第五話 コウタ、巨人族の少女と拠点で話をする
「これを食べれば、おらは大きくなれるだか……」
「よかったね、ディダ」
「カァー」
「まだわからねえけどな。まあ害がある食べ物じゃねえんだ、まずは食べてみるといい」
「あれ? けどクルトは食べられないって」
「そりゃクルトは普通じゃねえからな。アンデッドじゃないんだ、巨人族は大丈夫だろ。…………たぶん」
「可能性がちょっとでもあるんなら! おら迷わねえ!」
「がんばってくださいディダさん! なんでも食べるのは荷運び人への道の第一歩ですよ!」
「おかしい。ベルのポーター観がおかしい。いまにはじまったことじゃないけども」
「カァ?」
絶黒の森の中心部、精霊樹と小さな湖のほとり。
コウタが整地した広場で、巨人族の少女・ディダは果実を口に放り込んだ。
3メートル超の身長と比べたら小さなそれを、ぽいぽいと一気に三個。
巨人族が食べても大丈夫なのかという、コウタとアビーの心配はスルーだ。
カークは心配そうに首を傾げて、小さな体で大きな少女を覗き込む。
「どう? 体は平気?」
「コータと比べてレベルは低くても【健康】があるんだ、変なことにはならねえと思うけど……」
「うんめえ! なんだこれ、里で食べたどの果物よりうめえだ!」
「あっうん」
「味はな、心配してなかったんだけれども。なんだこの森、マイペースなヤツしか来れねえのか?」
「おら、大きくなった気がするだ!」
大きな体を小さくして、地べたにちょこんと座り込んでいたディダが立ち上がる。
手足を伸ばして体を触って、大きくなったと喜んでいる。
「ほら! ほらコウタさん! 手を伸ばしたらこの樹の一番下の枝まで届くようになっただ!」
「よかったね、ディダ」
「いや変化するったってそんなすぐには現れねえだろ普通。変わってない、よな?」
「鍛えた日はよく寝ることで次の日から体が強くなるって教わりました! だから大きくなるなら明日だと思います!」
「うっそだろベル、常識はずれの荷運び人の村で、常識を教わってる、だと……?」
「うーん、食べる前に身長を測っておけばよかったね」
「そうだな。ま、一回きりじゃねえんだ、これから計測して実験してけばいいだろ。厳密な研究ってわけでもねえし」
「カァ!」
喜びのあまりドタドタ駆けまわるディダを横目に、コウタたちはわいわいと話し合っていた。
ディダは湖面に姿を映して身長を確かめたり、ざぶざぶ水に入って「ここまで足が届くなんて大きくなったに違いねえ!」とはしゃぎまくりだ。
ビフォーがわからないため、本当に大きくなれたかは不明である。
少なくとも劇的ビフォーアフターではない。
「あんまり変わらなかったとしても気にしねえ! だって、続けてけば大きくなれるかもしれねえんだ!」
「まあほら、そのままでもディダはディダだからね? スキルになるぐらい【木工】ができるみたいだし、大きさは気にしなくたって」
「えへへ、ありがとう、コウタさん」
「続けてけば、か。なあディダ、魔法は使えねえのか? 魔力枯渇で気絶寸前まで使えばそっちでも魔力を伸ばせるぞ?」
「おら、使えねえだ。里でも使える人はいなかっただな」
「僕の村には何人かいました!」
「んー、巨人族は魔法が苦手なのか? それとも種族スキルっぽい【魔力変換】が体内魔力を練り上げるのを阻害してるのか」
「荷運び人の村の魔法使い……気になる……」
「カァー」
「魔力を巨大化と強化にまわしてる。だから魔法を使うほどの魔力が残らない、練れない。ありえそうだな」
「あ! おら見たことはねえけども、里長が『奥の手』を持ってるって聞いたことあるだ! それが魔法かもしれねえ!」
「おおー。一番大きい巨人族の長の『奥の手』。なんかすごそうだね」
「体の最大値が決まってる? んで余剰魔力があれば初めて魔法を行使できる? くっ、気になることだらけだな巨人族!」
ようやく落ち着いたディダを座らせて、コウタたちは話を続けていた。
開拓に農作業に建築、木工、やることはいくらでもあるが、コウタもアビーも、ベルも、今日は休むことにしたらしい。
サボりである。
いや、二組とも遠征から帰ってきた当日だからだ。
