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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第十三章 コウタ、ついに最寄りの街に行こうと決意する』
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第七話 コウタ、村近くの畑で食料の増産を試みる


 コウタとカークがこの世界にやってきてから十二ヶ月目。

 最寄りの街からいつも取引している商人・ハドリーを案内してきたコウタは、精霊樹と湖のほとり、クレイドル村の近くまで帰ってきた。


 が、コウタは村に向かう獣道を脇に逸れる。


「カァ?」


「先に畑に行こうと思うんだ。カラス麦や芋を促成栽培できるかどうか確かめたいから」


「カァッ、カア!」


 コウタにしてはいい気が利くじゃねえか、とカークはバサバサ羽ばたいて向きを変える。

 カーク、コウタ。


「本当に……絶黒の森に立派な集落が……」


「ほら、それはあとでな。いまは食料の方が大事だろ?」


 遠目に見える建物を見ながら呆然とつぶやくハドリーも、アビーに促されてコウタの後を追う。


「じゃあ僕は先に村に行って荷下ろししてますね!」


 大岩を背負ったベルは、コウタたちを気にすることなくさっさと先へ行った。荷運び人(ポーター)にとって、荷を運ぶことが最優先なので。


 それほど歩かずに、コウタたちは畑に到着する。


「ここが畑です。ちょっと狭いんですけど」


「おや? コウタさん、ほかにも畑があるんですよね?」


「え? ここだけですよ?」


「ですが、ウチの商会に持ち込まれた分だけでも、この畑の収穫量ではとても……」


「ああ、そういうことですか! ちょうどいいです、ちょっと試してみたいんで見ててください」


()()か。刈り取りはオレがやるよ、その方がスピードアップできそうだ」


「うん、ありがとうアビー。もしエヴァンとクルトがいたら呼んできてくれるかな? 帰ってきてたらディダも」


 腑に落ちない顔をしたハドリーを前に、コウタがゆっくりと畑に向かっていく。

 コウタの腰紐が、一人でにひょこっと動く。


「この前採ったばっかりだけど……事情があってね、できるだけたくさん収穫したいんだ」


 コウタと視線?をあわせた腰紐——イビルプラントがうねうね動く。

 まるで、たくさんってことは繁栄だな!と喜びを表しているかのように。


 コウタが畑に入ると、腰のイビルプラントがぐるりと虚空に円を描いた。

 ヒザほどの長さだった芋の蔓がうにょうにょ伸びる。


「植物系モンスター!? コウタさん、畑に入ってはいけませ——え?」


 コウタに蔓が絡み出すと、ハドリーは「植物がモンスター化したか!?」と慌てて止める。


 が、コウタは気にした様子もなくずんずん畑の中に入っていく。

 蔓に足を取られても、身体中絡みつかれても止まらずに。


「あ、あの、アビーさん。これは、どうなっているのでしょうか。コウタさんはもはや全身緑なほど絡まれているのにまだ動けるようで、アビーさんもカークさんも落ち着いてますし、何がなんだか」


「ああうん、そりゃ焦るよな。けど気にすんな、コータはアレで無事なんだ。【健康】だからな」


「け、健康、ですか……?」


「カァー」


 意味がわからない、とぽかんとするハドリー。

 カークの鳴き声が虚しく響く。


「それに、驚くのはこっからだ。食料、できるだけ欲しいんだろ?」


 それはそうですが、ともごもご呟いたハドリーの前で。


「ええっ!?」


 もはや人型の草のかたまりにしか見えないそれが、ぐっとひとまわり、ふたまわり大きくなる。

 呼応するかのように畑の土が盛り上がっていく。


「な、なにが起きて!?」


「魔力量だけならコータはすごくてな。だから、魔力を渡してるんだ」


「ですがそれではコウタさんが干からびて!」


「ま、心配すんのも当然だな。けどほら」


「カアッ!」


「そろそろいいかな?」


 アビーが指差す先で、緑色のかたまりとなったコウタが歩き出す。

 まるで、なんの拘束もないかのようにあっさりと。

 絡みつかれた蔓をずるずる引っ張って、いや、蔓だけでなくその先の芋ごと引き抜いて。


 畑を出たコウタは、だいたいの芋が抜けたことを確認して振り返る。


「アビー、よろしく!」


「はいよ、コータ! ひさしぶりの出番だな! いくぜ、〈空間斬(ディメンションカット)〉!」


 『逸脱賢者』アビーの手から魔法が放たれる。

 見えない魔法は、コウタと芋を結ぶ蔓をスパッと切り裂く。


 ぱらぱらとコウタに絡んだ蔓が落ちて。


「うん、うまくいったね! 収穫したばっかりでコレなら、しばらくしたらまたやれるんじゃないかな。さすがに蔓がないと無理そうだけど」


 残されたのは、何事もないコウタと、ぱらぱら落ちていくコウタに絡んだ蔓、それに。


「おお……これは、奇跡でしょうか……」


 畑から引き抜かれた大量の芋。


 それと、芋を前にヒザをつくハドリーだ。


「ってことでハドリーさん、増産はできそうです!」


「待て待てコータ。カラス麦も試してみようぜ! そんで、ハドリーさんがいる間にもう一回試してみて、だな!」


「カアッ!」


 涙を落とすハドリーをしり目に、コウタとアビー、カークは隣の畑に向かっていく。


 そして、滲んだ視界でハドリーはふたたび奇跡を目撃した。


「ああ、ああ……なんという……芋とカラス麦が、こんなに……」


「これあれだな、種類問わずいろいろイケるんじゃねえか? ハドリーさんも協力してくれるだろうし」


「たしかに! じゃあやっぱり麦かなあ、主食だろうし、カラスがつかないヤツ」


「カァ!? カアッ!」


「違う違う、カークが食べないヤツってことじゃなくて」


 まあ、『死の谷(デスバレー)』の楽々踏破も、三体のモンスターと共存していることも、精霊樹の存在も、絶黒の森に居を構えることも、すべて奇跡なのだが。

 奇跡のバーゲンセールである。


 だが、おかげで。


「俺ァ、エヴァンだ」


「隻腕の剣士……? まさか、ダーヴィニア王国の先代剣聖!?」


「コウタ殿とカーク殿の案内か。ならば名乗ろう。我はクルト。インディジナ魔導国より生き永らえたアンデッドである」


「古代魔法文明の生き残り!? いえ、アンデッド!? それも、知性と理性のある!?」


 元剣聖・エヴァンの存在も、古代魔法文明の生き残りアンデッド・クルトの存在も、なんとか受け入れられたようだ。

 驚きすぎて麻痺したのかもしれない。



 ともあれ。


 コウタとカークがこの世界にやってきてから十二ヶ月目。


 商人ハドリー・パークスは、目的だった「不作に向けた食料確保」を叶えられそうだ。

 クレイドル村で、どれほどの量が賄えるかはいまだ不明だが。





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