第二話 コウタ、カークに導かれて拠点の南方面を探索する
「カアー、カアー」
「こっちは初めて来たなあ」
「油断するなよコータ、不意を突かれたらどんな強者だって雑魚モンスに怪我させられ……ねえか。コータは【健康LV.ex】だもんな」
「なんだか不気味なところですねえ」
「その感想ですむ荷運び人ってなんなんだろうな。この辺、瘴気がめっちゃ濃くなっててしんどいはずなんだけど」
慌てた様子で飛んできたカークに導かれて、コウタとアビー、ベルは絶黒の森を進む。
精霊樹と小さな湖の南側は、初めて足を踏み入れたエリアだ。
だが、三人が迷うことはない。
アビーいわく、【導き手】というスキルを持つ三本足のカラス——カーク——が先導しているので。
「黒い木がねじれてる? なんか、地面も黒いせいか暗く感じるような……」
「ああ。死の谷につながる東側よりも瘴気が濃いせいだな。オレもここまで濃いのは初めて見たぞ。カークは何を見つけたのやら」
「カァー」
「はは、平気だよカーク。言葉で教えられなくても案内してくれるだけで充分だって」
「カァ?」
「ほんとほんと。それで、まだ遠い? だったら一回休憩してお昼でも——」
「カアー、カァッ!」
コウタたちが精霊樹のふもとを出てからおよそ三時間が経つ。
目的地がまだ先なら昼食を、と提案する。
コウタの言葉を聞いたカークは、止まっていた枝からスッと飛び立った。
まるで、「もうすぐそこだ」とでも言うかのごとく。
ところで、コウタとカークの会話は成り立っているように思える。
コウタは烏語を、カークは人語を話せなくとも、スキル【言語理解】で言いたいことはなんとなくわかるらしい。
「やっぱ瘴気が濃い方に行くのか。こりゃあもしかしたら……」
「わっ! 何か知ってるんですかアビーさん!?」
「予想はつくけどな。まあもう近いらしいんだ、行ってみようぜ」
「はい!」
カーク、続いて柄までむき身の鹿ツノ剣を手にしたコウタ、そのあとを革紐で髪を束ねて杖を手にしたアビーが歩いていく。
最後尾のベルの背に、いつもの大岩はない。
わずかな荷物を載せた背負子を【運搬】するのみだ。
姿だけなら普通の「荷運び人」だ。
もっとも、ここは絶黒の森で、濃密な瘴気に常人は立ち入ることもできない場所なのだが。
「ガァー、ガアッ!」
飛び立ったカークを追うことさらに15分。
一行は目的地に到着した。
高らかに鳴くカークに教えられるまでもない。
そこは明らかに、周囲の森と隔絶した雰囲気だった。
うっすらかかった黒いモヤが陽光を遮ってあたりは薄暗い。
コウタたちの横にある黒い木々はねじれ、曲がり、まっすぐ生えている木は一つもない。
けれど、カークが見せたかったのはこの奇怪な光景ではないらしい。
カークは、その先でカァカァと鳴いていた。
地面に散らばる何体もの白骨の一つに、三本の足ですっくと立って。
カークは、白骨が転がる開けた場所の先、ゴツゴツした岩場の下の亀裂に目を向けていた。
黒いモヤはそこから噴き出しているようだ。
「これは……?」
「黒いモヤがかかって目に見えるほど濃密な瘴気。なるほど、カークが確認させたがるわけだ」
「カァー」
「木がねじれて曲がってます! これじゃあ100本も運べないなあ」
「単位がおかしい。曲がってなくても100本は運べないだろ普通」
「その、アビー。瘴気が濃くて木が曲がってるのはいいけど、いやよくないけど……あの白いのは? もしかして」
「白骨、だな。なんの白骨か、ここからじゃわかんねえけど」
「【運搬】しますか? アレなら【解体】しなくても持って帰れます!」
「ええ……? 骨を持って帰る……? あ、弔うために」
