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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第七章 コウタ、巨人族の小さな少女と出会って村づくりを進める』

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第四話 コウタ、願いを受けてアビーに少女を「鑑定」してもらう


「おらが持ち上げられねえ大岩を……あんなに小さい人が……」


「げ、元気出してディダ! ベルは特別だから!」


「カァッ!」


「え? 子供の頃から訓練すれば誰でもできるようになりますよ?」


「ならねえから。普通は子供の頃から訓練しねえってのは置いといても、アレは訓練でなんとかなる重量じゃねえから」


 カークに導かれた巨人族(ギガント)の少女・ディダは、コウタとアビーと一緒に拠点に帰ってきた。

 同じタイミングで、荷運び人(ポーター)のベルも街から帰ってきた。

 初対面の時に大岩に驚いたのはコウタやアビーと同じだが、そこからは違う。


 ディダは、ベルが背負っていた5メートル超の大岩を持ち上げようとしたのだ。

 だが、上がらない。

 自分——3メートルを超えるディダ——より大きな岩は上がらなかった。ちょっと動かせただけコウタやアビーより力強い。


 それでも、少女はショックを受けたようだ。

 巨人族(ギガント)にとって「デカいは強い」なので。


「大きさは関係ないよ。それに、強さだって関係ないんだ」


「コウタさん? だどもおら」


「俺はただ【健康】なだけだけど、カークは【導き手】で魔法だって使える」


「カァー!」


「アビーはいろんな知識があって、魔法も得意で」


「まあ瘴気の濃い場所で【健康】でいられるだけすげえんだけどな。コータがいるからオレたちもここで過ごしてるんだし」


「ベルは【運搬】の得意な荷運び人(ポーター)で」


「はい! 【解体】もできます!」


「あれなあ。使い手が認識できりゃアンデッドも【解体】できるってチート(ずる)だろ」


「みんな、それぞれできることがある、やりたいことだってある。だから、ディダも好きにすればいいんじゃないかな」


「コウタさん……おらのできること、やりたいこと……」


「最後に弱気になるところがコータっぽいなあ。いいこと言ってるんだから言い切りゃいいのに」


「カァー」


「できることがわからなければアビーに見てもらったらいいよ。この世界には『スキル』があるらしいから」


「すきる?」


「クルトは『ギフト』って言ってたかなあ。俺の【健康】とか、ベルの【運搬】みたいなヤツ」


 コウタが説明しても、ディダはきょとんと首を傾げている。

 ぴんと来ないらしい。

 それでもディダは、自分の半分しかない少女に向き直った。


「おら、大きくなりてえ。けど、それより、一人前になりてえんだ。お願いします、アビーさん」


「うし、よく言った! んじゃ行くぞ!」


 ディダのお願いに、アビーは迷うことなく頷いた。

 切り株イスから立ち上がって杖を手に取って構える。

 ローブの袖から白く細い手首が覗く。


 アビーと、不安そうなディダを応援するかのように、精霊樹の葉がさわさわと揺れた。


「『鑑定』ッ!」


 アビーがじっとディダを見つめる。

 コウタとカーク、事情をよく知らないベルも静かに見守っている。

 そして。


「おー、それっぽいのがあるな!」


「どうだったのアビー?」


「カァ?」


 コウタとカークがアビーを急かす。

 ベルは微笑みを浮かべたまま黙っている。


「その、どうだっただか? おら、小さなおらにできることは」


「一番レベルが高いのは【魔力変換】ってヤツだ。これが巨人族(ギガント)限定のスキルっぽいな」


「魔力変換? あれ、魔法を使うときは魔力を使うって話じゃ」


「ぼんやりとしかわからねえけど、そういうのじゃないみたいだぞ。魔力で、体を不可逆に変化させてんな。つまり、巨人族(ギガント)が巨人なのはこのスキルのおかげっぽい」


