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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第五章 コウタ、ダンジョンを探索して古代文明の生き残りアンデッドと遭遇する』

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第三話 コウタ、仲間とともにダンジョンを探索する


 コウタとカークが異世界で目覚めてからおよそ二ヶ月。

 一人と一羽は、仲間とともにダンジョン探索をはじめていた。


 コウタ、異世界二ヶ月目にして初めての冒険である。なんなら28歳にして初の冒険である。

 カークは毎日が冒険だ。カラスなので。


「入り口より少し奥に入った方が明るい……苔が光ってる?」


「カァ」


「ダンジョン(モス)だな。周囲の魔力を吸収して発光してるんだ。ここがダンジョンである証でもある」


「アビーさんは物知りですね!」


「はっ、オレは『逸脱賢者』だぞ? 帝国にいた頃は研究のためにちょいちょい潜ってたしな!」


 一行の先頭を行くのはカラスのカークだ。

 斥候のつもりなのか、あるいはコウタたちを導いているのか。カラスの意図は通じない。


 人間の中で先頭を行くのはコウタだ。

 アビーやベルが怪我するよりはと、恐怖心を押し殺して自ら志願しての立ち位置だ。

 戦闘経験はないものの、コウタには女神から授かったスキル【健康】がある。

 絶望の鹿(ホープレス・ディア)の突進にも、鏖殺熊ジェノサイド・グリズリーの攻撃でも無傷だった、実績付きの前衛である。


 コウタのあとをアビーが続く。

 時おり立ち止まって魔力を探り、サラサラと地図化(マッピング)をこなしている。有能か。

 かつてアウストラ帝国で逸脱賢者と呼ばれていたアビーは、ダンジョンに潜ったことも踏破したこともあるらしい。


 最後尾をベルが歩いていた。

 背にいつもの大岩はない。

 今日は背負子のみで、準備してきた三人分の荷物とダンジョン前で拾った魔石を乗せている。

 まるで普通の荷運び人(ポーター)のようだ。

 最後尾で、笑みを浮かべながらキョロキョロとダンジョンを見まわしている。余裕か。


 ダンジョンに入ってから10分ほど、これまで罠もモンスターもなかった。

 自然にできた洞窟と思えたのは最初だけだ。

 いまではダンジョン(モス)がうっすらと光を放ち、ところどころ石造りの壁が散見される。


「なんか感じが変わったね」


「ああ。誰かの手が入ってんのか、それとも遺跡か。いずれにせよ、人工物がダンジョン化したっぽいな」


「ガッ、ガアッ!」


 呑気に壁を観察するコウタとアビーに、カークが警告する。

 二人が黙ると、曲がり角の先から音が聞こえてきた。


「カチャカチャ鳴ってるからな、たぶんスケルトンだろ。どうするコータ、オレがやるか?」


「いいよアビー。俺も慣れておかないと」


「見上げた心意気だ。絶望の鹿(ホープレス・ディア)にも鏖殺熊ジェノサイド・グリズリーにも勝ってんだ、コウタなら問題ねえよ。気張らずにな」


「うん、ありがとう。それに」


 言いかけたところで、音の発生源が姿を現す。


 人型の、動く白骨死体。

 アビーの予想通り、スケルトンである。

 どこから入手したのか、錆だらけの剣を手にしている。


 ゆっくりと近づいてくるスケルトンに向けて、コウタが左手をかざした。


「自然発生した、命のない骸骨なら、倒すのに抵抗はないから」


 スケルトンの胸骨を左手で止める。

 錆びた剣がコウタに当たるも、傷一つつかない。痛みもない。

 モンスターの攻撃に動揺することなく、コウタが右手の鹿ツノ剣を振った。


 剣筋も何もないひと振りで、スケルトンはバラバラと崩れ落ちた。


「ヒュー! 普通の剣士は関節を狙ってバラすのに、一刀両断か!」


