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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第三章 コウタ、勇者に追放された荷運び人と出会って村づくりをはじめる』

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第六話 コウタ、アビーと「鑑定」の話を荷運び人に持ちかける


「ねえベル、その『解体』ってなんでもできるの?」


「なんでもはできませんよ、できるものだけです!」


「カァ?」


「わかる、わかるぞカーク。怪しいんだよなあ。解体。解体かあ。『生きたまま解体する』とか猟奇的なこと言い出したりして」


「えっ。アビーの発想が怖い」


「あははっ、それは無理ですよ! お父さんもお爺ちゃんもできませんでした! 命あるものは解体できないでしょう?」


「カ、カア……」


「なあベル。その言い方だと、まるで『生きてなければ解体できる』って聞こえるんだけどよ、その辺はどうなんだ?」


「死んだモンスターや動物は解体できます!」


「おおー、森では頼りになりそうだね」


「カァー」


「まだ怪しいんだよなあ……はあ、鑑定で見えりゃいいんだけど」


 遭遇した鏖殺熊ジェノサイド・グリズリーを倒して解体した一行は、また森を歩き出していた。

 素材はベルが運搬している。

 大岩の中はくり抜かれていて、荷物を収納できるらしい。

 コウタは「さすが荷運び人(ポーター)」と感心していたが、アビーとカークは呆れ気味であった。


 コウタとカーク、アビーが精霊樹と小さな湖のほとりを出てから山を越えるまで、二日かかった。

 道がわかっているとはいえ、帰路も一日では踏破できないだろう。

 すでに陽は傾きはじめ、黒い森はさらに暗さを増す。


「そろそろ野営の準備をした方がいいかなあ。カーク、いい場所わかる?」


「カアッ!」


 コウタに投げかけられたカークが、任せとけ! とばかりにひと鳴きして飛び立つ。

 空を行くカークを追いかけながら、三人が地上を行くことしばし。


「カアー、カアー」


 空中でぐるぐる円を描いたカークが、鳴きながら樹上に降りた。

 ここがいいんじゃねえか? と言いたいらしい。

 湖から流れ出る川のほとりの、開けた空間だ。


「ありがとう、カーク。どうかなアビー?」


「ああ、いいんじゃねえか? ほんとは隠れられた方がいいんだけどよ……コウタは【健康】だし、ベルは大岩の中で寝るんだろ?」


「はい! こういう時のために、勇者さまが用意してくれたんです!」


「へえ、勇者ってすごいんだねえ」


「そうなんですよ! モンスターに狙われても、大岩が防いでくれるから安全なんです!」


「なあベル、そのあとはどうすんだ? モンスターが諦めなかったら? それか、道ばたで遭遇したら? 荷運び人(ポーター)は戦えねえんだろ?」


「その時は、『運搬』しながら逃げます! この岩は頑丈で、攻撃も防いでくれるんですよ? おかげで大事な荷物を傷つけちゃうことがなくなりました!」


「そっか、逃げればモンスターが追いかける形になって、背後から攻撃するには大岩が邪魔になるもんね。よくできてるなあ」


「おかしい。何もかもおかしい。この重さの岩を運べることもおかしいけどさらに逃げられるって。そんで物理も魔法も、攻撃は防げる岩かあ。何でできてるんだその岩」


 会話しながらも三人は手を動かす。カークは周囲を警戒して頭を動かす。手はないので。

 ベルは、河原と森の境界あたりに大岩を置いた。

 よいしょ、という軽い掛け声のわりに、岩はズンッと重い音を立てて接地する。


 一声かけて、アビーが岩にロープを巻きつけてタープを張る。

 せっかくだからと大岩を利用して、食事や歓談のスペースを作ったらしい。テントは別の場所だ。

 コウタも、アビーの実家から送られてきた寝袋を取り出した。

 迷ったのちに、ベルとアビーに声をかけてタープ下を確保する。


「すみません、中がもうちょっと広かったらコウタさんもアビーさんも泊められるんですけど」


「はは、気にしないでいいよ。ほら、簡単に屋根が張れた分、行きより助かってるから」


「待て待て待て。『中がもうちょっと広かったら』って、それもっとデカい岩だったらってことだろ? 持てるのか?」


「はい、()()ます! お爺ちゃんの若い頃みたいに山は運べないけど……」


「…………え?」


「カ、カァ?」


「聞かなかった。オレは何も聞かなかった。はー忙しい忙しい、野営の準備は大変だなあ! 野営の! 準備は! 大変だなあ!!」


 テントを張ったことで、野営の準備はすでに終わっている。

 食事は精霊樹の実(アンブロシア)と、アビーが実家から取り寄せた携帯食料だけだ。

 火の準備も必要ない。

 アビーの現実逃避である。


 どうやらベルは常識がおかしい荷運び人(ポーター)の村で、荷運び人(ポーター)として英才教育されたらしい。常識を教え忘れたのか、あるいは村まるごと非常識だったのか。


