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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第四章 コウタ、仲間とともに僻地の開拓をはじめる』

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第四話 コウタ、水路に水を流して畑に種を植える


「よし! 開通だ!」


「こんなに早く水路を作れるなんですごいですアビーさん!」


「ははっ、まあこれぐらいの細いヤツならな! なんてったってオレは『逸脱賢者』だからな!」


「おおー、水が流れてる」


「おう、うまく流れるようにするのは大変なんだぜ? けどオレは『空間魔法』の使い手だ、空間把握はお手の物よ!」


「カァ、カア!」


「あっちょっ、カーク! できたての水路で水浴びはマズいって!」


「いいっていいって。この辺の水はキレイだし、排水として川に流すだけだかんな、カークの水浴びぐらい平気だって!」


 コウタとアビー、ベルがそれぞれの作業をはじめた翌日。

 精霊樹から整地した広場を挟んだ先に、水路が完成した。

 水路といっても大きなものではない。

 深いところでも1メートルはなく、幅は一歩で越えられるほど。

 道路脇にある側溝と同じようなサイズ感だ。


 だが、これで生活は便利になるだろう。

 水路はそのまま飲める湖の水を引き込んで、かまどの横を通る。

 異世界基準でいうとまだキレイな状態のため、そのまま調理用に使える。


 コウタが開墾中の畑予定地のすぐ近くを水は流れていく。

 必要になればこの水を汲んで農業用水とするつもりらしい。

 最後に、アビーが持ち込んで設置した野外トイレ用の魔道具の横を通って、水は川に流れ込む。

 ちなみにトイレ横を通るのは手洗いのためだ。

 この水路の水でブツを直接流すわけではない。

 異世界のトイレ事情、少なくともアウストラ帝国貴族のトイレ事情はそれなりに発展していた。


「よーし、これで次は家だな! 待てよ、シャワーを先に作るか? けどいまんとこなんとかなってるからなあ」


「俺たちは湖に飛び込むか、お湯を沸かして拭けばいいけど……アビー用のは作った方がいいんじゃないかなあ」


「カア!」


 遠慮がちに言うコウタに、カークがもっともだ!とばかりに鳴く。気遣いできるオスである。全裸のカラスだが。

 転生者であるアビーの心は男性のままだが、体は女性だ。

 コウタもベルも普段は同性のように接しているが、アビーの全裸や半裸を見るのは抵抗があるらしい。


「上に水を溜めて沸かして……面倒だな、オレ一人なら魔法でお湯を出せばいいか。ってことは必要なのは目隠しと足場、排水の仕組みだけだな」


「いつかはお風呂を作りたいけどね」


「それはたしかに! この環境なんだ、露天風呂がいいよな!」


「わあ! じゃあ僕、湯船を運んできましょうか?」


「なあベル、湯船って浴槽のことだよな? お湯もまるごと【運搬】してくるってことじゃねえよな?」


「そっか、ベルがいればその手もあるのか。掘るのはともかく、檜風呂みたいなのは難しそうだもんね」


「木組みはキツいだろコータ。オレたちはシロウトだぞ、陶製のを買ってくるか、土を掘ってキレイにするしかねえって」


 夢をふくらませながら、三人は水の流れを追って水路の横を歩く。

 コウタは、手に小さな布袋を持っていた。

 畑予定地までたどり着いたところで、三人の足が止まった。


「さて、次はコータの成果を見せてもらう番だな!」


「うん……けど、これでいいかどうかよくわからなくて……」


「オレたちはみんな農業経験ないんだ、みんなわからねえし失敗したらまたやりゃいいんだって!」


「そうですコウタさん、ダメだったらまた僕が街まで行ってきますから!」


「カアッ!」


「みんな……ありがとう」


 失敗を恐れる必要はないと励まされたコウタが涙ぐむ。【健康】でも涙腺は強くなっていないらしい。涙することもまた【健康】の証拠なのだ。たぶん。


 決意を固めたコウタは、布袋の口をほどいた。

 手を突っ込む。

 中身を取り出す。


 出てきたのは芋だ。

 ベルが街から運んできた種芋だ。


「じゃあ、植えていくよ」


「おう! なあに、たいていの場所で育つらしいからな、気軽にやってみりゃいいって!」


「そうです! 商人さんは『土の栄養が足りなければ魔力で補う品種です』って言ってました!」


「……おいベル、それ大丈夫か? ここは『瘴気渦巻く絶黒の森』だぞ? 変異するんじゃねえか?」


「きっと大丈夫だよアビー。ほら、この辺りは精霊樹のおかげで土も木も普通だから」


「それはそれでヤバい気がするんだよなあ。まあ、いま考えてもしょうがないか」


 雑談もそこそこに、コウタは畑っぽいものの前に立つ。

 鹿のツノで木を伐り倒して根を斬って石を取り除いて、仕上げに鍬で耕した、コウタが最初から手がけた農地予定地だ。


 コウタは、(うね)っぽくしたものの土をかきわけて、そっと種芋を置いた。


 コウタ、2年ぶりの「仕事」にして、異世界初の「仕事」である。

 まあ伐採も開拓も、仕事といえば仕事なのかもしれないが。


「どうか、うまく育ちますように。俺たちの、健康で穏やかな暮らしのために」


 そう言いながら、コウタはそっと土をかぶせた。

 真面目に真摯に、祈るように。


「さーて、んじゃあとは総出でやってくか!」


「はいっ! 植え付けは村にいた子供の頃以来です!」


「よろしくね、アビー、ベル」


「カアー!」


「ええ? カークは手伝えないんじゃない?」


「カアッ、カア!」


「うん、畑の見まわりを頼むよ。いまだけじゃなくて普段から。あ、食べないようにね?」


「カァ……」


 いくら雑食だからって種芋も草も食べねえよ、とばかりにカークが力なく鳴く。食べないらしい。賢いカラスである。


「こっちの畑は、これを植えてみようかなあ」


「おっ、試してみるもう一種類を決めたのか。どれにしたんだ?」


「これにしようかと思って」


()()()()ですね! 痩せた土地でも実りやすいって、商人さんもオススメしてました!」


「カア?」


「カーク用の食べ物じゃないぞ。向こうと同じ品種ってこともないだろうしな」


「けどほら、俺はカークに救われたからさ。カラスの名前がついた植物を、験担ぎにね」


「いいと思います! 僕もカークに助けられました!」


「ああそうだな、どれでもいいってんなら最初はそれがいいかもな」


「カ、カア」


「……こっちも食べないようにね?」


 コウタが念押しすると、カークはふいっとそっぽを向いた。不安すぎる。賢くても食欲には勝てないのかもしれない。

 コウタはそんなカークを見て微笑んだ。聖人か。鳥害を知らないだけだ。

 気を取り直して、コウタは芋を植えた横、小さな畑にパラパラとカラス麦をまいていく。


 育つかどうかはわからない。

 なにしろ三人に農業の経験はなく、知識もない。

 いまが種まきに適した季節なのか、絶黒の森が適した土地なのかもわからない。


 それでも、コウタとアビーとベルは、笑顔で種芋とカラス麦を植えていった。カラスは監視していた。


 この地に、健康で穏やかな暮らしを送れる村を作る。


 三人と一羽は、目標に向かって着実に進んでいた。

 遅いように見えるが、魔法やチートくさいスキルで、この世界からしたら高速で。




次話は8/29(木)に投稿予定です!


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