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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第四章 コウタ、仲間とともに僻地の開拓をはじめる』

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第二話 コウタ、ベルから荷物とお金を受け取って今後のことを考える


「街はどうだった? 熊の素材は買い取ってもらえたかな?」


「はいっ! これが売却の明細で、こっちが購入したものの明細です!」


「どれどれ……」


 カラスのカークに続いて、荷運び人(ポーター)のベルも帰ってきた。

 三人は湖畔に並べた切り株に腰を下ろす。

 報告会である。


「おー、鏖殺熊ジェノサイド・グリズリーの素材はいい値段で売れたんだな」


「『末長い取引を期待して色を付ける』って言ってました!」


「ははっ、なるほどなるほど。欲しい物も格安で売ってくれたし、いいんじゃねえか?」


「いい商人さん? お店? を見つけてくれたみたいだね。ありがとうベル」


「そうだ、場所は秘密ですって言ったら、『いつか案内してほしい』って言われました!」


「んー、まあそこは長い目で見て、だな。どう思うカーク?」


「カァ、カア?」


 カークは、商人には道が厳しいんじゃねえか、と言いたいらしい。人間には通じない。


「秘密を守れて、精霊樹に変なことしない人じゃないとだもんね。それに、いまはこの場所を整えるのが先かなあ」


「それは間違いねえな」


 瘴気に満ちた「絶黒の森」だが、この場所は違う。

 精霊樹の周辺は清浄な空気と土地になっていた。

 しかもその精霊樹は、幹も枝も葉も実も貴重なのだという。


 この地に愛着が湧いたのだろう、コウタはここを荒らされたくないらしい。

 異世界に転生したのに、居着く決意をするほどに。


「それでベル、どうだった? 頼んでたものは買えた?」


「明細を見る限りじゃリストの大半を買えたみたいだな。荷物は……ああ、岩の中か」


「はい! ちょっと取ってきますね!」


 アビーが淹れたお茶を飲み干して、ベルがさっと立ち上がる。

 かたわらに置いた——というより「鎮座する」——大岩に登る。

 上部に開いた穴から、岩の内側に潜り込んだ。


 ベルが背負う大岩は中がくり抜かれている。

 出入り口は複数あるが、一番大きなものは上部に存在した。

 高い位置に設置することでモンスターの侵入を防ぐ策らしい。なにしろベルはこの中で寝泊まりするので。

 ちなみに、岩の内部は上下二層に分かれていた。

 寝泊まりする空間と、倉庫スペースなのだという。

 いかにベルが小柄とはいえ、就寝は横になるのが精一杯だ。狭い空間でも問題ないタイプらしい。

 もちろん、大岩には出入り口のほか空気穴も開けられている。


 ベルが何度か往復して荷物を下ろす。

 湖畔にはいくつもの布袋や金属製品が積み上がった。


「これで全部です!」


「す、すごい量だね……」


「カァー」


「ほんとどうなってんだこれ。すごすぎるだろスキル【運搬】。まああの大岩を運べてる時点でいまさらだけどよ」


「それとこれ、余ったお金です!」


 最後に、ベルが小袋を差し出す。

 受け取ったコウタがあらためると、中には銀貨や金貨が入っていた。

 鏖殺熊ジェノサイド・グリズリーは、大岩いっぱいの荷より高く売れたらしい。


「おお……お金……モンスターを倒して、稼いだ、お金……」


 異世界の硬貨を見てコウタは打ち震えている。

 初めて見るこの世界のお金、だからではない。

 2年ほど前に仕事を辞めて以来、初めての「何かを成し遂げて得た対価」だからである。


「こっちでの初給料みたいなもんだろ? 何に使うんだコータ?」


「カークとアビーとベルがいなくちゃ手に入らなかったお金だし、村づくりの資金にしようよ。これからもいろいろお金がかかるだろうし、売るものの目処はついてないし……」


「まあなあ。乾燥させた木材は売れるかもしれねえけどたいした額じゃないだろうし。瘴気込みの木材は、錬金術師や魔法使いなんかは欲しがりそうだけど」


「カァッ!」


 人里離れた場所を、「穏やかな暮らし」が送れる村にする。

 家も畑もない現状を考えると、相当なお金がかかることだろう。