「あれえ? オレ、常識から外れてるから『逸脱賢者』って呼ばれるようになったはずなんだけどなあ。オレが一番常識人な気がする」


「カァ? カアー」


 虚ろな目で呟くアビーを心配して、カークが寄り添うように杖に乗った。元気出せよ、とでも言いたいのだろう。

 アビーはそっと、濡羽色のカークの背を撫でた。

 烏語は通じなくとも気持ちは通じたらしい。苦労性同士か。




 パチパチと焚き火が()ぜる。

 陽が落ちた絶黒の森は、焚き火の明かりを飲み込むような暗闇が広がっていた。

 だが、三人と一羽に緊張した様子はない。


 果実と携帯食料の簡素な食事を終えて、三人は歓談する余裕さえあった。


「あ、そうだ。アビー、鑑定させてもらえば? 俺たちの秘密を守ってもらうけど、俺たちも秘密を守るって約束してさ」


「おたがい秘密を握り合うってことか。コータにしちゃいい案かもな。どうだベル?」


「かんてい、ですか?」


「ああ。オレが開発中の魔法なんだけどよ、なんて言うかなあ、『その人の特技や才能が視える』って感じだな」


「わあっ、すごいですねアビーさん! 僕、ぜひ見てもらいたいです!」


「お、おう。そんな乗り気でいいのか? ベルができることが全部バレるってことは、戦いじゃ不利になるってことだぞ?」


「はい、平気です! 荷運び人(ポーター)は戦いませんから! それに、コウタさんもアビーさんも秘密にしてくれるんですよね?」


「カ、カァー」


「あ、うん、もちろん。……純粋って強いなあ」


「ほんと、こっちが心配になるぜ。はあ、まあいいか。許可は取ったぞ」


 アビーが杖を構える。

 ローブの袖から白く細い手首が覗く。


「『鑑定』ッ!」


 光ることも、魔法陣が現れることもない。

 アビーはただじっとベルを見つめる。


「どうだった、アビー?」


「カア?」


 コウタとカークがアビーを急かす。

 ベル自身も目を輝かせて興味津々だ。

 そして。


「すげえぞベル! 予想通り【運搬】と【解体】が宿ってて、コウタの【健康】よりはちょっと弱いけどまあレベルは二つとも【ex】でいいだろ!」


「おおっ!」


「カアーッ!」


「えっと、それはすごいんですか?」


「あとは言葉にするなら【体力回復】【悪路踏破】ってとこか? こっちはレベル……そうだな、exを枠外、10をmaxとしたら7か8ってとこだ!」


「お、俺たちよりスキルが多いしレベルも高い……」


「カァ、カアカア」


「そこは仕方ないって。コータもカークもこっちに来たばっかりだろ? そんで二つずつexスキル持ってんだ、充分すげえよ!」


「ありがとうアビー。それにしても……ベルって転生者じゃないんだよね?」


「『鑑定魔法』で読み切れるかはわからねえけど、コータとカーク、オレと比べても、ベルにはその辺の情報がない。おそらく普通にこっちで生まれ育ったんだと思うぞ」


 鑑定されたベル本人はまだよくわかっていない。

 なんとなく「良さそう」なことは理解したのか、ニコニコと嬉しそうだ。

 予想していたとはいえコウタとアビーはスキルの数とレベルの高さにショックを受け——


「ん? オレは魔法系のスキルはいくつかあるけど、exスキルは【魔導の極み】だけ。鑑定したヒトの中で、オレだけ、一つか」


 ——アビーは、気づいてしまった。


「あれえ? オレ、学園を首席で卒業して魔法研究所で功績残して、魔法理論でも魔力量でも常識外れの『逸脱賢者』って呼ばれてたんだけどなあ」


 二人と一羽と比べると、自分が普通であることに。


「オレもう『普通の魔法使い』って名乗ろうかな。ははっ。いやそんなわけねえ。exスキルがこんなにありふれてるわけねえ。たまたま、たまたまだ。そうだそうに違いない」


「カァー」


 今宵も、絶黒の森にアビーの悲嘆が溶けていった。


 ちなみに、コウタは落ち込むアビーを前にオロオロして、ベルはよくわかってないのか笑顔のままだ。頼りにならない男たちである。

 カークはアビーの手に包まれて精神安定剤となっていた。頼れるカラスである。



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― 新着の感想 ―
[一言] この世界のポーターは概念魔法使いみたいな存在なのかもしれない……。
[一言] 転生TS賢者の希少性はexレベルだよきっと。
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