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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第七章 コウタ、巨人族の小さな少女と出会って村づくりを進める』

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第一話 コウタ、絶黒の森の西を探索して少女に出会う


「こっちはずいぶん険しいね」


「ああ、こりゃしんどいかもなあ」


「カァ?」


「あっうん、空を飛べるカークには関係ないもんね。頼りにしてるよ」


「カァッ!」


 コウタとカークがこの世界で目覚めてからおよそ四ヶ月。

 一人と一羽は、拠点から離れた場所にあった。

 精霊樹と小さな湖のほとりの西側、瘴気渦巻く絶黒の森の西だ。


 カークの導きでコウタとアビーが、拠点西側の探索をはじめてから三日が経つ。

 二人と一羽は、西側の山を登っていた。


「『空間探索(ディメンションサーチ)』! くっ」


「大丈夫、アビー? 情報量が多いからその魔法はしんどいって」


「まあ、道が存在しないんだ、やらなきゃ進めねえからな。けど……」


「けど?」


「ほんとに、ここから先はキツそうだ。ロープにピッケル、スパイクつきの靴で本格的な登山の準備をするか、クルトに便利な魔法を教わるかだな」


「そっか……」


「空を飛ぶか、滑落覚悟で進むかしねえとしんどそうだ。オレたちがもうちょいデカけりゃ、崖もよじのぼれそうなんだけどなあ」


「カァ? カアー」


「うーん。俺が一人で進む、とか? ほら、俺は失敗して滑落しても【健康】だから怪我しないし」


「ありっちゃありだな。けどコータ、保険は準備しとかねえと。谷底に落ちて、助けるまで何日もかかるってなったら大変だろ?」


「たしかに。それはキツすぎる……」


「カァ!」


 そん時は俺が水と食料を運んでやるよ、とばかりに胸を張るカーク。山岳救助犬か。犬でさえないのに。

 三本足で【導き手】のスキルを持つカラスは、コウタとアビーを西に連れて行きたいらしい。

 西への探索行中に何度か二人の元を離れることもあったため、アビーは「また何かあるんじゃないか」と考えていた。

 そういえば、拠点南のダンジョンを見つけたのもカークであった。


 拠点の東の山は、ひとつ越えただけで景色が変わった。

 旅人や冒険者の侵入を阻む、赤茶けた死の谷(デスバレー)であることは置いておいて。

 だが、西側は山々が連なっているらしい。


 三本足のカラス・カークが空から道案内して、『逸脱賢者』アビーが空間魔法と土魔法を駆使して山歩きに挑戦してきたが、とうとう限界のようだ。

 二人と一羽の目の前には、崖と谷が続いている。

 コウタが女神さまから授かったと思しき【健康】を頼みに、滑落の危険性を無視して挑戦すればいけそうだが、その気はないらしい。


「うん。無理はしないで、ベルが帰ってくるのを待とう」


「だな! んじゃオレは、クルトにいい魔法知らないか聞いてみるとするか!」


 西の山を越えて海を目指していたコウタたちは、あっさりと諦めた。

 成果がなかったわけではない。

 アビーの手には、拠点からここまで地図化(マッピング)した羊皮紙が握られている。


「カァッ!」


「あれ? カーク? 帰ろうって話してたんだけど……どこ行くつもりなんだろ」


「んー、なんか見つけたか? まあちょうどいいだろ、帰る前にちょっと休憩にしよう……ぜ……?」


「…………え?」


 飛び去ったカークを目で追ったアビーが止まった。

 つられて同じ方向を見たコウタも止まった。


 カークが飛んでいった先。

 急な斜面の向こうに、太い丸太がひょっこり顔を出している。


 二人が、最初からそこにあった丸太の存在を見落としていたわけではない。

 丸太はいまも動いている。

 近づいてきている。


「トレント、とか? 樹木系のモンスターもいるんだよね?」


「いるにはいるけど、よく見ろコータ。あの木には枝葉がねえ」


「あ、ほんとだ」


「つまり人、あー、この世界じゃ人だけとは限らねえか、ともかく、知性ある存在が手を入れたってことだ」


