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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第十三章 コウタ、ついに最寄りの街に行こうと決意する』

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第二話 コウタ、はじめて死の谷を歩く


 コウタとカークがこの世界にやってきてから十一ヶ月が過ぎた。

 コウタはいま、生活が安定してきたクレイドル村を離れて旅に出ている。


「カアッ!」


「どうしたのカーク? モンスターかな?」


「んー、この感じ、いつものアイツらだろ」


「これは、絶望の……」


「心配いりませんよガランドさん! 襲われることはありませんから!」


 と言っても、旅路は初日、いまはまだ絶黒の森のなか。

 次第に黒くなってきた木々の間から、見慣れたツノがひょっこりと姿を現す。


 いまや「白」と言える色になってきた希望の鹿(ホープネス・ディア)

 どうも、と言わんばかりに微妙な微笑みっぽいものを浮かべた片ツノの鹿は、背中に幼女を乗せている。

 幼女はコウタと目が合うと、しゅぱっと片手を上げて笑顔になった。髪のまわりに花が咲く。

 比喩ではなく、本当に。なにしろ幼女は樹木の精霊・ドリアードなので。


「なんかひさしぶりだね、鹿もドリアードも」


「いや洞窟で会ってから一ヶ月も経ってないだろ? ほら、ドワーフんとこに案内してくれたのコイツらだし」


「でもアラクネさんがいませんよ?」


「へ、平然としているのだな……」


 ベルの言葉が聞こえたのか、木の上から女性がひょっこり顔を出す。

 さかさになって、蜘蛛の下半身で枝にぶら下がって。


「ぐうっ! 襲ってこないとわかっていてもこの圧力!」


「え? なにか感じる?」


「うわ、なんか新鮮! 常識枠だったかおっさん! 気にすんな、ここではいつもこんな感じだ。そのうち慣れるって」


「カァー」


 アラクネを前に足を止めたガランドの背中を、アビーがうれしそうにバンバン叩く。

 カークはため息のように力なく鳴く。


「ちょうどよかった。俺たち、これからちょっと街まで行ってくるんだ。留守にするけど、クルトとエヴァンとグリンドさんは残ってるから。なにかあったらよろしくね」


 相手はモンスターなのに、コウタは気にすることなく話しかける。

 ガランドは目を剥きながらも何も言わない。


「どっちかっつうとコイツらに会ったら、何かあるのは人間の方なんだけどなあ」


「あ、グリンドさんは戻って仕事したり地下を掘ってるかもしれないから、いないかもだけど」


 アビーの呆れ声をBGMに、コウタは気にせず話を続ける。


 わかったのかわかってないのか、三体のモンスターがそれぞれ頷くと。


「じゃあ、ちょっといってきまーす」


 コウタは、軽く手をあげて、鹿とドリアードとアラクネの横を通り過ぎていった。

 肩にカークを乗せて、背後にアビーと、いつものごとく大岩を背負ったベルと、怖々横を通るガランドを連れて。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「そういえば、ここに入るのもはじめてだっけ」


