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第二話 コウタ、とりあえずひたすら促成栽培に勤しむ


 コウタとカークがこの世界で目覚めてから一年と少しが過ぎた。

 クレイドル村に「交易所」を作る。

 そう決めたコウタだったが、本人は今日も変わらず農作業に勤しんでいる。


「よーし、やりますか!」


 と言っても、それを「農作業」と呼んでもいいのかは怪しい。


 コウタの腰につけた紐——イビルプラントが、うにょうにょと空中で方向を指し示す。

 ひとつ頷いて、コウタが畑に足を踏み入れる。

 芽を出して膝下まで伸びた麦が、コウタの足に絡みつく。

 と、みるみるうちに茎が伸びる。

 伸びたのをいいことに、コウタが足を進める。

 次の麦が伸びていくうちに、最初の麦が出穂して、花を咲かせて——


「よいしょっと」


 絡みつく植物型モンスターが増えていくと、コウタの姿さえ見えなくなる。

 が、コウタの足は止まらない。


「ほんとすごいなあ、【健康 LV.ex】。神様に感謝しないとね!」


「カ、カアァー」


 この世界にやってきて、スキル【健康 LV.ex】を授かったコウタは怪我をしない。病気にもかからない。湖で溺れることはなく、拘束されることもない。【健康】なので。

 呑気すぎるだろ、とばかりのカークの呆れ声はコウタに届かない。いや、音としては届いているが、言葉は通じない。カークは賢くともカラスなので。


「おーい、コータぁ!ってあいかわらずすげえ光景だな!」


 草まみれ、というより草に包まれた球状になったコウタが畑を抜け出したところに、アビーがやってきた。


「ちょうどいいや。アビー、これ収穫するの手伝ってくれない?」


「おう、任しとけ! とても収穫作業とは思えねえけどな!」


 アビーが手をかざす。


「オレが復活させた空間魔法って収穫と伐採にしか使えねえのかなぁ……〈空間斬(ディメンションカット)〉!」


 アビーの嘆きとともに飛んだ不可視の魔法が、コウタと畑をつなぐ草たちを断ち切った。

 コウタの体にまとわりついていた麦がどさっと落ちる。


「ありがとう、アビー。その、ほら、今回はアビーの空間魔法がいろいろ役立ってるし」


「おう……そうだ! 畑と倉庫も、指定型転移陣でつないじまうか? そうすりゃ——あ」


 もっと役立ちたいと意気込むアビーがフリーズする。

 その横を、鎧を着たスケルトンの集団がカチャカチャと通り過ぎて、山となった植物を抱えていく。

 スケルトンは列をなして、収穫した麦を運んでいく。

 あっという間に、麦の山は消えてなくなった。


 人海戦術——もとい、骨海戦術である。

 もちろんスケルトンはクルトが喚び出したアンデッドだ。


「不眠不休の労働力があって! 細かい調整も指示もいらねえなら! そりゃ魔法の出番はねえよなあぁぁぁあああ!」


「えっと……」


「いい、いいんだコータ、便利なのはいいことだから。オレのワガママより、いまは食糧難に対抗する方が大事だってわかってっから」


 しょんぼりと肩を落としたアビーの肩にカークが止まる。

 なぐさめるようにカァカァ鳴く。


「じゃ、じゃあ、村の倉庫と、死の谷(デスバレー)のこっち側の入り口を転移陣でつないだらどうかな? そうすればベルも助かるだろうし!」


「まあ……そうだな……ないよりはあった方がラクだよな……空間魔法が『あった方がマシ』レベル……ははっ……」


 コウタのフォローに、アビーが顔を引きつらせる。

 クルトいわく、「あまり離れるとコントロール下から外れるかもしれない」と、アンデッドの活動場所はクレイドル村の中心地から日帰りできる距離までだ。

 本拠地のダンジョン——クルトの研究所がある南方は別として。

 倉庫と、東の死の谷(デスバレー)の入口をつなげば、ベルの足でも一日分はラクになることだろう。


「うし! そうと決まればさっそくやりますか!」