 しかも、資金を稼ぐあてはない。

 臨時収入を開拓資金にまわすコウタの判断は妥当なはずだ。カークも賛成してる。たぶん。


 ニマニマ笑みをこぼすコウタを置いて、アビーはほかの荷を確かめはじめた。


「うし、ノコギリに釘、ナイフ、包丁に鍋、食料、おっ、鍬や種苗も手に入ったのか! よしよし」


「そのあたりはけっこう簡単に手に入るって言ってました! あとロープもありますよ!」


「おおー、やるなあベル。安く買えたみたいだし、これはいい商人を捕まえたかもしんねえな」


「え? 捕まえてませんよ? 運んできた方がよかったですか?」


「発想が怖い。え、荷運び人って人も運ぶの? 『荷』って人も入るの?」


「『人も動物もモンスターも、死んだら荷だ』ってお父さんが言ってました!」


「ホラーかよ。いやそうなのかもしれないけども。荷運び人(ポーター)の村の住人は全員サイコパスかな?」


「カァ……」


「さいこぱす、ですか?」


「なんでもねえ、忘れてくれ。キレイさっぱり忘れてくれ」


 首をかしげる少年を前に、アビーは諦めたように天を見上げる。カークは力なく首を振る。

 硬貨の輝きに目を奪われていたコウタが我に返る。


「おおっ! これで開拓が進められるね!」


「そうだなあ。さて、ベルも戻ってきたし、役割分担を考え直すか」


「なら僕は、コウタさんが伐り倒した木を運びます!」


「助かるよ、ベル。俺じゃ重くて運べないから」


「助かる……えへへ……はい! 【運搬】は荷運び人(ポーター)に任せてください!」


「んじゃオレは魔法で木材の乾燥と整地に取り掛かるか。んで時間ができたら雨風がしのげる小屋を建てるかなあ。おっと、生活排水もどうにかしねえとな!」


「ベルもアビーも特技があってすごいなあ。俺はどうしよう。ベルが通る道の伐採を続けるか、それとも」


「なあコータ、道はひとまず後まわしにして、農地造りをお願いできねえか?」


「え? 俺が?」


「ああ。魔法じゃ耕せねえんだ。コータなら伐採もできるし、道作りみたいに一つのことをやり続ける気力があるだろ? 合ってると思うんだよ」


「俺に……合ってる……」


「アンブロシア以外で、食料を安定して確保するのは優先課題だしな。どうだコータ?」


 コウタはこの世界で目覚めてから心身の【健康】を得ている。

 そのせいか、ベルが帰ってくるまで続けた木々の伐採も苦にならなかった。

 アビーは、同じ作業を繰り返せるコウタの「根気」を評価しているらしい。

 あと疲れない体と心と、何かあっても無傷であることも。


「やってみる。うん、やってみるよ。知識はないし、どうしたらいいかわからないけど……」


「ま、そこはオレもだな! とりあえず伐採して根っこも処理して耕して……あとはなんだ? わかるかベル?」


「えっと、村では『栄養がある土』を運んできて、そこを畑にしてました!」


「力技がすぎる! 合ってるんだろうけども!」


「カァー……」


「元が森だからな、作物によっては耕せばイケると思う、あーけどここは『絶黒の森』かあ」


「いろいろ試してみるよ。はじめてのことだし失敗するかもしれないけど……」


「まあそれしかねえな! 失敗しても気にすんなよコータ、ここは特殊な場所だからな!」


「うん。ありがとう、アビー」


 片手に鹿のツノの刃物を、もう一方の手に鍬を持ったコウタが頷く。

 やる気になっているらしい。

 だが。


「ま、なんにせよ明日からだな! もうすぐ日が暮れるし、今日はベルの帰還祝いだ!」


「ありがとうございます、アビーさん!」


「カアー!」


「はは、カークもね。長旅お疲れさま」


「鍋も食料も手に入ったし、今日は熊鍋にするか! いつまでも冷凍してらんねえしな!」


「わっ、豪勢ですね!」


「カァカア!」


「おおー。この前食べた熊焼肉は美味しかったもんなあ」


 ひとまず、各自の作業は明日からになった。

 コウタのやる気は先送りだ。

 「明日から本気出す」である。いい意味で。



 コウタとカークが異世界で目覚めてから一ヶ月と少々。

 三人と一羽は、ようやく生活基盤を整えようとしていた。

 家と畑と、道の整備。

 完成すれば「集落」と呼べる程度にはなるかもしれない。




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