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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第七章 コウタ、巨人族の小さな少女と出会って村づくりを進める』

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第二話 コウタ、初対面の少女に自己紹介して会話が弾む?


 絶黒の森を西に抜けて、連なる山々に分け入ったコウタとカーク、アビー。

 普通の人間では進めないと引き返すことを決めたところで、近づいてくる存在に気がついた。

 カークに導かれて、コウタの足ではまたげない段差をまたぎ、アビーでは手が届かない岩をよじのぼってきた少女。


 少女は、大きかった。


「は、はは、は、はじめまして」


「あ、はい、はじめまして」


 人見知りなのか木立に隠れてひょっこり顔を出して挨拶するも、まったく隠れられていないほど大きかった。


「近くで見ると本当に大きいなあ」


「カァ!」


「えっ!? い、いま、なんて言っただか?」


「あ、ごめん、女の子に『大きい』って失礼だったかな、けど悪い意味じゃなくて」


「大きい!? おらの聞き違いじゃなく!?」


「ええ? 大きいよね?」


「デカいな。身長はオレの倍ぐらいあるんじゃねえか?」


「大きい……おらが、大きい……うぇへへへへ」


 木のうしろで腰をかがめてニマニマする少女。

 コウタはきょとんとしている。

 アビーはオレだって小さいわけじゃねえんだけどな、などとブツブツ言っている。

 初対面の挨拶が進まない。

 カークは呆れたようにカァーと鳴いた。


「大きい……里じゃ一番小さかった、おらが……」


「一番小さかった? えっと、アビーの倍ってことは3メートル以上あるのに?」


「種族が違うんだろ。人間と同じ姿形でデカイってことは巨人族(ギガント)かねえ」


「へー、巨人族(ギガント)。人里にはよくいるのかな」


「いや、オレも初めて見た。だから、巨人族(ギガント)じゃねえかなーってのは推測だ」


「……まさか、大きい人間はほかにも」


「ほかはたいがいモンスターだな。角があってデカくてごついオーガ、緑っぽい肌に悪食なトロル、あとはあれだ、オークもデカイな」


 なにやら噛みしめる少女をよそに、コウタとアビーがひそひそ話をはじめる。

 カークは蚊帳の外だ。カラスなので。


 ちなみに、コウタとアビーが小さいわけではない。

 コウタは170センチちょっと、アビーも160センチ以上ある。

 この世界ではやや低めだが、街でも見かける身長だ。


 そのアビーの、倍。

 しかも、鍛えているのか、身長3メートル超にくわえて肉づきがいい。体が分厚い。

 革鎧の胸部はだいぶ押し上げられている。


「あっ。すまねえ、おらうれしくてついつい」


「気にしないでください。じゃああらためて。俺はコウタです。はじめまして」


「はじめまして、おらはディダラドラ。みんなからはディダって呼ばれてるだ!」


「くっ、名付けルールが気になるなこれ! おっと失礼。オレはアビーだ」


「カァ!」


「えっと、このカラスはカークっていうんだ。カラスだけど賢くて強くて、俺のと、ともだちで」


「カァー」


 照れたように鳴くカークに、ディダはそっと指を向けた。

 ばさっと飛び立ったカークが大きな指に止まる。なかなか居心地がいいらしい。

 ディダは「案内ありがとう」などとカラスに話しかけている。


「なあ、さっき『里じゃ一番小さい』って言ってたけど、みんなもっとデカいのか?」


「んだ。お(とう)とお(かあ)はおらの倍ぐらい、里長はその倍ぐらいだ」


「ええ……? こんなに大きいディダの倍……?」


「えへへ、小さい人から見たらおらもおっきいんだなあ」


「なるほど。んじゃディダは保有してる魔力が少ないのか?」


「魔力、だか?」


「なんか関係あるのアビー?」


「ああ。巨人族(ギガント)はほとんど魔法が使えねえ。けど、いや、だからか? 魔力を体の成長にまわすって説があってな。巨体を維持してんのも魔力だって推測されてんだ」


「へえー。瘴気になったり魔法の(みなもと)になったり、成長ホルモン? みたいになったり、魔力っていろいろ活躍してるんだねえ」


「カァー」


 呑気なコウタの感想に呆れたような声で鳴くカーク。

 『逸脱賢者』アビーがさらに語り出そうとしたところで。


「な、なら! 魔力があればおらもっと大きくなれるだか!?」


 ディダが、ずざざっとアビーに近寄ってきた。

 隠れられていなかった木立から出て、大きな体をさらして。

 3メートル超に接近されたアビーの腰が引ける。


「ど、どうだろうな、ちゃんと研究したヤツはいねえから、っていうか巨人族(ギガント)なんて帝国(こきょう)じゃ見かけなかったし」


「うう、ダメか……おら、おら」


 ディダががっくり肩を落とす。

 大きくなる手段をずっと探していた。

 けれど見つからなくて、初めて可能性のある説を聞いて。

 期待した分、落胆が大きかったのだろう。

 ついにはうずくまり、おうおう言いながら泣き出した。

 感情の振れ幅がデカい。

 一人旅が精神的にこたえていたこともあったのかもしれない。


 ディダの指から飛び立ったカークは、コウタの肩に止まってカァカァ鳴く。ほれ、ほかに知ってそうなヤツいるだろ、と言うかのように。


「あ、そっか。アビー、クルトは知らないかな?」


「どうかねえ。それに、魔力を増やすって大変なんだぜ? 魔力欠乏で気絶する直前まで魔法を使うか、あとは魔力たっぷりの稀少な素材を食べるか。けどそっちはだいたい高価だからな、貴族だったオレだって数えるほどしか食べたこと……あ」


精霊樹の果実(アンブロシア)


「…………あるな。たっぷり」


「なら、クルトが知らなくても、食べてみたらひょっとして?」


「まあ、結果はわかるな。一回じゃたいして変わんねえだろうけど、続けてけば」


「ほっ、ほんとだか!? な、なら!」


「どうするコータ?」


「大きくなれるかもしれないなら! おらなんでもするだ!」


「へえ、なんでも。いいのかそんなこと言って?」


「な、なんでもするだ! その、おらは小さいから漁はやらせてもらえなかったけども、網の繕いや木工や細かい仕事は得意なんだ!」


「ピュアか。『なんでも』でできることを述べてくるあたりピュアか」


「おー、すごい! ディダは器用なんだね!」


「そ、そうだか? うぇへへへへ」


「ああうん、コータたちはなんかもうそれでいいんじゃないかなあ」


「カァー。カアッ!」


「おう、その分オレたちがしっかりしようなカーク」


 褒めてはデレ合うコウタとディダ、呆れては気合を入れ直すカークとアビー。

 二組の男女はそれぞれ通じ合ったようだ。

 人間の男と巨人族(ギガント)の女性と、カラスのオスと中身男性の女性と。

 複雑すぎるカップリングである。カップルではないけれども。




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