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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第四章 コウタ、仲間とともに僻地の開拓をはじめる』

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第五話 コウタ、精霊樹の根元に小屋を作る


「今日はこっちを手伝ってもいいかな?」


「お、どうしたコータ?」


「畑は育つのを待つだけだし、まわりを耕そうにも気になっちゃって」


「あーなるほど。んじゃ今日は二人で建築に励むか!」


「うん、よろしくアビー」


 コウタが作ったばかりの畑に種芋とカラス麦を植えた翌日。

 今日は開墾ではなく、アビーを手伝うようだ。

 植えてすぐ芽が出るわけでもないのに、畑のまわりをウロウロしてしまうからだろう。というか昨日の植え付け後はずっとそうだった。

 ちなみにカークは昨日、カラス麦の畑の横でそわそわしていた。似た者同士か。人と烏なのに。


 別の場所で違う作業をすることで気を紛らわせるつもりらしい。

 同じことを考えたのか、カークは朝早くから絶黒の森の見まわりに飛び立っていた。


「っても、今日はシャワー小屋を作る予定なんだよなあ。目隠しは布で、床と排水は魔法で片付けちまうつもりで」


「そっか……」


「コータは自分の家を作ったらどうだ? いつまでも木のウロで暮らすわけにもいかねえだろ?」


「ああ、それいいね! じゃあ俺はそうさせてもらうよ!」


「おう。その辺にある木はもう使って平気だからな。道具はあっちだ、まあ最低限しかないけどよ」


「ありがとうアビー!」


 意気揚々とコウタが向かったのは精霊樹のふもと、アビーが整地した広場の奥だ。

 そこには伐採した木々が積まれている。

 手前に取り分けられた材木は、すでにアビーが魔法で乾燥させていた。


「あれ? なんか、黒い木も色が薄くなってるような?」


 山を越えた先にある死の谷(デスバレー)への道を造るため、コウタは東に向かって木を伐り倒してきた。

 当然、その中には黒く染まった木々もある。

 精霊樹から離れた場所は瘴気が濃く、影響を受けて木も黒くなっていたのだ。

 だが、広場の奥に積まれた木々に、漆黒のものはなくなっていた。


「精霊樹が浄化してくれたのかな? いつもありがとうございます」


 わからないなりに、コウタは大木を振り返ってぺこっと頭を下げる。

 精霊樹の返事はない。カークよりも意思疎通できない。木なので。


「さてっと。うーん、丸太のままじゃ使いづらいよなあ」


 言って、コウタはナイフを手にした。

 正確に言うと、「ナイフ状の鹿のツノ」だ。

 アビーが空間魔法で切り落とした方の、ツノの先端である。


「平らな板にするのは難しいけど、ざっと切り落とすぐらいなら」


 枝分かれしたツノよりも、作業にはこちらの方が向いていると思ったらしい。

 木に当てて押し込むと、ナイフはすっと埋まった。

 そのままズラしていく。

 幹よりも短いため一度では切れず、反対側からもナイフを差し込んでいく。

 と、丸太は縦に半分に切断された。


「よし!……ちょっとデコボコな気がするけど、よし」


 コウタにDIY経験はない。

 そもそも「自分の家を作る」わりに設計図はない。鬱で辞める前はマンション営業をしていたはずなのだが。専門知識はない。必要ない。辛い。

 縦に割るなら斧もナタも、ノコギリもあるのだが、よほど「鹿のツノ」を信頼しているのか。


 ともあれ、コウタは作業を続けた。

 どんな家が出来上がるのかは神も知らない。コウタも知らない。




「シャワー場はあんな感じでいいだろ。コータ、そっちはどう……だ……?」


「おー、アビーは仕事が早いね」


「まあ簡単なヤツだからな。けど足が汚れないように平らな石を敷いて魔法で固めてタイル状に、ってそうじゃなくて!」


「え?」


「なあコータ、どうした? 顔に出ないだけで疲れてるのか?」


「いや、そんなことないけど」


 きょとんとした顔で首をかしげるコウタ。28歳男性がやったところでかわいくはない。

 アビーは心配そうに、コウタと、背後の建物?をチラチラ見やる。


 コウタの背後。

 ほぼ一日かけて、コウタが作った「自分の家」。

 それは——


「なんか犬ごや……ああ、わかった! カーク用に鳥小屋を作ってやったんだな? そっかそっか、なるほどなあ」


 ——精霊樹の根元に繋がる、いびつな「犬小屋のようなもの」であった。


 高さはコウタの腰ほどで、横幅は2メートルもないだろう。

 犬小屋は、中でコウタとカークが目覚めた木のウロに繋がっていた。


「木のウロで寝てた時に思ったんだ、狭い空間は落ち着くって」


「お、おう」


「食事は外だし、雨風がしのげればいいかなあって」


「けど……いやいい。コータがいいんならいいんだ。人それぞれだもんな! よーし、んじゃ雨水が入ってこないように小屋の前に溝を作ってやろう!」


「ありがとう、アビー」


「あとアレだ、屋根に布か葉っぱを重ねといた方がいいんじゃねえか? 精霊樹の下って言っても水滴は垂れてくるだろうしな!」


「おー、なるほど!」


 忠告を受けて、コウタがぽんと手を叩く。

 アビーが天を仰ぐ。

 空から飛来するカラスが目に映る。


「おかえり、カーク」


「カアー! カアッ、カア!」


 飛んできたカークは、まっすぐにコウタが建てた小屋に向かった。

 小屋の周辺をぴょんぴょん跳ねまわっては、興奮したように鳴き散らす。


「気に入った? ウロとも繋がってるし、今日から広くなるよ」


「カアー!」


「ダメだ、カークも気に入ってる。うん。まあ、コータとカークがいいんならいいんだけどよ……こりゃ早く建築知識と経験あるヤツ探さないとダメかもなあ」


「ただいま戻りました! 伐り倒してあった木はこれが最後で……どうしましたアビーさん? 頭が痛いんですか?」



 コウタとカークが異世界で目覚めてからおよそ一ヶ月半。

 一人と一羽は、すっかり異世界に馴染んでいるようだ。あるいは、常識どころか文明を忘れたのか。

 たしかに、コウタが目標とする「健康で穏やかな暮らし」には、「文化的」の単語がない。

 三人と一羽ではじめた村づくりは、先が思いやられるばかりであった。




……どうにもならないので、次話を今章エピローグにして次章いきます!

次話は8/30(金)に投稿予定!


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