「オレもオレも! なんていうか、見るだけならキレイな景色だよなあ」


「カァー」


 コウタたちがクレイドル村を出てから五日目。

 一行はいま、死の谷(デスバレー)に足を踏み入れていた。

 冒険者も旅人も商人も兵士も、多くの命を飲み込んできた危険地帯だというのに、コウタとアビーは暢気な会話を交わす。

 カークは「空から見るともっと雄大なんだぜ?」とでも言わんばかりに上から目線だ。飛びながら鳴いたので、実際に上から目線ではあるのだが。


「道案内は僕に任せてください!」


「カアッ!」


「あ、そっか、カークがいるんでしたね。じゃあ荷運びは任せてください!」


「ありがとう、ベル。ほんと助かるよ」


 いつも通り、荷運び人(ポーター)のベルの背中には10メートル近い大岩が背負われている。

 大岩の中の空洞部分には旅の間の水や食料のほか、魔石やモンスター素材など、村で取れる「売れるもの」が入っている。

 何度も絶黒の森と死の谷(デスバレー)を往復しているベルだが、案内役はカークに任せるらしい。


「それよりその……だ、大丈夫なのか、コウタさん」


 呑気なコウタとアビー、ベルの一方で、エルダードワーフのガランドは動揺を見せていた。


「それ、無影猛蛇だろ? そんな、何匹も噛まれて……」


 なにしろ、コウタの足や腕にはヘビが噛み付いているので。

 しかも、コウタ本人はもちろん、アビーもベルもカークも気にせず歩いている。


「あ、俺、【健康】なんで毒も効かないみたいなんです」


「そ、そうか……【健康】とは……」


「わかる、わかるぞおっさん! おっと、そんなこと言ってないでとりあえず仕留めておこうぜコータ!」


「そうだね、ほかの人が襲われたら危ないもんね」


 そう言って、腰に履いた剣を抜くコウタ。

 黒い剣身を蛇に当ててスパッと切り裂く。

 多少服が切れ——というか、本来であれば本人の体も切れているのだが、コウタに傷はない。【健康】なので。


「【解体】も任せてください!」


 ポロポロと落ちた無影猛蛇は、ベルが素早く解体していく。のち、大岩に収納する。

 無駄のない連携プレーである。


「しばらく見ない間に人族は強くなったのだな……」


「いやこれが基準じゃねえからな!? 勘違いするなよおっさん!?」


「カァー」


 無傷のコウタ、ベルのナイフ捌きに、思わずこぼすガランド。

 鍛治場にこもっている間に時代は変わったのだな、とでも思ったのだろう。即座にアビーに正される。

 TS転生した『逸脱賢者』も、定命がなく長き時を生きたエルダードワーフも、ここでは常識人枠である。




 それからの旅路も、コウタは何度かモンスターに襲わせた。

 斥候役のカークに倒させるでもなく、アビーの魔法で撃退させるでもなく。


「やっぱり、強い人じゃないと危ないかなあ。ベルはよく無事にここを抜けてこられたね」


「はい! 襲われても、なんとか逃げられました!」


「それも『荷運び人(ポーター)』の単独行動じゃないんだよなあ。いまさらだけども」


「カァー」


「っても、どうしたんだコータ? オレたちの安全のためには、変なヤツが死の谷(デスバレー)を通れねえ方がいいだろ?」


「それはそうなんだけど……」


「カア、カアー」


「そっか、カークがいたね。うん、じゃあ、良さそうな人や困ってる人がいたら俺たちの村まで案内してもらってもいいかな?」


「カアッ!」


 任せとけ、とばかりにカークが胸を張る。

 コウタは、自分以外の道中の安全を気にしていたらしい。モンスターの攻撃をその身に受けて、自ら危険性を体験することで。漢計測である。


「あとは距離かあ。谷に入ってから二日経つけど……カーク、あとどれぐらいで抜けられそう?」


「カァー!」


 聞かれたカークはコウタの肩から飛び立つ。

 前方、切り立った崖のカーブの手前で岩に止まり、振り返ってカァカァ鳴く。

 首を傾げながらコウタがカークに追いつくと。


「抜けた…………」


 視界が開ける。


 グランドキャニオンのごとく、切り立った崖と隘路が続く、迷路のような谷の先。


 コウタの目の前に広がっていたのは、緑の少ない荒地だった。


「ここまで来れば街まであと一時間ぐらいですよ、コウタさん!」


「いちじかん……? 街、見えてねえのに……? なあベル、それ走ってねえか? 【悪路走破】してねえか?」


「この場所は儂もわかる。野営を挟んであと一日、といったところだろう」


「サンキューガランド、さすが常識人!」


「明日には街……大丈夫、大丈夫だ俺。【健康】だからダメージ受けないし。問題ない。ちゃんと話できる。大丈夫、大丈夫」


 死の谷(デスバレー)を抜けてはしゃぐベルやアビー、かすかに笑うガランドをよそに。


 コウタは、何度も呟いて自分に言い聞かせるのだった。


 コウタとカークがこの世界にやってきてからおよそ十一ヶ月が経つ。

 十二ヶ月目にして、コウタは間もなく、「最寄りの街」に辿り着きそうだ。




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[気になる点] 「ここまで来れば街まであと三時間ぐらいですよ、コウタさん!」 「いちじかん……? 街、見えてねえのに……? なあアビー、それ走ってねえか? 【悪路走破】してねえか?」 上の部分ですが…
[気になる点] 「ここまで来れば街まであと三時間ぐらいですよ、コウタさん!」 「いちじかん……? 街、見えてねえのに……? なあアビー、それ走ってねえか? 【悪路走破】してねえか?」 (アビーが)ベ…
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