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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第三章 コウタ、勇者に追放された荷運び人と出会って村づくりをはじめる』

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第七話 コウタ、荷運び人に精霊樹を見せて願わせる


「うわあ、うわあ! すごいです、死の谷(デスバレー)と黒い森の先に、こんなに綺麗な場所があるなんて!」


 コウタとカーク、アビーが荷運び人(ポーター)のベルと出会った翌日。

 一行は絶黒の森を通って、精霊樹と小さな湖のほとりに帰ってきた。

 瘴気渦巻く森の中に現れた景色に、ベルは感嘆の声をあげる。


「帰ってきたって感じがする。まだ二週間ちょっとしか住んでないんだけどなあ」


「ははっ、もうすっかり馴染んでるなコータ」


「うん。この景色を見たベルに喜んでもらえるのもうれしいしね」


「カァー!」


「たしかにな。オレなんて一週間ちょいなのに、不思議なもんだ」


 キラキラと目を輝かせるベルを見て、コウタとアビーはうれしそうだ。精霊樹の枝に止まったカークも誇らしげに胸を張る。鳩胸である。烏だけど。


「ベル。守ってほしい秘密の一つは、この場所と、この樹のことだ」


「すごく立派な樹ですもんね! 伐り倒すのはもったいないです!」


「それもそうなんだけどよ。この樹は貴重なヤツでな。幹も枝も葉っぱも果実も、どんなことしても欲しいってヤツはたくさんいる」


「わ、そんな珍しい果実を食べさせてくれたんですね! ありがとうございます!」


 ベルはコウタとアビーにペコっと頭を下げる。

 樹上にいるカークにも目を向けて会釈する。律儀か。カークはご満悦だ。


「そうだ、ベル。この樹に頼んでみてくれるかな? 木の実をもらえませんかって」


「え? 樹に、ですか?」


「そっか、精霊樹の判断を聞いてみるのか。ナイスアイデアだ、コータも考えてたんだなあ」


「カァ」


「こっちで目覚めてからずっと、俺はこの樹に助けられてきたからね」


 初対面にもかかわらず、コウタはあっさりベルを受け入れた。

 友達にして【導き手】である三本足のカラス、カークが連れてきた人物だといえ、アビーからしたら心配になるほどに。

 だが、コウタも考えていたらしい。いちおう。


 ベルはきょとんとしている。

 二人と一羽の言うことがイマイチわかっていないのだろう。

 が、やってほしいことは理解したようだ。

 トコトコと大木の根元に歩み寄る。


「こんにちは! 僕、コウタさんとアビーさんとカークと一緒に、ここに村を作ろうとしてるんです! よかったら、木の実を分けてもらえませんか?」


 いかに異世界でも、「樹に頼んでみてほしい」と言われたら、普通の人間は首をかしげることだろう。

 だが、ベルは素直に受け止めた。

 真摯に頼み込んだ。


 コウタとアビーと、コウタの肩に止まったカークがじっと精霊樹を見上げる。

 手を差し出したベルも見上げる。


 さあっと葉が鳴って。


 ぽとりと、果実が落ちてきた。


 ベルが広げた手に自ら収まるかのように、一つ。


「わあ、すごい! ありがとうございます!」


 ベルはニコニコと満面の笑みで樹にお礼を言う。律儀か。


「よかった、精霊樹も認めてくれたみたいだね」


「ああ。少なくとも精霊樹への害意はないってこったな。たぶんだけど」


「カアッ!」


 ベルの手に収まった果実(アンブロシア)を見て、コウタとアビーはほっと胸を撫で下ろした。

 カークは俺が連れてきたんだ当然だろ、とでも言いたげだ。


 コウタとカークが異世界で目覚めてから二週間ちょっと、アビーが来てから一週間と少し。

 二人と一羽は、精霊樹と湖のほとりに、新たな仲間を迎えることになったようだ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「ええっ!? 二人とも前世の記憶があるんですか!?」