「違えぞコータ。ほかの場所じゃそういうこともあるけどな、ここは人里離れた『絶黒の森』だ。人間の白骨がこんなにたくさんあるわけねえ」
「じゃあ、これは?」
「決まってる。骨の奥にあるあの穴が、ダンジョンなんだよ」
アビーがすっと亀裂を指差す。
奥は暗く、外からでは中をうかがいしれない。
コウタの頬をツウッと汗が流れ落ちる。
「ダ、ダンジョン。それも、暗くて、入口のとこに白骨が転がるような」
「そうだ。けど、瘴気の濃さを別にすりゃこれぐらい普通だぞ?」
「そうなんですか? 勇者さまの荷物を運んだダンジョンは、海が近くて半分ぐらい沈んでました!」
「またしんどいタイプのダンジョンに行ったもんだ。まあこのタイプも、人によっちゃしんどいだろうけど」
「え? 中に入ってないのに何かわかるの?」
「そりゃもちろん。なんせ、ダンジョン入口にこれだけヒントが転がってるからな。文字通り」
そう言って、アビーは亀裂の前の開けた場所に足を踏み出した。
見落としたのか踏んでしまった白骨が、ブーツの下でパキッと音を立てる。
気にしてられないとアビーはずんずん進み、カークのそばまでたどり着いた。
地面から何やら拾い上げる。
ひょいっとコウタに放る。
お手玉しながらも、コウタは小さな何かをキャッチした。
「わっ!? あれ、骨じゃない? アビー、この小石は?」
「この世界の人やモンスターの体内に存在する、『魔石』ってヤツだ」
「へえ、魔石。体内に。俺やカークにもあるのかなあ」
「カァ?」
「人が立ち入らない場所にある、瘴気に満ち満ちたダンジョン。入口には人型の白骨が転がっててどれも同じようなサイズのクズ魔石だ」
地面に転がるいくつかの魔石を調べてアビーが言う。
「この白骨は、人間じゃなくてスケルトンのだ。獣型も混じってるようだけどよ」
「はあ、スケルトン。骨の体のモンスターで、アンデッド系統なんだっけ? 前にアビーに教わったのは、お墓や野ざらしになった死体がスケルトンになったり、あとは……あっ」
「そうだコータ。スケルトンが発生する原因は2パターンある。瘴気や魔力で白骨死体が動き出すのと——」
アビーは、斜めに口を開ける亀裂を指差した。
「アンデッド系のダンジョンで、自然発生するパターンだ」
「カークが連れてきたかったのはここかあ。ダンジョンを見つけたから」
「カアッ!」
「みたいだな。それにしても白骨の上に立ってんの似合うなカーク」
「そうしてるとモンスターの大鴉みたいですね! アレは足が二本ですけど!」
生活している場所のすぐ近くにダンジョンが発見された。
にもかかわらず、アビーとベルの動揺は少ない。「逸脱賢者」にとっても「勇者に追放されたポーター」にとっても、ダンジョンは恐れるものではないのだろう。わかっていないコウタは別として。
「ダンジョン。……これ、中に入ってみるんだよね? 調べてみないとマズいよね?」
「そりゃな。心配すんなってコータ、オレもベルもダンジョン踏破経験者だし、そもそもコウタには【健康】があるだろ?」
「カアーッ!」
「コウタさん、カークもやる気みたいですよ!」
二人と一羽は、このままダンジョンに突入するつもりらしい。
三対の目がコウタに向けられて。
コウタはぐっと拳を握って、頷いた。
「わかった、行こう。大丈夫、大丈夫だ。俺は心身ともに【健康】で傷つかないんだから」
じゃっかん声が震えている。
狭い空間は落ち着くものの、狭そうなダンジョンはダメなのか。
あるいはアンデッド、怖いものが苦手なのか。
ひょっとしたら、「自分から戦いに臨む」ことに緊張しているのかもしれない。
なにしろ異世界に来てからも、戦ったのは襲われた時だけだったので。
コウタが絶黒の森で生活をはじめておよそ二ヶ月。
三人と一羽は、拠点の南で見つけたダンジョンに挑む。





