! ここまで来たら、ひさしぶりに魚が食いてえ!」


「なら僕が【運搬】してきましょうか? 大陸の北まで足を伸ばせば」


「いかに荷運び人(ポーター)とはいえ、日数がかかるであろう。難しいのではないか?」


 コウタとアビーの声援を受けて、ディダは肩に担いでいた網を手にした。

 絶黒の森の植物系モンスターの素材で自作した網は、ようやく完成したらしい。

 今日が初めての「漁」である。


「カァッ!」


「ありがとう、カークさん! いくだっ! せやっ!」


 なんらかの合図だったのか、カークが一声鳴く。


 ディダが頷いて気合を入れて、網を投げた。

 網は空中でサアッと広がる。


 原始的な投網漁である。


 網は弧を描いて着水して、下部は重りで下へ、上部は浮きで水面にとどまった。


 絵に描いたような投げ網に、人間たちは拍手で讃える。

 人間かどうか怪しいクルトも拍手で讃える。


 ディダは真剣な眼差しで沈んでいく網を見つめ、突然ザブザブと岸に向かって歩き出した。

 いい感じに沈んだタイミングだったらしい。


 網の重さと水の抵抗に踏ん張りながら、ディダが歩を進める。

 手伝おうかというコウタやアビーの申し出に首を振る。


 絶黒の森の拠点での、最初の漁。

 幼い頃から憧れて、里で投網の練習を重ね、それでも里で一番小さいため参加を許されなかったディダの、初めての漁。

 ディダは、一人でやりたいのだろう。

 悔しさを晴らすために、小さくてもできるんだと自分に示すために。


 ディダの歩みは遅い。

 網の下部は、水底を引きずっているためずいぶん重いようだ。

 体を前に傾けて一歩ずつ岸に向かうディダの歩みを、コウタたちが応援する。

 カークだけは網の上を飛んで、魚が捕まえられたかチェックする。カアッ! と喜びの咆哮を響かせる。が、アビーとクルトは気づかないフリをする。


 やがて、ディダの腰が水面から出た。

 ぼたぼたと水を垂らしながらそのまま進む。

 足が出て、全身が出て。

 ディダが岸辺を進んでいく。

 力を入れ続けたためか、顔は紅潮している。


「がんばれディダ、もうちょっとだ!」


「魔力が活性化してる。ナチュラルに身体強化してんのか」


「なるほど。これでは、巨人族(ギガント)は魔法を使えまい。余剰魔力は体の成長に、残る魔力を身体強化に使っておるのか」


 アビーとクルトの魔法談義をよそに、ディダはくるりと向きを変えて、今度は網を引っ張る。

 あいかわらず、コウタに手伝いの申し出も断った。

 最初の漁は、最後まで、自分一人で。

 ディダのこだわり(プライド)である。


 ずりずりと網を引っ張って、しばらくすると。


 湖面に、ばしゃばしゃと波が起きた。


「わあっ! 見てくださいあれ!」


「おおっ!」


「カアッ、カアー!」


 水深が浅くなって暴れる魚だ。

 一匹ではなく、少なくとも数匹が見える。


「うんしょっ!」


 ひときわ大きな掛け声で、ディダが網を引いた。

 網がざぱっと湖面を割る。

 勢いよく空中に飛び出して、水滴がきらめいた。


 宙を舞う網の中で何匹かの魚が暴れている。


「ぼえーっ!」


 岸辺に、奇妙な鳴き声が響いた。


 魚の。


「…………えっと? こっちの魚って、鳴くのかな?」


「ど、どうだろうな。オレも調理されたヤツしか見たことねえから」


「カァー……」


 岸辺に打ち上げられた魚は、網の中でぼえぼえと鳴きながら跳ねまわっている。

 見た目はコウタたちの知る一般的な「魚」の形なのに、口からは確かに奇妙な声が聞こえていた。

 コウタ、アビー、カーク。

 元日本組は引き気味である。


「わあ! 活きのいいお魚ですね!」


「ふむ。水棲生物は発声器官がないものが多いはずだが……これは興味深い」


 一方で、異世界組は喜んでいた。

 クルトは方向性が違うようだが。


 そして。


「やった、やっただ! 跳ねて鳴いて美味しそうな魚が三匹も!」


 漁に憧れて、初めての投網漁をしたディダは、歓喜の涙を流していた。


「おら。おらが、やった、やっと、漁で、魚を……」


 ぼえぼえ鳴く魚を前に、身を縮めてぐすぐす泣く。

 とりあえず、魚が声を発していることに違和感はないらしい。


「ディダさん、まだ漁は終わりじゃありませんよ! 魚を仕留めないと!」


「うう、ぐすっ、そうだべな、ありがとうベルさん!」


 ベルに促されて、ディダは岸辺に置いていた棍棒を手にする。

 網の中でびちびちと跳ねまわり、奇妙な声をあげる魚を睨みつける。


 棍棒を振り下ろす。


「てやっ! ていっ! せやっ!」


「ぼあー……」

「ぐぎょあっ!」

「あふ」


 棍棒を打ち付けられた魚たちは、悲鳴? をあげて(こと)切れた。


 仕留めたディダは、ふうっと一息吐いて額の汗をぬぐう。


「やっただ! やっただよコウタさん! カークさん!」


 振り返ったディダは、コウタに握手を求めた。

 満面の笑みでカークの羽を撫でつける。


 巨人族(ギガント)の里を出て、迷ったディダを導いたカークと、この地に迎え入れて漁の許可をくれたコウタ。

 一人と一羽に感謝して、成果を誇っているようだ。


「う、うん、よかったねディダ。おめでとう」


「カアッ!」


 祝福の言葉とは裏腹に、コウタの笑顔は引きつっていた。

 あっさり立ち直ったカークは、ばさばさ羽を鳴らして嬉しそうだが。



 コウタとカークがこの世界で目覚めてから五ヶ月と半ば。

 精霊樹のほとりの湖で、初めての漁は成功した。

 うまくいけば、コウタたちは定期的に魚を食べられるようになるだろう。

 魚が鳴くことを、気にしなければ。



遅くなりました、今年最後の更新です。

年明けは1/6(月)から再開予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] あふ... wwwww
[一言] 大丈夫大丈夫こっちの魚の一部も鳴くから無問題
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