「俺も戻るよ、畑は次の芽が出るまで二、三日待ちだし、みんながどんな感じか気になるしね」


「カアッ!」


 ぱんぱんと自分で顔を叩いて、アビーが気合いを入れ直す。

 立ち直りの早さはアビーの強みである。

 一度ショックを受けると引きずりがちなコウタと違って。


 ばさばさと飛んできて頭に止まったカークをそのままに、コウタは畑をあとにした。

 魔法陣の調整を考えているのだろう、ブツブツ独り言を呟くアビーとともに。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 精霊樹と小さな湖のほとり。

 クレイドル村の中心地から西に外れた場所にコウタが歩いていく。


「カアッ!」


「おおー、進んでんな!……オレがいなくても」


「はは、それを言ったら、俺だって。村長なのに、ディダやクルト、グリンドさんに任せっきりで」


 踏み固められた獣道の先には、大きな建物の骨組みができあがりつつあった。


 コウタの視線の先では、3メートル超の巨人族(ギガント)・ディダが木材を担いでいる。

 固められたうえに一段高くなった土は、クルトの魔法だろう。

 クルトの知己のエルダードワーフ・グリンドは、図面らしきものが書かれた木の板を手に指示を出している。

 グリンドの指示を受けて、木材の継ぎ目でなにやらやっているのは弟子のガランドだ。

 単純な作業員としてなのだろう、ここにもクルトの配下のスケルトンがうろうろしている。

 なお、精霊樹の近くで瘴気が浄化されるため、クルト以外のスケルトンの活動可能時間は短い。

 いまも、力つきたスケルトンが骨を白くしてカラカラと崩れていく。すぐにクルトにより復活させられた。死んでも休めないハイパーブラック労働者である。まあ、魂のない低位スケルトンらしいのだが。クレイドル村はホワイトなのだ。


「みんな、お疲れさまー。めちゃくちゃ進んでるね!」


「あっ、コウタさん! グリンドさんとガランドさんが難しいことを担当してくれてるからだべな!」


「何を言う。捗っているのはディダ氏の膂力ゆえだ」


「うぇへへへ……」


 里では一番小さく、力も弱かったディダは腕力を褒められてでれでれニヤける。

 持っていた木材をずんっと地面に立てる。

 すかさずスケルトンが支えて、ガランドがなにやら図形を書きつける。

 種族は違えど——それどころか一部はモンスターだが——チームワークはいいらしい。


「これならあとちょっとでできちゃいそうだね」


「地下と違い、屋根は手間がかかるものだが……」


「おっ、空間魔法の出番か!? 木材を持ち上げたり、見えない階段を作ることもできるぞ!?」


「そこまでは必要あるまい、アビー殿。ディダ殿の手が届かぬ高所の作業であれば、我が巨体のアンデッドを喚び出せばよいゆえな」


「そういえば、ディダと模擬戦した骸骨巨人(スカルジャイアント)なんてのもいたねえ」


「くっ、ここでも役に立てねえ! オレ! 帝国では『稀代の魔法使い』とか『帝国の魔宝』とか呼ばれてたんだけどなあ!」


 アビーがふたたび頭を抱える。

 常識はずれの『逸脱賢者』も、常識を外れた者の多いクレイドル村では一般人らしい。


「ほ、ほら、ここと死の谷(デスバレー)の入り口を結ぶ転移魔法陣はアビーしか組めないから、ね?」


「お、おう……ありがとよ、コータ……」


 そっとアビーの背中に手を置くコウタ。

 コウタ、【健康】的な生活を送るうちに、村長として過ごしていくうちに、フォローすることを覚えたようだ。小さいけれど大きな一歩である。


「ならばあと二週間もあれば、ひとまず使えるほどの建物はできる」



 コウタとカークがこの世界で目覚めてから一年と少し。

 コウタが大きな一歩を踏み出したように。

 クレイドル村も、村として新たな一歩を踏み出すまで、もう間もなくである。




次話は週明け19日あたりに投稿予定!



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