最終章 エピローグ
短めですが、エピローグですので……
コウタとカークがこの世界で目覚めてから14ヶ月目。
「今日もお疲れさま」
コウタは、精霊樹の根元の洞を利用して建てた小屋で、ぼそりと独りこぼした。
不作に対抗するために一日中、畑仕事をして、午後には帰ってきたベルやエヴァンと情報交換をして、村の運営会議。
その後は、クレイドル村の新たな門出を祝う宴会を楽む。
そこそこに忙しい一日を終えて、コウタはいつもの寝床で一人横になった。
寂しい一人寝、ではない。
「カァー」
この世界に来てから寝るときはカークが一緒だ。
添い寝——ではない。カークはカラスなので。オスだし。
「カアッ!」
「今日もいろいろあったね。でも、不作がなんとかなりそうでよかった」
粗末な犬小屋レベルのあばら屋から、木工の得意なディダ、さらにドワーフが協力して建て替えられた小屋に、一人と一羽の声が響く。
建て替えられたといっても、土間なことに変わりはない。
アビーとクルトが調整したため、ござのようなものを敷けば寝心地は充分なようだが。
コウタはごろりと転がって、カークや屋根近くの梁で丸くなっている。
「明日もやっぱり畑仕事かな。まだ『しのげそう』ってだけだし、どんどん作らないとね!」
「カァー」
決意を新たにするコウタに、カークが呆れた声で応える。
いや、うん、決意は立派なんだけど、あれ畑仕事か?とばかりに、首をかしげて。
「カアカァ。カア?」
「うん。それはね、怖くないって言ったら嘘になるけど……」
「カァッ!」
「あ、違うんだ。人と接することはもうたいして怖さを感じなくて、それより、この場所が荒らされるんじゃないかってことの方が怖いんだ」
「カァ?」
「はは、ありがと、心配してくれて。でも……この場所が広がって。ほかの所では生きにくい、生きていけない人が逃げ込む場所になるといいなって思ってるんだ」
「カァー」
「そう、俺がそうだったように。みんなも、少しはそういうところがあったみたいだし」
コウタとカークが小さな声で会話する。
通じ合っているかはともかくとして。
そもそも、コウタは途中で退散したが、外ではまだ宴が続いている。小声で話す必要もない。
外のざわめき、
カークの鳴き声。
いま、コウタが孤独を感じることはなかった。
三年前、自室で動けなくなった時と違って。
二年前、ただぼんやりと日々を過ごしていた時と違って。
カークとともに、この世界にやってきてからは。
「ここで傷や疲れを癒やしたり、成長してもらえればいいなあって。クレイドル村の名前の通り」
「カア、カアーッ!」
「うん、そういう人がいたら案内お願いね、カーク。みんなの【導き手】」
ウトウトしながらも張り切るカークにコウタが微笑む。
無表情がデフォルトで、擦り切れたように心と感情が動かないあの頃と違って。
「明日。明日もがんばろう。健康で、穏やかな暮らしのために」
「カア?」
「はは、そうだね。いまも遅れてるけど……俺たちだけじゃなくて、困っている人たちもさ」
「カアッ!」
「いつもありがとう、カーク」
「カ、カァー」
「そうだね、おやすみカーク、また明日」
「カァ」
ぼそぼそと小声の会話を終えて。
コウタは目を閉じた。
明日の行動を整理して。
何の変哲もない明日を心待ちに。
モンスターのはびこる異世界で、健康で穏やかな明日を送るために。
自分だけでなく、アビーやベルやディダといった村人や、クルトや三体のモンスターやドワーフや、不作に襲われた地域に暮らす人々すべてが、健康で穏やかな生活を送るために。
コウタとカークがこの世界で目覚めてから14ヶ月目。
一年前はほぼ何もなかった湖畔は村となり、コウタがせっせと作る農作物は自給自足を越えて、最寄りの街に卸されている。
そして、コウタと住人たちは、クレイドル村の存在を明かすことを決意した。
異世界の森で引きこもるのではなく、リスクを承知で村を開くことにした。
心身が【健康】となったコウタと住人たちが「救われた」と感じたように、苦しむ誰かを救えるように。
次話、本編エピローグです!
おまけも含めてあと2話で完結予定!
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