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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第一章 元社畜で鬱ったニート、異世界で目覚める』
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第五話 コウタ、カラスの行動に衝撃を受ける


 コウタとカークが小さな湖のほとりで目を覚ましてから二日目。

 昼前に川で魚をゲットしたコウタは、拠点としている大木のもとまで戻ってきた。

 収穫は黒い鹿から献上された刃状のツノと、ダツのような魚だ。

 ちなみに、魚は葉に包んで乾燥を防ごうと試みていた。臭み軽減も狙っている。

 葉はカークのセレクトだ。賢い男である。烏なので。


 水辺から少し離れた場所に石を積んで、近くの森から枯れた枝葉を集めて。

 簡易な焼き場を作ったコウタは、魚の処理に挑戦していた。

 包丁がわりに使うのは鹿のツノだ。


「おおっ、切れる切れる!」


「カ、カア?」


 頭を落として、刃先で腹を裂いて、コウタは喜びの声をあげる。

 ツノは根元まで刃状なのに素手で掴むコウタを見て、カークはマジで? と疑問の声をあげる。


「こんなに切れ味がいいってことは、おかしいのはやっぱり俺の体か。【健康】ってなんなんだろうなあ」


 輪廻転生を案内された場で、コウタは「健康で穏やかな暮らし」を願った。

 途中、男神が乱入するトラブルもあったが、たしかに心身の【健康】を授かったらしい。

 心が不調だったのに毎日活動できるようになって、刃物で襲われても怪我ひとつしないという、コウタが思っていたよりも強力な【健康】を。


「ありがとうございます、女神様。よし、準備もできたし火を……火を……?」


 内臓を抜いて、取れる限りのウロコとヒレを外して。

 細身の魚に木の串を突き刺して、準備万端となったところで。


 コウタが、ようやく気がついた。


「火、どうしよう」


 魚を焼くのに、火がないことに。

 致命的なミスである。


「木の板に木の棒をこすりつければつくんだっけ、でもあれってけっこう大変で時間がかかるって聞いたような」


 延焼しないよう、下に石を敷いた。

 木の串を乗せられるよう、まわりに石を積んだ。

 枯れ木を集めて燃やせるようにした。

 カークが貫いた魚の頭を落として、内臓も処理した。


 そこまでしておいて、肝心な火の準備が抜けている。

 日本ならライターなどで簡単に着火できるせいだろうか。

 コウタにキャンプ経験はない。


「カァー」


 仕方ねえなあ、とばかりにカークが鳴く。

 コウタにもらった魚の頭と内臓からくちばしを離す。

 ぴょんっと飛び上がって、積まれた石の上に乗る。


 二本の足で体を支えて、三本目の足を枯れ木にかざす。


「ガアッ!」


 ふんっ、と強く鳴いて力を込める。

 三本目の足がほんのり輝く。


 ()()()()()()が、放たれた。


「…………え?」


 ぽかんと大口を開けるコウタ。

 火はじわじわと枯れ木を焦がす。

 すぐに火が移る。

 燃え出す。


「え? え? いま、え? カーク、いまのなに?」


「カァ」


「まさか魔法!? カークって実は魔法使い? 魔法カラス?」


「カァ、カア」


 わたわたと手を動かすコウタに、カークはまあ落ち着けって、とでも言いたげだ。冷静か。

 もしカークがカラスでなければ、コウタは肩を掴んで揺すっていたことだろう。

 こんな時でもコウタはカークを気遣えるようだ。鳥の体は繊細なので。三本の足があって火を放つカラスが鳥なのかどうかは置いておくとして。


「はあ、カークはすごいなあ」


 ひと慌てして落ち着いたらしい。

 そっとカークの喉元を指の背でくすぐって、コウタは魚を焼きはじめた。


 じゅうじゅうと脂が落ちる。

 調味料はない。

 中までしっかり火を通してから、コウタは魚を口にした。

 毒があるかもしれないのに。蛮勇である。いや、コウタは神様から授かった【健康】を信じているのだろう。きっとそうだ。


「うん、おいしい。せめて塩があればもうちょっとおいしくなるんだけど……」


「カア。カァ?」


 味付けなしにしては悪くないらしい。

 コウタから少し身をもらったカークは、次は岩塩でも探すか? と鳴いていた。コウタには通じない。


「水と果物と魚で食料はなんとかなりそう。寝床はあるしトイレは作った。なんとか生きていけそうだけど」


 チラッと手元の魚を見る。

 塩も醤油もない。


 調理に使った刃物を見る。

 鹿のツノで、切れ味はいいけど使いづらい。


 着ている服の胸元に鼻を突っ込む。

 いまのところ臭いはしない。


「人里は探したい。会話はまだ不安だけど……いろいろ欲しいもんなあ」


「カァ?」


「あ、けどお金ないや」


「カァ!」


 はっ、俺が稼いでやんよ! とでも言いたげにカークは胸を張る。カラスがどうやって稼ぐのか。

 コウタが頭を悩ませる。少なくともこの近くにマンションの営業職はなさそうだ。あったところでまた心を病んでしまいそうだが。


「カークに飛んでもらっても人里はないみたいだし……探す間に、いろいろ考えてみよう。魔法も使ってみたいしね」


 コウタ、問題は先送りにしたようだ。

 いま考えたところで無駄だと思ったのだろう。賢明な判断である。


「火も案内も、いろいろ頼ると思うけど……これからもよろしくね、カーク」


「カアッ!」


 任せとけ! と威勢のいい鳴き声が響く。


 一人と一羽の異世界生活二日目。

 川を見つけて魚を捕り、刃物をゲットして、カークが魔法を使えることも判明した。

 人里は見当たらない。

 けれど、森と大木と小さな湖のほとりでの生活は、徐々に充実したものになっていく。

 ちゃんと動ける【健康】な心身になったとはいえ、コウタはまだ人との会話に不安を持っていた。

 一人と一羽で生活がはじまったことは、コウタにとってよかったのかもしれない。


 いずれ(きた)る人とのコミュニケーションの前の、助走期間として。




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[一言] 火!ヤッター!カラスのカークサンスッゲー!w
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