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第四話 コウタ、地下空間で試運転を見届ける


 コウタとカークがこの世界にやってから14ヶ月目。

 コウタは、また地下にいた。


 だが、一ヶ月前にいた死の谷(デスバレー)につながる山の地下ではない。


「おおー、あっという間にできただねー」


「まっ、『逸脱賢者』の手にかかればこんなもんよ!」


「カァー」


 地下空間にカークの呆れた声が響く。

 が、成果を誇るアビーの背が丸まることはなかった。なにしろカラスの言葉は通じないし、実際にアビーの魔法が役立ったことは間違いないので。


 コウタが見渡した空間は、一ヶ月前にアビーが転移陣を刻んだ場所よりも広い。

 中心に立ったコウタから周囲の壁までは20メートル近くあるだろうか。

 天井も高く、地下だというのに圧迫感はない。

 例によって、広い空間の両端にはディダさえ通れるほどの通路が存在している。


 そして、床にあるのはアビーが記した魔法陣——ではない。


「おら楽しみだ! おおっ、()が聞こえてきただな!」


 コウタの横に膝をついて、カークを肩に乗せたディダがキラキラと目を輝かせる。


 暗闇の先からガタゴト、カチャカチャと規則的な響いてくる。


 同時に、コウタの足元にある()()()からも、振動が伝わってきた。


「うーん、これ、地上にも音が伝わっちまうか?」


「その辺は工夫の余地があるかもね」


「カアッ!」


 ディダとカークが目を輝かせる横で、アビーとコウタは平然と会話を続けていた。

 迫り来る音のために、少々声を張りながら。


 やがて、暗い通路の向こうからモンスターが姿を現した。


 肉はなく、骨だけでできた馬のモンスター。

 骸骨馬(スケルトンホース)である。


 骨だけの体に馬装具をつけて、屋根のない荷馬車をロープで引いている。

 荷馬車の前方、本来であれば御者が座る場所には、ローブ姿の何者かが座っていた。

 深くフードをかぶって顔は見えず、瞳があるべきあたりから赤い光を放っている。


「ふぅはははは! コウタ殿、アビー殿! 鉄道馬車とはなかなか面白いものであるな!」


 ローブ姿の人影の横で、仁王立ちしたアンデッドがご機嫌で笑っていた。


「お疲れさま、クルト。試運転はどうだった? 問題なし?」


「うむっ! さすがエルダードワーフ謹製の『レール』よ! 一度でこの完成度とは、さすがの一言であるっ!」


「当然だ」


「いや初見でこの短期間で、しかも地下王国付近からここまで引けるほどの量を作るのありえねえからな!? このトンネルだってとんでもねえ速度で完成したし!」


 荷馬車から降りてきた二人のエルダードワーフ、ガランドとその師匠のグリンドは、クルトの褒め言葉をあっさり受け流す。

 むしろアビーの方が受け流せない。


「明かりはどうだった? なくても大丈夫?」


「操縦は我か、我の配下のアンデッドか、ドワーフなのだ、みな暗闇に生きる種族よ、明かりは必要あるまい」


「そっか、よかった。ダンジョン(モス)でも魔法でも、手入れが必要になっちゃうだろうし……たいまつはよけいに心配だったしね」


「明かりなし、通気口なしの秘密のトンネル、走るのは骸骨馬(スケルトンホース)って……ますます人外魔境じみてきたな!?」


「はっ! ま、まさか、おら乗れないだか!?」


「あー、うん。サイズは大丈夫だろうけど……いまは難しいかなあ……」


 ドワーフの地下王国から、湖を迂回してクレイドル村の地下につながるトンネルと、そこを通る鉄道馬車、当初からアンデッドによる運用を予定していた。

 ゆえに、トンネル内には明かりも通気口もない。

 アンデッドのほか、地下で暮らすドワーフや、「土の精霊」寄りのエルダードワーフには問題ないようだが、通常の人間が通行するのは難しいだろう。

 【健康】なコウタはイケるかもしれないが。


「儂らの国でも食料を増産している」


「コレで届けられよう。面倒をかける」


「えっと……」


「あれだ、コータ。村を通して人間の街に流すことになるからな、矢面に立ってもらってすまねえ、ってことだろ」


「ああ、なるほど! ぜんぜんOKだよ! むしろ手伝ってくれてありがとう!」


 ドワーフの地下王国は、人間たちにその存在を隠している。

 街で暮らすドワーフたちのためにも食料は作りたいが、ドワーフだけに流すと怪しまれるだろう。

 かといって、人族中心の街に大量に食料を流すと「どこから持ってきたのか」と不審がられる。

 そのため、ドワーフたちはクレイドル村経由で余剰食料を流すことにしたのだ。

 コウタが気にしていなくても、申し訳ない気持ちがなくなるわけではない。


「みなさんの協力がなかったら鉄道馬車だってすぐにできなかったし。それに、これからもいろいろ作ってもらいたいしね!」


 が、コウタは、クレイドル村の村長は、特に気にした様子もなかった。

 気づいてないわけではないだろう。たぶん。


「荷の試しにいくらか食料を持ってきた」


「おー、さっそくありがとう! じゃあとりあえず()に運んで——」


「荷運びですか!? 僕に任せてください!」


 レールがつながる暗い通路ではなく、もうひとつの広間への出入り口。

 階段から、ベルがひょっこり顔を出した。


「帰ってきてたんだね、ベル」


「はい! いいところだったみたいですね、荷物は荷運び人(ポーター)の僕に任せてください!」


「ありがとう。ああ、俺たちも手伝うよ、あの大岩はここまで通れないし」


「そうですか……」


「なんで残念そうなんだよ! いくら仕事でも、手間が減ったら喜ぶもんだろ!?」


「カァー」


 いまさらである。



 ともかく、コウタは地下空間の見学を終えて、ドワーフからもたらされた食料——地熱を利用して栽培された芋や野菜——を背に階段を上った。

 背負子を使って、階段の横幅と天井いっぱいに荷物を運ぶベルや、その力と積載量で大量の荷物を背負うディダや、普通に手持ちするアビーとクルトとエルダードワーフの二人とともに。

 なおカークは手ぶらである。いくら賢いカラスでも、できないことはあるようだ。




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