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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第五章 コウタ、ダンジョンを探索して古代文明の生き残りアンデッドと遭遇する』

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第一話 コウタ、ひさしぶりの仕事の成果に涙ぐむ


「やった……ついに……」


「おめでとうございますコウタさん!」


「ありがとうベル。まだまだこれからだけど……」


「先のことはわからねえけど、いまは喜ぼうぜ!」


「うん、そうだねアビー」


 コウタとカークが異世界で目覚めてから二ヶ月が過ぎた。

 仕事の心労からの鬱でニートになっていたコウタは、神から授かった【健康】で心身ともに安定し、日々を健やかに過ごしている。


 朝に目覚めて、午前のうちに活動して、午後も動いて、夜に寝る。

 コウタはそんな、当たり前の生活を送れている。異世界なのに。大木と小さな湖しかない、人里離れた僻地なのに。


 精霊樹から少し離れた場所に、当たり前に労働するコウタの成果が芽吹いていた。

 文字通り芽吹いていた。


 開墾して試験的に植えた芋とカラス麦が、芽を出したのだ。

 当然だがどちらも異世界の品種であり、できるのは元の世界の芋とカラス麦とは異なるだろう。


「なんだろ、たいしたことじゃないのに感動する……」


「ははっ、誇れってコータ! ここは死の谷(デスバレー)の先、瘴気渦巻く『絶黒の森』だ! 畑を作って芽を出したってだけで帝立魔法研究所のヤツらは腰を抜かすぞ?」


 四つん這いになったコウタの背中をアビーがポンと叩く。

 アビー自身も地面にヒザをついている。


 声をかけられても、コウタはしばらくうずくまっていた。

 芽の成長を一瞬たりとも見逃したくないかのように。

 2年ぶりの労働の成果を、噛みしめるかのように。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「おっ、戻ってきたか。おかえりコータ」


「ごめん、ちょっとぼーっとしちゃってたみたいだ」


 しばらく畑を眺めたのちに、ようやくコウタは動き出した。

 自らが開墾した畑から離れて、精霊樹と小さな湖のそばに戻る。

 先に戻った二人は、木皿によそったスープらしきものを飲んでいた。


 コウタとカークがこの地で目覚め、アビーとベルも生活するようになってから、変わったのは畑だけではない。

 湖のほとりも様変わりしていた。


 コウタとカークが寝床にしていた精霊樹の根元、ウロの前には大きめの犬小屋が見える。

 素人が日曜大工で作ったような犬小屋はコウタ作の自宅だ。

 ウロと繋がった中は狭いものの、案外落ち着くらしい。

 新たな住居はカークのお気に入りだ。犬小屋ではなく烏小屋か。


「ほら、朝メシできてるぞ」


 アビーが魔法で整地した小さな広場の向こうには、作りかけの家があった。

 周囲より50センチほどかさ上げされて、現在は家の基礎を建築中らしい。

 「雨風をしのいで寝られればいい」コウタと違って、アビーは悪戦苦闘を続けていた。


 丸太を重ねてログハウスを作ろうとして、木が雪崩を起こす。

 魔法で土のかまくらを作って「なんか違う」と首を捻る。なお、かまくらは簡易倉庫に流用されることになった。


 現在アビーは、絶黒の森から伐採してきた木材と、魔法で固めた石を使って石積みの家に挑戦していた。

 木材で補強して、積んだ石も魔法で強化するつもりらしい。

 完成の目処は立たない。


「お先にいただいてます!」


 ベルはあいかわらず大岩で生活している。

 幅5メートル、高さ5メートルほどの巨大な岩は中がくり抜かれて、狭いながらも横になれる空間はあるらしい。

 大型トラックの仮眠スペースやフェリーの寝台で落ち着く性質(タチ)か。

 森と大木と湖という景色の中に置かれた大岩は、やけに調和していた。

 変化は「安定するように」と調整された地面だけだ。


 コウタが開拓・伐採・開墾と農作業を担当し、アビーは魔法で木材の乾燥や整地、家作りを進める。

 ベルは片道およそ一週間かかる街まで往復して、生活と村づくりに必要なものを買い出しに行く。

 三人の村づくりと生活は、慎ましやかながらも軌道に乗りはじめていた。


 そして。


「カアーッ!」


 鳴き声を響かせて、一羽の黒いカラスが飛んでくる。


「おかえり、カーク。朝の見まわりご苦労さま」


 カークである。

 コウタの友達にして、この世界にともにやってきたカラスである。

 なお、日本にいた時よりもひとまわりかふたまわり大きくなり、二本の足の間にもう一本の足が存在していた。


 カークの担当は、絶黒の森の見まわりだ。

 山に囲まれた狭い盆地をナワバリと主張しているのか、カークはことあるごとに哨戒していた。

 と言っても、山々に囲まれた盆地すべてを毎度見てまわれるわけではない。

 今日は東方、翌日は西方と、だいたい方角を決めて飛行しているようだ。


 帰ってきたカークがコウタの前の地面に着地する。

 バッサバッサと羽を鳴らして飛び跳ねる。

 しきりに鳴いてはコウタのズボンの裾をつまんでクイクイ引っ張る。


「カァ、カアー!」


「ん? どうした? なんか異常があったのかな?」


「カークがこんなに焦ってんのは珍しいな。コータ、見に行くぞ。完全武装でな」


「僕も行きます! 必要な荷物があったら言ってください、運びますよ! 僕は荷運び人(ポーター)ですから!」


「カアーッ!」


「わかった、すぐ出発するよ。案内を頼める?」


「カアッ!」


 任せとけ! とばかりにカークが鳴いて飛び立った。

 精霊樹の枝に止まって人間たちの身支度を待つ。



 コウタが絶黒の森で生活をはじめておよそ二ヶ月。

 心の傷を癒やすリハビリのような穏やかな日々は、終わりを迎えようとしていた。

 コウタとアビー、ベルは「絶黒の森」南側の探索をはじめる。


 カーク——三本足のカラスに導かれて。



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