サボりではない。
体を休めることも、新たな移住希望者との交流も大事なことだ。
「魔法かあ。ねえアビー、俺たちの中では誰が魔力量? 多いの?」
「それなあ。この中で一番体内魔力を持ってんのは、コータなんだ」
「え? 俺? 魔法を使えないのに?」
「おおー! すごいですね、コウタさん!」
「『体を大きくすることに魔力を使う巨人族』を見てると、ひょっとしたらコウタの【健康】も魔力がエネルギー源なのかもな」
「じゃあ、いつか魔法を使いこなせるようになって、魔力が減ったら……」
「どうなるかねえ。ま、神様謹製のカラダなんだ、関係ねえかもしれねえ。まあいずれわかるだろ」
「うん……」
「それに、コウタの次に魔力が多いのはカークだしな」
「カァー!」
「だから、【健康】と関連性があるとは言い切れねえ。カークも神様謹製だしな」
「カークさんはすごいカラスだったんだべなあ。おらを道案内してくれて、魔力もたくさんで」
「カァ? カァ」
「次にオレだ。常識はずれの魔力量で『逸脱賢者』って呼ばれてたんだけどなあ……。はあ。そんで、量はぐっと減ってベル、ディダの順だな」
「ベルはあんなに大きな岩を【運搬】できるのに?」
「ああ。それを考えると、スキルと魔力に関係性はねえんだろうな。ディダの【魔力変換】が特別で」
「おらが、とくべつ……うぇへへへへへ…………」
「カァカアッ!」
ぐねぐねと巨体をくねらせるディダ。照れているらしい。
大きな肩に止まったカークは、動きが楽しいのかご機嫌だ。
出会いから二日目にして、ディダはすっかりコウタたちに馴染んでいる。
先に遭遇して導いてきたカークとも。
平和な時間であった。
この時までは。
「あれ? アビー、じゃあクルトは?」
「クルトは規格外だ。古代文明時代から多い方って言ってたし、そっから変化してさらに増えたってよ。コウタよりも上だな。質も量も、知識もな」
「うわあ……よく勝てたね俺たち……」
「相性の問題ってヤツですね! そういうのがあるから『油断するんじゃないぞ』ってお父さんが言ってました!」
「クルトさん、だか? おらここに住むんだ、挨拶してえけども」
「うん、そうだね。じゃあ呼んで——」
「待てコータ、ちゃんと説明してからの方が、っと、遅かったか……」
コウタの言葉が止まる。
アビーが頭を抱える。
ベルは振り返ってニコニコして、カークはディダの肩から飛び立った。
「なっ、なんだべこの気配! みんな、おらのうしろ、樹の陰に! お、おらじゃ守りきれねえかもしれねえけども!」
ディダ一人が慌てて立ち上がり木の盾を構える。
精霊樹の前に陣取って、三人と一羽を隠れるように促す。
が、コウタたちは動かない。
「コウタ殿、アビー殿、『球体関節』で少々聞きたいことが……むっ」
巨人族の少女・ディダが震えながら見つめる先。
かすかに黒いモヤ——瘴気——を漂わせ、ボロボロのマントをたなびかせて現れたのは、痩せこけた壮年の男であった。
「来客があったか。これは失礼した。我はクルト・スレイマンだ。初めまして、海トロールの少女よ」
「な、何者だべ!? 小さな人の形だからっておら騙されねえぞ!」
「海トロール? なんだそれ、んじゃ陸トロールとか空トロールとかもいるのか? くっ、また気になることを!」
「わあ! ディダさんはクルトさんの正体がわかるんですね!」
「カァッ!」
「落ち着いて、ディダ。クルトは敵じゃないから」
「だどもコウタさん! この気配は普通じゃねえ!」
「あーうん、普通ではないかなあ。クルトさんアンデッドだし。強力な『ワイトキング』らしいし」
「あああアンデッド!?」
ディダの震える声が、絶黒の森に響き渡った。
強力なアンデッドを前に、常識的な反応である。
コウタとカークがこの世界で目覚めてから四ヶ月ちょっと。
じゃっかん価値観が違うものの、コウタはようやく常識的な異世界人と出会えたのかもしれない。
3メートル超と、異世界でも規格外の身長らしいが。
異世界人と三本足のカラスと『逸脱賢者』と勇者パーティから追放された荷運び人と古代文明の生き残りアンデッドと比べたら、サイズなどたいしたことではないだろう。たぶん。





