第四話 コウタ、願いを受けてアビーに少女を「鑑定」してもらう
「おらが持ち上げられねえ大岩を……あんなに小さい人が……」
「げ、元気出してディダ! ベルは特別だから!」
「カァッ!」
「え? 子供の頃から訓練すれば誰でもできるようになりますよ?」
「ならねえから。普通は子供の頃から訓練しねえってのは置いといても、アレは訓練でなんとかなる重量じゃねえから」
カークに導かれた巨人族の少女・ディダは、コウタとアビーと一緒に拠点に帰ってきた。
同じタイミングで、荷運び人のベルも街から帰ってきた。
初対面の時に大岩に驚いたのはコウタやアビーと同じだが、そこからは違う。
ディダは、ベルが背負っていた5メートル超の大岩を持ち上げようとしたのだ。
だが、上がらない。
自分——3メートルを超えるディダ——より大きな岩は上がらなかった。ちょっと動かせただけコウタやアビーより力強い。
それでも、少女はショックを受けたようだ。
巨人族にとって「デカいは強い」なので。
「大きさは関係ないよ。それに、強さだって関係ないんだ」
「コウタさん? だどもおら」
「俺はただ【健康】なだけだけど、カークは【導き手】で魔法だって使える」
「カァー!」
「アビーはいろんな知識があって、魔法も得意で」
「まあ瘴気の濃い場所で【健康】でいられるだけすげえんだけどな。コータがいるからオレたちもここで過ごしてるんだし」
「ベルは【運搬】の得意な荷運び人で」
「はい! 【解体】もできます!」
「あれなあ。使い手が認識できりゃアンデッドも【解体】できるってチートだろ」
「みんな、それぞれできることがある、やりたいことだってある。だから、ディダも好きにすればいいんじゃないかな」
「コウタさん……おらのできること、やりたいこと……」
「最後に弱気になるところがコータっぽいなあ。いいこと言ってるんだから言い切りゃいいのに」
「カァー」
「できることがわからなければアビーに見てもらったらいいよ。この世界には『スキル』があるらしいから」
「すきる?」
「クルトは『ギフト』って言ってたかなあ。俺の【健康】とか、ベルの【運搬】みたいなヤツ」
コウタが説明しても、ディダはきょとんと首を傾げている。
ぴんと来ないらしい。
それでもディダは、自分の半分しかない少女に向き直った。
「おら、大きくなりてえ。けど、それより、一人前になりてえんだ。お願いします、アビーさん」
「うし、よく言った! んじゃ行くぞ!」
ディダのお願いに、アビーは迷うことなく頷いた。
切り株イスから立ち上がって杖を手に取って構える。
ローブの袖から白く細い手首が覗く。
アビーと、不安そうなディダを応援するかのように、精霊樹の葉がさわさわと揺れた。
「『鑑定』ッ!」
アビーがじっとディダを見つめる。
コウタとカーク、事情をよく知らないベルも静かに見守っている。
そして。
「おー、それっぽいのがあるな!」
「どうだったのアビー?」
「カァ?」
コウタとカークがアビーを急かす。
ベルは微笑みを浮かべたまま黙っている。
「その、どうだっただか? おら、小さなおらにできることは」
「一番レベルが高いのは【魔力変換】ってヤツだ。これが巨人族限定のスキルっぽいな」
「魔力変換? あれ、魔法を使うときは魔力を使うって話じゃ」
「ぼんやりとしかわからねえけど、そういうのじゃないみたいだぞ。魔力で、体を不可逆に変化させてんな。つまり、巨人族が巨人なのはこのスキルのおかげっぽい」
「へー、なるほどー」
アビーの解説にコウタは気の抜けた声を漏らす。
よくわかってないらしい。
肩に止まったカークがばっさばっさと翼でコウタにつっこむも、コウタはツッコミだと認識した様子はない。
呑気な一人と一羽をよそに、ディダがアビーににじりよった。
「じゃあ! じゃあ! 昨日言ってたみてえに、魔力が増えれば! おらも大きく!」
「なるだろうな。スキルの強度で言ったら、コウタやカークやオレやベルの【ex】スキル並みだし」
「おおー! おめでとうディダ!」
「カァ!」
「あとは、レベルが低いけど【木工】【健康】なんかもあるな」
「俺と同じ【健康】か! そっか、それで瘴気の中を通過しても平気だったんだ!」
「たぶんな。まあコータの【健康 LV.ex】とは比べものにならねえ、レベルにしたら3か4ってところだけどよ」
「おら、木工は得意だったんだ! へへ、そうか、おら、大きくなれるかもしれなくて、それに、おらにもできることが……」
そう言って、ディダは自分の大きな手を見つめる。
努力を続けた結果か、背が高いだけの少女にしてはゴツゴツして、硬くなった手を。
涙ぐむ、どころかずびずび泣き出したディダの肩にカークが止まった。イケメンか。カラスだが。
「あっ、そういえばアビー、精霊樹の果実を食べれば魔力が増えるって」
「だな。まあ、頼んでもらえたヤツじゃねえと効力はないし、一食で増えるのはほんのちょっとだけど」
コウタとアビーの会話に、ディダがバッと振り返る。
なんらかの水滴がついて、カークはバッと飛び立っていった。水浴びするらしい。キレイ好きか。
「ディダ、お願いしてみる?」
「もちろんだ!」
大きな体で立ち上がって、巨人族の少女、ディダは精霊樹の前にヒザをついた。
3メートル超の少女よりも、精霊樹はなお大きい。
木陰で手を組む。
少女は巨大な樹を見上げて祈る。
「どうか、お願いします! おらに果実をください! 大きくなったら、おらはこの樹を守ります! この身に代えても、おらが死ぬまで!」
「ちょ、ちょっと重くないかな」
「それだけ願ってたんだろ。ディダにとっては大事なことなんだって」
「カァ」
「わかります! 僕も、鍛えても荷運び人になれなくて、でもなれる手段を見つけたならそれぐらい!」
「そっか……」
アビーやベルと違って、コウタはいまいちその覚悟が理解できなかったらしい。
とはいえ、精霊樹と小さな湖にできつつあるこの集落に害なす者が現れたら、コウタも必死の抵抗をするだろう。
思い至らないだけだ。いまは、まだ。
ディダの祈りに、風もないのに精霊樹の枝葉がざわつく。
見上げたディダの顔めがけて、ポツリと果実が落ちてきた。
「わっ!」
まるで、ディダの願いに応えるかのように。
死ぬまで守る宣言がうれしかったのか、それとも大きさに対して量が不安だったのか、みっつ。
「こ、こんなに……これで、おらは……」
「よかったねディダ」
「精霊樹への害意もないって認められたみてえだな。ひと安心ってとこか。食べてみての結果はわからねえけど」
「カァー」
「これからよろしくお願いします、ディダさん!」
大きな手で果実を受け止めたディダに、三人と一羽が声をかける。
ディダに聞こえたかどうかは不明だ。
なにしろ、里で一番小さな巨人族の少女が願い続けた、「大きくなれるかもしれない可能性」が手の中にあるので。
コウタとカークが異世界で目覚めてから四ヶ月と少し。
いまでは三人と一羽が暮らして、ときどき一人? 一体? が遊びに来る拠点はまた一人を迎えることになったようだ。
コウタ待望の、【木工】スキルを持つ少女を。
次話は明日11/26(火)更新予定です!
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