「すごいですコウタさん!」


「カァー!」


「いやあ、俺じゃなくて、女神様からもらったスキルと、鹿がくれたこの剣? ツノ? がすごいんだって」


「はっ、素直に褒められとけって! さーて、対処できるってわかったところでサクサク探索しますか!」


「アビーさん、魔石と剣は持って帰りますか? 普通のスケルトンですから骨は素材にならなそうですけど……」


「おう、頼むベル。いやあ、荷運び人(ポーター)がいるってのは助かるねえ」


「えへへ」


「カアー」


 ダンジョン初戦闘を危なげなく終えて、三人の空気は明るい。

 我関せずとばかりに、カークはダンジョン(モス)のほのかな明かりを反射した小さな魔石を突つく。光り物に弱いらしい。賢くともしょせんカラスである。


「剣は錆を落とせば使えそうだけど……この魔石? はどうするの?」


「ああ、コータは知らねえか。魔石は魔道具の燃料になるからな、売れるんだよ。ま、こんだけ小さいとたいした額じゃねえけどな」


「へえ、そうなんだ」


「おう。この調子でちゃちゃっとモンスター倒して、デカめの魔石をゲットしますか!」


「カアッ!」


 賛成! とばかりにカークが鳴く。くわえたクズ魔石がぽろっと落ちる。光り物に弱くとも、より大きい方が好みらしい。カラス。

 カークが落とした魔石はベルが拾って小袋に入れた。働き者である。荷運びに関しては。

 そんな二人と一羽を前に、コウタは顎に手を当てて何やら考え込んでいた。


「アビー、このダンジョンにはスケルトンが自然発生するんだよね?」


「ああ、たぶんな。入り口のまわりといま倒したヤツを考えたらまず間違いねえだろ」


「それで、スケルトンから採れる魔石は売れる」


「強さに応じて値段は違うけどな。小さくても売れることは間違いねえ」


「これ、俺たちの資金源になるんじゃない?」


「……たしかに」


「カァ?」


「ただ、この大きさだとほんとはした金なんだよなあ。こう、鏖殺熊ジェノサイド・グリズリーみたいに強いモンスターを倒して一攫千金! にはほど遠いぞ?」


「はした金でもいまはありがたいよ。コツコツ集めればいいんだし」


「そうだな、伐採も開墾も、コータは同じことを繰り返すのも苦じゃねえ性質(タチ)だっけ。あーけど、それなりの数になったら量が」


「運搬は任せてください!」


「そうだ、オレたちには尋常じゃない運搬量のベルもいる。なら……」


「僕が行った街の商人さんも、『また魔石が取れたらぜひ売ってください』って言ってました!」


「おー、最寄りの街に売り先もあるんだ」


「……それはたぶん鏖殺熊ジェノサイド・グリズリークラスを期待してのことだろうけどな? まあ買い取りしてるってのに間違いはねえか」


 本来、ダンジョン探索は命がけだ。

 一攫千金を夢見た冒険者は、ダンジョンで簡単にその命を散らす。

 冒険者になる! と言い出した子供を、親は必死で止めるものだ。

 だが。


「イケそうだね! よしよし、よし!」


「だな! もし雑魚スケルトンしかいなかったとしても、大量に集めりゃ生活できる! よっしゃ、資金源ゲットだぜ!」


「カアー!」


 異世界の常識を知らないコウタとカークと、常識から外れて「逸脱賢者」と呼ばれたアビーと、常識がおかしい村で育ったベルは、ダンジョンを単なる「資金源」と認識した。

 このパーティに常識人はいない。


「よーし、そうと決まりゃあ、調査ついでにちょっと深いとこまで潜ってみますか!」


 アンデッド系と思わしきダンジョンに、おー! と活力に満ちた声が響く。余裕か。

 アウストラ帝国やコーエン王国の冒険者が見たらぎょっとすることだろう。あるいは悔し涙を流すか。


 お金を稼ぐという目的も定まって、一行はダンジョンの探索を再開した。

 モチベーション高く、テンションも高く。




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