「下がって、アビー。モンスターや襲ってくる相手なら俺が」


「それは大丈夫かもな。ほら」


 白く細い指をすうっと向けるアビー。


 カークが、丸太の先端に止まっていた。

 上下するたびにバランスを取って羽を広げて、なんだか楽しそうに。呑気か。


「カークが警戒してないなら平気かなあ」


「たぶんな。まあ油断しないで準備しとこう」


 了解、と応えたコウタが前に出る。

 腰に吊るした漆黒の剣——元の鹿ツノ剣——に左手で触れる。

 友好的な相手だった時のため、抜きも構えもしないらしい。

 ベルと出会った時より進歩している。

 あの時はぼーっと突っ立っていたので。


 アビーは杖を手に、こっそり魔力を練りはじめた。


 やがて、丸太の根元が二人の視界に入る。


「……女の子?」


「だな。棍棒に革の鎧、背負ってるのは木の盾か? 普通っぽい。普通の冒険者っぽい」


 急な斜面を、よいしょっとばかりに歩いてくるのは一人の少女だ。

 崖をひとまたぎして、大岩によじのぼって、木立をまわりこんで、えっちらおっちら近づいてくる。

 激しい上下動が楽しいのか、カークはご機嫌だ。


 ところで、アビーはディスったわけではない。

 「普通っぽい」はアビーにとって褒め言葉だ。

 なにしろ最近出会ったのは「ありえない大岩を軽く背負った少年」と、「古代文明の生き残りの知性あるアンデッド」なので。

 「普通」は最高の褒め言葉だ。



 けれど。


「あれ? ねえアビー、まだけっこう離れてるのに——」


「言うな。それ以上言わないでくれコータ」


 コウタが知らない()()と出会うのはベル以来だ。クルトをカウントしない場合。

 近づいてくる少女を、コウタなりに観察するのは当然だろう。

 そして、コウタは気づいた。


 少女まではまだ距離がある。

 だが、棍棒の先にいるカークの大きさはわかっている。

 だからコウタもアビーも、気づいた。


「——あの子、大きくない?」


 少女は、()()()()()にしてはサイズがおかしいことに。


「ああああああああ! 普通っぽいと思った分ダメージがデカい! なんだこれ! 絶黒の森はハードすぎませんかねぇぇええええ!」


 絶叫で、少女はコウタとアビーに気づいたらしい。

 目を丸くして、うれしそうに顔をほころばせて、ずんずん走り出した。

 揺れる丸太でカークが楽しそうだ。


「おお……この世界にはずいぶん大きい子もいるんだね。けっこういるのかな?」


「んなわけねえだろコータ…………」


 少女を発見した時よりも、近づいてくるいまの方がコウタは呆然としている。

 アビーは頭を抱えた。

 空間魔法の使い手として、距離感を把握するのは得意なので。だいたいの身長を理解したようだ。

 カークは丸太の上で、誇らしげに羽を広げた。


 と、近づいてきた少女が立ち止まる。

 キョロキョロする。

 ささっと近くの木の陰に隠れる。


「は、はは、は、はじめまして」


「あ、はい、はじめまして」


 人見知りらしい。

 ひさしぶりに他人と会話できそうなのがうれしかったのか、勢いで近づいてきたけれど、根は人見知りらしい。

 そしてコウタもコミュニケーションが得意なわけではない。


 挨拶をかわした二人の間に、沈黙が舞い降りた。


「カァ?」


 カークの鳴き声がむなしく響く。

 コウタと女の子は冷や汗を浮かべるばかりだ。


「あああああ! おたがい聞きたいことあるだろうよ! あとぜんぜん隠れられてねえし! 天然か、また天然タイプか!? ぉぉぉおおおお、もういい加減普通の人が来てもいいんじゃないですかねえええぇぇぇ」


 アビーが地面にヒザをついた。

 絶黒の森に西側、険しい山々にアビーの嘆きが溶けていく。

 東で、ベルと出会った時と同じように。




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― 新着の感想 ―
[一言] 増えていくボケ。 追いつかないツッコミ役に苦労は絶えない。
[一言] はっはっはっ、やだなぁアビーさん。 普通の人がこんなトコに来れるわけないじゃないですかヤダーwww
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