「そうなんだ。そこは魔法がない世界でね、たぶん俺とアビーは同郷だったんだ」


「カアッ!」


「ははっ、カークもな。……あっちじゃ三本足じゃなかったんだろうけどよ」


「そうなんですね! 魔法がない世界かあ、いつか見てみたいです!」


「やめとけやめとけ。魔法というか魔力がないし、たぶんスキルもねえからな。その岩を背負ってったら潰れちまうぞ?」


「ええっ!? それはいい鍛錬になりそうですね!」


「どうだろ、なるかなあ」


「カァー」


「いや無理だろ。無理だと思う。コータも真剣に考えるなって」


 ベルの存在が精霊樹に受け入れられて、コウタとカーク、アビーは素性を明かすことにしたようだ。

 ベルが運搬してきた布を地面に敷いて、アビーが取り寄せたお茶を淹れて談笑している。

 ちなみにベルが背負っていた大岩は湖のほとりに置かれた。

 大木と小さな湖と、一見するとただの大岩は、自然の造形として調和している。とても一人で持てそうにないのは置いておいて。


「そういえば、アビーは日本に還りたいと思わないの?」


「ん? そりゃ最初は還りたくなったけどな。けどほら、向こうのオレは死んで、こっちで生まれ直したんだ。もうこっちで暮らしてきた方が(なげ)えしなあ、還りたいとは思わなくなったよ」


「そっか……」


「コウタはどうなんだ? 体がそんなに変わらない転生なんだ、未練があるんじゃねえか?」


「うーん、両親には申し訳ないって思うけど……輪廻転生だったからかなあ、後悔はあっても還りたいとは思わないんだ」


「カアー」


「案外、その辺は思考操作されてたりしてな。【健康】だったら病むほど思い悩まねえだろって」


「…………え?」


「まあわからねえし、気にしてもしょうがないって。ほら、オレたちはオレたちの今生を生きるってことで」


「そうだね、うん、真面目に一生懸命生きて、『健康で穏やかな暮らし』を送るんだ」


「カァッ!」


「そういう生活、いいですよね!」


「おっ、ベルもスローライフ派か? 育った村が危険と隣り合わせだったとか?」


「いえ、村は穏やかな暮らしでしたよ? 荷運び人(ポーター)として、そういう村を作るのに貢献したいんです!」


「ありがとう、ベル。ここは人里離れてるみたいだからね、荷運び人(ポーター)の存在はありがたいよ」


「『村は穏やかな暮らし』ねえ。その村自体が怪しいんだよなあ。『お爺ちゃんの若い頃は山を運べた』ってなんだよ。そんなヤツが普通にいる村っておかしいだろ」


「カァー」


 アビーとカークが首を振る。苦労性か。これから先が思いやられる。

 ため息を漏らす一人と一羽の向かいで、コウタとベルは和やかに談笑している。呑気か。これから先が思いやられる。


「そういうことで、俺たちの事情は秘密にしてほしいんだ。アビーはこっちの事情もあるし……」


「はいっ、わかりました!」


「この場所と精霊樹の存在、それにオレたちの素性。この二つが守ってほしい秘密だな。また追加するかもしれねえけど」


荷運び人(ポーター)の誇りにかけて、秘密にします!」


「うん、お願いするよ。それじゃあらためて……」


 コウタがすっと手を伸ばす。

 アビーが手を乗せて、察したベルも手を重ねた。

 最後に、カークがぴょんっと上に飛び乗る。


「この場所に、村を作りたい。それで、健康で穏やかな暮らしを送るんだ。よろしくカーク、アビー、ベル」


「よろしくお願いします、みなさん!」


「カアー、カアッ!」


「おう、魔法は任せとけ!……あと常識も任せとけ。常識外れの『逸脱賢者』だけどな!」



 一人と一羽から二人と一羽へ。

 そしていま、三人の手と一羽の足が重なった。


 健康で穏やかな暮らしを送りたい。

 コウタのささやかな願いが実現に向けて動き出す。

 死の谷(デスバレー)の先、瘴気渦巻く「絶黒の森」の只中(ただなか)で。


 神から【健康】を授かった男と三本足のカラス、非常識な『逸脱賢者』、常識のおかしい荷運び人(ポーター)にとって、場所は問題にならないようだ。

 …………常識人はいない。

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