「へー、なるほどー」


 アビーの解説にコウタは気の抜けた声を漏らす。

 よくわかってないらしい。

 肩に止まったカークがばっさばっさと翼でコウタにつっこむも、コウタはツッコミだと認識した様子はない。

 呑気な一人と一羽をよそに、ディダがアビーににじりよった。


「じゃあ! じゃあ! 昨日言ってたみてえに、魔力が増えれば! おらも大きく!」


「なるだろうな。スキルの強度で言ったら、コウタやカークやオレやベルの【ex】スキル並みだし」


「おおー! おめでとうディダ!」


「カァ!」


「あとは、レベルが低いけど【木工】【健康】なんかもあるな」


「俺と同じ【健康】か! そっか、それで瘴気の中を通過しても平気だったんだ!」


「たぶんな。まあコータの【健康 LV.ex】とは比べものにならねえ、レベルにしたら3か4ってところだけどよ」


「おら、木工は得意だったんだ! へへ、そうか、おら、大きくなれるかもしれなくて、それに、おらにもできることが……」


 そう言って、ディダは自分の大きな手を見つめる。

 努力を続けた結果か、背が高いだけの少女にしてはゴツゴツして、硬くなった手を。

 涙ぐむ、どころかずびずび泣き出したディダの肩にカークが止まった。イケメンか。カラスだが。


「あっ、そういえばアビー、精霊樹の果実(アンブロシア)を食べれば魔力が増えるって」


「だな。まあ、頼んでもらえたヤツじゃねえと効力はないし、一食で増えるのはほんのちょっとだけど」


 コウタとアビーの会話に、ディダがバッと振り返る。

 なんらかの水滴がついて、カークはバッと飛び立っていった。水浴びするらしい。キレイ好きか。


「ディダ、お願いしてみる?」


「もちろんだ!」


 大きな体で立ち上がって、巨人族(ギガント)の少女、ディダは精霊樹の前にヒザをついた。

 3メートル超の少女よりも、精霊樹はなお大きい。

 木陰で手を組む。

 少女は巨大な樹を見上げて祈る。


「どうか、お願いします! おらに果実をください! 大きくなったら、おらはこの樹を守ります! この身に代えても、おらが死ぬまで!」


「ちょ、ちょっと重くないかな」


「それだけ願ってたんだろ。ディダにとっては大事なことなんだって」


「カァ」


「わかります! 僕も、鍛えても荷運び人(ポーター)になれなくて、でもなれる手段を見つけたならそれぐらい!」


「そっか……」


 アビーやベルと違って、コウタはいまいちその覚悟が理解できなかったらしい。

 とはいえ、精霊樹と小さな湖にできつつあるこの集落に害なす者が現れたら、コウタも必死の抵抗をするだろう。

 思い至らないだけだ。いまは、まだ。


 ディダの祈りに、風もないのに精霊樹の枝葉がざわつく。


 見上げたディダの顔めがけて、ポツリと果実が落ちてきた。


「わっ!」


 まるで、ディダの願いに応えるかのように。

 死ぬまで守る宣言がうれしかったのか、それとも大きさに対して量が不安だったのか、みっつ。


「こ、こんなに……これで、おらは……」


「よかったねディダ」


「精霊樹への害意もないって認められたみてえだな。ひと安心ってとこか。食べてみての結果はわからねえけど」


「カァー」


「これからよろしくお願いします、ディダさん!」


 大きな手で果実を受け止めたディダに、三人と一羽が声をかける。

 ディダに聞こえたかどうかは不明だ。

 なにしろ、里で一番小さな巨人族(ギガント)の少女が願い続けた、「大きくなれるかもしれない可能性」が手の中にあるので。



 コウタとカークが異世界で目覚めてから四ヶ月と少し。

 いまでは三人と一羽が暮らして、ときどき一人? 一体? が遊びに来る拠点はまた一人を迎えることになったようだ。

 コウタ待望の、【木工】スキルを持つ少女を。




次話は明日11/26(火)更新予定です!


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